「ヨーヨー・マ チェロ・リサイタル」を聴く
「ヨーヨー・マ チェロ・リサイタル 」
演奏 ヨーヨー・マ(vc)
曲目 ヒンデミット: 無伴奏チェロ・ソナタ
J.S.バッハ: 無伴奏チェロ組曲第4番 変ホ長調 BWV1010
グラス: オービット
J.S.バッハ: 無伴奏チェロ組曲第5番 ハ短調 BWV1011
チャオ・チーピン: 草原の夏
J.S.バッハ: 無伴奏チェロ組曲第6番 ニ長調 BWV1012
アンコール
カザルス編:鳥の歌
公演日 2013年10月29日(火曜日)午後7時開演
場所 サントリーホール 1階13列28番
料金 19000円
公演時間 2時間30分(20分の休憩あり)
ほとんど「命の洗濯」の感じで、ヨーヨー・マのチェロ・リサイタルに行って来た。
28日にバッハの無伴奏チェロソナタの1番から3番までとその他3曲、29日に同じく無伴奏チェロソナタの4番から6番までとその他3曲という構成である。
ヨーヨー・マが日本でバッハの無伴奏チェロ・ソナタを全曲演奏するのは7年ぶりらしい。
その7年前には確か2日とも行っているし、その前にも1日2公演の形で1番から6番まで通しで演奏したコンサートにも行った記憶がある。
要するにミーハーなファンなのだ。
今回は、バッハの無伴奏チェロ・ソナタだけでなく、その他の曲も3曲含めて構成されていた。
そういえば、CDを聴きこんでおけば良かったのだけれどそういう準備を全くしていなかったので、「えーと、いつこの曲が終わったんですか?」と戸惑ってしまった。要するに拍手のタイミングを計るのに、周りの人の様子を窺うという体たらくである。そんな人間がコンサート会場にいていいのかと思う。
しかし、間違いなく、かなりささくれていた心情が、コンサートが終わって帰るときにはだいぶスッキリしていたのは確かなのである。
ヒンデミット作曲の無伴奏チェロ・ソナタが始まったとき、あれ? と思った。
私の貧しい耳で聞く限り、何となくチェロの音が響いていないような気がしたのだ。緊張感が漂っているというか、硬質な音であるように感じた。
もちろん、曲自体がそういう硬質な音を要求していたのかも知れないし、私が(さっきも書いたけれど)かなりささくれ立っていたのでこちらの体調でそう聴こえたのかも知れない。
そんな訳で、私としては、かなり緊張感の漂うコンサートの始まりになった。
無伴奏チェロ・ソナタの4番を聴いているときも、始まりの緊張感を引きずっていたような気がする。
ちょっと見てみたら、前回に聴いたときも同じ感想を持っているので、これは「そういう曲」なのかも知れないのだけれど、時々、高音ですっぽ抜けたような感じの音が混ざるような気がして、それがちょっと気になった。
しかし、この4番という曲は、ライナーノートによると超絶技巧を求められる曲だそうで、ステージ上というよりも客席に漂う緊張感は、そういう「クラシックを知る」方々が醸し出していたのかも知れない。
すでに記憶も定かでないのだけれど、次に演奏されたグラス作曲のオービットと、無伴奏チェロ・ソナタの5番との境目が判らなかったのは私だけなんだろうか。
気のせいか、客席からも前者に対する拍手が起きなかったような気がする。
もちろん、ヨーヨー・マ自身が、その2曲の間を意図的に短くして切れ目なく演奏していたという可能性もあると思う。
私などは、配られたプログラムでは5番を先に演奏することになっていて、それは間違いですという張り紙があったのだけれど、あの張り紙はやっぱり嘘で5番を先に演奏したのか? と思っていたくらいだ。
繰り返すけれど、情けない聴衆で非常に申し訳ない。
ここで休憩が20分入る。
後半は、チャオ・チーピン作曲の「草原の夏」からだ。これが、凄くよかった。
シルクロード組曲の第2曲であるというこの曲は、ホーミーのようで、ホーミーとは逆に低音を鳴らして高音でメロディを奏でる。その高温の響き方がすごく良くて、思わず頭上を仰いで見回してしまったくらいだ。もちろん音が見える訳ではないのだけれど、広がっている音が見えるんじゃないかと思ってしまったくらいだった。
引き続いて演奏された6番もその「いい響き」をそのまま受け継ぎ、5番の低音を重く響かせていたのとは打って変わって、高めの音を広げていく感じで、リサイタルが進むにつれて会場が温まり、楽器も温まり、演奏も温まって行ったように感じた。
休憩後の2曲は、物凄く気持ちよく聴けて、ほぐれた〜という感じがした。
翌日のNHKニュースでも報じていたけれど、アンコールに登場したヨーヨー・マの手には、東日本大震災の津波で流された住宅の柱などを使って東京のバイオリン製作家が作った弦楽器があった。
裏側にプリント(だと思う)された、岩手県陸前高田市の海岸で津波に流されずに1本だけ残った「奇跡の一本松」を見せ、英語でスピーチをしたけれど、残念ながら私にはちゃんと理解できない。しかし、このチェロで鎮魂のために演奏しますという趣旨のことを言っていたことは判ったし、何より、語るとき、演奏しているときの真摯な姿勢と表情が印象的だった。
アンコールで演奏された曲は、カザルス編曲の「鳥の歌」である。
これも高音を響かせて、演奏された全7曲のうち、この曲が演奏されているときだけ、頭が痺れるような感覚があった。
いいリサイタルだった。
行って良かった。
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