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2013.03.31

「趣味の部屋」を見る

「趣味の部屋」
脚本 古沢良太
演出 行定勲
出演 中井貴一/戸次重幸/原幹恵/川平慈英/白井晃
観劇日 2013年3月30日(土曜日)午後7時開演
劇場 パルコ劇場 M列21番
料金 8000円
上演時間 2時間15分

 ロビーではパンフレット(1500円)とポスター(500円)が販売されていた。

 今日(2013年3月31日)23時から放映されるTBS「情熱大陸」で、古沢良太がこの芝居の本を書く様子が取り上げられる。ぜひ見ようと思う。

 ネタバレありの感想は以下に。

 パルコ劇場の公式Webサイト内、「趣味の部屋」のページはこちら。

 いつも「ネタバレあり」と書いているのだけれど、今回は本当に本当に、見る前にネタバレしてしまっては面白さ半減どころか1/4減くらいなので、念のため、さらに改行する。

 舞台は暗くなっていて、しかし薄ぼんやりとそこがマンションの一室らしいことが見て取れる。
 かなり天井が低い感じで、白く光る枠というか額縁というか、そんな四角で囲われている。何というか、人形劇の舞台みたいというのは、見終わったから言える感想かも知れない。

 中井貴一演じる天野(パンフレットを購入しなかったので、以下、役名の感じは適当に当てた)が、何やら熱心に料理をしている。シェフっぽい格好をしてかなり本格的だ。そこに、白井晃演じる加藤や、川平慈英演じる水沢、戸次重幸演じる土井らが次々と「帰って」来る。
 結構豪華なマンションの一室で、右手にはガンプラが並び、左手には古書が並ぶ。
 大きな業務用の冷凍庫が置かれ、亀が飼われ、モンサンミッシェルのジグソーパズルがやりかけになっている。
 謎のメンツ、謎の空間だけれど、怪しい感じはしない。
 たとえ、加藤が帰って来るなりガンダムの誰かのコスプレを始めても、怪しい感じはしない。

 もう一人、この部屋には木下というメンバーがいるらしく、亀は彼が飼っているらしいのだけれど、2週間ほど姿を見せていないらしい。その亀の甲羅に「A」と「N」という文字が彫られていることが判っても、やっぱり、怪しい感じはしない。
 そこへ、原幹恵演じる婦人警官が「この人を知りませんか」と木下の写真を掲げてやってくる。
 一度は「知らない」と追い返した天野だったけれど、「女性禁制とか内輪のルールを厳格に適用している場合じゃない」と慌てて土井が連れ戻しに行く。

 その婦人警官に説明する形で、ここが「趣味の部屋」であることが明かされる。
 天野と加藤は医師、水沢は車の営業マン、土井は化粧品会社勤務、木下はスポーツクラブのインストラクターで、それぞれがここで「趣味」に没頭している、そのための部屋を共同で借りているのだという。
 天野の趣味は料理だし、加藤はガンプラ、水沢は古書収集、木下は亀の飼育、その中で一人土井だけは様々な趣味に手を出して「ハマろう」としているらしいのだけれど、そこそこできちゃいはするものの、なかなかハマれる趣味が見つからずに激しくコンプレックスを抱えているらしい。その気分はよく判る。
 何かというとガンダム用語で事態を説明する加藤の存在がさらに土井のコンプレックスを刺激しているようだ。こちらも全く興味かつ知識のないガンダム用語を聞いていても笑えないのがかなり悔しいので、「いいですから!」と加藤を止めてくれる土井の存在は非常に有り難く近しい。

 天野は医師で、他の面々は彼の患者なのだという。治療の一環に近い感じで、胃潰瘍等々の治療には趣味が有効だと説いてこの場所を維持しているのだという。
 そういう話だったのに、いつしか、鍵のかかった冷蔵庫に木下のバラバラ死体がしまわれているのではないかという話になり、水沢が「いつここを出て行こうかと思っていた」と天野を弾劾し、雰囲気がどんどん悪くなってくる。
 結局、婦人警官の彼女が実はコスプレ好きの木下の彼女だったと判ったのが先だったか、天野が実は自分の医院で看護師をしていた太田陽子が殺されたのではないかと疑い、殺したのではないかと疑った水沢を観察するためにこの「趣味の部屋」をでっち上げたのだと告白する。
 趣味の部屋じゃないじゃん!

 もちろん、この後はお約束どおり、その「疑い」が一巡する。水沢は、ストーカーの結果、土井が彼女のアパートで一晩を過ごして出てくるところを見たといい、彼が彼女を殺した「恋人」だと弾劾し、だから匿名の手紙を送って土井の家庭を壊したのだ、土井をこの「部屋」に誘ったのは、彼が犯人だという証拠を見つけるためだと言う。
 土井的には、天野に「水沢が勧めたから土井も誘ったけど、別にいてもいなくても良かった。というよりも、むしろいない方が良かった」と言われたときよりはマシだったかも知れない。
 実は、彼女の家に出たという虫を一晩かけて探して捕まえただけだったと言う。

 その土井は、同じく加藤が彼女を家に送り届け、ベッドに寝かせたところまでを「向かいのビルから双眼鏡で」見届けた、彼が彼女の恋人だ、自分がやられたように匿名の手紙を送ったけど彼の家庭が全く壊れなかったのが悔しいと嘆く。
 こうして話が回ってきた加藤は、食事をしたときに彼女がアレルギーを持っていたのにチョコレートを食べてしまったせいでじんましんが出て、それで介抱して送っただけだと言う。

 この辺りで「何だかキサラギみたい」という感じがした。そういえば、「キサラギ」も男5人がアイドル如月ミキの死の真相を探るストーリーだし、書いたのは古沢良太だ。
 ということは、ここはやはり「実は殺人事件なんかではなかったんだ」で終わるのかと思ったところ、この後の展開が一ひねりも二ひねりもしてあった。「キサラギ」を思い出した私はあっさりとうっちゃられたけれど、見たことのない観客も多分一緒にうっちゃられたのではなかろうか。

 実は、看護師の太田陽子は警察の捜査どおりに事故死で、殺人事件などはなかった、全ては天野の思い込みだったと判明した途端、天野の様子がおかしくなる。
 そこへ、今度は加藤が「自分は精神科医だ」とやってきて、天野は自分の患者だったと説明する。
 ちょっと待て! 今度はそっちか!
 そして、天野は解離性同一性障害なのだと説明する。「天野が殺したのではない」「太田陽子は殺されたのではない」と説明されたことで、逆に、実際は太田陽子を殺した「自分」が表に出てきたのだと加藤は説明する。
 ガンダムのコスプレをしていた加藤が、特別会員に迎えた木下の彼女にガンダムのコスプレを渡して着替えさせたり、細かい(敢えていえばどうでもいい)伏線を丁寧に笑いと共に拾って行くのも楽しいし、その「くすぐり」とストーリーそのものの持つ重さのギャップがやはり楽しい。
 これぞ、ワンシチュエーション・コメディの醍醐味だ。

 可愛がっていた看護師を殺した犯人を捜そうと趣味の部屋を始めた天野自身が実は殺人犯だった、というのは、実際は絶対になさそうだけれど、ドラマや舞台では割とありそうな設定である。そこに解離性同一性障害を持ってくるのも、まぁ、ありがちな感じがする。
 「今日でこの趣味の部屋も終わりだ」と宣言し、警察に行こうとする天野に、土井が「自分のジグソーパズルはまだ終わっていない!」と叫ぶ。この土井というキャラクターは徹頭徹尾可笑しくて、木下は行方不明でも何でもないと判った後でも「おまえが木下を殺したんだ!」と叫び、「怒濤の展開について行けない」と頭を抱える。
 加藤のガンプラ&コスプレとともに、この舞台の「緩和」を生み出す、貴重なキャラだ。
 その土井が涙ながらに言うと、これはもう周りは逆らえないも同然だ。

 ジグソーの最後の1ピースが見つからず、みんなして必死で部屋中を探し始めるけれど、いつしか、土井以外は探すのを止めてしまい、天野が「そろそろいいだろう」と言うシーンなど、狙ったような「いいシーン」である。
 そうして、5人が次々と部屋を出て行き、照明が落とされる。
 これで、カーテンコールのために役者さん達が再登場して幕か? と思ったところ、確かに男優4人は再登場したけれど、どうも様子が違う。どう見ても「芝居の時間の続き」の風情だ。

 ここでえー! と思いすぎてどういう手順で「種明かし」がなされたのかすっかり忘れているのだけれど、要するに、最初の天野がお料理をしているシーンから、今さっきの5人でこのマンションを出て行くシーンまで、その全てが「彼女を騙すためのお芝居」だったというのだ!
 やられた!
 そして、なおかつ、木下が彼女に趣味の部屋の存在をばらしてしまったことのフォローするとともに、土井に「演劇」という趣味を与えるために一致団結して演じたお芝居だったらしい。
 観客は彼女一人。
 そして、その観客は、観客であると同時に出演者であり、唯一、台本を渡されていない出演者だったのだ。
 そりゃあ、ライブ感はたまらなかったことだろう。

 参りました、という感じである。
 やられた感は満載。しかし、ここまで騙されるといっそ清々しいくらいだ。
 木下に電話した天野が、亀の甲羅の傷(これは途中でダイイングメッセージだとして、天野のイニシャルだと使われたり、水沢のイニシャルだと使われたりしていた)はアンジェリーナ・ジョリーとニコール・キッドマンの頭文字だと聞き出すという、細かい伏線の回収がなされるところも見事だ。
 こういうことなら、土井の家庭が水沢の勘違いによって崩壊したという後味の悪い過程を放ったらかして何となく和解していた「嫌な感じ」もなかったことになって、後味の悪さ一掃、見事な大団円である。

 すっきりした!
 実はもっとたくさんの仕掛けがあちこちに仕込まれていて、その沢山の伏線を(恐らくは)全て回収し尽くすこの計算された気持ちよさと来たらない。
 「キサラギ」も好きなお芝居なのだけれど、もの凄いバージョンアップ&チューンアップぶりである。
 その仕掛け満載の本を活かしきったのは、芸達者としか言いようのない男優陣であり、その中に入って相当に揉まれてがんばったに違いない紅一点の原幹恵の開き直った感であり、見終わってみれば楽しくあざとかった演出を駆使した行定勲の遊び心だと思う。
 こういうお芝居をもっと観たい! と思った。

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