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「もっと泣いてよフラッパー 」
作・演出・美術・衣裳 串田和美
作曲 越部信義/八幡茂/乾裕樹
音楽監督・編曲 ダージリン(佐橋佳幸/Dr.kyOn)
出演者 松たか子/松尾スズキ/秋山菜津子/りょう
大東駿介/鈴木蘭々/太田緑ロランス/大森博史
真那胡敬二/小西康久/酒向芳/内田紳一郎
片岡正二郎/串田和美/片岡亀蔵/石丸幹二
松之木天辺/山岸門人/近藤隼/佐藤卓
内藤栄一/木村智早/丹羽麻由美/福島彩子
後藤海春/横岡沙季
ミュージシャン 佐橋佳幸(Gt)/Dr.kyOn(Pf)/黒川修(B)
木村おうじ純士(Drs)/黄啓傑(Tp)/花島英三郎(Tb)
観劇日 2014年2月22日(土曜日)午後1時30分開演
劇場 シアターコクーン XC列14番
上演時間 3時間20分(15分の休憩あり)
料金 10500円
ロビーではパンフレット(1800円)や、過去公演のDVD、CDなどが販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
オンシアター自由劇場の「もっと泣いてよフラッパー」は、タイトルは知っているけれど見たことはない。DVDも見ていないので(そもそも存在するのか?)、かなり楽しみにしていた。
そういえば、そちらを楽しみにし過ぎて、そういえば串田和美演出はあんまり得意じゃないということを忘れていたくらいだ。
松たか子演じるジルが田舎からシカゴに出てきて踊り子となり、ギャングやボクサーや他の踊り子たちと禁酒法下の猥雑な時代と街を謳歌する、そういう話だと思う。
基本的なストーリーはそれで合っていると思うのだけれど、しかし、突然ネズミたちの世界にジルが紛れ込んだり、舞台がクラブだから歌と踊りは満載、串田和美や大森博史、石丸幹二らはバンドの一員として管楽器まで演奏する。「これは夢ですよ」「現実世界じゃないんですよ」「祝祭ですよ」という雰囲気が横溢している。
華やかな衣装に、歌と踊り、とにかくそこは別世界だ。
ジルがシカゴに出てきて、最初に出会ったギャングたちは、松尾スズキ演じるボス「アスピリン」に率いられている。そのボスが一目惚れした鈴木蘭々演じる女性フラボーは、石丸幹二演じる正義感に燃える新聞記者の婚約者だ。この新聞記者は、彼の恋心を利用してアスピリンを破滅に導くけれど、同時に婚約者を失う。しかし、一目惚れをお互い成就させたフラボーとアスピリンだったけれど、その直後、アスピリンは殺されてしまう。
ネズミの世界から戻って来たところで出会った大東駿介演じるボクサーのチャーリーは、実は八百長で稼いでいる。
ジルの同僚となった、りょう演じるキリーは男に騙され続け、ついに「騙さない男」に出会って出て行こうとしたけれど、元ギャングの彼は警察に捕まってしまって舞い戻るし、太田緑ロランス演じるギナンも何やら不幸の影を背負っている(けれど、考えてみればこの舞台が動いている時間軸では不幸なことが起こっていない唯一の女性かも)、秋山菜津子演じるサラは片岡亀蔵演じるコミ帝国の皇太子に惚れられるけれど、上手く応えられないまま彼に自殺されてしまう。
ジルも、「もう八百長は止める。」というチャーリーの最期の試合で、彼は(多分)死んでしまい、一緒に逃げようという約束は果たされないままだ。
踊り子(フラッパー)たちは、毎日、華やかに楽しそうに美しく歌い踊っているけれど、しかし、彼女たちは一度は掴んだかのように見えたシアワセを掴み続けることができず、その喪失感を抱えながら、今日もまた舞台に立ち、歌い、踊る。
その、切なさというか、賑やかで華やかで美しい世界の真ん中で笑顔を満面に湛えて歌い踊る彼女たちが内に持っている哀しみや辛さややるせなさ、ついでにいうならそういう彼女たちをどうしても幸せにできない男たちのダメさ加減、この舞台の肝は間違いなくそこにあると思う。
その「肝」を「肝」にしているのが、音楽だと思う。
とにかく「祝祭」だ。
そして、松たか子がとにかく綺麗で、とにかく上手い。前に、やっぱり串田和美が演出した「コーカサスの白墨の輪」のときにも思ったけれど、綺麗で歌に迫力があって、踊りも楽しそうで、踊っているときの笑顔まで完璧にコントロールしている感じ。これで釘付けにならなかったら嘘でしょう、と思う。
そして、舞台のど真ん中で「主役!」という感じで歌っているときはそこまでの存在感を舞台上に広げているのに、踊り子としてバックで踊っているときは、「綺麗だけど地味な女の子」になっているのがまた凄い。
この舞台の「祝祭」の感じは、なかなか今この時期に舞台上に作り出すのは難しいんじゃないかという感じはした。舞台上に作り出すことはできても、客席の側が多分もの凄く違っているんじゃないかという気がする。
そして、客席の反応が違えば、舞台も変わるだろう。
初演は20年近く前のことだと思うのだけれど、多分、その初演の雰囲気はもう取り戻すことはできないんだろうと思う。
でも、人生上手く行かない、行っていない人達が夢見た祝祭の世界は、こちら側にも現実ではない時間を味わわせてくれたと思う。
それにしても、マスクをしていたとはいえ、狂言回しの紫色のストライプのスーツのおじさんが串田和美だと最期にマスクを取るまで気がつかなかった私は相当のマヌケである。
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コメント
あんみん様、コメントありがとうございます。
初日と千秋楽の両方をご覧になったのですね。
それは、かなり楽しい観劇ですね。随分、違っていたりしますものね。
「もっと泣いてよフラッパー」の千秋楽は、本当に千秋楽らしい千秋楽だったようですね。いいなぁ。羨ましいです。
松たか子ってやっぱり凄い役者さんですよね。
それから、チケットの件もお知らせありがとうございました。実は今日は「9days queen」を見に行っておりまして、帰宅してからチケットを押さえました。
「9days queen」は、私は結構良かったです。
これから感想書きますね。
投稿: 姫林檎 | 2014.03.08 17:57
こんにちは、あんみんです。
フラッパー大雪の初日に続いて、先週の千秋楽も観てきました!
初日は1幕で今一つ息が合ってない所も有りましたが
(ただし松さんは初日から完璧でした)
楽は最初から最後まで素晴らしく、哀しくて・せつなくて・スィングして・笑わせて・文句なく楽しい!
松さんの、透明で力強い歌唱力、ダンス、華のある容姿、もちろん演技も
どれをとっても演劇界の為に生まれた人と思えます。
このジルには松さん以外考えられない位。
千秋楽はお祭り騒ぎで、カテコは総立ち、
松さん・串田さん筆頭に歌い演奏しながら客席降りで何度も回りました。
凄い熱気でキャスト全員ノリノリで、こんな千秋楽は初めてでした。
それとダディロングレッグズも素晴らしかった!!!
これは姫林檎さんのレポ待ちで...。
あとひとつ週明けに『1本目って何観たっけ?』と思ってしまったくらいの印象を残したのは「9days queen」です...。
他の2本が余りにも強烈に良かった為と思われます(笑)。
田畑さん、江口さん(ご贔屓)、ソンハさんが良かったですが。
投稿: あんみん | 2014.03.08 11:26
みずえ様、コメントありがとうございます。
「もっと泣いてよフラッパー」ご覧になったのですね。
モモンガの話、イソップ童話などにありそうな感じもしますし、ありそうでなさそうなオリジナルの童話という気もします。
私は、実はあのシーンでは「もしかして、このお芝居ってこの後はずっとネズミの世界の話?」と気が気でなく、ジルの語る物語には今ひとつ集中できなかったのですが(笑)。
「もっと泣いてよフラッパー」の歌はちょっとしか出てこないのに、やけにメロディーが頭に残りましたよね。私も帰り道でぐるぐる回っていました。
またよろしければ遊びに来てくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2014.03.01 12:48
姫林檎さま
私は昨夜観ました。
これは「音楽劇」ですね。
本当に音楽は素敵でした。
そしてストーリーの、幻想的でもの哀しいこと。
誰も幸せにならないことは、容易に想像がつきますね。
初めのネズミのところでの、ジルのモモンガの話は、聞いていてとても引き込まれたんですが、オリジナルの話かしら? どこかの童話?
松たか子は、素晴らしかったですね。
彼女の透明感ある歌声と愛らしい笑顔には、すっかり魅了されました、特にファンでもないのに。
りょうや蘭々も頑張っていたけど、彼女には適わない気がしました。
あと、個人的には松尾スズキがツボ。
この人、演出家に徹しないで、もっとどんどん役者もやって欲しいですよね、あまちゃんでのマスター役も面白かったし。
帰り道、「もっと泣いてよフラッパー」の曲が、頭の中をぐるぐる回っておりました。
いつも更新、楽しみにしております。
私はNHKの「劇場中継」をよく観るのですが、「あ、これ、姫林檎さんがアップしてたな」と思い出して、嬉しくなることがありますよー。
投稿: みずえ | 2014.02.28 09:43