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2014.04.12

「酒と涙とジキルとハイド 」を見る

「酒と涙とジキルとハイド 」
作・演出 三谷幸喜
出演 片岡愛之助/優香/藤井隆/迫田孝也
観劇日 2014年4月12日(土曜日)午後1時開演
劇場 東京芸術劇場プレイハウス 2階C列6番
上演時間 1時間45分
料金 9500円

 ロビーでは、パンフレット(1600円だったか、1800円だったか・・・)等が販売されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 東京芸術劇場プレイハウスの2階席はかなり舞台から遠い。
 今回は特にそう感じた。
 その高さを生かして、舞台セットも縦方向を上手く使っていて、階段を上ったところにドア、そのドアを出ると屋上のような道のようなところになっていて、屋上に2人の楽器奏者が陣取り、その前を登場人物が歩く姿の腰から上くらいが見えるようになっている。
 それでも、1階で大部分の芝居が進行するので、やはり遠いと感じてしまう。

 その遠さのせいもあったと思うし、そういえば私は「ジキル博士とハイド氏」を読んだことがないしストーリーも知らないよ、という状態だったせいもあると思うのだけれど、今ひとつ乗れない感じだったのが残念である。
 片岡愛之助演じるジキル博士は、人間を善なる部分と悪なる部分とに完全に分離させる薬を発明した、らしい。その薬に関する効果を、翌日の学会で発表することになっており、優香演じる婚約者のイブが激励にやってくる。迫田孝也演じるプラチナブランド長髪美形の助手の冷静さと、若い女性の婚約者に合わせようとして全てにおいて失敗しているジキル博士と、そんな博士に愛想を尽かす寸前のイブのやりとりが可笑しい。
 そこへ、藤井隆演じる役者のビクターがやってきて、果たしてジキル博士は何を彼に依頼するのか。

 実は、ジキル博士が「発見した」と明日発表する予定の薬は、全くのニセモノというか、失敗作というか、要するにジキル博士は窮地に立っている。
 しかし、これまで自分のことを馬鹿にしていた学会を見返してやりたいし、そもそも実験に失敗したことが判れば助成金が途絶えてしまう。舞台はロンドンの筈なのにどこかの国の話のようだけれど、そんな訳で、ジキル博士は役者であるビクターに「ハイド氏」を演じるよう依頼する。
 ジキル博士がビクターを選んだ理由が「昨日見たシェイクスピアの舞台で、自分と同じ身長の役者を見つけた」といういうことなのだから、何というか、この計画の破綻は最初から明らかだ。

 お金に釣られたビクターが引き受け、リハーサルが始まる。
 のどをかきむしって苦しむジキル博士が衝立の後ろに隠れ、そこからハイド氏に変身した(つもり)のビクターが洗われて、なまはげなんだかハイド氏なんだか判らない感じで「ハイド氏」を演じる。
 そうしてリハーサルしている途中に、ジキル博士の恩師の娘でもあるイブが戻って来たりするものだから、この計画を隠したいジキル博士とプールは、ビクターを追い立て、衝立を使い、ビクターの存在を隠そうとする。
 この人数でこのドタバタ劇なら、やっぱり、もっと小さい空間で見たかったなぁと思う。
 ハイド氏を演じるビクターが、一々舞台に祈りを捧げるような仕草をしたり、小技は随所に効かせてあるのだけれど、みっしり感がないように感じてしまう。

 片岡愛之助のキャラに藤井隆の身体能力、優香が思いの外可愛らしい。テレビで見るよりも美人だわと思う。台詞も聞き取りやすいし、どうして今まで舞台に出なかったのかしらと思ってしまうくらいだ。
 そして、沈着冷静で、みなから「**ってさぁ」と裏話や本音を聞かされ続けているプールを演じた迫田孝也のわざとらしさが秀逸である。コイツは何かを企んでいるんじゃないかという佇まいと、美形さが際立っている。
 これだけ役者が揃い、効果音や音楽に生演奏が入り、くすぐりは入りまくり、笑いも取りまくりなのに、何だかやはりみっしり感がないのが私としては不満である。

 イブはあっさりと、ジキル博士とビクターによるわざとらしい芝居に引っかかって信用し、「ワイルド」になったジキル博士(実はビクター)に惚れてしまう。いいところのお嬢さん風だったのが、実は、妖艶な美女にはっちゃけたかったらしい。
 「またハイド氏に会いたい」からジキル博士に薬を飲ませ、「自分の殻を破りたい」から自分でも薬を飲む。よっぽど自己暗示にかかりやすい性格だったのか、イブはあっさりと「ハイジ」に変身してしまう。
 プールが「これが元に戻る薬です」と水を差しだしたことでさらに混乱に拍車がかかる。イブはハイド氏が好きだし、ハイド氏に化けたビクターもイブが好き、しかしハイジはジキル博士が好きで、ジキル博士はイブが好き、三角関係なんだか四角関係なんだかよく判らない、しっちゃかめっちゃかな状況で、後半、笑いを取りまくる。

 それでも何だか物足りないと思ってしまったのは、多分、私がプールの「何か企んでいそう」な佇まいにやられ、絶対にコイツが何か裏で企んでいて、それが開けてビックリの思いがけない展開で、このしっちゃかめっちゃかさは全て解決するに違いないと勝手に期待して待ち構えていたせいのような気がする。
 実際のところ、プールはこの状況を楽しんで引っかき回しはしているものの、特に何かを企んでいた訳ではなく、ジキル博士とビクターが次々に「ハイジ」になったことであっさりとイブは場の状況を把握し、ついでにジキル博士に愛想を尽かす。
 この辺り、「半沢直樹」を見ていた人には相当のサービスになっていた、と思われる。

 「半沢直樹」を見ていなかった私としては、ラスト近くでのイブの豹変というか、この思い切りというか、オトナになった感がどこから生まれたのか、ついて行けずに戸惑ってしまった。
 多分、この舞台の「大団円」は、イブの成長(なのか?)と自立、親の決めた婚約者であるジキル博士、自分の実験の失敗を下手な芝居で糊塗しようとしたジキル博士との決別にあると思うのだけれど、何だかスッキリ! という感じにならなかったのが我ながら不思議である。

 何だか文句ばっかり書いてしまったけれど、思い返してみると、この芝居を見ている間中「何かがあるはずだ」とその「何か」を見逃すまいと集中したし、次に何が起こるのか知りたくて他のことを考えている余地などなく、大いに笑って来た。
 優香の可愛らしさにノックアウトされ、プールのわざとらしさに引っかかり、ジキル博士とビクターの「ダメ男」ぶりに愛を感じた。
 つまるところ、大いに楽しんだのだった。
 できれば、もっと舞台に近い席で見たかったなぁと思う。

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コメント

 みずえ様、コメントありがとうございます。

 確かにパルコ劇場の大きさって意外と(というのも失礼かも知れませんが)ちょうどいい感じなんですよね。
 プレイハウスは、舞台を立体的に使ったりして、それはそれで楽しいのですが、やっぱり私としては「みっしり」という感じが欲しかったです(笑)。

 私のは、「深く」考えている訳ではなく、単にスレているような気がします(泣)。でも、大どんでんがえーし! みたいな展開をどうしても期待してしまうんですよね・・・。
 たっぷり笑って、伏線が全て回収されてすっきり大団円、というのが好みです(笑)。

 私も「ハルナガニ」を見に行く予定です。
 どんな感じなんでしょうね。楽しみです。

投稿: 姫林檎 | 2014.04.14 22:51

姫林檎さま

私はプレビュー公演で観ました。
大体三谷氏のお芝居は、こじんまりした感じですよね、ご本人も、パルコ劇場の規模がちょうどいいと言っているし。

ジキルとハイドは、私もちゃんと読んだり観たりしたことはないのですが、原作は確か、一人で二つの人格を持っているというか、つまり実験が成功していたはずではなかったかしら?
迫田さんは、私は初めてでしたが、良かったですね。
藤井隆は、初めはとてもハイドに見えなくて、ミスキャストじゃないかと思いきや、案外イケました。
優香は、さすが志村けんに鍛えられたコメディエンヌっぷりといった印象。
私は姫林檎さんのように、深く考えなかったので、後半はただただ楽しみました。
最後に二人ともハイジになるところで、ああ、三谷はこれがやりたくてこのキャストにしたのかな、なんて思いましたね。

今年は三谷幸喜の舞台が目白押しですね!
私は来週、薬師丸ひろこの「ハルナガニ」を観に行くのですが、姫林檎さんは観ますか?

投稿: みずえ | 2014.04.14 14:38

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