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2013.07.07

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「断色〜danjiki〜」
作 青木豪
演出 いのうえひでのり
出演 堤真一/麻生久美子/田中哲司
観劇日 2013年7月6日(土曜日)午後6時30分開演
劇場 青山円形劇場 Gブロック42番
上演時間 1時間50分
料金 6800円

 多分、ロビーで何らかの販売が行われていたと思うのだけれど、チェックしそびれてしまって、何が販売されていたのかよく判らない。

 ネタバレありの感想は以下に。

  「断食〜danjiki〜」の公式Webサイトはこちら。

 開演前、配られたフライヤー(で名称はいいのだろうか)を読んでいたら、青木豪のコメントの文章に、良い話は少しも出てきませんとか、悪夢ですとか書かれていて、ひえーと思って一瞬「この席では悪夢から逃げられない」などと考えてしまった。
 「チラシの表面でお察しだったかも知れませんが」とも書いてあったけれど、私は全く何も察していなかったからだ。そう言われて見直してみれば、頭が3つある人の口にはイチゴが詰め込まれ、抱えられた赤ちゃんの手には(推定)毒りんごがあるという、そういう「絵」である。

 そういう訳で多少構えて見始めたので、「思ったよりもエグくもグロテスクでもなかった」というのが見終わっての感想である。
 何というか、「そんなに酷い悪夢の話でもなかった。よかった。」みたいなことを思ってしまった。
 もちろん、決して「いい話」ではないし、全く「大団円」でもない。エンタメ路線まっしぐら、最後は大団円でハッピーエンドというお芝居が好きという私の好みからは外れているのだけれど、よほど構えが強かったのか、終わったときには、一瞬「良い話じゃん」とすら思ってしまったくらいだ。もっとも、それはすぐに「いや、そんなことはない」と思い直したけれど、何というか、エグいとかグロテスクとか、それだけが目的ではないというか、それはあくまでスパイスでこの舞台の目指すところはそこではないというか、そういう印象である。

 そうは言うものの、この世にクローン保険などというものが存在し、それはどういうものかといえば、自分のクローンを作っておいて、将来的に病気になったときなどにそのクローンから各種臓器を移植してもらえるようにしておくという内容である。
 クローンが実用化されて、一歩間違えば本当に存在するようになりそうなところが恐ろしい。
 田中哲司演じる保険会社社員の刈谷から、亡くなった母親がそのクローン保険をかけていたと知らされた堤真一演じる保は、いったんはそのクローンの「処分」に同意したけれど、その夜、母親に追いかけ回され抵抗したらその腕がもげてしまったという「悪夢」に襲われて、一転、「解放」を選択する。
 つまりは、クローンにこの後、人間として生きてもらうことを選択するという趣旨である。
 いや、自分の生殺与奪が他人に握られているってどうなの、そっちの方が悪夢だろうと思うけれど、確かにそれは今の社会で全くないことではないのだった。

 そうしてやってきたのが、麻生久美子演じる母親が30代のときの姿をしている夕子である。
 保と夕子の生活が始まる。
 夕子は、本人曰く「死ぬために生きてきた」ので生きるためのすべは持っておらず、刈谷曰く「死に対する恐怖を持たないよう暮らさせてきた」ということで、「感情」も学習して身につけなければならなかったということになる。
 その割に、何故だか、保つ曰く「下ネタだけはボキャブラリーが突然増える」ような女性である。
 麻生久美子のような美人に無表情で「セックス」と叫ばれ続けると、確かに男性としては悪夢なのかも知れないなどと他人事ように考える。まして、設定では、夕子は保つの母親の若い頃にそっくりで、保としては「母親には手は出せない」という禁忌があるようだから尚更だ。

 刈谷という男がまた嫌な奴で、会社の問題なのか個人的嗜好なのか、夕子の部屋に盗聴器を仕掛けてそれをネタに彼女を脅迫したり、何というか、非常に歪んだ人間であるということを段々露わにしてくる。
 保はほとんど無法地帯と化したらしい「北」の出身で、借金取りを追い払うためにセックスという手段を使った夕子が「誰とでも寝る女だ」と評判になってしまったので、彼女を守るために北に移ることを決める。
 実は刈谷も北の出身で、彼は「ラスト・チルドレン」と呼ばれる、北で生まれた最後の世代であると明らかにされたり、この辺りから、刈谷が夕子をいたぶる様は「悪夢」そのものなのだけれど、それはそれとして「謎が謎を呼ぶSF」という雰囲気も漂わせ始める。

 刈谷と夕子が「寝た」ことを知った保は、刈谷と話すうちに誘導され、「母親そっくりの女が性に溺れていく様は見たくない」と一転、彼女を「処分」することに同意する。
 それはつまりは「人殺し」をすることに同意したということである。結局、保も彼女を人としては見ていなかったというところも「悪夢」なのかも知れない。
 悪夢といえば、保にとっての悪夢は、夕子がどこまで彼の母親の記憶を持っているのか、彼の母親の記憶を自分のこととして語っているのか、クローンである夕子と話しているのか彼の母親と話しているのか、その境目がどんどんほどけて行ったことなのかも知れない。保には夢とうつつの境が段々判らなくなっていくようである。

 結局、保が「一人殺しても死刑にはならない」と夕子に言い聞かせていた言葉は、彼の母親が父親を殺した後で保に言い聞かせていた言葉であり、夕子はまたその言葉を呟きながら刈谷を包丁で刺し殺してしまう。
 しかし、実は「クローンに対応するときは常に装着している」という防弾チョッキのようなもので刈谷は無事で、逆に彼は夕子を殺してしまう。
 そして、「実はクローン保険は、処分されるクローンの臓器を売ることで儲けを出しているのだ」という彼曰く「企業秘密」を保に語る。

 さらに、保が「実は自分はクローンだった」「そう言って、父親は自分を殺そうとしたから母親が自分を守るために父親を殺した」と段々と子どもの頃のことを思い出してきたことを見澄まし、「だからお前も殺されて臓器を提供しろ」と襲いかかり、返り討ちに遭う。
 保が生まれ育ったその場所で最後、生き残っているのは保だけである。
 そして、保は夕子の遺体を抱きかかえて、自分は何を愛せばいいのか、どうやって生きて行けばいいのかと嘆き、幕である。

 悪夢のてんこ盛りといえばてんこ盛り、しかし、謎が謎を呼ぶSFという仮面を被せると意外なことにその悪夢感がかなり小さくなるのが不思議である。
 登場人物3人の濃密な舞台、青山円形劇場をほぼ円形で使った舞台で「裏から見ているみたい」と全く感じさせない、舞台を見ているときは舞台以外のことを考えさせない、強烈な空気を持った舞台だった。

 それにしても、麻生久美子は美人だった。

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