「おじクロ」 を見る
ラッパ屋 第39回公演 「おじクロ」
脚本・演出 鈴木聡
出演 おかやまはじめ/俵木藤汰/福本伸一/三鴨絵里子
弘中麻紀/大草理乙子/ともさと衣(客演)/岩本淳
中野順一朗/浦川拓海/宇納佑/熊川隆一/武藤直樹
観劇日 2012年11月16日(金曜日)午後7時開演
劇場 紀伊國屋ホール B列7番
料金 4800円
上演時間 1時間50分
ロビーでは過去公演の上演台本が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
チラシを見て、もちろん「ももいろクローバーZ」から来たタイトル「おじクロ」なんだということは知っていた。
それは知っていたけれど、申し訳ないことながら、私は「ももいろクローバーZ」を全く知らない。名前くらいは知っているけれど、それしか知らない。
なので、作・演出の鈴木聡がチラシで熱く語っても、舞台上でおじさん達が熱く語っても、「はぁ」という感じで聞いていた。5人の「週末ヒロイン」アイドルで、それぞれに自己紹介の決まり文句を持っているようなのだけれど、それをおじさん達に再現されれば(しかも、かなり前方の席だったし)、思わず引けない身を引こうとしてしまう。
それはともかくとして、「ももクロ」刷り込みはともかく、舞台は従業員30人くらいの町工場の寮らしい。幼なじみ同士の社長と副社長、副社長の奥さんとが一致団結して経営してきた、歯車等々を作っている工場で、お昼休みになったらしい。みんなでおそばを食べている。
そこで、工員たちがいきなり「ももクロ」の話で盛り上がっている。「元気をもらえる」「全力」「号泣もの」と、同好の士は大盛り上がりだけれど、社長らは「何だよ、それ」と全く相手にしていない。
この工場の知恵袋的な存在だったらしい「タツさん」が工場を閉めると言いに来たり、副社長の娘も何やら会社を休職中でマンションも引き払って家に帰って来ていたり、そこかしこに辛いことが見え隠れしている。
社長の娘役でともさと衣を客演に迎えているけれど、他はラッパ屋メンバーで固めている。年齢高めの筈だけれど、そこに違和感ない場を設定し、演じてしまうのは、鈴木聡の力だし、ラッパ屋の力だろうと思う。
最近は少なくなってしまって寂しいのだけれど、やっぱり劇団はいいよ、劇団ならでは、劇団でこその魅力ってやっぱり大きいよ、としみじみ思う。
和気藹々、楽しくそこそこ順調に回っていたらしいこの町工場も、しかし不況の波にさらされている。
副社長が結石の手術を終えて帰った来た日、社長は「元気づけようと思って」と言って、昔2人で見た任侠もの映画と「エマニエル夫人」のDVDと、そしていつの間にか宗旨替えしたようで「ももクロ」のライブ映像を見舞いに持ってくる。
そして「何だあれ」と鼻で笑っていた数日前など何のそので、そのライブのいわれと魅力を熱く語り出す。
どうして社長がそんな「元気」「全力」を必要としていたかといえば、この工場の取引の80%を占めていた家電メーカーが不況で家電から撤退することになり、その部分の取引が丸ごとごっそりなくなることになったという。
話は遡りに遡って、副社長が元々はその家電メーカーにサラリーマンとして勤めていたけれど、社長の窮状を見かねてこの町工場に転職したことや、自宅を会社の従業員寮として提供したこと、副社長の奥さんは自動的に「寮のおばちゃん」になったこと等々、「人生を変えてしまった」という話になり、そして、そこで「ももクロ」が絡むと「俺たちは果たして全力で生きてきたのか」という話になる。
「ももクロ」を知らない私は「だからどうしてももクロなんだ!」とツッコミを入れたい気持ちでいっぱいになるのだけれど、しかし、舞台上のおじさん達は(この時点では副社長は全くももクロにハマっていないのだけれど)、熱くうるさく全力で「ももクロ」について語り、涙する。
そして、どうも、女性陣はほとんど「ももクロ」にハマることはない様子が、何となく可笑しい。よし、こっち側の人も舞台上にいるぞ、みたいな気持ちになってくる。
大激論を交わしていた社長と副社長夫婦は、つかみ合いの喧嘩までして結論を出したようだ。
退職金も出せずに30人の従業員を数人に減らして細々と続ける、完全に会社を畳んで僅かなりと全従業員に退職金を出す、等々の道もあったけれど、方策を決めた。自分は大反対したので、副社長から発表させる、と社長が言う。
どんなことを言うんだと皆が固唾を飲む中、副社長は自宅と寮を売ってそのお金で工場の縮小と立て直しを図ると宣言する。
副社長の娘は大混乱の大反対だけれど、しかし、そう決めたんだと、普段は情けなくふにゃふにゃのおじさんのくせに、ここは格好悪いのに毅然としているのが格好いい。
そして、「ももクロ」に始まった「全力」が、いつの間にか工場の関係者全員に広まっていて、「全力で**すればよかった」宣言大会の様相になってくる。
いいじゃないか、きっかけは何だって、とこちらもいつの間にかそういう気持ちになっているから不思議である。
そして、撤退を余儀なくされた町工場の人達を元気づけよう、自分達はまだまだ元気で全力でがんばっているんだということを伝えようと、「ももクロ」ライブを開催することを決定する。
唐突だとは思うのだけれど、全員が「宣言」した場の空気にこちらも巻き込まれていて、おぉ! という応援する気持ちになっているからやっぱり不思議である。
練習中、次々と怪我人が出て、言い出しっぺであるところの副社長など首にギプスをはめるようなことになって、しかし副社長の娘のデザイン事務所が取引している(そして、この工場も取引している)家電メーカーの社員まで巻き込んで、5人揃ってのライブが敢行される。
おじさんが5人、それぞれのカラーのTシャツを来てバンダナを巻き、工場の制服らしい上着を羽織り、Gパンを履く。
それまで寮の一部だった舞台セットが一気に片付けられて広い空間が出現し、後方から強いライトが当てられる。
ライブの開始である。
曲は、「行くぜっ!怪盗少女」である、らしい。
彼女たちの歌に合わせて、しつこいようだけれどおじさんが5人、全力かつ笑顔で、フルコーラスの完コピを目指す。
号泣はしなかったけれど、あまりの全力笑顔につい笑ったりしてしまうけれど、しかし、涙が浮かんでくるのは確かなのである。
恐るべし、全力で笑顔で力一杯のおじさんパフォーマンス。
ラストシーンは、そうして全力で歌い終わった彼らを笑顔で涙を浮かべて見守る副社長親子だった。
舞台を暗くし、踊っていた5人は舞台上に倒れて大きく息を弾ませていて、舞台後方に窓のように切った四角の中に明るく浮かぶ親子2人。
カーテンコールでふらっときていて、「あと3公演、大丈夫ですね」という挨拶に5人の誰も何とも答えず、でも、笑顔のままでいる。
おかやまはじめ曰く「神の領域」だそうだ。
「キサラギ」よりこっちでしょと強く思って、ちょっと元気になって、劇場を後にした。
まだ公演中だけれど、再演を熱望!
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