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「今ひとたびの修羅」
原作 尾崎士郎 「人生劇場」より
脚本 宮本研
演出 いのうえひでのり
出演 堤真一/宮沢りえ/岡本健一/小出恵介
小池栄子/浅野和之/風間杜夫/逆木圭一郎
村木仁/インディ高橋/礒野慎吾/前堂友昭
村川絵梨/鈴木浩介/他
観劇日 2013年4月13日(土曜日)午後6時30分開演
劇場 新国立劇場中劇場 1階13列66番
料金 9500円
上演時間 2時間45分(15分の休憩あり)
ロビーではパンフレット(1000円、だったような気がする)が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
「任侠ものとは何ぞや」と言われて答えられるほど見たことがある訳ではないのだけれど、多分、任侠ものだったのだと思う。
これまた、任侠ものの特徴なのか、この芝居特有だったのか判らないのだけれど、任侠ものにはどうやら「男と女」というのが付き物らしい。
侠客と義理人情と「君の名は」と殺陣をごった煮にしていい味を出した感じのお芝居だった。
回り舞台を駆使して場面を次々に転換させ、その場面転換には音楽を大きめに響かせて時間と音を感じさせない、音楽には日本の歌謡曲風の楽曲(ただしロックではない)を多用する、殺陣のシーンは音を響かせるけれど刀と人とは一切触れさせない、刀同士も触れさせないことも多い、そういった辺りは、劇団☆新感線という場ではなくともいのうえひでのり演出はいのうえひでのり演出だ。
劇団という要素を外すといのうえひでのり演出のエッセンスはこういう風にも取り出されるのだなと思ったりした。
話としては「君の名は ダブルバージョン」という印象が残った。
昭和の侠客な香り高い堤真一演じる飛車角は、どこぞの親分のところから宮沢りえ演じるおとよを連れて逃げ出し、他所の組に身を寄せていたけれど、そこで組同士の争いに巻き込まれて人を殺してしまう。
ここで、この芝居のストーリーを貫く仕掛けが施されているのだけれど、判りやすい割りに目立たない。確かに相手の組の親分を最初に斬ったのは飛車角なのだけれど、その弱った敵方の親分に、飛車角を預かっている組の寺兼という兄貴分が判りやすく止めを刺しているのだ。
でも、その止めの刺し方が判りやすい割りに余りにも軽くスルーされてしまったので、何というか「もしかしてどうでもいいことだったのか?」と思ってしまったくらいだ。もうちょっとわざとらしく演出しても良かったように思う。あざとさは基本だ。
飛車角は殺人犯として追われ、逃げ込んだ先が小出恵介演じる瓢吉の家で、そこには小池栄子演じる留守番のお袖と、瓢吉を訪ねてきた風間杜夫演じる吉良常の親分がいる。
組同士の争いのシーンに、飛車角の弟分である岡本健一演じる宮川も出ているし、おとよを連れ出しにお袖が出かけ、吉良常も一緒に出かけ、飛車角が留守番をしているところに瓢吉の友人である鈴木浩二演じる活動家の横井が現れて風のように去って行ったから、この辺りまでで主要登場人物はほぼ出揃ったことになる。
テンポ良く背景と、人間関係が説明され、この後スッと芝居の世界に入って行けるのがありがたい。
主要登場人物といえば、忘れてはいけない。浅野和之演じる「黒馬先生」は芝居の初っ端に狂言回しとして登場する。
その後も、狂言回しなのか登場人物なのか、微妙なライン上を渡ってゆく感じがある。その微妙なラインを守るために、浅野和之の身体能力が如何なく発揮されている。毎度思うけれど、これが凄い。
物語を動かす力の一つであることは間違いないのだけれど、いやいやそこでどうして余計なことを言うかな、というようなこともする。 「都合のよくない」狂言回しというのはなかなか新しい感じがする。
自首した飛車角の3年の刑期の間におとよと宮川がくっついてしまい、おとよはでも飛車角が好きだったのにそうとは言えずという「すれ違い」が起きる一方、瓢吉とお袖も何故かおとよと一緒に娼館にいたお袖を迎えに来た瓢吉とこれまた行き違いがあって、2人の気持ちはすれ違う。元々は瓢吉に照代という女流作家が接近して前振りもあったのだから、「君の名は」だけでなく「三角関係」の話でもあった。
ある意味、対照的な二組の三角関係が、それぞれ「君の名は」を演じるという、判りやすい構図である。そういう判りやすいすれ違いを演じるためには、もう、昭和や侠客という世界を借りてこないといけなくなってしまったんだろう。
義理人情の世界あり、三角関係あり、意地っ張りな女もいれば「男なしではやっていけない」女もいる。侠客もいればお坊ちゃまもいるし、衆議院議員になってしまう男もいる。
最後には、初っ端の「判りやすいけど地味に行われた殺人」の謎も解かれ、その落とし前をつけてもらおうじゃないかと飛車角と宮川が殴り込みをかけて派手な殺陣でスカッとする。
吉良常は「もうこれ以上この空気を吸うのも嫌だ」と昭和初期の世相を嫌って自殺してしまうけれど、でもとりあえず、吉良常の世話で小料理屋を切り盛りしていたお袖と吉良常の病気見舞いにやってきた瓢吉とは上手く行った気配だし、殴り込みをかけた飛車角のところにおとよが駆けつけて来ていたし、二組の男女はハッピーエンドを迎えた、ものと思われる。
薄幸かつ移り気な女というのは宮沢りえに合っているよなぁと思う一方、小池栄子は妖艶に行くかサバサバと行くかどちらかに振り切った方が格好いいなと思う。今回の役のようなしっとり耐える女系を演じると、なんだか遠慮しているように見えてしまうのが惜しい。いや、それは役に合っているのだから、これははまっていると言うべきなんだろうか。
いずれにしても、最後に女がシアワセになるというのは、娯楽劇の必須かつ必勝パターンだと思う。
「超大作娯楽劇」と言い切るには、スコンと突き抜けた明るさはなかったような気もするけれど、でも、私はハラハラドキドキ、この先この2人はどうなるんだろう、シアワセになれるのかしらと完全に野次馬となって見ていたし、最後の殺陣のシーンでもかなりスカッとしたし、宮川が「姐さんを大事にしてください」と言い残して死んでしまったときには、男ってこーゆーのが好きだよねー、という気分になったしで、かなり楽しんで見た。
どう楽しむのが正解だったのかよく判らないような気もするのだけれど、ここはひたすら野次馬根性で難しいことは考えずに任侠の世界を楽しむのが一番という気がした。
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