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「SEMINAR -セミナー- 」
作 テレサ・リーベック
翻訳 芦沢みどり
演出 栗山民也
出演 北村有起哉/黒木華/黒川智花/相葉裕樹/玉置玲央
観劇日 2013年12月13日(金曜日)午後7時開演(初日)
劇場 紀伊國屋ホール K列17番
料金 7800円
上演時間 1時間50分
すっかり忘れていたのだけれど、この日が初日で、ロビーにはお花がたくさん飾られていた。
パンフレット等も販売されていたと思うけれど、チェックしそびれた。
ネタバレありの感想は以下に。
場所は多分アメリカだったんだと思う。かなり広いアパートメントが舞台で、そこに4人の若者が集まっている。
4人はそれぞれに作家希望らしく、この場所で、10週間にわたる「作家になるための」セミナーを受けることになっているらしい。黒木華演じる判りやすく「頭でっかち」な感じのケイトが家主で、相葉裕樹演じる判りやすく言葉をこねくりまわしているだけで意味は全くなさそうなダグラス、黒川智花演じる判りやすく「女を武器」にすることに躊躇することはないだろうイジーに、玉置玲央演じる判りやすく文学肌のマーチンと、それぞれの性格というか立場というかが判るような会話が交わされる。
そこへ現れたのが北村有起哉演じるレナードだ。
受講生が書いてきた小説を読んで彼が批評するというスタイルでセミナーは進められるらしい。
最初に自信満々で原稿を差し出したのはケイトだけれど、レナードは彼女の原稿を僅か1行(2行だったかも)読んだだけで、「これ以上読む気にもなれない」と口を極めてコキ降ろす。
もちろん、ケイトは怒り心頭だ。
レナードは、ケイトの作品をコキ降ろすだけコキ降ろし、萎縮して自分の原稿を出そうとしない残り3人を見渡すと「また来週!」と去って行く。
ケイトのアパートはかなりいい場所にある9部屋もある部屋で、彼女の両親はかなり裕福らしい。
その彼女にマーチンは「家賃も払えない」と泣きつき、家賃も払えないならこんなセミナーに参加しなければいいのにと思うのだけれど、とにかく、ケイトのフラットに居候することに成功したようだ。
同じく、ダグラスの作品も散々にレナードにコキ降ろされる。
彼はすでに作家として一定のキャリアがあるらしいのだけれど、そのダグラスに向かって、「本当のことを言っていいか?」と確認し、「ハリウッドに行け!」と言い放つ。それがアメリカでどういう意味を持つ台詞なのかは図りかねるのだけれど、この芝居の中では「低俗」というレッテルを貼られた、という扱いをされていたように思う。
もちろん、ダグラスはそういう評価を求めたり望んだりしていた訳ではなく、しかしこちらは怒りというよりは激しく凹んでこの場を去る。
イジーは、たった2枚の原稿を自信たっぷりに差し出し、レナードは彼女の原稿を絶賛する。
あらすじ等々を読むと、「作品よりも彼女の性的魅力に惹かれているのは誰の目にも明らかだ」とあるけれど、今ひとつ「明らか」な感じがしなかったのは気のせいだろうか。その前の週に2人は連れだって帰っているし、ホテルから出てくる2人を目撃したとダグラス(だったか)も語るから、「それらしい」感じは散りばめられているのだけれど、2人が割り切っているという設定だからなのか、どうもレナードとイジーからは「そういう」感じは漂ってこない。
マーチンはイジーが「寝てない」と断言するのをあっさり信じ、そして彼女とあっさりと寝てしまっていたけれど、私まで一緒に「そうかも」と思ってしまったくらいだ。
イジーがマーチンを相手にしていたのは、レナードがソマリアに行っていた2週間だけというのも判りやすい。
一方、ケイトは「友人が書いた」と嘘をついて、足跡でっち上げの「体験記」をレナードに読ませ、彼から「書き手を連れて来い」と言わせて満足げだ。彼女にしてみれば、「レナードは私個人に偏見があるから、原稿のことも悪く言うんだ。書き手をごまかせば、私に実力が奴にも判る」というところだったらしい。
果たして、レナードが本当に騙されたのか、騙されたフリをしただけなのか、騙されたフリをしていたとしたらそれは何故なのか、語ってくれよと思ったのは私だけなのか。どうも最近、私は常に「判りやすい」ことを求めているような気がする。
マーチンが意を決して見せると、それを読んだレナードは彼の作品を絶賛する。
これは全体のどの部分なのかと尋ね、長編の残りの部分も読ませろと迫る。
しかし、これまで散々彼らの作品を貶してきていたレナードをマーチンは信じることができない。というよりも、自分が絶賛され、「本当の」小説家と認められ、そういう存在になることそれ自体に躊躇しているように見える。「臆している」という感じだ。
そして、臆したあまり、マーチンは、ダグラスから聞いた「レナードの過去」の話を持ち出す。お前は盗作をしたから小説家として作品を発表できなくなったんだとあげつらう。
そのレナードは、「おまえのこの後が見える」とマーチンの今後を語る体をとりつつ、自分の過去を語り始める。
それはつまり、「いきなり小説家となって周りから持ち上げられた」人間の末路だ。自分は盗作などしていない、大学で教えるようになり学生に手を出しそして彼女にハメられたのだという「真実」を語る。
そこで、友人(マーチンに向かって、お前ならダグラスかケイトだろうと言うところがレナードの面目躍如名ところだ。この2人が小説家あるいは物を書く人間として一定の地位にいるだろうこと、マーチンに手をさしのべるような性格であることの2つを語っている。さて、イジーはどちらの部分を否定されたのだろうと思うと、これはイジーに対する最大の皮肉だったようにも思う)をさしのべてくれ、編集の仕事をするようになり、大学ではなく少人数を相手にする形であれば自分にも「小説家」を育てることができるのじゃないかと思ったのだと語る。
もちろん若者たちをコキ降ろす感じも似合っていたけれど、この語りのためにこを北村有起哉がレナードだったんだなと思う。
しかし、レナードがこういう人物ならば、公式サイトの登場人物紹介で、レナードを「有名作家」とするのはどうなんだろうという気がする。
ここで、一旦、幕が下りる。
暗転はままあるけれど、休憩がある訳でもなく、場面転換のために幕を下ろすというのは割と珍しいような気がするけれど、どうなんだろう。
そして、幕が上がると、そこは、エキゾチックといえばいいのか「コンクリート打ちっ放しの現代的なアパートメント」から、屋根裏部屋がありそうな温かみのある小さな一軒家といった感じの場所に変わっている。
レナードの家だ。
レナードの家にやってきたのはマーチンで、セミナーを途中で辞めてしまったのだから受講料の半額を返せと言いつのる。どうやら、マーチンがレナードの絶賛を拒絶したことで、セミナーは事実上の活動停止状態になっているらしい。
「取り込み中なんだ」と言うレナードの台詞はマーチンには全く届かず、業を煮やしたレナードの「相手」が姿を現す。イジーかと思ったらケイトだ。
マーチンは腰を抜かさんばかりに驚く。そりゃあ、イジーに「転んだ」とはいえ、彼はケイトに懸想していたのだから当然だ。
レナードを追い出したケイトは、マーチンに「レナードを信じろ」と語り、レナードがケイトとダグラスとイジーのそれぞれに「合った」仕事を紹介してくれたことを伝える。ケイト自身も、いわゆる「ゴーストライター」の仕事だけれど、それが自分には合ったスタートだ、やる気が出る、と実に素直に語る。
ここの変化が大きすぎて付いていけなかったのは私だけなのか。
ケイトがどうしてレナードと寝たのか、レナードの「セミナー」はそれぞれに合った方向性を示し紹介することで「有名」なのか、ケイトは満足しているようだけれどダグラスはイジーはどう考えているのか、もう少し丁寧に語ってくれと思う。
しかし、ケイトが「レナードは本当のことしか言っていない」と言うのには、納得できる。
ケイトが去って,マーチンはデスクにあったレナードの小説を読み、「どうして発表しないんだ」となじり「これを読めばあなたが盗作などしない人物だと判る」と言う。
ここで少しだけ、マーチンのレナードに対する態度が軟化したようだ。「物を書く人間が理解し合うのは書いた物を通してだけ」という感じだ。そう考えると、この芝居は割と「型どおり」の進展を遂げているのかも知れない。
さらに、マーチンがずっと以前に恩師を通じてレナードに送っていた原稿を、レナードはマーチンに「やっと読んだ。推敲してある」と渡す。それを読んだマーチンはさらにレナードの能力と、自分の作品に対するいわば敬意を感じて戦いたように見える。
そのマーチンに、レナードが「小説家には、編集といういい相棒が必要だ」「俺と組め」と迫る。
その2人の顔をデスクの上のスタンドの明かりだけが照らし、幕が下りる。
ケイトのとんがりぶりと最後の物わかりのいい感じや、悪いと見えた人物が実はいい人だったこと、盗作したという噂は誤解だったとか、女の武器を使いそうな彼女はやっぱり使っていた等々、一つ一つは「うん、そうだよね」という、何というか普通の展開をしているのに、全体としては「こう来たのか!」という驚きのある、不思議な舞台だった。
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