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2013.11.09

「MIWA」を見る

NODA・MAP第18回公演「MIWA」
作・演出・出演 野田秀樹 
出演 宮沢りえ/瑛太/井上真央/小出恵介
    浦井健治/青木さやか/池田成志/古田新太
観劇日 2013年11月8日(金曜日)午後7時開演
劇場 東京芸術劇場プレイハウス H列17番
料金 9500円
上演時間 2時間15分

 ロビーではパンフレット(1000円)が販売されていて、野田秀樹と美輪明宏の割と長めの対談記事が載っていたので、久々にパンフレットを購入した。

 ネタバレありの感想は以下に。

 野田地図の公式Webサイト内、「MIWA」 のページはこちら。

 ロビーに舞台セットの模型が飾ってあったとおり、変形の歪んだ四角形(立方体)の柱が立ち、そこに白と黒の椅子が一脚ずつ置かれている。白い方だったか黒い方だったか、どちらかに十字架が彫り抜かれている。
 天使と悪魔? という感じだ。そういう風に思うと、歪んだ柱と梁だけの空間が教会にも見えてくるから不思議である。
 そして、踏み絵が始まる。
 隠れキリシタンの話かと思いきや、そこは人が生まれる前の世界で、男女の性別を決めているところらしい。
 宮沢りえ演じるMIWA(劇中では、マルヤマシンゴと名乗り呼ばれている)は、そこで踏み絵を拒否し、古田新太演じるアンドロギュヌス(私は単純に両性具有と受け取った)転じて安藤牛乳とともに人間界に産み落とされる。

 ここで、アンドロギュヌスがきっぱりと美輪明宏の姿形を写そうとしているところで、まず笑いが起きる。
 似合うといえば似合うし、似合っていないといえばこれほど似合っていない姿もない。鮮やかな黄色に染めた髪、水色のロングドレスと見まがうような衣装、細長い風船を絡ませたような上着という姿である。
 それは笑う。
 そして、MIWAは、安藤牛乳とともに、井上真央演じる母マリアと池田成志演じる父半・陰陽との間に生まれる。
 白と黒というか、天使と悪魔というか、両性具有であるアンドロギュヌスと、どちらかの性であることを拒絶したMIWAは、安藤牛乳曰く「二心同体」である。

 登場シーンの井上真央が何だか弱いと思ったのだけれど、何度も生まれ変わって何度もMIWAの母を繰り返すうちに、ヨイトマケを歌うシーンであらっという感じで力強くなったことに驚いた。
 やっぱり、役者は声だよ、特に舞台では声だよと思う。

 そこから、MIWAの人生が語られ始める。
 まさかその出生から語るとは思わなかったので、これはかなり意外だった。そして、割と素直に時系列に沿ってというか、MIWAの成長をそのまま順番に追っているのも意外だ。
 美輪明宏と話し、インタビューし、散々話は聞いたけれど、聞いた話のとおりではない事実ではないMIWAだという趣旨のことを野田秀樹がどこかで書いていたと思う。美輪明宏について著作を読んだことがある訳でもないし、全く詳しくないのだけれど、この芝居を見ていて、そんなに無茶苦茶でもないんじゃないかという気がした。もちろん、全て実話だと思った訳ではないし、全ての登場人物が実在だとも思わないのだけれど、それは承知の上でやはり、美輪明宏自身のことについて嘘はないという感じがするのだ。
 誠実に作りかえたというか、ほらだけど嘘じゃないというか、エッセンスは濁らせていないというか、そういう感じがした。

 とりあえず役名は購入したパンフレットのとおりに書いているけれど、一人何役も演じている(一貫して同じ役を演じていたのは、宮沢りえと青木さやか、野田秀樹の3人だけではなかろうか)この芝居では、その役名は、彼らが演じている複数の人物の象徴というかイメージの集まりでしかないような気がする。
 浦井健治が演じたボーイや、青木さやかが演じた「負け女」も、演じたいくつもの役のイメージのエッセンスを役名にしました、という感じだと思う。
 小出恵介の通訳は、それは役名じゃなくて職業だと思うし、瑛太は、最終的には「赤絃繋一郎」になっていたけれど、それまでに2人の「ケイイチロウ」を演じている。赤絃繋一郎はもちろん赤木圭一郎を彷彿とさせるのだけれど、赤木圭一郎本人をほとんど知らない私からすると、ポイントは映画スターの赤木圭一郎ではなく、その名前にあるんじゃないかという気もしてくる。

 舞台の外では「美輪明宏」を語るけれど、舞台「MIWA」では美輪明宏の姿は完全に消すのではないかと思っていたけれど、そもそも「MIWA」の内側に今の美輪明宏の姿形を写そうとした古田新太演じる安藤牛乳を住まわせたところからして、完全に客席に「美輪明宏」を意識させる。
 それほど美輪明宏という存在が、隠せないくらい、他の名前や姿に置き換えられないくらい強烈だということだと思うのだけれど、MIWAが歌う歌ほぼ全て、美輪明宏の歌が流れたときにはうーん、と思った。
 他に代えることのできない唯一の存在というリスペクトの現れなのかも知れないし、宮沢りえにはほとんど歌わせずに古田新太に歌声というか発声を任せていたときから「口パク」だったのだけれど、2人揃って口パクで、美輪明宏の歌声が流れるとうーん、と思ってしまった。自分でも理由は判らない。

 ここで流れた歌声が、少なくとも私にはあまり力強いものではなく、強烈なパワーが感じられなかったからかも知れない。
 それならば、アンサンブルがいい味を出していたのだから、数の力で押して全員で大合唱とかの方が、同じ口パクでも響いたんじゃないかという気がする。多分、それは私が「美輪明宏ではないMIWA」をイメージしてしまい、期待していたからという面が強いと思う。
 しかし、虚実織り交ぜての「虚」の部分をもっと派手に見たかったなと思うのだ。

 MIWAが窮地に陥るたびに、安藤牛乳はMIWAから離れ、そして戻って来る。
 たまに、美輪明宏の姿ではなく、黒髪に繋ぎを来た姿で現れ、そして、最後には小出恵介演じる刑事に亡くなっているところを発見される。
 安藤牛乳が、MIWAの中にいた人物なのか、付き人だったのか、最後の最後で惑わせる。
 しかし、安藤牛乳が死んだという知らせを聞いたMIWAを演じる宮沢りえは、それまでベリーショートの髪をなでつけ、水色のパンツスーツやフレアパンツという衣装だったところから、一転、今の美輪明宏の姿を写すように黄色の髪の鬘をかぶり、安藤牛乳が美輪明宏になっていた姿を写す。

 何故だろう。綺麗じゃない。
 凄絶に見えていいところだと思うのに、「どうして綺麗じゃないんだろう」と思ってしまった。
 多分、今も生きていてこれからも生き続ける美輪明宏を描く舞台を最後にキレイにまとめるのは違うと思ったんだろうなと感じた。
 私は、美輪明宏を感じさせないMIWAという舞台をイメージしていたので、自分でも随分否定的な感想になっているなと思うけれど、逆に、美輪明宏を知っている人が見ると、歌の歌詞などなど「あれが原典だ」ということが判ってより伝わるものも多くなるし二重写しというのかその向こうに見えるものが随分と違っていたんじゃないかという気がする。

 それに、何だかんだ言って、最後まで身を乗り出すようにして見たのもまた本当のことだ。
 もう一回見たかったなと思った。

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コメント

 あんみん様、コメントありがとうございました。

 あんみんさんも「うーん」という感想をお持ちになったのですね。ちょっとほっとしました(笑)。
 おっしゃるとおり、私ももっと猥雑な感じを想像していました。

 原爆投下のシーンは、紗の布がゆっくりと舞台全体を覆っているところで「これが死の灰なんだ」という感じを強く持ちました。
 同時に、どのお芝居だったか忘れているのが情けないところですが、やはり野田さんのお芝居で浅間山荘事件をモチーフとして、大きな鉄球が振られているところを見せるシーンがあって、それを思い出したりしていました。
 そういえば、感想に書き忘れていました。思い出させてくださってありがとうございます。

 通訳の存在も確かにあんみんさんおっしゃるとおりだったかも・・・。これまた、美輪さんをよくご存知の方にとっては何かの象徴だったのかも知れないとも思います。

投稿: 姫林檎 | 2013.11.10 10:01

こんばんは。

今回、私も?と感じたのは歌うところでした。
安易な本人の歌のテープをバックにクチパク。
最後に(愛の賛歌だったかな)MIWAがマイクを持って
後ろを向いていたところを観て、
全編これの方が良かったじゃないのと思いました。

で、なんとなく今回の野田さんは美輪さんご本人に
遠慮してガス抜きしているような印象を受けました。
もっと際どく、アングラっぽいのを想像してましたが。。

でもあの原爆の表現は素晴らしかった。
私は一番良かったです。
また瑛太が居るといないとでは違った出来になったかも。
ちょっと全編通してドタバタしている感の中で
ナイーブな少年&青年が居て良かったです。

あ、上手にずっと居た、小出君の通訳と米軍は居なくても良かったな~とも。
あの中の人がさりげなく原爆を落とす兵士になったから
仕方ないかも知れませんが。
成志さんの使われ方も不満(笑)。
一言で言うと肩の凝らない舞台だったです。

投稿: あんみん | 2013.11.10 01:41

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