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2013.05.30

「井上ひさし展  -21世紀の君たちに-」に行く

20130528_135420 先日、神奈川近代文学館で2013年4月20日から6月9日まで開催されている、「井上ひさし展  -21世紀の君たちに-」に行って来た。
 井上ひさしの没後3年ということで、開催された「井上ひさし展」である。名称から直球勝負だ。「21世紀の君たちに」という副題がついていて、展示の各所に少年(というイメージだった)に向けた松山巖からのメッセージが展示されている。
 松山巖が何者なのか判らないとか、平日午後だったせいもあると思うけれど、見に来ていた人の大半が60代以上に見えたとか、気になるところはあるけれど、コンセプトは明確だ。
 いつでも用意するのか、このコンセプト実現のためなのか、クイズというか質問が並んで展示を見ながら埋めていけるようなペーパーが用意されていた。

 会場に入ってすぐのところにスクリーンが設置され、井上ひさし本人の葬儀(だったと思う)の際に会場で流されたという映像が流されていた。
 本人の写真、インタビュー、上演された戯曲の舞台映像、直筆のメッセージ等々で構成されている6分間の映像だ。
 「ロマンス」というトルストイを取上げた舞台で、大竹しのぶが声を張り上げて歌い、最後に笑いを取るシーンを持ってくるところがなかなか良いチョイスである。

 展示は3室に分かれていて、最初は井上ひさしが作家になるまでの道筋を追っている。
 父も文筆をする人だったようで、その作品や、母や兄弟との写真、施設に預けられた後に母とやりとりしたはがき、大学入学後フランス座でのアルバイトの話などが、語られる。
 このスペースの展示は、主に直筆の手紙や原稿、当時の写真などである。
 上手くはないのかも知れないけれど、丁寧に書かれた読みやすい字だ。
 このコーナーでは、とにかく母親との濃い関係が伝わってくる。早くに亡くした父親の影響も語られているけれど、やはりこのコーナーの主役は母である。

 次の展示室のテーマは「ユートピア」だ。
 井上ひさしにはユートピアを追い求める主人公達の姿を描いた作品が多い。このコーナーで、中でも大きく取上げられていたのは、ひょっこりひょうたん島と吉里吉里人である。
 吉里吉里人は、1日半の出来事が上中下3冊の厚めの文庫に詰め込まれている大作だ。東北のある村が独立を宣言し、それが崩壊するまでの出来事を、東京からやってきた一人の男の目を通して語っている、らしい。未読なので「らしい」としか書けなくて申し訳ない。
 その吉里吉里人で流れる1日半という時間の詳細なプロット(時系列表)あり、吉里吉里国の地図あり、その地図には地形はもとより、施設や国境やあらゆる設定が書き込まれている。

 緻密だ。
 恐ろしく緻密だ。
 その設定の数々が手書きで、かつ丁寧な文字で書き出されているのを見ると、「緻密だ」以外の感想が浮かんでこない。
 作品世界に矛盾がないよう、嘘がないよう、描こうと思っていたことを落とさずに済むよう、細心の注意が払われている。
 恐ろしい。そして、当たり前すぎることではあるのだけれど、私にはできない、と思う。

 私は展示されていた原稿用紙等々の全文を読む根気すらなかったのだけれど、見に来ている方々はじっくりと読み込んでいる方が多い。
 そういった方を追い越すたびに、「私には根気が足りない・・・。」と凹む気分になる。
 ましてや、これらの設定を頭の中で考え、紙に落とすまでの間に、どれだけの集中力が必要だったろう。しかも「設定を頭の中で考える」ために物凄い量の資料を用意し、読み込み、作成しているのだ。

 なので、ひょっこりひょうたん島関連の展示は嬉しい。
 実物の2/3大の人形劇の人形がいたり、ひょっこりひょうたん島自体の模型があったりする。二人の共作だったからなのか、それは関係ないのか、心なしか書き込みも少なめに見える。
 ほとんどオアシスのような一角だ。
 ひょっこりひょうたん島の映像テープはほとんど残っていないと前にどこかで読んだような気がするのだけれど、この展示では、ある回の録音テープを流している場所があって、懐かしそうに耳を傾けている年配の女性がいらした。

 このコーナーの一角に、井上ひさしが作成した資料ファイルの一部が展示されていた。普通のファイル(本棚に並べられた状態だったので、クリアファイルだったかドッチファイルのようなものだったかは不明である)の背表紙に、テーマがひとつ書かれ、そのテーマに関する新聞記事の切り抜きに本人が感想メモを書き込んでいたり、様々な資料が集められているようだった。
 そのファイルが、本当にたくさん並べられている。
 同じようなテーマのファイルが2冊あったりするのは、忘れていたのか、ご本人なりの分類があるのか、量が多すぎて1冊に収まらなかったのか。
 一定の方向を見つつも、しかし幅広く、日ごろからアンテナを張り巡らせていたことがよく判る。

 出口のところに、井上ひさしの書斎の蔵書を映像で見せるコーナーがあった。
 蔵書の多くは遅筆堂文庫に寄贈された(その数22万冊だそうだ)というから、残されたものは「今使っているもの」「これから使うもの」だろう。
 ほとんど、つくも神になりそうな感じで並んでいる。

 第三室のテーマは、「演劇」だったと思う。
 私からは一番近しいテーマだ。
 井上ひさしはこまつ座の「座付き作家」を名乗っていたのだけれど、その「こまつ」という名前は、井上ひさしの出身地から取ったのだということは第一室で見ている。
 てんぷくトリオと打ち合わせをしている写真などもあった。てんぷくトリオのコントの多くを井上ひさしが書いていたのだそうだ。

 井上ひさしはあて書き(先に役を演じる役者を決めて書く)で書くことが多かったらしい。中に、例として「ムサシ」を書くに当たって、役者の顔写真を貼った駒のようなものを作り、その駒を舞台に見立てた紙の上で動かしながら書いていたとして、その台と駒とが併せて展示されていた。
 先日「木の上の軍隊」を見てきたけれど、井上ひさしが取り掛かっていて(あるいは構想があって)完成していない戯曲はもう一つ「母と暮らせば」があるそうで、きっといつか誰かの手で完成され、上演されるだろうという。タイトルからしても、「父と暮らせば」と対になる作品だろう。楽しみである。

 「組曲虐殺」初演を見たのは随分と前のことように思うけれど、しかし、「組曲虐殺」が井上ひさし最後の戯曲作品なのだそうだ。
 しかし、井上ひさしが亡くなった後も、こまつ座では、毎年3〜4本の芝居の公演が行われている。嬉しいことである。

 難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことを面白く、というのが井上ひさしの創作のモットーだったのは(多分割りと)有名な話だ。
 そこへ持ってきて、この展示で印象に残ったのは、最初の葬儀の場面で流されていたという映像の中で、井上ひさし本人が「生きていれば悲しいことや苦しいことしかない。悲しみや苦しみを感じるのは人間の内側から予め持っているものである。しかし笑いだけは人間の内側にはない。外側で作り出さなければならない。赤ちゃんが笑っているなどというが、それは大人が見て笑っていると言っているだけである。だからこそ、悲しみや苦しみを一瞬でも忘れられるような笑いを作り出したい。人間しか言葉を用いないのであれば、その笑いを言葉で作り出すというのがもっとも人間らしい」というようなことを語っていたことだ。
 悲しいことや苦しいことしかないから、ユートピアを夢見る。
 笑いを生もうと努力する。

 この「井上ひさし展」が井上ひさしの全てであるとは思わないけれど、でも、充実した展示で、90分、満喫したのだった。
 行って良かったと思う。

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2013.05.26

「うかうか三十、ちょろちょろ四十」を見る

こまつ座第九十九回公演「うかうか三十、ちょろちょろ四十」
作 井上ひさし
演出 鵜山仁
出演 藤井隆/小林勝也/鈴木裕樹/田代隆秀/福田沙紀/他
観劇日 2013年5月25日(土曜日)午後1時30分開演
劇場 紀伊國屋サザンシアター 11列4番
上演時間 1時間15分
料金 6500円

 ロビーではいつものように物販が行われていたけれど、本当にギリギリに駆け込んだので全くチェックできなかった。
 出演者の「他」は子役の女の子2人が代わる代わるに出演しているようだったけれど、私が見た公演に出演していたのが2人の内どちらだったのかは判らなかった。もしかして、注意深くしていれば劇場ロビーに張り出してあったりしたかも知れない。

 ネタバレありの感想は以下に。

 こまつ座の公式Webサイトはこちら。

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2013.05.22

「て」のチケットを購入する

ハイバイ 10周年記念全国ツアー 「て」
作・演出・出演 岩井秀人
出演 上田遥/永井若葉/平原テツ/青野竜平
    奥田洋平/佐久間麻由/高橋周平/富川一人
    用松亮/小熊ヒデジ/猪股俊明
2013年5月21日~6月2日 東京芸術劇場 シアターイースト
料金 3300円

 あまりにも評判が良いので、チケットを購入した。
 整理番号付き自由席の公演を見に行くのは久しぶりである。

 ハイバイの公式Webサイトはこちら。

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2013.05.15

460000アクセス達成!

 今日(2013年5月15日)、というか今さっき、どなたかが460000アクセス目を踏んでくださった。20日弱で10000アクセスは、最短記録タイだ。
 これまでの経過は以下のとおりである。

 開始 2005年1月8日
 10000アクセス 2005年5月17日
 50000アクセス 2006年7月23日
100000アクセス 2008年1月20日
150000アクセス 2009年3月10日
200000アクセス 2010年4月26日
250000アクセス 2011年2月6日
300000アクセス 2011年10月25日
350000アクセス 2012年6月12日
400000アクセス 2012年12月6日

410000アクセス 2013年1月16日
420000アクセス 2013年2月17日
430000アクセス 2013年3月17日
440000アクセス 2013年4月11日
450000アクセス 2013年4月28日

460000アクセス 2013年5月15日

 このブログにお越しいただきましてありがとうございます。
 今後ともよろしくお願いいたします。

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2013.05.13

「獣の柱 まとめ*図書館的人生(下)」を見る

イキウメ 「獣の柱 まとめ*図書館的人生(下)」
作・演出 前川知大
出演 浜田信也/盛隆二/岩本幸子/伊勢佳世
    森下創/大窪人衛/加茂杏子/安井順平/池田成志
2013年5月2日~6月10日 シアタートラム
料金 4200円

 ロビーでは過去公演のDVDなどが販売されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 イキウメの公式Webサイトはこちら。

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2013.05.11

「バブー・オブ・ザ・ベイビー -UNDEAD OR UNALIVE-」 を見る

「バブー・オブ・ザ・ベイビー -UNDEAD OR UNALIVE-」
作・演出 池田鉄洋
出演 田中圭/福士誠治/大口兼悟/田口浩正/池田鉄洋
観劇日 2013年5月10日(金曜日)午後7時開演(初日)
劇場 本多劇場 M列5番
上演時間 2時間20分
料金 7200円

 客席の若い女性率がもの凄く高かったような気がする。そして、値段等々はチェックしそびれてしまったのだけれど、パンフレットやトートバッグ(合わせて買うと割引というのは最近よく目にするような気がする)、タオルマフラーなどが飛ぶように売れていた。

 そして、帰るときにふと見ると、いかにも業界っぽい中年以降の男性率もある客席の一角だけ滅茶苦茶に高かった。初日だったからだろう。

 観劇中、通路際の席の方が階段にはみ出すように足を投げ出していて、それはいいのだけれど、何かの拍子に椅子についているライトを蹴っ飛ばしたらしく、後半、そのライトがずっと点きっぱなしになっていたのは困った。特に舞台が暗くなるシーンでは、本当に気になって、かなり集中を削がれた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 ホリプロの公式Webサイト内、「バブー・オブ・ザ・ベイビー -UNDEAD OR UNALIVE-」 のページはこちら。

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2013.05.09

「朗読劇・お文の影・野槌の墓」を聞く

Team申番外公演III~今、僕らに出来ること~ 「朗読劇・お文の影・野槌の墓」
原作 宮部みゆき
構成・演出 長部聡介
出演 佐々木蔵之介/市川猿之助/佐藤隆太
観劇日 2013年5月8日(水曜日)午後7時開演
劇場 渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール 1階17列22番
上演時間 2時間
料金 4800円

 開演15分前から、募集した怪談を出演者3人がそれぞれ選び紹介するというコーナーがあった。
 「怪談?」「オチは?」と思わなくもなかったけれど、宮部みゆきの原作本や東北の物産などがプレゼントされていて、ちょっと羨ましかった。

 佐々木蔵之介は開演前に「上演時間は1時間45分くらいです」と言っていたけれど、実際は2時間くらいだった。

 Team申の公式Webサイト(会員制)はこちら。

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2013.05.07

「春琴」の抽選予約に申し込む

世田谷パブリックシアター+コンプリシテ共同制作―谷崎潤一郎「春琴抄」「陰翳礼讃」より  「春琴」
演出 サイモン・マクバーニー
出演 深津絵里/成河/笈田ヨシ/立石涼子
    内田淳子/麻生花帆/望月康代/瑞木健太郎
    高田恵篤/本條秀太郎(三味線)
2013年8月1日~8月10日 世田谷パブリックシアター
料金 S席 7500円 A席 6000円

 前から気になりつつ見ていなかった「春琴」をやっぱり見てみたいと抽選予約に申し込んだ。

 世田谷パブリックシアターの公式Webサイト内、「春琴」のページはこちら。

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2013.05.06

「頭痛肩こり樋口一葉」の抽選予約に申し込む

こまつ座 「頭痛肩こり樋口一葉」
作 井上ひさし
演出 栗山民也
出演 小泉今日子/三田和代/熊谷真実
    愛華みれ/深谷美歩/若村麻由美
2013年7月11日~8月11日 紀伊國屋サザンシアター
料金 8400円

 ちょっと迷ったけれど、朝ドラで評判のよい小泉今日子が樋口一葉を演じるというのはやっぱり見てみたい。
 抽選予約に申し込んだ。

 こまつ座の公式Webサイトはこちら。

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2013.05.05

NHKスペシャル「ラストメッセージ 井上ひさし"最期の作品"」を見る

 2013年5月4日の21時から放映されたNHKスペシャル「ラストメッセージ 井上ひさし"最期の作品"」を見た。

 井上ひさしが最期に書こうとして果たせなかった、沖縄を描いた「木の上の軍隊」という戯曲を、こまつ座主宰の石川麻矢と演出家の栗山民也と劇作家の蓬莱竜太の3人がいかにして作り上げ、この春に上演したか、というドキュメンタリーである。
 井上ひさしが生前残したメモ、交遊の中で語った言葉、これまでの戯曲作品、沖縄について集めた資料にはラインマーカーが-引かれている。
 そういった「欠片」を集めて、辛抱強く根気強く、いわば死者からの声を聞こうと耳を澄ませつつ、戯曲が作り上げられていく過程が追われている。

 井上ひさしの作品は、時代設定がいつであれ、最期は現代の人々に対するメッセージで終わっている、という栗山民也の言葉が印象的だった。

 彼女と彼らが届けようと思っていたことと、私が受け取った(と思った)内容は、あまり重なっていない。
 でも、私は私が見て受け取ったものでいいんだ、と思えた。

 そして、同時に、蓬莱竜太が半ば背水の陣といった形で取り組んでいる姿を見て、「井上ひさし原案」に拘りすぎ捕らわれすぎて自分はこの舞台をみてしまったな、それは申し訳なかったなという風にも思ったのだった。

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2013.05.04

「レミング~世界の涯まで連れてって~」を見る

寺山修司没後30年/パルコ劇場開場40周年記念公演「レミング~世界の涯まで連れてって~」
作 寺山修司
上演台本 松本雄吉(「維新派」主宰)/天野天街(「少年王者舘」主宰)
演出 松本雄吉
出演 八嶋智人/片桐仁/常盤貴子/松重豊/他
観劇日 2013年5月3日(金曜日)午後2時開演
劇場 パルコ劇場 C列4番
料金 8400円
上演時間 2時間

 ロビーでは、パンフレット(2000円)やTシャツなどが販売されていた。

 気のせいかも知れないけれど、客席には比較的男性の姿が多かったと思う。

 ネタバレありの感想は以下に。

 パルコ劇場の公式Webサイト内、「レミング~世界の涯まで連れてって~」のページはこちら。

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2013.05.02

「おのれナポレオン L'honneur de Napoleon」 を見る

「おのれナポレオン L'honneur de Napoleon」
作・演出 三谷幸喜
出演 野田秀樹/天海祐希/山本耕史
   浅利陽介/今井朋彦/内野聖陽
観劇日 2013年5月1日(水曜日)午後7時開演
劇場 東京芸術劇場プレイハウス G列7番
料金 9000円
上演時間 2時間20分

 ロビーではパンフレット(1000円)や、クリアファイルの2枚セットなどが販売されていた。

 せっかく最高のお席のチケットをお譲り頂いたのに、開演時間に間に合わなかったのが痛恨かつ申し訳ない思いで一杯だったけれど、劇場に入った後は存分に楽しんで来られたと思う。

 ネタバレありの感想は以下に。

 東京芸術劇場の公式Webサイト内、「おのれナポレオン L'honneur de Napoleon」 のページはこちら。

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