「教授」を見る
アトリエ・ダンカン プロデュース 「教授」
構成・演出 鈴木勝秀
音楽監督・弾き語り 中村中
五木寛之作「わが人生の歌がたり」より
出演 椎名桔平/田中麗奈/高橋一生/岡田浩暉
坂田聡/伊達暁/佐々木喜英/上條恒彦/中村中
観劇日 2013年2月23日(土曜日)午後2時開演
劇場 シアターコクーン B列19番
料金 8500円
上演時間 1時間50分(終演後、トークと歌のコーナー25分あり)
ロビーではパンフレット等が販売されていたけれど、チェックしそびれてしまった。
ネタバレありの感想は以下に。
何故だか勝手に翻訳ものだと思い込んでいたので、舞台上に寄生虫の標本が並んでいるのにも驚いたし、「安保反対」のヘルメットを被った学生が階段を駆け下りてきたのにも驚いた。
流石に、どうも自分は完全に思い違いをしていたようだと気がつく。
高橋一生演じる男子学生が最初のうちずっと後ろ姿しか見せていなかったことには何か意味があるんだろうか。割とすぐ顔に撒いていたタオルをむしりとった田中麗奈演じる女子学生とは対照的である。
自分の研究室に駆け込んできた2人に、椎名桔平演じる教授はキッパリと「政治に興味はない!」と断言し、ヘルメットとタオルを取ろうとしない男子学生に「臆病だからだ」と言い放ち、そして、寄生虫のことと「自分が個を取り戻した歌謡曲」のことだけは熱く語る。
「自分達が負けた」ことだけを自虐的に語る男子学生よりも、この教授の方に心が動いた彼女に、早すぎないかと思う反面、そりゃそうだよなとも思う。彼女は「編入試験を受けて転部してきたらもっとお話を聞かせてもらえますか?」と尋ね、「約束しよう」という答えをもらって駈けだしていく。
もう既に記憶が定かでないところが情けないのだけれど、教授が暗闇の中に浮かび上がり、女性に別れを告げているシーンと、高校生なのかこれから大学に入学しようという若者が教授を訪ねてくるシーンとが差し込まれる。
時は流れるけれど、お話はずっとこの研究室で展開される。濃いグレーの石づくりのような壁に、時折白く浮かび上がる寄生虫の標本が並べられた棚という、暗いといえば暗い舞台だ。
階段を降りて人が入ってくるというのも、ここが地下であることをイメージさせ、さらに穴蔵感が醸し出されている。
場面は変わって5年後、彼女は教授の研究室の助手となっていて、一方の彼は厚生労働省に入省して「寄生虫撲滅!」のための研究を教授に依頼している。
寄生虫の標本が集まったこの研究室は、「効率的でない」学問を担当する人々のたまり場となっているようで、哲学の教授と美学の教授、そして寄生虫研究室の助教授たちは「テレビが欲しいなぁ」と言い合ったり、ビートルズについて語ったり、どうして「教授」だけは結婚していないんだという話をしたりしている。
彼女が教授に恋をしていることは判りやす過ぎるくらいなのだけれど、「教授」本人は全く気がついていないらしいし、彼女も隠せていると信じていたようだ。
教授本人は「体内に寄生虫を住まわせている様な自分をご婦人はなかなか好きになったりしない」と本気なのか韜晦なのかよく判らない感じで飄々としている。
いや、確かに、惚れる。
身近にいたら滅茶苦茶に迷惑なような気もするけれど、でも、これは惚れる。
もうこの辺から後は、ただひたすらこりゃ惚れるよな−、と思いながら見ていたような気がする。
そして、このタイミングで「結婚する」ことを発表した彼の方も、種類は違うけれどいい男なんだろうなと思うのだ。
要所要所で、舞台奥の中空に作られたスペースでピアノを前にした中村中にスポットが当たって、歌が歌われる。1曲だけ、上條恒彦が歌ったのはファンサービスだろうか。
「昭和歌謡クロニクル」という副題が付いているだけあって、昭和の名曲が歌われていたのだと思うのだけれど、実は知らない曲の方が多かったような気がする。私が知らないだけなのか、オリジナルの曲なのか、時々考え込んでしまった。
そういえば、客席も、珍しく私より年配の男性が結構いらっしゃったように思う。
多分、曲を知っているとその場面とのつながりやイメージが喚起されて相乗効果を生んでいたと思うのだけれど、私にはそこまで到達できなかったのがちょっと寂しい。逆に少し唐突な感じすら受けてしまった。
「私を寄生させてください」という宣言が告白になっているかどうか微妙なところだと思うけれど、その微妙なところにも教授は答えようとしない。
そして、さらに年月が流れる。
久しぶりに厚生労働省の彼がやってきてニューヨークに赴任するのだと挨拶し、自分は全てから逃げてここにいるという教授に彼女からは逃げないでくれと頼み、どこからか戻って来た彼女と教授に「お幸せに」と一礼して去って行く。
彼女は彼女で兄の訪問を受け、見合いを進められ、全く噛み合わない父と兄とのやりとりに神経を昂ぶらせている。
彼女が出かけたところへ、いつか来た若者がやってきて、自分は教授の息子だと告げ、「医者になって、経済的に援助さえしてくれていたらこんなに恨まなかったかも知れない」と拳銃を向ける。
その銃口にゆっくりと近づいて「自分には撃つほどの価値もない」と息子を抱きしめる教授に、果たして、この人はどういう人なんだろうとちょっと考えてしまった。生まれてからずっと抱えてきた恨みをこれだけで溶かせてしまうものなんだろうか。
人柄は人柄、やったことはやったことである。
寄生虫を身のうちに飼って、「普通より少し早く死んで行く」ことを望み、時折襲ってくる激痛に耐えている教授は、でもやっぱり身勝手なんじゃないかという気もするのだ。
でも、何年越かで告白に「NO」の返事を告げられ、今来ていた学生が自分の息子らしいと言われた彼女は、全く動じない。というか、自分が教授を好きだということに集中していて、教授の過去はどうでもいいらしい。
彼女の恋が成就したのかどうか、微妙な感じだな−、というところで、幕が下りる。
5分の休憩を置いて、昭和歌謡クロニクルと題して日替わりゲストを招き、昭和の名曲が披露しているようだ。
この日のゲストは尾藤イサオである。
「ダイナ」というディック・ミネの曲と、そしてこれは中村中のリクエストらしい「あしたのジョー」が歌われた。
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コメント
逆巻く風さま、コメントありがとうございます。
私は自分が書いた感想が読めるのですが、逆巻く風さんからは読めませんか?
どうしてでしょう???
投稿: 姫林檎 | 2013.02.24 23:07
観ました。感想が書かれていないんですが、どうだったんでしょう?
上條恒彦の生歌にはびっくりしました。
後陽水の「傘がない」も良かったかな。
投稿: 逆巻く風 | 2013.02.24 11:46