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2014.03.08

「おそるべき親たち」 を見る

「おそるべき親たち」
作 ジャン・コクトー
台本 木内宏昌
演出 熊林弘高
出演 佐藤オリエ/中嶋しゅう/麻実れい/満島真之介/中島朋子
観劇日 2014年3月7日(金曜日)午後7時開演
劇場 東京芸術劇場 シアターウエスト  R5列5番
上演時間 2時間25分(15分の休憩あり)
料金 6000円

 ロビーでは、パンフレット(500円)が販売されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 東京芸術劇場の公式Webサイト内、「おそるべき親たち」 のページはこちら。

 開演前から客席全体がかなり暗い照明になっている。ちょっと異様な暗さである。
 舞台は、三方から客席で囲むようになっていて、私はその舞台を横から見る角度の席だった。多少、「今、舞台上にいる人物の誰の顔も見えないよ!」というときはあったけれど、その分、舞台に近かったし、これはこれで面白い角度だったと思う。
 舞台の張り出した部分は正方形に近く、そこは地味に回り舞台になっていて、時々、(私の感じでは、緊迫した台詞の応酬が行われているときが多かったように思う)、ゆっくりと回っていた。

 何というか、1月に見た「TRIBES」に非常に似た印象の舞台だ。
 今、確認したら、どちらも演出が熊林弘高氏だった。そうすると、短期間に随分と同じ印象の戯曲を取り上げ、似た感じの演出を行ったんだなぁと思う。ここまで印象が似た戯曲を短期間に演出するなら、逆に、全く違う演出にしようという欲は出なかったのかしらと余計なことを今思ってしまった。
 私が「似てるなぁ」と思ったのは、中嶋朋子が歪んでいるけれど狭く完結していた家族を壊す役柄で出ていること、その壊し方が「息子の恋人」であること、舞台全体が黒っぽく暗めにされていて客席にせり出すようになっていること、「家族」は黒っぽい衣装で息子と恋人は白っぽい衣装であることなどからだ。

 しかし、この2つの戯曲・舞台で大きく異なっているのはラストシーンだ。
 「TRIBES」では曲がりなりにも「明日に進んで行こう」という前向きな終わり方をしているのに対して、「おそるべき親たち」ではこれまで以上に閉塞した状況が確定して終わる。TRIBESでは、若いカップルに一応の未来が用意されているけれど、おそるべき親たちでは、多分、最悪の終わりを見せている。
 そう考えると、ラストシーン、戯曲の終わり方というのは、実は舞台全体から見るとそれほど大きな位置を占めていないということになるんだろうか。

 麻実れい演じるイヴォンヌが母親、中島しゅう演じるジョルジュ演じる父親との間の正しく一粒種が満島真之介演じる22歳のミシェルだ。
 イヴォンヌはミシェルを溺愛して夫のことなんか放ったらかし、そもそもジョルジュとイヴォンヌとはともに生活能力など皆無で、イヴォンヌの姉妹である佐藤オリエ演じるレオが相続した遺産で一家の経済を支え、生活面でも「片付け魔」として秩序を保とうと割と空しい努力をしている。
 レオは、元々はジョルジュの婚約者で、しかしそのジョルジュはイヴォンヌに惹かれて結婚してしまい、その後23年間もレオはこの夫婦の面倒を見ている。
 イヴォンヌがミシェルにかかりきりのため、ジョルジュは実は若い女性と浮気をしている。そのことに気付いているのはレオだけだ。

 設定を書き出すだけで歪んだ感じが満載である。
 この状況を、登場人物達は「ジプシー」と称している。何だか私の持っているジプシーのイメージと彼らのイメージは違うのだけれど、とにかく「社会からはぐれてしまった」という趣旨なんだと理解した。
 22歳の息子がたった一泊の外泊をしただけで、イヴォンヌは気が狂わんばかりとなり、そして、そのミシェルが帰宅して「恋をしている」「彼女に会って貰いたい」と言い出したことで、イヴォンヌは大混乱だ。
 しかも、話をするうちに、その中嶋朋子演じるマドレーヌが、実は、ジョルジュの浮気相手でもあったというから、悲劇の幕開けとしてのお膳立ては十分である。

 ここで、レオの冷たい目が光る。
 彼女は舞台中央にいないときにも、常に冷たい冴えた目をして、自分の前で展開する、イヴォンヌとミシェルの異常にすら見えるスキンシップを見据え、ジョルジュをコントロールする。
 そして、ジョルジュに「ミシェルを取り戻せ」と言い聞かせ、作戦を伝授する。もちろん、ジョルジュがマドレーヌと浮気をしていたことをイヴォンヌにもミシェルにも悟られないようにと言うことで、ジョルジュの協力を取り付けるのだ。
 正直に言って、この段階ではレオの目的、最終目標はさっぱり判らなかった。
 確か、ミシェルはもう22歳なんだし、その自立を促す方向に話していた筈だったではないか。

 それにしても、この芝居に出ている役者さんたちはみなさんハマり役だよなぁと思う。
 中島しゅうの品はいいけど小心で気が弱く生活力のない感じ、麻実れいの息子を溺愛するエキセントリックな感じ、佐藤オリエの冷たい目(私は佐藤オリエというとTPTの「ガラスの動物園」を思い出すのだ)、満島真之介の邪気があるんだかないんだか判らない莫迦っぽさに、中嶋朋子のまともな感じ。
 大体、TRIBESのときにも思ったけれど、中嶋朋子って40歳前後だと思うのだけれど、普通に25歳を演じてしまうのが凄いと思う。小柄で華奢というのもあると思うけれど、それにしても自然に25歳を演じてしまうところが凄いと思うのだ。25歳になっているのではないという感じである。

 いったんは、レオの入れ知恵どおりにジョルジュがマドレーヌを説き伏せ、自分との関係をミシェルにバラされたくなかったら、第三の男がいるからミシェルとは結婚できないという筋書きを受け入れさせる。
 ここでジョルジュが父親としてだけでなく、というよりも、むしろミシェルの父親であるという立場なんか吹っ飛ばして、単に自分を裏切った女に復讐しているのが怖い。
 しかも、それは自分の考えではなく、全てレオのコントロール下で起こっていることなのだ。

 ここから後はもう、「恐ろしいレオ」の本領発揮である。
 泣き崩れるマドレーヌを「あなたの味方よ」と慰め、翌日に家にやってくるように言い含める。
 そして、ジョルジュを説得し、マドレーヌがジョルジュの愛人だったことは秘密にしたまま、しかしミシェルとマドレーヌとを幸せにしてやりたい、それが23年前に間違えた我々がなすべきことだとどうやってもジョルジュが無視できない切り札を繰り出し、完全にジョルジュを支配下に置く。
 そして、ジョルジュは完全にレオの僕となって、イヴォンヌを説得し、ミシェルとマドレーヌの結婚を認めるように言い含める。

 ここで、お膳立ては全て完成である。

 その後の崩れ方はもうドミノ倒し状態だ。
 ミシェルとマドレーヌは幸せ一杯だけれど、それを見たイヴォンヌは何やら薬を服用してしまったらしい。それはいつもの「糖尿病のためのインシュリン」ではなく、彼女は一気に幻覚に苛まれる。
 いつもは真っ先にかけよって介抱するレオだけれど、今回ばかりは、冷たい目で彼女を見つめ、慌てふためくジョルジュやミシェルに医者を呼ぶよう言いつけるだけだ。今日は、医者を呼ぼうにも連絡がつかないことは予めお見通しらしい。

 「自分のせいだ」「ここにいてはいけない」と言うマドレーヌをレオは「ミシェルにはあなたが必要だ」と引き留める。
 そして、イヴォンヌは指一本触れずにレオが見下ろす中、息を引き取る。
 医者を探しに行って果たせずに帰って来たミシェルとマドレーヌは驚愕する。特にミシェルの狂乱は激しく、いきなりズボンを降ろしてもう亡くなっている母親に襲いかかる。マドレーヌの悲鳴のような制止は全く耳に届いていないようだ。

 そこで、レオが一言、「これで片付いた」
 ふっと明かりが消え、幕である。

 恐ろしい。
 しかし、「おそるべき親たち」というタイトルに歌われている「親たち」というのは誰なんだろうと思う。
 もちろんレオは恐ろしい。
 23年間、この日を夢見てきたのか、この女性は、と思う。ジョルジュとレオとミシェル、そういう閉じた世界が彼女にとっての「片付いている世界」なのだ。
 しかし、ミシェルをこんな風に育てたイヴォンヌだって恐ろしいし、その母子を放置していたジョルジュだって恐ろしい。
 でも、やっぱりぞっとしたのは、レオの冷たく大きく見開かれた目である。

 出演者たちが笑顔で最後の挨拶をするのを見たときには、心からほっとしたのだった。

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コメント

 ひかる様、コメントありがとうございます。

 なるほど「おそるべき親たち」がそっくりなのではなく、「TRIBES」の方がそっくりなんですね。
 「おそるべき親たち」は再演ですものね。4年前の初演を見ていないので、すっかり、自分が見た順番で物事を考えてしまいました。

 教えていただいてありがとうございます。

投稿: 姫林檎 | 2014.03.16 10:18

来週、木内宏昌さん脚本の「ちぬの誓い」を見るので、「おそるべき親たち」も気になっていたのですが、4年前の初演も今回も観に行けません。

ところで、脚本家も演出家もキャストも4年前と同じだから、内容も、ほぼ同じだったのかな?
http://stage.corich.jp/stage_detail.php?stage_id=22365

時期的には、「おそるべき親たち」の演出を見て、世田谷パブリックシアターが「TRIBES」の演出を依頼したというタイミングではないかと思うけれど・・・。

投稿: ひかる | 2014.03.16 01:14

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