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2014.05.25

「トーマの心臓」を見る

Studio Life「トーマの心臓」
原作 萩尾望都
脚本・演出 倉田淳
出演 山本芳樹/松本慎也/及川健/久保優二
    田中俊裕/岩崎大/仲原裕之/関戸博一
    宇佐見輝/牧島進一/原田洋二郎/青木隆敏
    曽世海司/楢原秀佳/山崎康一/石飛幸治
    緒方和也/澤井俊輝/鈴木翔音/若林健吾
    千葉健玖/藤波瞬平/他
観劇日 2014年5月24日(土曜日)午後6時開演(初日)
劇場 紀伊國屋ホール  O列2番
上演時間 3時間5分(15分の休憩あり)
料金 5800円

 ロビーではかなり広く物販コーナーが設けられ、パンフレットやトートバッグ、舞台写真(だと思う)などが販売されて賑わっていた。

 配役が4パターンあり、私が見た回は「アウスレーゼ」である。

 ネタバレありの感想は以下に。

 Studio Lifeの公式Webサイトはこちら。

 ネタバレありといったところで、萩尾望都の「トーマの心臓」である。ネタバレも何もあったものではない。
 もっとも、私自身は「トーマの心臓」を読んだことがなくて、ストーリーも知らず、設定も今ひとつよく判らないわ、という状態で見に行った。
 Studio Lifeの役者さんは他の舞台で拝見したことがあったけれど、Studio Lifeの公演自体も初めてである。初めてならやっぱり「トーマの心臓」だろう、という気持ちがあったくらい、劇団の代表作と言っていいと思う。確か、最後の舞台挨拶で8演目と言っていたような気がする。

 でも、物語はよく判らなかった。
 物語というよりも、ユリスモール・バイハン(ユーリ)という少年が本当に全く判らなかった。ユーリ自身の台詞で「僕は単純なんだ」というようなのがあったと思うけれど、それこそ単純な私からは、宗教的背景を背負った彼の苦悩はもの凄く遠い感じがする。
 判らないといえば、しばらく舞台が進むまで、ユーリを演じているのが山本芳樹だということに気がつかなかった。知識として「ユリスモール・バイハンを演じるのは山本芳樹」ということは判っていたけれど、別の舞台で拝見した感じとかなり違って見えたのだ。「化けてる!」という感じだった。

 ユーリは、トーマ・ヴェルナーという少年が事故死したと大騒ぎになっている寄宿舎で、彼が2日前に出した手紙を受け取り、彼は自殺したということと、自分のために(理由ということではなく、献身ということで)死を選んだのだと知る。
 同室のオスカーは、「忘れろ」と諭すけれど、その2日後にトーマ・ヴェルナーにそっくりなエーリク・フリューリンクという転校生がやってきて、ユーリは動揺し、それを隠すためにますます鉄面皮の委員長を演じるようになる。
 そもそも、トーマが何故ユーリのために死んだのか、ユーリに何が起こっていたのかをうすうす察しているオスカーは、ユーリを見守っているけれど、少年達はそれぞれ「家庭の事情」を抱えている。

 ところで、トーマが何故自殺したのか、釈然としないのは私だけなんだろうか。
 彼の遺書や、彼がユーリを詠んだ詩の文面が折々に舞台背面に映し出されたり、ナレーションで流れたりするのだけれど、それにしてもよく判らない。
 かつ、そもそもユーリが「心を閉ざした」理由も、判然としない。サイフリート・ガストという少年(には見えなかったけれど)とのやりとりで、「自分は神を裏切った」ことが原因のように描かれている(と思う)のだけれど、信仰心のない私からすると、それほどのことだったの? と思ってしまう。鞭を振るわれたり煙草の火を押しつけられたりしたことよりも、それに耐えられずに神を裏切った(悪事を働いた訳ではなくて、サイフリート・ガストに許しを請うたというだけなのだけれど)ことは、そんなに重大事なんだろうか、と感じてしまうのだ。

 そして、そのユーリを救うために自殺するというトーマの発想もよく判らないし、そのトーマの気持ちを受け入れて、かつエーリクが真摯に愛を訴える言葉を聞いて、ユーリが神の恩寵に目覚めるというのも、その心の動きがよく判らない。
 そこで展開されている、少年たちの行動も内面も、もの凄く遠いところの出来事のように感じてしまう。
 結構、見ながら、心の中で少年たちにツッコミを入れ、正直に首を傾げていたような気がする。
 何故、ユーリは神父になることを決めたのか、オスカーは校長を許せたのか、エリックはシュヴァルツと暮らすことを決めたのか。

 でも、その「釈然としない感じ」は、そこにそのまま置いておいていいような気がする。
 何というか、舞台としては「様式美」という感じが強い。ここまで徹底すると、もう、押しも押されもしない一つの世界が構築されるんだなぁと思う。
 頻繁に行われる暗転も珍しいし、壁を上に抜いたり横に抜いたり、ベッドを滑らせてきたり、その転換を素早く行い、かつ、その音を消そうとしていないのも何だか新鮮である。
 また、全編で「アヴェ・マリア」が割と大きめの音で繰り返される。ほとんど「アヴェ・マリア」で統一されているから、それがバッハのミサ曲(だったと思う)に変わるとやけに印象に残る。

 ドイツの寄宿学校が舞台で、登場人物はほとんど男性である。女性は、誰かのお母さんとかお祖母さんくらいしか登場しない。それが、男優だけで構成されているStudio Lifeと合っているし、ヨーロッパの思春期の少年を集めた寄宿学校という舞台装置はいかにも「耽美」という言葉が似合う。
 そういう「様式美」を本当にもう徹底して追求している。
 女性役は、メイクや衣装や所作はもちろん女性で、でも多分、声を作ることはしていない。それでも違和感がありつつ、笑いが起こらないというのは、完全にそのときまでに客席が舞台に取り込まれてしまっているからだと思う。

 なるほど、これが「トーマの心臓」か。これが「Studio Life」か。そう思った。
 3時間たっぷり、Studio Lifeのトーマの心臓に浸りきった、という満足感がある舞台だった。

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