「無休電車」 を見る
劇団鹿殺し充電前公演「無休電車」
作・出演 丸尾丸一郎
演出・出演 菜月チョビ
出演 オレノグラフィティ/山岸門人/橘輝/傳田うに
円山チカ/坂本けこ美/山口加菜/鷺沼恵美子
浅野康之/近藤茶/峰ゆとり/有田杏子
越田岬/福田転球/岡田達也/美津乃あわ
音楽 入交星士×オレノグラフィティ
観劇日 2013年10月12日(土曜日)午後2時開演
劇場 青山円形劇場 Aブロック21番
料金 4900円
上演時間 2時間10分
ロビーでは、Tシャツ等のグッズがたくさん販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
Aブロックはほぼ舞台を正面から見ることのできる特等席だった。
この円形の舞台もなくなってしまうんだなと思うと名残惜しい。そしてとても残念である。完全に円形の舞台というのは、私はこの青山円形劇場しか知らない。
開演前、特定できないのだけれど、昭和な感じの曲が流れている。そこに曲調が変わり、お隣の席の方が「始まる!」とおっしゃったので開演なのだなと判った。
さて、いきなりど派手なパフォーマンスから始まったのか、どうったのか、覚えていない自分が毎度のことながら情けない。とにかく、ゲストの福田転球がいきなり登場シーンで電車にはねられて死んでしまったことに驚いた。
そして、福田転球演じる鹿野のお通夜で、いきなり彼の妹公認で「宝塚奇人歌劇団」の復活解散公演が上演される。この復活解散公演がど派手なパフォーマンスだったことは間違いない。
劇団もここしばらくは活動休止状態だったようだし、鹿野が経営する工務店も3000万円の借金を抱えているという。
どちらも上手く行かないという話から始まって、劇団を結成した鹿野と丸尾丸一郎演じる栗田の2人の出会いの物語に遡る。それは高校時代のことで、舞台は、現在と、高校時代と、現在の彼らが演じる舞台の世界と、その3つの世界と時間を行ったり来たりしながら進んで行く。
その行ったり来たりを繋いでいるのが「電車」で、それは最初に演じられた芝居が「銀河鉄道の夜」をモチーフにしていたことや、鹿野が駅のホームから転落して亡くなっていたことや、そもそも最初のパフォーマンスで語られた「日本の鉄道の優秀さ」や、そういったあちこちに顔を出す。
それはそれとして、これは彼ら自身をモチーフにした話なんだなと(少なくともそう思って欲しいんだなと)気がついたのは、彼らが東京に出て行って路上パフォーマンスを始めた辺りでという私は相当に鈍く甲斐のない観客だったろう、申し訳ない。
鈍いといえば、高校時代に三銃士を組んでいた岡田達也演じる城戸が銀行員として現れ、弁護士を連れて来て、鹿野工務店の建て直し(に見せかけた怪しげな提案)をした辺りから、コイツは怪しいと皆思っていたと思うし、そこはついて行けたのだけれど、葉月チョビ演じるお通夜の公演を見に来たと自称する見知らぬ女性が、実は栗田の祖母だった(もちろん本人と言うことではなく、魂というか、そういう存在だけれども)ということには、かなり後になるまで気がつかなかったのだから、本当に我ながら鈍いことこの上ない。
鹿野の幽霊(しかし、ちゃんと足があった)と、栗田のお祖母ちゃん(何故か電車オタク認定)に後押しされ、また高校時代に三銃士が入部した演劇研究会にいた、美津乃あわ演じる宝塚出身の女優の煽り文句にその気になり、銀行をリストラされた木戸や、オレノグラフィティ演じる大工仲間のロンリー酒盛(一風変わった芸名をつけるのは、高校時代の名残らしい)、山岸門人演じる高校時代に4番エースで活躍していた左官屋の萩原ら5人は(いや、6人か?)は家族その他諸々の反対を押し切り、上京する。
やっぱり木戸が裏切っていたり、坂本こけ美演じる鹿野の妹麻佑子が力一杯反対したり、路上パフォーマンスはなかなか軌道に乗らずに警察のお世話になったり、それでも煽り続ける鹿野と彼らの間にどことなくすきま風が吹き始める。
そうなのだけれど、ど派手な意匠に隈取りのようなメイク、「ロック」に「ファック」と言いまくるパフォーマンスが何度も繰り返されると、何だかもうこの暗さはどうにかなるに決まっていると思えてくるから恐ろしい。それって多分、実際にその場にいてもそう思っていたんじゃないだろうかとまで妄想が広がる。
鹿野工務店を破産させて借金をチャラにするという木戸の計画は、木戸自身がリストラされた銀行に戻るために逆用され、形だけ社長になった筈の栗田と麻佑子の2人が借金を背負わされ実家も奪われる、上京後に借りていた家の家賃すら木戸に持ち逃げされていたことも判明する。
5人のうち1人が抜け、2人が「ガソリン切れだ」と大阪に戻ると宣言し、それでも煽る鹿野に栗田が憤りを見せると、鹿野は、それじゃあ自分の葬式をやってくれと頼む。それだけの力が劇団にはあるのだからやってくれと言う。
そうして、「なりあがり」が愛読書だったからかいつの間にか「ヤザワ」と言われていた鹿野の葬儀の日、木戸が現れ、栗田の祖母は危篤状態となって東京に来ていた「彼女」は帰らなくてはならないと言い出す。
葬儀の舞台で何かと戦い、そして勝った彼らは、多分、もう「大阪に帰る」とは言わないだろう。
「彼女」と鹿野を乗せた電車の運転席には栗田が着き、そして「そんな電車に乗るな」と言われてもやっぱりそこから離れて行く鹿野と彼女を乗せた電車は、やがて満天の星空の中を進んで行く。
そこで、幕である。
最初と最後を「銀河鉄道の夜」のモチーフで挟み、高校時代と現代と現代で演じている芝居と3つの世界を電車で繋ぎ、栗田の祖母は実は日本で最初の女性運転士だったというエピソードも付く。
その「彼女」が麻佑子に最後に預けたお金で東京に借りた家の家賃を払うこともでき、劇団には「再出発」の空気が溢れる。
休むことなく走る電車と、休むことなく走ってきた劇団のイメージを重ね、自分たちのルーツを芝居にする。
これほど「充電前」に相応しい、ある意味ベタ過ぎるほどベタな芝居は他にあるまい。
でも、そのベタさ加減とどこか懐かしい凝り方が楽しい。この勢いのシャワーを1年後にまた浴びたいと思った。
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コメント
再び。
あんみん様、コメントありがとうございます。
あら、本当にニアミスだったんですね。ニアミス、結構ありますよね(笑)。
そして、あんみんさんが鹿殺しが初めてだったなんて意外です。そう書いている私も、この「無休電車」で3本目だったんですが。
鹿殺し、いいですよね。
そして、私は最初に見た鹿殺しの公演も青山円形劇場だったので、かなり印象が結びついていて、円形劇場がなくなってしまうというのが本当に残念です。
ア・ラ・カルトだって、青山円形劇場ならでは、だからこそのお芝居ですものね。
投稿: 姫林檎 | 2013.10.14 23:15
続いてコメント。
う~ん、ニアミス!土曜のソワレでした。
今回の遠征はTRUE WEST⇒無休電車&MIWAと観てまいりました。
いや~楽しかった!一時も飽きることなく最後まで。
実は初鹿殺しでしたが、噂通りの面白さ。
最初の日本の鉄道の優秀さの導入もいい!
電車楽隊の音は楽しく、歌もせつなく、テンポが良い。
1年待ってまた観ようと思います。
円形ならではの公演、本当になくなるのが惜しい。
まだケラさんが来年も円形で2公演(だったと思う)予定されてるそうだし、
アラカルトもあるので出来るだけ足を運びたいです。
イキウメは日程が合わず、残念ながら大阪で観ますが。
それで円形メーターが『1マイナス』で損した気分です(笑)。
投稿: あんみん | 2013.10.14 11:20