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2013.04.05

「歌舞伎座新開場杮葺落四月大歌舞伎 第一部」を見る

歌舞伎座新開場杮葺落四月大歌舞伎 第一部
演目 一、壽祝歌舞伎華彩
出演 藤十郎/染五郎/権十郎/亀鶴
    松也/萬太郎/廣太郎/高麗蔵
    梅枝/壱太郎/尾上右近/廣松/魁春
演目 二、十八世中村勘三郎に捧ぐ お祭り
出演 三津五郎/橋之助/彌十郎/獅童
    勘九郎/亀蔵/福助/扇雀
    七之助/巳之助/国生 /宗生
    虎之介/宜生 /新悟/児太郎
演目 一谷嫩軍記 熊谷陣屋
出演 吉右衛門/玉三郎/菊之助/歌昇
    種之助/米吉/桂三/由次郎
    又五郎/歌六/仁左衛門
観劇日 2010年4月4日(木曜日)午前11時開演
劇場 歌舞伎座 1階1列41番
上演時間 2時間55分(15分、30分の休憩あり)
料金 20000円

 職場の方にお声をかけていただいて(チケットも取っていただいて)、歌舞伎座こけら落としが4月2日、その2日後に見に行った。
 
 さよなら公演のときは3部制でチケットは20000円もしなかったなとか、イヤホンガイドがさりげなく50円値上がりしているとか、つまらないことは言わないことだ。
 新しくなった歌舞伎座は、エスカレーター等が随所に設置され段差もなくなったのもさることながら、3階席の傾斜がかなり急になって見やすそうになっていた。

 ところで、私はイヤホンガイドは生放送だとばかり思っていたのだけれど、実は違うらしい。
 イヤホンガイドを借りたときに一緒にいただいた「耳で観る歌舞伎 歌舞伎座新開場記念 特別号」によると、公演の2ヶ月前に担当が決まって解説の「執筆」が開始されるという。録音の後、音声を編集して番号順に送り出せるようにカットし、舞台稽古のときに内容と舞台が合っているかや台詞と解説がかぶっていないか等々を確認、マズイ部分は再び録音と編集が行われるそうだ。
 舞台とぴったり合った解説が聞けるのは、オペレーターが「送り出す」場面を調節しているかららしい。
 驚いてしまった。

 そして、イヤホンガイドが始まったのは昭和50年で初めて導入されたのが歌舞伎座だということにも驚いたし、考えてみれば当たり前なのだけれど、株式会社イヤホンガイドという会社が行っている事業だということにもびっくりした私である。

 開場時間に出向いて中をうろうろと歩き回った。珍しく筋書き(1500円)も購入する。
 売店も整理されたのか少なくなったようにも感じられたけれど、東銀座駅直結の地下の広場にもいくつか店舗が出ていた。ただし、こけら落とし限定のグッズは場内でなければ購入できないようだ。

 ネタバレありの感想は以下に。

 歌舞伎座の公式Webサイト内、「歌舞伎座新開場杮葺落四月大歌舞伎」のページはこちら。

 最初の「壽祝歌舞伎華彩」は、文字通り「お祝いの踊り」である。
 染五郎と魁春が「春の君」と「女御」に扮し(というか、そもそも「春の君」と「女御」が誰のことなのか、判っていない私である。なぜなら、せっかく借りたイヤホンガイドをうっかり聞き漏らしたからだ。)、舞い踊っているところに、藤十郎が踊る「鶴」が現れる。
 真っ白な衣装で、頭の金の飾りが重そうで、いかにもおめでたい。花嫁のような出で立ちだ。

 今回ご一緒した方はさよなら公演でもご一緒していて、「さよなら公演」で藤娘を踊ったときの藤十郎はもっと動いていた! と盛んに言っていた。確かにゆっくりした踊りだし、派手な振りはない。
 でも、おいくつなのかは知らないけれど、相当のご高齢で、あの膝を曲げて腰を落とした姿勢でゆっくりとした舞を優雅に踊るというのは相当に足腰が鍛えられていないとできないのではなかろうか。少なくとも私には無理だよ、と思ったのだった。

 「若衆」と言われても若く見えないなぁなどと不埒なことを考えてしまうのだけれど、男女ペアで(実際は男同士な訳だけれど)踊っているところを見ると、やはり美男美女と、そうでもないかな? というペアがある。
 そう思って見ると、やはり染五郎と魁春のお二方は、何というか佇まいが綺麗な感じがする。造作云々というよりも、全身から醸し出す雰囲気が「美形」なのだ。
 こけら落とし公演四月大歌舞伎の、第一部の、最初の演目の、そのまた最初に出てくる2人として、華やかで堂々としていて、良かったと思う。

 男女で思い出したけれど、私としては舞台上のお囃子(で言い方は合っているんだろうか)で女性がいるのを初めて見たような気がしていたのだけれど、これまたご一緒した方によると「そんなのしょっちゅうあるよ」ということだった。
 琴を使うような演目を見ていないということだろうか。
 どちらにしても、私がこれまでに見た歌舞伎公演というのは、五指には余ると思うけれど十指で足りるといった程度なので、巡り合わせということだと思う。

 ここで15分の休憩である。

 「十八世中村勘三郎に捧ぐ お祭り」は、これまた文字通り、中村勘三郎に縁の深い役者さんが勢揃いして、お祭りを盛り上げていこうじゃないかという、踊りである。鳶頭だったり芸者だったり、いかにも江戸情緒な人々が集い、歌って踊る。
 ここからはちゃんとイヤホンガイドを聞いていたので、「**は**の息子」等々の案内が入るのが可笑しく楽しい。そう思って見ると、舞台上に一緒に上がっている「お父さん」たちの視線が常とは違うようにも感じられる。

 しかし、この「お祭り」をかっさらったのは、勘三郎の孫であり勘九郎の息子である七緒八くん(2歳)だ。
 祭り半纏を着て手ぬぐいを頭に巻いて、いかにもこしらえにしている小さな男の子が舞台上に現れ、紹介されたときにはやんやの喝采である。
 というか、普通に可愛い。
 縁台に座って次々とそこから人が現れては踊るという趣向で、七緒八はもちろん登場後は勘九郎と七の助に挟まれてその縁台に座っていたのだけれど、子育て経験者曰く「2歳で真っ直ぐに座り手遊びもしないなんて凄い」ということだった。
 甥っ子と全く生年月日が一緒らしいのだけれど、確かに、甥っ子に20分とか30分とか衆人環視の中ずっと座って大人しくしていろというのは無理だ。

 鳶の踊りは勇ましく、芸者の踊りは艶っぽく、でも、私の視線は七緒八くんに向かっていたのだった。
 最後に役者が一列に並んで礼をしたときには、七緒八くんも一緒になって頭を下げていて、その姿もやっぱり可愛かったのだった。

 ここで30分の休憩だ。
 3階に上がって、花篭で幕の内弁当のお昼をいただく。これまで大抵は席でお弁当を食べていたので、何というか「食事処」で食べたのは初めてだ。
 おすましに入っている湯葉に歌舞伎座の紋が描かれているのが風流である。
 美味しくいただいた。

 そして、「熊谷陣屋」である。
 ストーリーとしては「寺子屋」だな、という感じだ。先に見たのが寺子屋だったのでこうなる。逆の順番で見ていたら、寺子屋を見たときに熊谷陣屋だなと思ったのではなかろうか。

 席からとても近かったこともあって、義太夫と三味線につい視線が行ってしまう。そんな風に意識して見たことはなかったのだけれど、近くで見て聞いていると、歌舞伎の主役は役者さんだけではなく義太夫と三味線も主役なんだなという感じが強くした。
 義太夫の方が、役者さんの呼吸を慎重に計っているのもよく見えて、興味深い。

 吉右衛門の熊谷直実は、やはり格好いい。押し出しがいいと言えばいいのか、堂々たる武者ぶりで、舞台でも一際大きく見える。立て札(とは言わない気もするが)を使った立ち回りも格好いい。
 玉三郎の相模は、「美貌封印」という感じで、その代わりに「母」という感じを前面に出していたんじゃないかと思う。
 菊之助演じる藤の方は、何を勘違いしたのか私は最初菊五郎が演じていると思い込んでいて、それでも違和感を感じなかったのは、菊之助が年齢を超えた造形をしていたということだろうか。

 息子を失ったと嘆き悲しみ、息子を討った直実を仇と狙う藤の方を相模は慰めるけれど、実は藤の方の息子である敦盛は生きていて、敦盛を助けるために直実が討ったのは実子の小次郎だった、そしてそれを謎かけのように命じたのは義経だった、という話である。
 寺子屋はいわば「自ら」我が子を手にかけたわけだけれど、直実は主君の命でそうしたのだから、こちらの方がより「忠義と親子の情」みたいなものの葛藤とか、戦の無情さみたいなものが際立つストーリーだ。それなのに寺子屋の方が悲劇に思えるのは、子どもが小さいからだろう。我ながら、単純である。

 三津五郎の義経は若々しく、歌舞伎役者という方々は年齢を常に超越しているという感じがする。
 最前列だったので「それでも、年齢は出てしまいますね」という部分(主に顔の皺に出ていたと思う)はあるのだけれど、後方の席から見たらほとんど関係なかったのではなかろうか。

 役目を果たし、しかし暇乞いを申し出て許しを得た直実は、甲冑を脱ぎ捨てるとすでに用意の僧形になって、戦が始まる合図のホラ貝が鳴る中、花道を去る。
 私がいた席からだと花道、特にセリがある辺りでの演技がほとんど見えなかったのが残念だ。

 何というか、王道ここにあり、といった感じ。
 そして、「こけら落とし」の記念すべき場に居合わせることができて、幸せだった。

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