「デキルカギリ」を見る
G2produce最終公演「デキルカギリ」
作・演出 G2
出演 山内圭哉/大和田美帆/片桐仁
菅原永二/吉本菜穂子/岩井秀人
中川智明/久ヶ沢徹/久保酎吉
観劇日 2013年2月22日(金曜日)午後7時開演
劇場 本多劇場 B列19番
料金 6500円
上演時間 2時間
ロビーではパンフレット(1500円)と、G2プロデュースの過去作品のDVDが販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
どんな話でどんな芝居なのか、全く予備知識なしで見に行った。
なので、劇場に入ったときに、舞台上にふつーの家(というにはちょっと立派すぎる感じだったけれど)のセットがあって、ますます、一体どんな芝居なんだろうと思った。
最初のシーンは、パジャマにガウン姿の久保酎吉が遠くを見つめて子供達に語りかけるシーンだ。その語りから、どうやらこの家から見渡せる場所は全て、ダムの底に沈むことになっているらしいと判る。
そこに、従姉妹同士らしい大和田美帆演じる娘のミナコと、久ヶ沢徹演じるミナコの従兄弟であるジュウロクロウがやってくる。病院を抜け出した父親を探して自宅にまでやってきたところらしい。
片桐仁演じるミナコの兄ギンジもそこにやってきて、しかし、父親の脳が萎縮して健忘症の症状も出てきていると聞いてショックを受ける。研究者で研究所に詰め切りらしいこの兄は、全く家族や父親を顧みることがなかったようだ。
その恐慌のさなかに何故かシロアリ駆除の業者がやってきたり、そのシロアリ駆除業者に父親が池にホウサンを撒くよう求めたり、そのシロアリ駆除業者にミナコの恋人らしい菅原永二演じる巡査が一緒だったり、隣家で葬儀業を営む吉本菜穂子演じるサナエが意味もなくやってきたり、緊張感が持続しないこと甚だしい。
しかし、この緩急織り交ぜてぐいぐい引っ張って行くのがG2のG2たる所以である。
ミナコがギンジを呼んだのは、岩井秀人演じる弁護士に、父親から預かっている書類があり、しかしこれは兄弟3人が揃ったところで開けるようにという指示付きだと言われたからである。それを聞いたギンジが怒りまくったのは、ギンジの兄であるカズトモが指名手配中の人物であり、かつその指名手配となった理由が父親を裏切るような何かだったかららしい。
「見つかる訳がない」と言うギンジに、ミナコが「そんなことはない」と言い張った理由は、恋人に頼んで実はもうカズトモを見つけてもらっており、かつ、すでにシロアリ業者に扮してこの家にやってきているから、というのだから驚く。ここは、大騒ぎするギンジに1票、というところだ。
しかし、何故かずっと同席している従兄弟のジュウロクロウも、落ち着き払ってミナコの肩を持つ。
シロアリ業者の片割れは、中川智明演じる巡査の先輩でカズトモの事件をずっと追っていた刑事であり、もう一人が山内圭哉演じるカズトモだった。
カズトモだった筈なのだけれど、その後すぐにジュウロクロウの追求によって判明したことには、このカズトモは偽者らしい。巡査はミナコのためにと思っていたらしいけれど、刑事の方はさらに上を行く思惑があるようだ。
カズトモが3年前に起きたプルトニウムの盗難(というよりも、高速増殖炉襲撃)事件に関わっていると考え、父親が危篤となれば会いにくるのではないか、あるいは、この家にその奪ったプルトニウムを隠しているのではないかという思惑があるようだ。
この後も、ジェットコースタードラマは健在で、偽者のカズトモ同席のもとで開かれた書類には倉田家に代々伝わるという預言書が納められていたり、その預言書には核分裂について書かれていたり、隣家のサナエは3年前にカズトモの高速増殖炉襲撃事件に関わっておりそこで奪われたプルトニウムを探すと同時にカズトモに惚れて迫っていたり、この家が私服刑事に囲まれたため父親の偽葬儀を出して偽のカズトモを逃がす計画を立てたり、ふっと正気に戻ったらしい父親がカズトモに地下室の場所を教えたり、とにかくしっちゃかめっちゃかなのだけれど、話題の中心には常に「何も知らない」カズトモがいる。
父親が、カズトモという自分の息子と同じ名前の青年だという認識で彼に話しかけているのも何だか切ない。
本物のカズトモは頭脳明晰、果断かつ行動力のある「お兄ちゃん」だったようなのだけれど、この偽者のカズトモは関西弁を話しつい「すみません」と言ってしまうようなキャラの男だというのも、何だか意味ありげかつ意味なさげである。
そして、父親の方も、何だか全てを本当は判っているんじゃないか、少なくともカズトモが何年か前にこの家に戻ってきたことは知っていそうだぞという風情を漂わせ始める。お約束だと思いつつ、 ここまでやられると「で、どうなの?!」という興味から逃れることができないのが悔しい。
偽カズトモが庭に佇む中、偽葬儀の準備に運び込んだ棺から、防護服らしきものに身を包んだ男が現れ、父親が彼をカズトモと見て「己の道を全うしろ」と言うシーンもやっぱり切ない。
この舞台の中心は、やっぱり久保酎吉だ。
もう、とにかくクセのある役者陣が揃っていて、普通にしていても腹に一物ある感じなのに、みんな普通にせずにいかにも腹に一物あるように見せているので、「絶対に何かある」感が漂うのがいい。どんでん返しを末楽しみが何倍にもなろうというものだ。
大和田美帆が一人清楚に佇んでいるように見せて結構ヒドイことをあっさり言うようなキャラだったりするので、油断ならないのもいい。
プルトニウムはどうやら本当にこの家にあって、ということは一度はカズトモはこの家に来ているということになる。
そして、刑事たちがガイガーカウンターなどというものでこの家を調べた結果、どうやらプルトニウムはこの家の庭にある池の中らしいと特定する。
「さっきその池から青白い光が出るのが見えた」「チェレンコフ放射だ」という話から、父親がシロアリ駆除の薬であるホウサンを池に撒こうとしていたことを思い出し、とにかく池にホウサンを撒いて中性子を閉じ込めようと男どもは大騒ぎだ。
一安心というところに、先ほどの防護服の男が現れ、池からプルトニウムが入っているらしきメタルケースを引き上げる。カズトモかと思えたこの男は、実は、先ほどの弁護士だ。
御用学者と言われ続けた父親が実は反原発運動を支持しているこの弁護士の所属する法律事務所と関係し、機密情報を流し続けていたのだと告げる。
ここからまた、サナエが拳銃らしきものを持ち出してプルトニウムを渡すよう脅迫したり、そのサナエをフライパンの一撃で倒したジュウロクロウが、やっぱりプルトニウムを渡すよう脅迫したり、サナエの動機は原発で働いていた弟白血病で亡くしたことで、実は国会議員だったらしいジュウロクロウの動機は「原発推進のため日本国民に余計なことは知らせたくない」ということだったり、決してあてつけがましくなく、いかにもメッセージだと言うことなく、さりげなく、でも確実にここは言いたいところだったんだろうなというところを持ってくるのが憎い。
預言に従ってプルトニウムは、10000年保つ強度で作られているという(そして地球上にこれ以上強固な建設物は他にないとギンジが断言する)ダムの底に沈めることとし、ジュウロクロウには「この場にはいなかったということにしましょう」で手を打ち、刑事達は表を取り囲んだ私服刑事に弟の復讐のために某国のスパイとなっていたサナエを引き渡すこととし、家には、父親とカズトモと巡査と弁護士が残る。
偽のカズトモは「もう、適当に逃げて」と言われてこの家を去り、弁護士が「本当に(ジュウロクロウが言ったように)カズトモは獄死したんでしょうかね。あんなにそっくりなのにね」と呟くのを聞いた巡査は慌ててカズトモを追いかけ、そして、父親と弁護士が残る。
この2人は同士だ。
そのことが判っているのか判っていないのか、最後まで本音を見せなかった父親に弁護士は最敬礼を残して去る。
父親は立ち上がり、そして、再び、景色を眺めながら子供たちに語り始める。
そこで幕だ。
スッキリ判りやすく、最後には全ての謎が解けて大団円というのが好きな私は、暗くなったところで「スッキリしない!」と心の中で叫んでしまった。
で、結局、この父親はどこからどこまで判っていて仕組んでいたのか。
カズトモは結局、本物だったのか偽物だったのか。
解き明かしてくれよ! と思う。いや、ちゃんと伝えたでしょと言われるかも知れないのだけれど、はっきり誤解しようもなく考えなくても判るよう、キッパリ突きつけて欲しいのだ。
それでこそのカタルシスではないか。
そう思うけれど、一方で、この余韻の終わり方も反芻できていい感じなのかも、終わった後でも思い出して考えて欲しかったのかも、とも思うのだった。
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