「ブライダル」 を見る
3軒茶屋婦人会第5回公演 「ブライダル」
作・演出 G2&3軒茶屋婦人会
出演:篠井英介/深沢敦/大谷亮介
観劇日 2013年4月28日(日曜日)午後2時開演
劇場 東京芸術劇場 シアターイースト B列19番
料金 5800円
上演時間 1時間40分
ロビーではパンフレット(1000円)や、過去公演のDVDが販売されていた。
カーテンコールで、パンフレットは「魔除けにどうぞ」、DVDは「もっと魔除けになります」と言っているのが可笑しかった。買えばよかったかなと今になって思う。
ネタバレありの感想は以下に。
何と言ってもタイトルが「ブライダル」である。50前後の男3人が女性の役を演じるお芝居のタイトルが「ブライダル」である。他に登場人物はいない。
どのような筋書きは知らずに見に行ったのだけれど、痛くない筈がないのだ。
オープニングは、スーツ姿の篠井英介と大谷亮介、少しくだけたいわば奥様風の着こなしの深沢敦が暗めの舞台に立っている。電話のベルが響き、スポットが当たり、電話が置いてあるのだろう白い小さなテーブルに手を触れた人が電話に出る、そういうルールのようだ。
深沢敦演じる香織が、高校時代の友人である大谷亮介演じる真由美に結婚報告の電話をかけている、篠井英介演じる陽子は大学時代の恋人である義男の携帯電話番号を聞こうとやはり真由美に電話をかける。キャッチホンなんて言葉を久しぶりに聞いた。
香織と真由美と陽子は高校時代の同級生で、香織と真由美は親友同士、陽子は香織とはほとんど話したことがないらしい。3人と同じクラスだった義男と陽子は大学時代に付き合っていたけれど、その義男と香織が3ヶ月前に開催された同窓会で再会し、結婚を決めたらしい。
真由美は、義男と陽子のことを知りつつ、今はブライダルコンサルティングの会社を経営している陽子に2人の結婚のプランナーを務めてくれるよう頼む。果たして、というところである。
3人は39歳という設定らしい。
無理がある。
しかし、この内容は実年齢に近い例えば49歳だと全く様相が異なってくるし、逆に40歳前後の役者さん(女優さん)が演じたら痛すぎて見るのが辛そうな気がするので、多分、いいバランスだ。
陽子はともかく、真由美の職業というかポジションが微妙である。独身なのは間違いなさそうだけれど、職業も不明、義男に未練を残している陽子は判りやすいけれど、真由美はどうして香織の結婚に反対なのか。
あとの方で陽子が「あの頃は40になってもこんなにあがいてるなんて思いもしなかったわね」と言っていたけれど、義男を取り戻そうと結婚に反対のようなことを言い、でもプロのブライダルプランナーとしてついついがんばってしまう陽子に何となく思い入れが深くなる。
大体、演じている篠井英介がびっくりするくらいキレイである。この年齢でしかも男性でタイトミニのスーツをこれだけ着こなしてしまうって一体どういうスタイルなのか。つい見ほれてしまう。
そして、彼女がつい吐いてしまう毒も、ついやってしまう「ダメになる方」への誘導も、でも結婚を邪魔しようと式場に偽キャンセル電話をかけるような女は許すまじという職業意識も、リアル過ぎる設定も彼らが演じてくれることで、「他人事」な雰囲気が漂うのが有り難い。
それはそれとして、舞台上で展開している毒はかなり鋭い。
香織が「やっぱり女の幸せは結婚して子どもを産むことだと思うんです」と自分の結婚に協力してくれている(と思っている筈の)独身の2人を前にして言う様子は、東京ラブストーリーの里美を思い出させる。
そうよ、こういう女が一番強いのよ、結局。
もう完全に自分も、舞台上の女3人に加わった気分満載である。
陽子に香織への思いを看破された真由美は、結婚式当日、香織に自分の思いを告げる。その告白を聞いている香織の表情がコワイ。何というか、自分の幸せを壊しそうなすべてのものは許さないといった気迫(というよりは、もうちょっと陰湿なもの)が感じられる。
それは、真由美に「式にも披露宴にも出ないでくれ」と告げたときの表情もそうだし、結局、義男の「前の彼女」が式場に乗り込んできて義男を刺したというのに救急車を追い返し、応急処置だけしてもらって式と披露宴を何としてもやり遂げようとする鬼気迫る表情にも表れている。
一方の陽子も、義男に15年ぶりくらいに告白し、本人曰く「惨敗」を喫する。「笑っていたけど目だけ笑っていないの。引いてたわね。」だそうだ。
そう言われているときの義男の目が、完全に「モノ」を見る目になっていて、だから自分はモノになってしまい、義男が刺されているのを見ても何もできなかったというのが判る気がする。
それなら、香織が一人勝ちを攫っていくのか。
そうはならないところが小気味よい。ここで香織を勝たせないのが、勝手な思い入れながら、三軒茶屋婦人会である。
一人、真由美がバスを待っていると、そこに陽子がやってくる。「好きな人の式なんて仕切れない」と後輩に任せて出てきたのだ。2人で「愛は勝つ」を歌っていたところに、何故かウエディングドレス姿の香織がやってくる。
「どうしたの」と慌てるけれど、香織の前夫の親族がやってきてお式はしっちゃかめっちゃか、義男にも「どうして言ってくれなかったんだ」となじられ、陽子の後輩がキャンセル料から何からついでに部屋まで仕切って、新郎新婦それぞれの親族及び友人の食事会が開催されているという。
「どの面下げていればいいのよ」というのもよく判る。ここで、香織の前夫の素性が出てこなかったのだけれど、もう一押ししてくれると楽しかったのにと思うのは私の意地の悪さだろう。だって、転籍してまで結婚の過去を消そうとしたとなれば、それなりの物語が欲しくなるではないか。
そして、香織もまた「愛は勝つ」を歌い出す。
KANが作った頃は、この歌がこんな風な使われ方をするとは思いもしなかったんだろうななどと、またしても芝居とは関係ない感想が浮かぶ。
顔を見合わせて苦笑した2人も声を合わせ、3人はそれぞれ呟くように「愛は勝つ」を歌う。
「信じることさ、必ず最後に愛は」とここで声が途切れ、照明が落ち、舞台は終わる。
3人は愛が勝とうが負けようがこれからも生きて行かなくてはならないのだけれど、舞台はここで終わる。
がんばろうよという気持ちにも、いや、がんばらなくたっていいんだよという気持ちにもなったお芝居だった。
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