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「声」
作 ジャン・コクトー
翻訳 徐賀世子
演出 三谷幸喜
出演 鈴木京香
観劇日 2013年12月21日(土曜日)午後3時開演
劇場 スパイラルホール Dブロック11番
料金 5000円
上演時間 1時間
ロビーでは最近出たらしい鈴木京香の著作が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
ジャン・コクトーって誰? という状態で、しかし、鈴木京香の一人芝居を三谷幸喜が演出するとなれば見てみたいとチケット争奪戦に参加した。
スパイラルホールという決して大きくはない会場で、ちらほら空席もあったのは勿体ないと思ってしまう。
舞台は真ん中を空け、そこに斜めに赤いベッドカバーのかかったダブルベッドを配置し、客席は前後から挟んでいる。客席のない四辺の一方にはカーテンがかかり、一方には絵がかかって旅行鞄が置かれている。
ダイヤル式の電話線がつながったクラシックな電話機といい、電話交換手を呼び出している感じ、電話が混線するなんていう辺りは完全に時代が違う。
でも、これらの小道具だったり状況だったりを現代風に変えてしまうと、恐らくこの「声」という舞台は成り立たないのであって、私だって電話が混線したり交換手に文句を言ったりなんていう経験は皆無だけれど、そのうち、何らかの「説明」を加えなければならなくなるのかも知れない。
何だかそれも、興を削がれるなぁと思う。
しかし、多分まだギリギリ、そういう説明はなくとも通用する時代である。
もちろん、このお芝居でも「混線とは何ぞや」などという説明は一切ない。
ネグリジェに薄手のガウンを羽織った鈴木京香が部屋に立ち尽くし、電話を待っている。混線してしまっている電話の相手に文句を言いつつ、ひたすら誰かからの電話を待っている。
その待っている電話がかかってきたら、最初のうちな「オトナの女」といった対応をしていたけれど、やがて、その声や話す内容は「愁嘆場」という雰囲気になり、彼女がどんどん危なくなって行っているのが判る。
この電話は、別れたばかりの男から女にかかってきた電話の会話、それも女の側からだけの一人芝居である。
相手の男のしゃべっている内容は一切聞こえて来ない。それは、彼女がしゃべる内容から推測するしかない。
最初のうちは、あまりの女の「物わかりの良さ」に男には家族があって不倫していたというパターンか? と思っていた。だって、カバンに詰めた彼女に書いた手紙と彼女が書いた手紙の両方を男が部屋に取りに来ることになっているとか言うのだ。男がそこまで証拠隠滅に神経を使うとなれば、そして女の方がそこまで「物わかりのいい女」を演じようとするのであれば、一番その可能性が高いかと思ったのだ。
しかし、どうやらそうではないらしい。
そのうち、段々、「この相手の男はきっと、この女の情緒不安定なところに付いていけなくなったんだろう」という風に思い始めた。
物わかりのいい女を演じていた筈が、いつの間にか、彼女は彼からの電話をひたすら待ち続け、彼の家で待ち伏せしようかと何度も迷い、ごはんを食べる気力もなく、眠れずに睡眠薬を飲み、そして、恐らくは階数の高いアパートメントに暮らしているのだろうに、その掃き出し窓は開いている。カーテンの揺れが不穏な空気を醸し出す。
相手の男の方も、その辺りは十分に判っていて、彼女が情緒不安定になるんじゃないか、はっきり言えば自殺するんじゃないかと心配して、別れるときには飼っていた犬を置いてきたし、別れた後もこうして彼女に電話をかけているらしい。
そのうち、彼の方は5年付き合った彼女を捨てて自分は結婚するらしいということが判り、今日も「自宅からかけている」と嘘を付きながら実は自宅ではないところ(婚約者の家かとも思ったけれど、婚約者の家から元彼女の家にこれだけ長電話する男がいるとも思えない)から電話をかけている。
いい奴なのか悪い奴なのか全くよく判らないけれど、煮え切らない男であることは間違いなさそうだし、その男に惚れ込んで自分まで壊しそうな(電話のコードを首に巻き付けたりもするのだ)この女が情緒不安定であることも間違いなさそうである。
たった一人、電話のこちら側を演じる鈴木京香は、髪を結い上げたり、ガウンを脱ぎ捨てたり、床に座り込んだりベッドに身を投げ出したりしながら、相手の男との会話を続けて行く。
タイトルにもなっているくらいだし、この芝居の勝負は声にかかっているんだよなと思う。
割と忙しなく落ち着きなく動いている感じなのだけれど、それでもやっぱり、この芝居の勝負は動きではなく、表情でも亡く、やっぱり声だよという感じがする。
そして、どんどん、しゃべりながら自分で自分を追い込んでいった彼女がベッドに横たわり、相手の男が電話を切るのを静かに待っている姿は、やはり、もう二度と目覚めないようにも見える。
一人芝居であるだけでなく、両側にせり上がった客席があるその真ん中で芝居をし、かつ(確信はないのだけれど恐らく)劇中の効果音はほぼ電話のベルの音だけで、音楽も最後のシーンで流れていただけだったと思う。
シンプルこの上ないというのは、何と厳しいのだろうと思う。
この女、情緒不安定過ぎだよ。
相手の男、勝手すぎだよ。
でも、5年付き合った男女が別れるってこういうことなのかも、と何だかもの凄く普通の情景を見たようにも、極端な情景を見たようにも思えたのだった。
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