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2014.01.31

「真田十勇士」を見る

日本テレビ開局60年特別舞台「真田十勇士」
脚本 マキノノゾミ
演出 堤幸彦
出演 中村勘九郎/松坂桃李/比嘉愛未/福士誠治
    中村蒼/高橋光臣/村井良大/鈴木伸之
    青木健/駿河太郎/石垣佑磨/加藤和樹
    音尾琢真/加藤雅也/真矢みき
観劇日 2014年1月30日(木曜日)午後6時30分開演
劇場 青山劇場 1階M列39番
料金 11500円
上演時間 3時間25分(20分の休憩あり)

 先週末に見た「真田十勇士」が面白かったので、こちらの「真田十勇士」もやっぱり見てみようと思い立ち、チケットを購入した。

 日本テレビの公式Webサイト内、「真田十勇士」のページはこちら。

 昨年に真田幸村演じる上川隆也主演の真田十勇士が上演されていて、今回は中村勘九郎演じる猿飛佐助を主役に据えた真田十勇士である。
 たまたまなのだろうけれど、両方とも大きな劇場で派手な演出、外連味たっぷりに勢いで嘘を真と言いきりましょうという潔いスタンスというところも共通だ。
 ところが、私の記憶力の低下だけの問題でもなく、つい比べてしまうというところがなかったのが我ながら謎である。主役の醸し出す雰囲気というか空気の違いが大きかったように思う。

 初っ端から、勘九郎が音頭を取って、村人たちを従え、しこたま酒を飲みながら「嘘をまことに、まことを嘘に」と歌い踊る。
 「これから始まるこのお芝居は嘘ですよー」と力いっぱい、しかし勘九郎の軽みを目一杯引き出して宣言する。
 映像を駆使して登場人物を紹介し、松坂桃李には「水も滴るいい男」と言わせるし、勘九郎の紹介には「明日の歌舞伎界を担うスター」なんていう冠をつける念の入れ用だ。
 勘九郎が「出にくい!」と松坂桃李とナレーションに文句をつけると、松坂桃李は流し目一閃、三津五郎は「おまえのことは産まれる前から知っているんだよ!」と応えて、笑いを取る。虚虚実実織り交ぜ取り混ぜという雰囲気が作られる。

 話は戻って、村長の娘を人質に逃げ出した佐助のところに、加藤雅也演じる「この顔はどうも名将に見えてしまうが、実は名将でも何でもない」「顔がいいと辛い」と本気で思っているらしい真田幸村が登場する。
 確かに、堂々としているし、いかにも名将な押し出しだ。
 顔もいい。何も考えずにぼーっとしていても「深慮遠謀を張り巡らせている」ように見える。不幸といえば不幸だ。
 娘と自分を人質として交換させると、そうした「赤の他人に漏らしていいんですか」というようなことども縷々述べて、この名声を落とす前に殺してくれと佐助に懇願する。
 「だったら、真田幸村は名将だったという大嘘を、この先100年200年先にまでとどろかせてやろうじゃないか」というのが佐助の返事だから振るっている。しかも、どうやら思い付きをしゃべっているらしい。

 この後は、ひたすら佐助が主導で歴史が動いて行く。
 松坂桃李演じる同じく抜け忍である霧隠才蔵を始め、佐助曰く「ぴーんと来る」ちょっと変わった仲間を集め、「真田十勇士ここにあり」と喧伝し、最終目標は不明ながらとにかく真田の評判を高めることに心血を注ぐ。
 お調子者っぽい佐助と、ひたすら冷静冷血であろうとしているような才蔵、才蔵に惚れていた比嘉愛未演じる忍びの頭の娘の火垂に、抜け忍の2人を付けねらう仙九郎らの若者たちの、まぁ判りやすい愛憎バレバレのやりとりがそれはそれで面白い。

 淀殿と真田幸村を始めとする大人組も、判りやすく「大人のわかりにくさ」を見せてくれて、こちらはこちらで「謎が謎を呼ぶ」感じが演出されていて楽しめる。
 徳川家康から淀殿に宛てた密書には何が書かれていたのか、それを読んだ淀殿が何故「豊臣恩顧の武将を大阪城に集めて徳川を迎え撃とう」といきなり主戦論に変わったのか、その後、淀殿がわざわざ危険を冒して一人で真田幸村に参戦を促しに行ったのは何故なのか、というか、そもそも参戦を促すことが目的だったのか。
 この辺りも虚実織り交ぜて、「史実として認められていること」と何とか文庫に書かれた真田十勇士の有名な物語とを散りばめつつ、さらに新たな物語を生み出そうという気概が溢れている感じがする。

 十勇士が揃い、淀殿に幸村が押し切られて、真田勢の大坂冬の陣参戦が決まる。
 幸村が、何故かここだけは格好良く「名乗りを上げよ」と命じ、それに答えて十勇士がそれぞれ名乗りを上げたところで休憩である。
 九番目に名乗りを上げた才蔵が決め過ぎて、最後の佐助がやりにくそうなのは既にお約束だ。

 後半はもう、画像でも自ら言い切っていたけれど「怒濤の展開」である。
 大坂冬の陣における真田丸設置から何から、すべて真田幸村の軍略は佐助と才蔵の入れ知恵だったという設定で、真田幸村の軍勢は大いに名を挙げる。大坂冬の陣は大阪勝利と言ってもいい状況だったのに、淀殿の鶴の一声で、城の堀を埋めることに同意してしまう。流石の凡庸の武将である真田幸村も反対したけれど、不幸なことに「秀頼を守る」ことだけを考えている母に通じる理屈などないのだ。

 火垂の才蔵への思い入れはどんどん判りやすく強くなり、大阪の負けは決まっているのだと家康からの密書を才蔵に渡してしまうし、さてこれが本当だったかどうかは不明だけれど佐助が淀殿の元に忍び込んで、幸村が淀殿を慕っていたという伝言を渡す。
 この「真田十勇士」では、成り行きの要を握っているのは女なのだ。

 その後も、裏切りあり、チャンバラあり、フライングあり、幸村が突然変貌して家康の首を取ることで一発逆転を目指し、その意気に応じた真田十勇士も鬼神のごとき活躍をみせたものの、あと一歩及ばず、幸村は淀殿と秀頼を守れと佐助に言い残して死んでしまう。
 徳川家康役で、何故か平幹二朗が映像でのみ出演していたのが謎だけれど、あの目力は迫力がある。

 真田十勇士を描くと最後にはそこに行き着くのか、やっぱり、「秀頼は生き延びた」というラストは外せないらしい。そして、昨年見た真田十勇士もそうだったのだけれど、キーポイントは「真田十勇士に、秀頼そっくりの人間が含まれている」というところで、今回は福士誠治演じる根津甚八がそこに当たる。だから、根津甚八を臆病者の設定にして、大阪での戦いのシーンでは秀頼を登場させるため、根津甚八は戦が恐ろしくてどこかに隠れていたことにする辺り、上手いよなぁと思う。

 火垂が才蔵に渡した書状には、家康から淀殿に宛てて、徳川の敵となるような武将を全て大阪に集めて敗れるように仕向ければ秀頼の命だけは助けると書かれていた、らしい。
 最後の最後、幸村の遺言を守ろうとする佐助に才蔵はその書状の内容を明かし、こいつだけは許せないと淀殿母子を切り捨ててしまう。さらに佐助と相打ちになり、火薬庫に火を放った火垂は才蔵とともに死ぬと泣き、淀殿母子のとどめを刺しに来た徳川の忍びの頭領2人は、その場を去る。
 そこに残っていたのは、死に絶えた淀殿母子と真田十勇士の残り5人の死体、そして泣き叫ぶ火垂のみ・・・、と終わらせるのでは後味が悪すぎる。

 結局、一連のやりとりは徳川を騙すための大芝居で、真田十勇士の生き残り5人は確かに生き残り、殺されたように見えた淀殿ももちろん、秀頼には根津甚八が扮していたというオチがつく。
 気を失わせた秀頼は長持ちに詰めたまま運び出したけれど、しかし、本当に秀頼の命一つのために多くの武将を死なせた淀殿は大阪城とともに果てると残る。
 この辺りの判断を「どうする」と才蔵が振るのは佐助で、こういうルパン三世っぽいキャラはいいよなぁと思ったりするのだ。

 そして、生き残った秀頼は、薩摩に落ち延びることにしたようだ。
 薩摩に着くまでは甚八が秀頼に扮することにしたらしく、その甚八に佐助は騙され、しかし、火垂に大芝居に協力させるために才蔵が火垂を女房にしたいだかなればいいだか言っていたと大嘘を吐いていたことが火垂にバレ、火垂は何だかやけに大仰な銃を構えて才蔵を追い回す。
 最後の最後まで嘘八百が舞台狭しと駆け巡って、幕である。

 道筋は全く違うから見ているときは気がつかなかったけれど、でも、見終わった今となっては「実は秀頼は生き延びていました」以外の大どんでん返しはないものかと思わなくもない。
 けれど、最後の最後まで騙されまくって、本当にスカッとしたのだった。

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