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2013.05.13

「獣の柱 まとめ*図書館的人生(下)」を見る

イキウメ 「獣の柱 まとめ*図書館的人生(下)」
作・演出 前川知大
出演 浜田信也/盛隆二/岩本幸子/伊勢佳世
    森下創/大窪人衛/加茂杏子/安井順平/池田成志
2013年5月2日~6月10日 シアタートラム
料金 4200円

 ロビーでは過去公演のDVDなどが販売されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 イキウメの公式Webサイトはこちら。

 イキウメの「まとめ*図書館的人生」の下巻といえばいいのか、本当の完結編といえばいいのか、短編集のようだった(上)とは異なり、こちらの(下)は「獣の柱」というタイトルの長編一本勝負だった。
 一本勝負だけれど、80年くらいのタイムラグがある「時」を行ったり来たりするし、訳の判らない柱が降ってくるし、一筋縄では行かないのはいつものことである。
 前日に見たお芝居はゾンビだったけれど、このお芝居の「敵」は巨大な柱だ。
 有川浩の「塩の街」は塩の柱が降って来る話だけれど、そちらがメデューサのように見た人間を塩に変えてしまうのに対し、こちらは幸福感で包んで茫然自失させ、餓死(過労死)させてしまうというから、敵も進化している。

 始まりは、高知県のある場所(都会でないことだけは確かだ)に、隕石が落ちてきたことらしい。
 その隕石を探しに行った大窪人衛演じる若者が餓死した状態で発見される。
 隕石探しに行った山の中の小屋で若者に出会っていた浜田信也演じる二階堂望は、もちろんそのことが気になる。安井順平演じる高校時代の天文部の部長と話すうちに、どうやらその小屋で若者が「誰か」に会っていたことが判る。ここでアブストラクションに話が行くところがSF的だけれど、望が拾った隕石をあれこれしているうちに被膜がはがれ、その隕石を目にすると、傍目には呆けたように、本人の認識的には強烈な幸福感に包まれて時間間隔を失い、誰かから何らかの刺激がない限りその状態が続くことに気がつく。
 被膜の敗れた隕石を見たとき、複数の人間がいてよかった。というか、この偶然がこの話を動かして行く。

 その後、世界7ヶ所でこの「隕石」が街中の突然出現し、居合わせた人々の意識を失わせ(あるいは、あまりの幸福感ゆえに意識を手放してしまい)、結果、車が人の列に突っ込んだりといった大事故が次々と起こる。
 しかし、事件後にその隕石がすぐ姿を消したこともあって、本当の原因は不明のままだ。伊勢佳世演じる望の妹桜も含めて3人でこの発見を何らかの形で公表しようとするけれど、盛隆二演じる桜の知り合いらしい新聞記者も、森下創演じるその幼馴染の脳神経学者も本気にしようとしない。
 そうこうするうちに、ふっと望が姿を消してしまう。

 そして、世界各地の人口密集地域に次々とこの隕石と同じ効果を持つ巨大な石の柱が降り始め、立ち、その周りを次々とあっという間に廃墟に変え、人々を死なせてゆく。
 生き残った人々が再び集まり、暮らして行こうとすると、そこにはまた石の柱が降って来る。
 こうして、「獣の柱」は実に効率的に人々を死なせて行く。死なずに生きていこうとすれば、最小単位で自給自足するしかない。
 「部長」は、そのことにいち早く気付き、彼らの元に来た新聞記者たちに「まずできることは畑を造ることだ」と告げる。

 一方で、若者が小屋で会っていた池田成志演じる自称「らっぱ屋」は、黒幕といえば黒幕なんだろうけれど、いわば「操られている」黒幕らしい。岩本幸子演じる彼の妻は病気で痛みに苦しんでいて、彼女の手には件の隕石が入っているのだろう万華鏡がある。その万華鏡とともに、隕石を7つ集めるようにという指令が彼に届けられていたらしい。
 つまるところ、この「事件」の目的や首謀者や意図は全く不明なのだ。

 何というか、イキウメの舞台はバランスがいいなぁと思う。役者の個性と役が合っていて、しかも、適度なばらつきがある。順番としては逆で、個性ある役者が集まり、その役者を生かす形で主宰の前川知大が書き、演出しているのだろう。
 客演の池田成志の灰汁の強いいわば「嫌な奴」的なキャラクターはやはり強烈で、割と大窪人衛がそのタイプの役を演じていることが多いと思うのだけれど、やはりそこは灰汁の強さが一段違うという感じがする。池田成志の場合、舞台に登場し、そのキャラを発揮しだすやいなや、舞台は完全に池田成志ワールドに変貌してしまう。
 でもその奥というか下地というか、見えないところにでもそこはかとなく、イキウメの世界が厳然としてあることが判る、ような気がするのだ。

 とりあえず、80年前の「始まり」の話だけまとめて書いてしまったけれど、舞台上では時代は行ったり来たりしている。80年前の話も80年後の話もそれぞれの時系列は崩されていないけれど、でもその両者を割と軽く行き来している。場面転換は一瞬で、暗転も(多分)ほとんどなく、鮮やかだ。
 望は、「ずっと同じ姿でそこにいる」という設定らしく見た目が80年間変わらないままあちこちで出没しているらしいし、安井順平が演じた2人は「曽祖父と曾孫」という設定らしい。さて、他の面々は、役の説明では同じ役者が演じていた80年前の人物と血縁関係があるとかそういうことは全く言われていないのだけれど、もしかしてそうなのかな? という感じがしなくもない。

 その80年後の世界では、「柱」は「御柱様」という名のご神体という扱いを受けているようだ。
 池田成志演じる町長曰く「禁止するより、1ヶ月に1回と限って許した方が安全だ」ということになるらしい。その神社の神主は盲目の人が務めているようだ。
 要するに、「獣の柱」はある意味で社会に取り込まれ、数少なくなった人間と共存している状態らしい。しかし、人間が集まったところに柱が降るということは知られているし信じられていて、その「社会」は非常に細々としたものだ。

 そこへ、御柱様が「見える」という人々が現れ始める。
 そもそも「柱」は、見た瞬間に幸福感に包まれて記憶を失くしてしまうので、「見る」ことはできない。つまり、「柱」を見ても別に幸福感に包まれたりはしない人が出てきたのだ。
 テンションが高いのか、踊るように動く望も柱の大使を自称し、柱が見えると言い、そういう人は他にもたくさんいると言う。
 町長は、彼ら「柱を見ることができる者」を使って、柱に影響されない、柱を恐れずに済むようなネットワーク社会を構築しようという野望を持っているらしい。

 町長の方針に異を唱えるのが、安井順平演じる、山田輝夫の曾孫の山田寛輝である。
 はっきりした「異」ではないのだけれど、でも、大窪人衛と加茂杏子演じる「見える」人々にそれでいいのか? と繰り返す。町長の考え方は、結局のところ80年前への回帰であって、そのことに違和感を覚えているようだ。しかし、上手く言えない。

 事情を知っている資料室長の山田からしてこうだから、80年たっても、「柱」が何だったのか、メッセージだとしたら誰からのどんなメッセージなのか、全く判っていない訳だ。
 こうなってくると先祖の農家の山田氏が、柱を見ることによって脳内ドーパミンが変化することを調べ、あくまで科学的に説明できる現象を引き起こしているに過ぎない確かな記録を作りたいと言っていたことが、やけに先見の明に溢れているようにも見えてくる。

 柱のメッセージについて、芝居の中で明らかにされることはない。
 80年前、らっぱ屋率いる300人の集団を受け入れる代わりに300人の志願者を募って、また新たな共同体を作ろうと決めた山田曽祖父の傍には、らっぱ屋が連れてきた望がいた。ついでに、部長が桜にプロポーズしたときにも側に望がいたのだけれど、このときばかりは失った記憶を取り戻して「兄」の顔を一瞬見せていたようにも思える。

 それはそれとして、「柱が見える」という若者たちに「ここから出て行け」と怒鳴った山田曾孫の傍らにも、やはり、望がいる。望は80年前と全く同じ姿かたちの望で、彼は山田曾孫の父親とも祖父とも同じ姿で写真を撮っているらしい。
 そして、基本的には素っ頓狂なことを言っているのだけれど、ときどきふいっと正気に戻ったかのように低い声でぼそっと意味ありげなことを言うという「謎が謎を呼ぶ」芝居の王道のくすぐりも用意されている。

 実は「回答」は示されていない。
 何故、「柱」が降って来たのか、「柱」はどんなメッセージを伝えようとしているのか、再び人口密集地域が生まれた場合に本当にさらに「柱」が降って来るのか、「柱」が見える人々の出現は何を意味しているのか、そういったことは語られない。
 多分、「柱」のメッセージを読み取ろうと様々に考えること自体をこの芝居は語っているのだと思う。
 謎が謎を呼ぶ芝居で、謎には回答は示されていないのに、何故だか見終わってすっきりした気分だったのだった。

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コメント

 みずえ様、コメントありがとうございます。

 そういえば、確かに図書館が舞台になったり、話題になったりはしていませんでしたね。全く気がついておりませんでした(笑)。
 一応、資料室のセットが図書館ぽかった、というくらいでしょうか。

 やっぱりイキウメの舞台はいいですよね。
 次回作にも期待! です。
 もちろん、池田成志さんの次の舞台も楽しみです。

投稿: 姫林檎 | 2013.05.25 18:27

姫林檎さま

私は昨夜観ました。
この舞台は「上」も観たのですが、上とは関連性がなく、しかもこの「下」は、あまり図書館とは関係ないように思えましたね。
でも、上は話が入り組んでいて、わかりにくい部分もありましたので、今回は話が一つで入りやすかったです。

ここは少数精鋭というか、人数が少なくても皆さん演技が上手で、さらに役に合ったキャラクターという感じが常にある気がします。
そして、姫林檎さんも書いてらっしゃいましたが、池田成志さんはさすがですね、私結構ファンなんですけど(笑)

それにしても、毎回思うのは、よくこういう奇想天外な話を思いつくものですよねえ……。

投稿: みずえ | 2013.05.24 09:18

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