「ダディ・ロング・レッグズ ~足ながおじさんより~」を見る
ミュージカル・ロマンス「ダディ・ロング・レッグズ ~足ながおじさんより~」
原作 ジーン・ウェブスター
脚本・演出 ジョン・ケアード
音楽・作詞 ポール・ゴードン
出演 井上芳雄/坂本真綾
観劇日 2014年3月9日(土曜日)午後0時30分開演
劇場 シアタークリエ 18列12番
上演時間 2時間45分(20分の休憩あり)
料金 9000円
ロビーではパンフレット(フォトブックとセットで1500円、だったろうか)などが販売されていた。
また、お隣の日比谷シャンテ3階の八重洲ブックセンターでは、このミュージカルのパネル展(5〜6枚展示してあり、プレゼント応募ができるようになっている)も開催されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
「あしながおじさん」は、ほぼ主人公のジルーシャ・アボットの書いた手紙のみで構成された小説である。というか、この舞台があまりにも良かったので、帰りにシャンテの本屋さんに寄って「あしながおじさん」と「続・あしながおじさん」を購入し、帰りの電車で一気に読んでみたらそうだった。
でも、この舞台を見た直後は、「あしながおじさん」に「あしながおじさん」が登場していたような錯覚を覚えたくらいだった。もちろん、手紙の向こうであしながおじさんがどんな様子であったのか、小説には一切書かれていないのだ。
そのジルーシャの手紙だけで構成された小説を、ジルーシャと「あしながおじさん」の2人だけが登場するミュージカルに仕立てる、というのがまず秀逸だと思う。
上手い、やられた! という感じだ。
そして、登場人物を2人きりにしたことで、看板どおりの「ロマンチック・ミュージカル」の色彩がかなり濃くなったと思う。
ジルーシャの手紙に対する「あしながおじさん」の反応や感想を見せたことで、「あしながおじさん」の方にも恋する少年のイメージが生まれている。
その代わりというのか、展開や台詞はかなり原作どおりだと思うのだけれど、ジルーシャと「あしながおじさん」が会うシーンだけは全くその趣旨が変えられている。
原作では、「あしながおじさん」は余裕綽々で「僕があしながおじさんだって気が付かなかったの?」と驚くジルーシャに告げるけれど、ミュージカルでは、憤慨するジルーシャと全面的に敗北を認めるジャーヴィぼっちゃま、という構図になっている。
ここまで、恋する少年だった「あしながおじさん」を、いきなり取り澄まして年上ぶった人物にはできなかったんだろうなと思う。
私は、原作と舞台作品で、特にラストシーンを変えるというのはあまり好きではないのだけれど、これはこれで成功してるよなと思う。
ジルーシャの歌と台詞は手紙の内容ほぼそのままだけれど、一方の「あしながおじさん」は原作に台詞はほとんどない。唯一の「あしながおじさん」としての台詞は変えられてしまっている。
ジルーシャが書いた手紙を読みながら、ジルーシャの「90歳のおじいさん」「白髪」「物干し竿さん」という「想像」に笑ったりがっくりしたり、ジルーシャと同室の同級生に「ジュリア・ペンドルトン」という学生がいることに驚愕する。
最初は、全く義務だと考えていた「手紙を読むこと」が楽しみのようになり、そして、ジルーシャの手紙を待ち望むようになり、彼女の手紙で書斎を飾るようになる。
原作では全く書かれていない「あしながおじさん」の心の変化が見せられる。
「あしながおじさん」がジュリアの叔父であるジェームス・ペンドルトンとして大学に現れ、ジルーシャと会って意気投合してから、「あしながおじさん」の「恋する少年」っぷりに拍車がかかる。
それが、設定では30代半ばなのよねと思いつつ、微笑ましい限りだ。その「微笑ましい」と思わせる佇まいは、井上芳雄の真骨頂と言えるだろう。
実は、その井上芳雄とほぼ変わらない年代の坂本真綾が18歳から22歳までのジルーシャを演じていることで、ますます、ロマンティック・コメディの様相が示される。
ジルーシャの手紙に出てくる人がほとんど出てくるような舞台劇にすることもできただろうに、それをせずに、出演者を2人にしたところから確信犯という感じがする。
ジルーシャから「あしながおじさん」にサリーの兄のことを書いた手紙が来ると、ジャーヴィ坊ちゃまは慌てふためき、怒り、「あしながおじさん」の秘書の振りをしてジルーシャにタイプで打った事務的な手紙を出す。
一方で、ジャーヴィ坊ちゃまは、自ら「あしながおじさん」であることを明かそうとする手紙を何度も書きかけるのだけれど、そのたびに挫折する。
舞台奥に「あしながおじさん」の書斎があり、手前がジルーシャの寮の部屋や農場の居室という設定で、2人が並んで歌うことは滅多にない。というか、それぞれがそれぞれの場所で勝手に動き、しゃべり、歌っている。
そもそも、ジルーシャが手紙を書いている時と場所、ジャーヴィ坊ちゃまがそれを読む時と場所は、決して同じであることはないのだ。
それでもというか、それだからこそなのかも知れない2人のハーモニーがすばらしい。
歌の力、声の力というのは偉大だと思う。
ラストシーンで、ジルーシャと「あしながおじさん」は初めて出会う。
そして、幕である。
カーテンコールが何度も続き、最後にはスタンディングオーベイションになった。
その最後のカーテンコールで「まだまだ日曜日はありますね。これからみなさん、銀座に行かれたりしてね」とやけにぎこちなく挨拶していた井上芳雄が可笑しい。
見てよかった! と思えるミュージカルだった。
最初にも書いたけれど、「あしながおじさん」が読みたくなって、ロビーで新訳本が売っていたのだけれど人の波に逆らって売店まで行くことができず、シャンテ3階の本屋で続編とともに買って帰り道に夢中で読んだのだった。
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コメント
あんみん様、コメントありがとうございます。
ほんと、良かったですよね−。
むかーしに原作を読んだときのイメージでも、今回読み直したときも、「あしながおじさん」は超然とした感じだと思っていたので、今回の井上坊ちゃま(笑)は、だめだめな感じが好きでした。
私も再再演があったらまたぜひ見たいと思います!
投稿: 姫林檎 | 2014.03.15 15:07
こんにちは、良かったですよね~!
私は初日に観ましたが、既に2014のmyベスト5確実です!
キャストもそうですが、構成が素晴らしいなと思います。
小道具のトランクから色々取り出しながら、衣装替えしたり
ベッドに作り替えたり...。
ずっと変わらないのかと思ったセットも窓の外が明るくなったり、
手紙をあちこちに張り付けたり。
贈られた花束を小道具の後ろからサッと取り出して
今届いた!のようにスポットライトが当たった場面なんかは
「うまい!座布団3枚!」と思いましたもん(笑)。
ジルーシャにいつ正体を告白するのか、やきもきさせられるし、
友達の兄に嫉妬して、どんどん変わっていくぼっちゃま。
なのにジルーシャはしっかりと自分を持っていて、色々楽しんでる。
もう『a new musical romance』の副題も納得(笑)。
これ面白くないって女子はいませんね。
抑え気味に唄った井上さん、のびやかな坂本さんの二人の声の
バランスも良かったですね。
これだけパーフェクトな演目なら5演くらいいくかも。
初日挨拶で井上さんが『毎年この時期に~』と説明したら
坂本さんが『えっ!!!』(毎年ずっと続くと勘違いされて、聞いてない風にとかなり驚かれてました)
坂本さんの滑舌の良さは安定していて、何役も出来る声色、声質、
いつまでも聞いていたい声でした。
なんていいものが観られたんだろうとホクホクしました。
再演が有ったらまた観ます。
投稿: あんみん | 2014.03.15 11:12