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「9days Queen ~九日間の女王~ 」
脚本 青木豪
演出 白井晃
音楽 三宅純
出演 堀北真希/成河/江口のりこ/田畑智子
浅利陽介/姜暢雄/愛名ミラ/和泉崇司
青葉市子/朴ろ美/神保悟志/春海四方
久世星佳/銀粉蝶/田山涼成/上川隆也
観劇日 2014年3月8日(土曜日)午後1時開演
劇場 赤坂ACTシアター S列2番
上演時間 2時間45分(20分の休憩あり)
料金 11500円
グッズ販売に力が入っていて、パンフレット(2000円)以外にもTシャツやトートバッグ、スワロスキーのアクセサリなどが販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
16世紀のイギリスで、エドワード6世の死後、メアリ1世が即位する前の僅か9日間だけ英国女王の地位にあったジェーン・グレイを描いたお芝居である。
これが、何だか意外なくらい好きな感じだった。
ジェーン・グレイという人は、普通の真っ直ぐな大人しい勉強好きの女性として描かれている。
このとことん灰汁や個性のない感じは、演じる堀北真希の持つイメージに近いのではなかろうか。そういう意味でも、このお芝居はインパクトを狙った感じではない。
普通の、しかし少し裕福な家に生まれていれば幸せに暮らせたのにね、というジェーン・グレイは、実は薄いながらも王家の血を引いていて、そのことが神保悟志演じる父親の野心を狂わせ、田山涼成演じる王位を狙うジョン・ダドリーから目を付けられることになる。
「ブラッディ・メアリ」と呼ばれるメアリ1世や、「バージン・クィーン」と呼ばれるエリザベス1世を描いたお芝居は数々あるだろうと思うのだけれど、その個性の強すぎる有名すぎる2人の女王の前に、僅か9日間だけ英国女王の地位に就いた女性がいた。
ある意味、このお芝居はそれが全てだ。
ジェーン・グレイは「普通のいいお嬢さん」という風に描かれていて、彼女に物語を動かさせるのは厳しい。
だから、上川隆也演じるロジャー・アスカムという家庭教師を登場させて合わせて狂言回しの役割も振っている。ロジャーは家庭教師だけれど、ヘンリー8世の最後の王妃であるキャサリン・パーの指名を受けて、エドワード6世にメアリとエリザベスという王位継承権を持つ子ども達の家庭教師を務めているし、エドワード6世の後見を務める春海四方演じるサマセット公とも親しく、イギリスの現状を見て回ろうという意気込みも持っている。
いわば、この当時のイギリスの権力者の間を泳いでいたとも言える人物を配することで、物語を動かしているのだ。
このロジャーとともに、主演の堀北真希を助けているのが、青葉市子演じるブラックバードだと思う。
ブラックバードは、その名のとおり鳥の役だけれど、実際は、舞台上にずっと腰を据え、黒いフードとマントで存在を消し、しかし、高音の不思議な声で歌って、ジェーン・グレイに語りかけ、彼女の心象を表現している。
衣装も、ブラックバードが黒いのに対して、ジェーン・グレイは「メアリ1世から送られた」という赤いドレスを一瞬まとった他はほぼ一貫して白いドレスを着ていて、対のようの扱われ方である。
このブラックバードが、舞台の端から1/4くらいのところにずっといることで、この舞台は多分、その印象をかなり大きく変えているのではないかと思う。
舞台上でブラックバードが陣取る位置から手前に石段を思わせる階段が下に向けて作られていて、役者はそこからも舞台上に出入りする。
また、蜂起した農民などは客席から登場して、舞台のみならず客席も含めて一つの空間、といういう印象を与えている。
一方で、広いはずの赤坂ACTシアターの舞台上は、四角い箱を何重かに重ねて置くような感じになっていて、広い舞台をわざわざ狭く使っているようにも見える。それは、多分、ジェーン・グレイが抱える「勉強だけして生きて行きたいのに」といういわば閉塞感を表しているようにも感じられる。だからこそ、最期の日々を過ごしたロンドン塔のシーンでは、その箱が取り払われ、広くて高い空間が作られていたんじゃないだろうかと思う。
ジェーン・グレイという主人公である女性を、この芝居は、徹頭徹尾、芯はしっかりしているもののインパクトのない女性として描いているようにも見える。
それは「堀北真希そのままね」という印象にも通じる。
物足りないなぁとも思うのだけれど、しかし、浅利陽介演じるエドワード6世からの求婚をはねのけ(そのくせ、彼の結婚が決まると動揺しているのだけれど)、ロジャーに「住む世界が違うのだ」と嘆かせ、政略結婚というか陰謀の一環としての結婚であったにも関わらず、成河演じる夫のギルフォードはその最期の日々をジェーンとともに過ごそうとする。
悪くいえば、3人の男を手玉に取っているとも言える訳で、しかしそういう風に悪く言わせないような人物像を作る、表現するというのは、結構凄いことなんじゃないかとも思うのだ。
それに、インパクトのある女性は周りにたくさんいる。
田畑智子演じるメアリは何しろ「ブラッディ・メアリ」だし、江口のりこ演じるエリザベスは後の「バージン・クィーン」である。
そして、地味なところで結構な冒険だったんじゃないかと思うのだけれど、この芝居では、どちらかというと、メアリが気は強いし冷酷だけれど現実を確かな目で見つめている賢い女性に、エリザベスを気が強いくせに自分の王位継承権復権に力を尽くしてくれたキャサリン・パーの夫と悪ふざけをして悪びれない、駄目なというか、周りが見えていない考えなしの女の子として扱われているような気がするのだ。
私が持っているイメージだって、そもそも、全てどこかからの借り物なのだけれど、でもその借り物のイメージの真っ向逆に行く設定が、私には結構新鮮だった。
タイトルからしても、宣伝からしても、歴史的な事実からしても、最期にジェーン・グレイが斬首刑(絞首刑ではありませんでした。ひかるさん、ご指摘感謝です。)で命を落とすことは判っていて見ている。
それなのに、このお芝居はどうやって終わるんだろう、次はどういう展開になるんだろう、と気になって、食い入るように見てしまう。
そういう、不思議な力をもった舞台だった。
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コメント
ひかる様、コメントありがとうございます。
そして、教えていただいてありがとうございます。早速、追記させていただきました。
そうですよね、絞首刑って、要するに首つりですよね・・・。
私も江口のり子さんを拝見して「魔女!」と思った一人です(笑)。
投稿: 姫林檎 | 2014.03.09 22:40
ジェーン・グレイは「絞首刑」ではなくて、手斧による『斬首』です。
切られた首から血しぶきが飛んで、敷き詰められた藁とジェーンの衣が深紅に染まるというような演出を期待していたんですけれど・・・、ちょっと期待外れでした。
江口のり子さんは、先日の「マクベス」の印象が強すぎて、どうにも魔女に見えて仕方がなかった。
確かに、不細工で気が強くて癇癪持ちというのは、史実のエリザベスどおりなのだが・・・。
投稿: ひかる | 2014.03.09 17:56