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シス・カンパニー公演「TOPDOG/UNDERDOG」
作 スーザン=ロリ・パークス
翻訳・演出 小川絵梨子
出演 堤真一/千葉哲也
観劇日 2012年12月27日(木曜日)午後7時開演
劇場 シアタートラム I列5番
料金 6800円
上演時間 2時間10分(10分の休憩あり)
ロビーではパンフレット(500円か800円のどちらかだったと思う)が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
客席に入ると、舞台が中空に浮いたお部屋のように見えて驚いた。その舞台からは、不安定な感じ、不安な感じ、そしてどういう訳だか研ぎ澄まされた感じが伝わってくる。そういえば、終演後にどういう風になっているのか確認しようと思っていて忘れてしまった。残念だ。
その部屋の主は堤真一演じるブースで、いきなりやけに軽いノリでトランプが始まる。何と呼ぶのかは判らないのだけれど、カードを3枚(赤を1枚で黒を2枚、逆でも可)用意する。そして、客の目の前でカードを裏返しにして入れ替えたり置き換えたり、1枚入っている赤のカードが最終的にどこに置かれたのか、客が当てれば賭け金は倍額になり、間違えればとりあげられるというゲーム(というのか賭け事)だ。
そうして、ブースが掛け声よろしく練習しているところに、千葉哲也演じるリンカーンが、顔を白塗りし、リンカーン大統領の(ような)格好をして帰ってくる。
どうやら、彼は遊園地のようなところで、リンカーンの扮装をしてじーっと座って待ち、入ってきた客が彼を撃つマネをするのに合わせて倒れこむ、という仕事をしているらしい。
ここで、大方の人には「はーん」と判るだろうことが私にはだいぶ芝居が進むまで判らなかったのだけれど、リンカーン大統領を暗殺した人物の名前はブースであるそうだ。私がモノを知らないから気付けなかっただけの話なだけれど、もうちょっと翻案してでも示してもらった方がよかったなという気もする。
この事実は、ラストシーンへの布石にもなっているのだ。
この部屋はブースの部屋で、リンカーンは妻に家を追い出されて弟のところに転がり込んだのらしい。
ブースはしきりと「カードで稼ごう」とリンカーンを誘うし、実際のところ、ブースのトランプの腕は大したことがなくて、どちらかというとスリや窃盗が彼の本業というか得意技らしい。
一方のリンカーンは、もともとカードで稼いでいたけれど、荒稼ぎしていたところで相棒を銃で撃たれて亡くして以来、「カードには触らない」と決めているようだ。
この家でサラリーを手にしているのはリンカーンだけれど、家主はブースで、リンカーンは押され気味である。
軽いノリのブースと、落ち着いているけれど少し情けないリンカーンのコンビは、それでもやっぱりどこか危なっかしい雰囲気である。
申し訳ないと思うのだけれど、特に前半、体調が今ひとつだった私は集中力にかなり欠けていたと思う。
うーん、アメリカだ。
多分、アメリカだ。
この兄弟はどうやら「正業」で生きてきた訳ではなさそうだし、グースは振られた元彼女に執心しているけれどからかわれているだけのようだし、リンカーンは妻に追い出された身で、兄弟のどちらも女性との関係でとても恵まれているとは言えない。
この家もどうやら水道を止められているようだ。
それで、この芝居はどこに行き着くのだろう?
そんなことをとりとめなく考えているうちに、一幕が終わってしまった。
後半、頑なにカードに触ることを拒んでいた兄のリンカーンがカードに手を出したところから、この2人の関係はさらに危なっかしいところを転がり始めたように感じる。
相変わらず堤真一演じるブースは軽いノリだし、千葉哲也演じるリンカーンは声を荒げることはしない。でもやっぱり、エッジが立っているというか、崖っぷちギリギリという感じが漂う。
ブースはリンカーンにカードで儲けようと誘い続け、リンカーンは断りつつも段々その気になって行くような雰囲気だ。
何がどういうきっかけだったのか、転がり続けた何かの拍子にという感じだったのか、ブースがいきなりこれまでの軽いノリをかなぐり捨ててリンカーンに勝負を挑む。
リンカーンの「手」が本気ではないと、リンカーンに「カードで稼いだ」500ドルを賭けさせ、一方、自分は、自分達を捨てていった母親がブースにだけ残し、彼もこれまで手をつけなかった、ストッキングに包まれた500ドルを賭けると言い出す。
どれだけ困窮しようと手をつけなかった「母の遺産」をテーブルに乗せたのだ。
自分は貰えなかった母の遺産が目の前にあるからなのか、ブースの心情に感化されたからなのか、リンカーンまでもが真剣にカードに向き合い始める。
勝負の結果、やはり、それまでブースが「リンカーンの手を見抜いた」と思っていたのは勘違い、あるいはリンカーンの手加減の結果で、あっさりとリンカーンが勝負をものにする。
ブースは「黒いカード」を当てられなかった。
ストッキングに包まれた500ドルを開けようとするリンカーンだけれど、固く結ばれたまま何年もたったそのストッキングはなかなか解けようとしない。リンカーンは、「ブースだけに」というところにどこまでも拘りがあるのか「こんなものの中味は空っぽなんじゃないか」と言い出す。
そうして、リンカーンがナイフで切り裂いたその瞬間、ブースは肘掛け椅子に深く沈みこんでいたリンカーンを銃で撃ち殺す。母(の偶像)を貶められたことが許せなかったのだ。
ラストシーンでは、床に崩れ落ちたリンカーンと、ストッキングに包まれていた500ドルを手にして満面の笑みを浮かべるブースとが灯りに浮かび、そして闇に沈んで行く。
いずれにしても、ハッピーエンドではないし、この後、死んでしまったリンカーンも、殺してしまったブースも僅かでも上向きになる可能性は皆無だ。
救いのない終わり方だと思う。
それでも、何故か後味は悪くない。リンカーンとブースのことや、ブースの部屋で展開されていた物語はどこか後ろの方に引っ込んでしまい、「濃密な空気を味わった」という感慨だけが残っていた。
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コメント
あんみん様、コメントありがとうございます。
私も年末の片付けが進んでおりません。というか、年内に終わるかどうか自信がありません・・・。
それでも、年内の観劇はこの「TOPDOG/UNDERDOG」で打ち止め、来年の幕開けは「音のない世界で」ということになります。
あんみんさんは歌舞伎で幕開けなのですね。
お正月らしくていいですね。
それにしても、やはり、勘三郎さんの不在と喪失感はじわじわと広がって来ていると感じます。
こういうときこそ、ぱーっとしたお祭りが欲しいなどと考えてしまいます。
投稿: 姫林檎 | 2012.12.29 22:12
こんにちは。
年末の片づけにもなかなか取り掛かれず、PCに向かってます(笑)。
このセット、なかなか良かったですよね。
奥の方が興味深く、降りて行きたい衝動に駆られました。
黒人だという設定にちょっと無理が有るなと思いつつ、
どんな人種でも、小さな頃の母親からの愛情を欲する気持ちは
共通だろうし、
そんな気持ちは何歳になっても、引きずるものだとしみじみ思いました。
いつも満たされない寂しさというのか...。
笑っていたブースが我に返って、兄に泣きつくところが哀しかったです。
私の観劇納めは『音のいない世界で』で、
来年は大阪松竹座で猿之助で明けます。
それは前から決めていて、12/1に京都南座で勘九郎の顔見世を観たばかりの直後に、勘三郎さんの訃報。
歌舞伎のチケットを取る気も失せて、勘三郎さんのいない歌舞伎界が色あせて見えてしまいました。
他人の訃報で大きな喪失感も覚えました。
でもこれからも歌舞伎を観たい時に観る事が
勘三郎さんの供養だなと、自分勝手に決めて予定通りにチケットも取りました。
新・歌舞伎座に彼がいないなんてとまだ未練がましく思いますが。
投稿: あんみん | 2012.12.29 16:01