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M&O playsプロデュース「八犬伝」
原作 滝沢馬琴「南総里見八犬伝」
台本 青木豪
演出 河原雅彦
出演 阿部サダヲ/瀬戸康史/津田寛治/中村倫也
近藤公園/尾上寛之/太賀/辰巳智秋
二階堂ふみ/田辺誠一 他
観劇日 2013年3月16日(土曜日)午後1時開演
劇場 シアターコクーン I列17番
料金 9800円
上演時間 2時間50分(20分の休憩あり)
犬張り子と8つの珠をモチーフにした手ぬぐい(1000円)と巾着(800円)が販売されていて、もの凄く迷ったのだけれど結局購入しなかった。他に、パンフレット(1500円)や、Tシャツ(値段は忘れてしまった)等が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
八犬伝といえば、滝沢馬琴「南総里見八犬伝」だけれど、自慢ではないがもちろん読んだことはない。
それでも「8つの珠」とか「伏姫」とか「里見家」とか、キーワードを知っているのは、いわゆる二次創作が盛んだからだ。とりあえず、私がタイトルとして覚えているのは、薬師丸ひろ子が主演した映画「里見八犬伝」だけれど、考えてみるとこの映画も見たことがあるわけではない。
だから、元から持っている私のイメージが原作どおりでないことも確かなのだけれど、それにしても随分作り替えたなという印象だ。何しろ、ハッピーエンドではないのだ。
阿部サダヲ演じる犬塚信乃の飼い犬が親族の家のどなたかから拝領の壺を割ったとかで、家宝の村雨という刀を渡せと言われたところ、信乃の父親はその村雨を将軍に献上しろと言い残して自害して果てる。
飼っていた犬が帰ってきたところ、一緒に死のうと犬を一刺しにすると、その体内から「孝」と書かれた白い珠が浮かび上がる。そこに居合わせた瀬戸康史演じる親族の家の下男である額蔵が自分も同じような珠を持っていると告白し、互いに体に牡丹の花の形をしたあざを持つことも確認して、2人は「自分たちは何らかの使命のためにこの世にあるのだ」と確信する。
信乃は許嫁の浜路が止めるのも連れて行ってくれと縋るのも振り払い、彼女に懸想する浪人がこっそり村雨をすり替えたことにも気付かず、額蔵と2人で将軍家に「偽」村雨を献上するために出発する。
何というか、阿部サダヲって若者を演じても全く違和感がないよ、と思う。瀬戸康史演じる額蔵(その後、名を改めて犬川荘助)よりも少し年上、という感じに見える。顔もだけれど、動きが軽くて若いというところがポイントのような気がする。
抜けてるけど真っ直ぐ、もてるけど本人はそのことに全く気がついていない、という感じが上手い。
そして、アドリブなのか指定なのか、ときどきボソっと笑いを取って行くのが可笑しい。
八犬伝なので、その後も続々と犬士達が集まって行く。
献上した村雨が偽者だったことから暗殺者と間違えられ、屋根の上に追い詰められた信乃を捉えるために現れた尾上寛之演じる犬飼源八とは屋根の上で戦い、ずっと音響兼舞台セットのようにして舞台上に組まれていた太鼓の櫓に二人が乗り移って、殺陣がいつの間にか太鼓での争いになっていたのは格好いい。
阿部サダヲが「今日からバチが変わって滑る」とぼそっと言い、そのバチをもともと使っていた方が笑いを堪えるように頷いていたのもなかなか楽しいシーンである。
それはともかく、屋根の上で戦い、太鼓を叩く。お二方の技量あってこその見せ場である。
信乃の剣術の師であった人の息子である近藤公園演じる犬村角太郎(その後、名を改めて大角)とも再会し彼の家を教えてくれた、、中村倫也演じる女装の犬坂毛野もまた八犬士の一人と知る。
それと前後して、将軍家に村雨を献上する道行きから大塚に引き返した荘助は、浪人に連れ去られた浜路を助け、その異母兄弟である津田寛治演じる犬山道節から村雨を託される。
何だかあらすじを追うのにも段々疲れてきたけれど、実際に見ているときも、実はちょっと冗長、と思ってしまったのも本当である。何しろ八犬伝なので、8人が出会うまでのエピソードを語り尽くさないと次に進めないし、その他にもいくつかラストに向けた「仕込み」もしなければならないので、休憩前は盛りだくさんでかつスピードを出せないのだ。
その代わり、無実の罪で処刑されそうになった荘助を信乃達が刑場破りをして救い出し、そのときの刀傷が元で信乃が破傷風にかかって、辰巳智秋演じる犬田小文吾の経営する旅籠に逃げ込んだ辺りからは、俄然、物語が動き出す。
太賀演じる小文吾の拾い子である大八(後に名を改めて犬江親兵衛)が、男と女の血を5合ずつ混ぜて傷にかければ破傷風は治ると言い出し、そこに刑場破りの下手人を探しに来た役人を追い返し、大八の言ったことを聞いた浜路と荘助が自分の血を使ってくれと言い出して荘助が浜路を手にかけ、自分にも刀を突き刺す。
小文吾が呼んできた田辺誠一演じる法師は、実は里美家の元家臣で、伏姫のこともよく知っており、ここで始めて八犬士は揃い、自分達が持つ珠のいわれを聞くこととなる。
亡くなった浜路の弔いもあり、目立たないようにという配慮もあって、彼らは三手に別れて里見の城を目指すことになる。
お話があらぬ方向に動き出すのはここからで、何故か犬坂毛野が彼らを裏切り、小文吾を自ら斬り捨てたのを皮切りに(という言い方もどうかと思うけれど)、手下を使って大角と現八も手にかけて珠を手に入れる。毛野の裏切りを見ていた荘助は自分の珠を親兵衛に託すと村雨を持って姿を消す。
先発していた法師と信乃、道節と親兵衛は無事に城に辿り着いたけれど、信乃がしきりとこの城の匂いはおかしいと言う。
この辺りからはもうしっちゃかめっちゃかで、親兵衛が実は自分が里見の家の嫡子であったことを思い出したり、毛野がやってきて珠が8つ集まったところで裏切って高らかに名乗りを上げた親兵衛をあっという間に斬り殺してしまったり、、里見の家を呪っていた玉梓という女が浜路の姿を借りて蘇ったり、大角と現八までゾンビのように蘇らせて信乃たちに対抗させたり、実は法師がすっかり玉梓に取り込まれていたり、八犬士が揃って、里見家の敵を倒して大団円じゃなかったのか! とツッコミを入れたくなるくらいの無茶苦茶ぶりである。
八犬士が揃った瞬間から瓦解するなんて、と驚いた。しかも、バタバタと死に続けるのだ。
そして、何故だか私の中に「裏切るのは浜路」というイメージが強固にあったことも、この驚きを倍加させることになったのだけれど、それは全くの個人的な話だ。
でも、ストーリー上の疑問は疑問として、殺陣と和太鼓との組み合わせ(コラボレーションという言葉はこの場合ちょっと違う感じがする)はかなり迫力がある。
そして、和太鼓と奏者を乗せた櫓がほとんど舞台上で邪魔にならないのも、今思い返してみると不思議だ。
最後には、8つの珠を繋げた首飾りをかけて高笑いする玉梓を、荘助が後ろから斬り殺し、この戦いは終わる。
信乃も言っていたけれど「いいところを持って行くよな」という感じである。
道節が大人げなく、「荘助の行動が信じられない」「信乃を救おうというとき、浜路のことは殺そうとし、自分自身に対しては手加減したのではないか」とこの期に及んで言い出す気持ちも多少は判らないでもない。
それに対する信乃の取りなしが「誰でも自分に対しては甘くなる」というのも、どうかと思う。
要するに「辛うじて勝った後、生き残った三犬士」の言動がどうにもすっきりしない。
そして、信乃が二人に対して、「珠は捨てよう」と言った後に、大義なんてものはこの世にはない、あるいは、大義なんていうものは瓦礫の一つ一つ、人間一人一人の中にある、という風に続けたとき、この台詞を言わせたいがためにこういう方向に八犬士の物語を変えたのだなと思った。
でも、もう少しさりげなくと言うか、判りにくくてもいいからストレートではない台詞ではなく芝居全体でメッセージを発する方向で考える方がいいのではないかと私は思う。その場で「あぁ、そうだったのね」ではなく、後からじわじわと迫ってくるような、そんなお芝居の方が、結局は伝えようとしたメッセージも見る側に残るのではないかと思うのだ。
それはそれとして、途中から全く予想外の方向に進んで行って「一体どうなるのか」とハラハラドキドキ楽しめたし、中村倫也演じる毛野の「女の姿」がなかなか粋で格好よく、その彼女が裏切るという展開もそうするならこれしかあるまいという感じだったし、信乃を演じた阿部サダヲがときに場の緊張を緩めるゆるーい物言いをするかと思うと和太鼓を叩き殺陣で暴れまくって一気に駆け抜ける、信乃の父親とその弟、信乃を捕縛しに来る役人と信乃と絡む三役をこなした佐藤誓の地味な活躍も光っていた。
この際だから、三犬士がこれから国を作るという話もぜひ続編で見てみたいと思う。
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