「ボクの四谷怪談」を見る
騒音歌舞伎(ロックミュージカル)「ボクの四谷怪談」
脚本・作詞 橋本治
演出 蜷川幸雄
音楽 鈴木慶一
出演 佐藤隆太/小出恵介/勝地涼/栗山千明
三浦涼介/谷村美月/尾上松也/麻実れい
勝村政信/瑳川哲朗/青山達三/梅沢昌代
市川夏江/大石継太/明星真由美/峯村リエ
新谷真弓/清家栄一/塚本幸男/妹尾正文 ほか
観劇日 2012年10月13日(土曜日)午後1時開演
劇場 シアターコクーン L列2番
料金 9500円
上演時間 3時間30分(15分、10分の休憩あり)
ロビーで張り出され、またアンケート等と一緒に配布されていた髪に、新川將人が10月2日の公演中に怪我をし、3日から妹尾正文が出演する旨の案内があった。
ロビーでパンフレット等が販売されていたけれど、チェックしそびれてしまった。
ネタバレありの感想は以下に。
客席に入ると、ちょうちんがぶら下がり、定式幕が引かれていて、和というか時代ものの雰囲気を出している。
幕開けも、江戸時代の扮装をした役者さんたちがひな壇に並び、マネキンさながらにポーズを取り、スポットライトで紹介して行くといった感じだ。
それが、並んだ役者さんたちがマネキンから人間に戻ると同時に着ていた着物を放り投げ、レーザー光線が客席に広がるという、まぜこぜ感たっぷりの始まり方だった。
幕開けシーンの印象のせいもあるのか、四谷怪談をモチーフにした、ストーリーや名前はほぼそのまま、舞台は現代になって服装も現代、という設定が最初は変な感じだった。
ラジオDJをやっているという男が「伊右衛門殿」と話しかけて「仕官の道も・・・」などと言い、話しかけられた方の男はござを敷いて唐傘を売っている。赤穂藩がお取りつぶしになったために職を失った年老いた侍は、スーツ姿に二本差しで警備業に就いているという。
ただ、それが何かの仕掛けになっているかというと、そうではなかったように思う。あるいは私が気がつかなかっただけなのかも知れないけれど、もう一歩このアイデアを活かす何かがあっても良かったように思う。
四谷怪談に持っているイメージにもよると思うけれど、私の四谷怪談のイメージは京極夏彦の「嗤う伊右衛門」に負うところが大きい。といっても、伊右衛門が至誠な人物であるという意味ではなくて、「四谷怪談はバージョンによって登場人物のキャラクターや人間関係が違う」というイメージである。
だから、最初のうちは「さて、この四谷怪談はどういう解釈をしているんだろう」という風に見ていた。
それでは、このミュージカルにおける四谷怪談はどんな話なのか、この現代と江戸時代とを虚実ない交ぜにすることの効果が何もなかったのかと言うと、一番特徴的だったのは、佐藤隆太演じる民谷伊右衛門が中途半端な人間として描かれていたことではなかろうか。
何というか、伊右衛門は色気と凄みがある悪人というのが鶴屋南北の描いた四谷怪談だと思うのだけれど、このミュージカルの伊右衛門に悪人の凄みはない。
嫌味なところは小出恵介演じる与茂七に任せてしまい、ただひたすら無気力な若者に見える。だから、岩が死んだ後、伊右衛門が岩の幽霊に怯えているのを見ても「どうしてこの人こんなに怯えてるの?」「何か悪いことしたっけ?」という風にしか思えなかった。
この四谷怪談では、尾上松也演じる岩の出番は多くない。
彼女(彼か?)一人だけが浴衣姿で、江戸時代を演じている。いや、大石継太演じる宅悦も作務衣のような格好をしていて、岩のいる空間だけは行灯を使い、江戸時代になっていると言えばいいのか。
そうすると、終始一環Gパンだった伊右衛門との接点がなくなってしまいそうなものだけれど、恐らくはそこを解消するために「第二のお岩」を出してきて、彼女は顔を包帯でぐるぐる巻きにして入院してベッドで寝ている、ということにしたのだろう。
他のシーンでは江戸時代と現代を一つのスクリーンに映しているのだけれど、このシーンだけは、舞台の端と端で江戸時代と現代を二重に演じるようになっていた。
ただ、繰り返すようだけれど、そのことが何かの伏線になっているかといえば、そうではなかったように感じられるところが勿体ないと思う。
騒音歌舞伎(ロックミュージカル)と銘打っているとおり、でも割とミュージカルとしては穏当というかオーソドックスな作りだったんだと思う。あまりミュージカルを見ない私の感想だけれど、かけあいもあるけれど基本的には台詞を言い交わしていて、そのときの心情を歌う、あるいは激してきたやりとりを歌う、そういう感じだ。
歌詞を電光掲示板で流すのは、最近は増えてきたようにも思う。ついでに、「場」の表示もさせるのは、どことなく井上ひさしの芝居っぽい感じもする。日本語で歌っているのだし、歌は歌で届けるのが本筋でしょうと思ってしまう私は古いのかもしれない。
歌唱力ということでいえば、何といっても尾上松也だったと思う。声量もあるし、歌詞も間違いなく届く、上手い。マイクはいらないんじゃないかと思ったくらいである。
勝地涼と栗山千明のコンビも安心して聴いていられる。安定感がある。
宅悦を演じた大石継太や、第二のお岩を演じた明星真由美のときにも思ったけれど、麻実れいにもほんの少ししか歌わせないなんて、何て贅沢で勿体ないことをしているんだ、と思わず憤ってしまう。
通路を多用し、ラストシーンで舞台奥の扉を開き渋谷の街と舞台を一体化させるという演出は久々に見たけれど、でも一方で蜷川演出の超定番という感じもある。
流石にこれだけ何回も見ると、最初に見たときの「おぉ!」という驚愕はない。
何となくもやもやしたものの残る舞台だった。
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コメント
あんみん様、コメントありがとうございます。
『音のいない世界で』ってそんなにチケットが取りにくかったんですか??? できたら見てみたいかも、くらいの気持ちで申し込んだのですが、甘かったのかも・・・。
そしたらやっぱりご縁があったら、というくらいの気持ちで抽選結果を待とうと思います。
松たか子主演の「ジェーン・エア」も、原作は結構好きだし、初演から再演まで時間が短かったので評判が良かったんだろうなと思いつつ、チケットを取りそびれたままになっています。
あんみんさん、ご覧になったらぜひ感想をお聞かせくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2012.10.16 23:02
こんばんは。
>えーと、本文では抑えめに書きました
~そうですよね、マイナスな感想は率直には書きづらいですもんね。
2割増し位でいつも読んでます(笑)。
同じ感想で良かった。
『日の浦姫物語』、買えたので来月行きますが
鉄壁の主演なのでこれは大丈夫だろうと思ってます。
発表されてから『音のいない世界で』は絶対見たいと狙ってて
私も結果待ちですが、これかなりの激戦みたいです。
7月に軽くギックリ腰をやっちゃいましたが、もうよくなり
全開モードで観劇してますよ。
来週末は『エッグ2回目』『悼む人』『ジェーン・エア』です。
悼む人はちょっと微妙になりそうな予感がありますが...。
投稿: あんみん | 2012.10.16 00:46
あんみん様、コメントありがとうございます! そして、お久しぶりです。
えーと、本文では抑えめに書きましたが、感想としては多分あんみんさんとほぼ同じです。あんみんさんに率直に書いていただいて「私だけじゃなかったわ!」と拳に力が入りました(笑)。
2幕でちょっと盛り上がったかな、これで一気にラストスパートだと思っていたら、3幕の伊右衛門1人のシーンは、舞台が広く感じられて「埋まっていない」のが辛かったですね。
おっしゃるとおり、もっと猥雑に出来た舞台だし、その方がきっと楽しかったと思います。
投稿: 姫林檎 | 2012.10.14 17:56
こんにちは、お久し振りです!
先週観てきました。(エッグとK.ファウストも)
もっと熱くて猥雑な芝居だと思っててガックリ...。
尾上松也だけ別格で、他は中途半端だと思ってしまい
なんだかもったいなく、もう少し違った話ならとか思っちゃいました。
佐藤さんの長独白は観客も、やってる本人も訳わからん状態な
気がして時間が長く感じました。
姫林檎さんのおっしゃる通り、怯える繋がり感が?でした。
大人の事情でも有ったのか、本当に蜷川さんはこれで良しとしたのか。
手抜きなのか、脚本が古臭過ぎたのか?
お目当ての役者さんがいる人向けの芝居かもと思いました。
歌える人だけ歌ってほしかった(笑)!
麻美さん(他の人も)、もったいなかった!
とにかく『もう少しなんとか、なっただろうに』が感想です。
自分のミスチョイスですね。(リチャード三世にすれば良かった!)
だって高いですからね...。
でもお岩だけは良かったので、今度尾上さんを本業で観たいと思ったのが収穫でした。
投稿: あんみん | 2012.10.14 17:22