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2013.05.02

「おのれナポレオン L'honneur de Napoleon」 を見る

「おのれナポレオン L'honneur de Napoleon」
作・演出 三谷幸喜
出演 野田秀樹/天海祐希/山本耕史
   浅利陽介/今井朋彦/内野聖陽
観劇日 2013年5月1日(水曜日)午後7時開演
劇場 東京芸術劇場プレイハウス G列7番
料金 9000円
上演時間 2時間20分

 ロビーではパンフレット(1000円)や、クリアファイルの2枚セットなどが販売されていた。

 せっかく最高のお席のチケットをお譲り頂いたのに、開演時間に間に合わなかったのが痛恨かつ申し訳ない思いで一杯だったけれど、劇場に入った後は存分に楽しんで来られたと思う。

 ネタバレありの感想は以下に。

 東京芸術劇場の公式Webサイト内、「おのれナポレオン L'honneur de Napoleon」 のページはこちら。

 突発の仕事が発生して開演に間に合わず、最初の20分を見逃したのが辛い。ストーリーはほぼ押えられたと思うけれど、芝居の幕開けを見られなかったのは悔しい。
 芝居が動いている間はそういう風には思わなかったのだけれど、ラストシーンで、きっと幕開けのシーンと何らかの呼応がされているんだろうな、それが判らないのは寂しいし痛いと思えた。

 舞台は、客席に突き出す形で奥行きが深く、両側にも客席があって、三方を客席に囲まれている。
 手前の階段から客席通路を使って出入りもするし、舞台の長辺の真ん中くらいにも階段があり、一番奥に扉があり、その両脇に下に下がる階段がある。出入りする場所の多い舞台だ。
 全体的に黒っぽく作られている。
 セットは少ない。手前に長いす、奥にベッドとチェスセット、その間くらいに時々椅子が現れる。奥の壁の両脇にはステンドグラス風の窓が並んでいる。それくらいだ。

 私が席に到着できたのは、内野聖陽演じるハドソン・ロウがナポレオンの死に疑問を持つ誰かの訪問を受け、その話を今始めようというシーンだった。
 それまで羽織っていたガウンをさっと脱ぎ(浅利陽介演じるナポレオンの忠実な従僕のマルシャンが手を貸していたかもしれない)、照明が明るくなる瞬間のハドソン・ロウは若返り、そこは、セント・ヘレナ島となる。
 ハドソン・ロウが、本人の意識としてはナポレオン監視のため、野田秀樹演じるナポレオンやその取り巻き達にとってはナポレオン護衛のため着任し、挨拶に来たシーンだ。
 ナポレオン・ボナパルトとハドソン・ロウの邂逅の場面である。

 普通に考えればそこは敵同士であった重厚な軍人同士の初お目見えなのだから、ある程度、感動的な出会いを期待するし、ハドソン・ロウもそれを求めているのはありありと判るのだけれど、従僕のマルシャンは口を利こうともしないし、今井朋彦演じるアルトンマルキ医師も、山本耕史演じる取り巻きのシャルル・モントロン公爵(伯爵だったかも)も、天海祐希演じるアルヴィーヌ・モントロン夫人も「ナポレオンのことは皇帝陛下と呼んで敬え」と言う。
 そこで面白くない気分になっていたところへ、ほとんど奇矯ともいえる小柄な男が飛び込んできて「潮が満ちている!」と叫んで潮干狩りのために海岸に駆け抜けて行ってしまうのだから、その怒りというか気落ちというか、ハドソン・ロウに力いっぱい同情したくなるというものだ。

 最初のうちは、ハドソン・ロウvsナポレオンとその取り巻き達という構図で、ハドソン・ロウがいかにイヤな奴だったのかという話なのかと思っていた。大体、ナポレオンよりも、その取り巻き達よりも、ハドソン・ロウの出番の方がはるかに多いし、存在感も大きい。変な話、体格も立派だし、演技も重々しく作っていて、主役っぽい立ち居振る舞いに思えたのだ。
 一方のナポレオンは、とにかく徹頭徹尾、奇矯な人柄に見える。というか、奇矯な人物として演じられているように見える。
 最初は振り回されていたハドソン・ロウも次第にその立場を利用してナポレオンに枷をはめることに成功して行くように見える。

 でも、実はやはりそうではなかったと見せ付けられるのが、2人がチェスで戦ったシーンだ。
 ナポレオンたちは「ナポレオン陛下」「皇帝陛下」と呼ぶよう求め、ハドソン・ロウは「囚われ人である」と主張して頑なに「ボナパルト将軍」と呼び続ける。
 その呼び方を賭けて、2人はチェスで戦う。
 そこには、チェスだけではなく、恐らくは軍人として圧倒的な力量の差があって、ハドソン・ロウは長考型、ナポレオンはほとんど考えない直感型(のように見える)であることからも、その差が見せ付けられる。

 この試合を境に、2人の関係も、芝居の風向きも変わって行ったような気がする。
 というか、この試合の後で時が飛び、ナポレオンの死の直前まで時が進み、俄然、芝居のテーマが「ナポレオンは暗殺されたのか」「ナポレオンを暗殺したのは誰か」という方向に転換するのだ。
 ナポレオンのことを一番憎んで一番死んでくれと思っている(というか、思い込みたがっている)ハドソン・ロウは、ここへ来て、ナポレオン暗殺を阻止するために動き出す。
 ナポレオンが飲むはずだったワインに砒素を入れたのは、彼の愛人となって娘まで産んでいたアルヴィーヌだ。彼女は、ナポレオンがパリに戻る計画が実現間近と知って、自分はそのときに捨てられるといっそ暗殺を謀ったのだ。

 ナポレオンの脱出計画について、モントレーを責め立てると、今度は彼とナポレオンとの間の長年の確執(というか、ナポレオンはモントレーのことなどまるで覚えていないので、確執はモントレーが一方的に覚えているのだけれど)が語られ、パリ脱出計画の手紙を書いていたのは自分であって計画など存在しないと告白し、ついでにモントレーはナポレオンの側近達を次々とセコイ手段で追い出してナポレオンの全財産を譲るという遺言書を書かせようとしているのだと告白する。

 何というか、ナポレオンの周りの人々は、みな、ナポレオンに対して愛憎半ばするという感情を持つしかなくなるらしい。そういう人物を演じさせたら、野田秀樹は妙にハマるのだ。
 演じさせたらといえば、この「おのれナポレオン」は野田秀樹が自分が演出する舞台以外で初めて出演した舞台なんだそうだ。正直、自分が演出家のときと他の人が演出家のときとで演技に違いがあったのかといわれると「判らなかった」と答えるしかない。
 何というか、もし違うとしたら「出番」なんじゃないかという気がした。

 それはともかくとして、モントレー夫婦はナポレオンを何度も殺そうとしたようだけれど、ナポレオンはそのたびに生き返ったらしい。屈強ではないけれど、強靭な体力の持ち主となっていたのだ。
 大柄で若い(め)のモントレー夫妻と小柄で華奢そうなナポレオンとの対比が可笑しい。
 アルヴィーヌはこの事件を契機にパリに戻され、今井朋彦演じるアルトンマルキ医師は主治医としてナポレオンの部屋への出入りが許されたようだ。モントレーはパリに戻されずにナポレオンに付くようにいわれる。
 結局のところ、変わらないのは従僕のマルシャンだけだ。元々「無口でナポレオン以外にはほとんど口を利かない」という設定だし、ほとんどナポレオンの影のようだ。影は変わらないのだ。

 そして、ナポレオン最期の日、アルトンマルキ医師は何とかという胃をすっきりさせる薬をナポレオンに処方し、それをモントレーが飲ませ、ナポレオンの意識は混濁していると信じて「あのナポレオンと自分はチェスをしたのだとずっと語り続けるだろう」と告白したハドソン・ロウはこの期に及んでナポレオンの首を絞めようとするがモントレーに止められる。
 しかし、ナポレオンはその日に亡くなるのだ。

 4人の間で、アルヴィーヌが盛った砒素がまだ体内に残っているのに、砒素と反応して猛毒となる薬をアルトンマルキ医師が処方し、それをモントレーが飲ませた結果、ナポレオンは死にいたったのだという認識が溢れる。
 それじゃあ、モントレーが一番罪が軽いじゃんと思ったのは私だけか。
 そして、ハドソン・ロウが、ナポレオンの死因は胃がんであると押し通すぞと言い切る。誰がナポレオンの屋敷に毒物事典を持ち込んだのか、それを気にしながらも、死因隠匿については揺るがない。そういえば、ルシャンはいつ説得されたんだろう。
 最期までナポレオンに尽いていた者たち(マルシャンを除く)が、寄ってたかってナポレオンを殺し、その死因を隠匿した。

 そして、場面は再び、ナポレオンの死因について聞きまわっていた男の話に戻る。ナポレオンの死後20年がたっている。
 彼が最後に訪れたのは、マルシャンのところだ。彼は、ナポレオンの紹介状を得て就職し、結構な出世振りらしい。どうも落ちぶれたようにしか見えない他の3人とは雲泥の差だ。
 5人はナポレオンを殺した砒素をひそかに持ち続けており、その砒素をこの男に盛って殺してしまったようだ。
 マルシャンは残り4人に対して、ナポレオンの死の真相は、「ナポレオンがナポレオンを殺した」「彼らが寄ってたかってナポレオンを殺すよう仕向けたのはナポレオンだ」と明かし、自分の死を調べる人間が出るだろう、その人間を殺すことで手を汚した5人はますます秘密を守るだろうとナポレオンが見越していたことまで伝え、今回の「報酬」を渡すのだ。

 最期まで意地を張って報酬を受け取ろうとしなかったハドソン・ロウに対し、マルシャンは、「ナポレオンはあなたを信頼していた」「同じ軍人として名誉を守ってくれるだろうと言っていた」と告げる。

 ナポレオンがそこまで人の心を読んでいたことが怖いのか、自分の読みを信じきっていたことが怖いのか、死は臆病者の選ぶ手段であってナポレオンたるものが自ら死を選ぶことはできないと言い切る矜持が怖いのか。
 とにかく、ナポレオンという人物は、恐ろしい人だ。
 そして、この舞台は、その恐ろしい人物に振り回された(多分、一番振り回されたのはそうは見えていないマルシャンなんだろう)普通の人の話である。
 そういう感じがした。
 

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コメント

 みずえ様、コメントありがとうございます。

 そして、やっぱり初っぱなのシーンは最後のシーンと相まって舞台全体の枠組みを作っていたのですね・・・。
 うん、そんな気がしてました。
 本当に残念だったですし、申し訳なかったのですが・・・。

 今から、DVDが出たら買っちゃおうかと思っているところです。

 またどうぞ遊びに来てくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2013.05.07 22:07

姫林檎さま

私も観ましたよ!
初めの20分、痛いですね。
姫林檎さんが推察しておられるように、このシーンがラストに続きます、つまり皆の独白シーンです。

ナポレオンの登場シーンは衝撃的でしたし、さすが野田!とも思いました。
そして全編そんな感じでしたよね。
内野さんは、独白シーンとそうでない地のシーンで発声から変えていて、彼らしいこだわりだと思いました。
他の皆さんもそれぞれの持ち味を活かしていて、面白かったです。

帰ってから「ナポレオン」のウィキペディアをチェックしましたよ……(笑)

投稿: みずえ | 2013.05.07 12:09

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