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2014.06.07

「関数ドミノ」を見る

「関数ドミノ」
作・演出 前川知大
出演 浜田信也/安井順平/伊勢佳世/盛隆二
    岩本幸子/森下創/大窪人衛/新倉ケンタ/吉田蒼
観劇日 2014年6月6日(金曜日)午後7時30分開演
劇場 シアタートラム C列4番
料金 4200円
上演時間 1時間50分

 上演台本(1000円)が販売されていて、台本そのものよりも前川知大と岩井秀人との対談がもの凄く気になったのだけれど、結局、購入しなかった。

 ネタバレありの感想は以下に。

 イキウメの公式Webサイトはこちら。

 初演の「関数ドミノ」は見ていて、「ドミノ」が意味するところも覚えていたし、「ドミノ」の存在を証明しようとする人々の話だというイメージも持っていたのだけれど、どうもストーリーとしては全く覚えていなかったらしい。
 実際、見ているときも、「こんなストーリーだったかなぁ」と思いながら見ていて、「そうそう、こんな話だった」とは一度も思わずじまいだった。我ながら、相変わらず貧困な記憶力である。
 前に見たときの自分の感想を読み返してみたけれど、ほぼ同じといえば同じ話なのだけれど、随分と受ける印象は違っている。「同じ材料で全く違う料理を作ってみました。見た目は似てますけどね」という感じである。

 幕開け、いきなり出演者一同が横一列に並んだのに、まずびっくりした。席がかなり前の方だったので、余計に驚く。
 盛隆二が二つ折りにして持っていたパネルのようなものを開くとそこにはマジックで書いたような文字で「自己紹介」とデカデカと書かれてあって、客席から笑いが漏れる。
 本当に役柄での自己紹介があって、彼が医者(精神科医、まで言ったかどうか自信がない)であることが語られる。
 さて次は、と思うと、浜田信也が開いたパネルには「一番人気」と書かれてあって、浜田信也演じる左門森魚が駅前の進学塾で一番人気の講師であることが語られる。
 なるほど、こうやって笑いを呼び、共感を得ているのね、と思ってしまう自分は果たして観客としてどうなんだろうと思わなくもない。

 そこは、保険会社か何かの会議室で、「不可解な交通事故があった」ということで岩本幸子演じる調査員が当事者と目撃者を集めている。
 彼女がこの物語を始め、そして終わらせる役目を負っている。
 新倉ケンタ演じる新田が運転していた車が、大窪人衛演じる左門(「一番人気」の弟である)にぶつかった! と思った瞬間、しかし、左門は全く無事でかすり傷一つ負わず、一方、新田の車は何か堅いものにぶつかったかのように大破して助手席に乗っていた妻は意識不明の重体である。
 この事故に保険金は下りるか否か、その調査のための集まりということである。

 病院の目の前の交差点で起こった事故ということで、目撃者は結構いる。
 誰もが一様に「ぶつかった!」と思ったら、そこで帽子を拾おうと立っていた左門は全く無事で、突っ込んできた車の方が大破していた、と証言する。調査員の横道としては、様々な「納得できそうな」状況を提示するけれど、誰一人としてそれを肯んじる者はいない。
 調査は進まないままだ。
 新田は、妻の入院費も払わなければならないと必死だけれど、どうにもならない。

 集まった人々が三々五々散る中、安井順平演じる真壁(ちなみに、彼が自己紹介で掲げたパネルには真ん中に非常に小さく「真壁」と書かれてあった)が、仮説を語っていいですか、と語り始める。
 随分と前置きというかエクスキューズが長かったけれど、要するにそれは、「左門森魚は、無意識のうちに、自分の望むとおりに現実を動かすことのできる”ドミノ”である」という主張で、彼が強く弟の無事を願ったから、弟の前に透明な壁が出現し、弟を守り、車の方が大破したのだと主張する。
 最初はほとんど相手にしなかった、横道、新田、伊勢佳世演じる事故現場前にある病院の看護師である澤村、森下創演じる病院に通院している土呂という男の4人は、いつの間にか彼の話に引き込まれて行く。

 そうして始まったのが左門森魚に対する監視(というか盗聴)というところが、既にして病的である。
 初演ではそういう感じはなかったと思うのだけれど(私の記憶だからかなり不確実だけれど)、今回は、真壁がチック症を思わせるような動きを繰り返すのと、森魚がこちらはわざとなんじゃないかと思うのだけれど怪しげな(そして笑いを呼ぶ)手の動きを見せているのが、ちょっと独特の雰囲気を醸し出している。醸し出すというよりは、振りまいている。
 そして、真壁は負のエネルギーで周りを追い込んで支配し、森魚は陽のエネルギーで場をやはり明るく支配するように見える。
 そういう意味では、何となく似た印象を与える2人である。

 真壁は「森魚がドミノであることを証明する」と宣言し、森魚と同居している弟陽一、吉田蒼演じる陽一の彼女である平岡らの生活を覗き見を続ける一方、土呂が森魚に接近する。森魚と友達になり、彼に心の底から心配してもらい病が治ることを望んでもらえば、自分のHIVが治るのではないかとそこに一縷の望みを託している。
 その真壁らの「ドミノ証明」という、こんな馬鹿馬鹿しいことにどうしていい大人がこんなに必死になって巻き込まれているんだよという騒動を軸に、左門兄弟の確執を描くことで森魚のドミノらしさを演出する一方、真壁と精神科医である大野医師との面談を挟むことで、ドミノという考え方のうさんくさささを見せて行く。
 さて、どっちだ。

 森魚にHIVであることをカミングアウトした土呂は、次のHIV検査で陰性の結果を得る。
 「ドミノが証明できた」けれど、真壁は別にそれでどうなる訳でもない。当たり前である。相変わらず「自分は、近くにいるドミノのせいで割を食っている」と思い続け、それを大野医師(同級生でもある)に指摘され、澤村には「どうしてそんな風にネガティブに考えるのか。自分は、自分がいつかドミノになったときのために、常にポジティブにいようと思った」と言い放ち、彼女は土呂とともに森魚に「ドミノ」のことを告げようと去る。
 ドミノを意識してもらって社会の変革に役立てようという澤村・土呂に対して、真壁は「そんなことをしたら、ヒトラーのような人間を生むだけだ」とどこまでもネガティブ思想である。

 若干、怪しげな動きはするものの、森魚は土呂言うところの「いい人」で、ドミノの話を聞かされた彼は、「土呂さんのHIVが消えたのは、自分の力ではなく、土呂さんが病は治ると信じたからだ」と明るく言い放ち、自分だって努力はしているけれど何もかもが上手く行っている訳ではないと臆面もなく言い放つ。
 この台詞を説得力を持って聞かせるのは相当の至難の業だよなぁと思う。
 嫌味でも皮肉でも笑いを取るためでもなく、「自分だって色々と努力している」と自己肯定とともに語るというのは、結構、稀なことだと思うのだ。

 その森魚が椅子に座って空を見つめ、妙な動きをする様子を背景として、大野医師と横道、真壁の話は続く。
 大野医師は、澤村看護師の考え方に自分は共感する、森魚がドミノであることを証明できたとしてもそれで真壁が元気になったり前向きになったり、真壁にいいことがある訳ではない。結局、真壁は自分に起こる全ての「悪い」ことはドミノのせいだと思うだけだ、と言う。
 一方の横道は、さらに容赦なく、ドミノはいるかも知れない、しかし、この件でのドミノは森魚ではなく真壁自身である。だって、交通事故のとき真壁だって歩行者の無事を祈った筈だし、今回だって森魚がドミノであると証明できている、真壁の「思う通り」に真壁が不運であるように物事は動いているではないかと言う。
 いや、交通事故の保険調査員の横道がそこまで真壁を追い詰めなくてもいいじゃんと思ったけれど、これはきっと「話の流れ」であり「キャラ」なんだろう。

 そうして2人に口々に言われた真壁は頭を抱え、自分がドミノであったと思い、ドミノであったのにそれを全く活かせなかった自分を呪い始める。
 そうして、「消えてしまいたい」と叫んだ次の瞬間、ときどき聞こえて来ていたドミノが倒れる音が消え、ラジオで周波数があっていないときのような雑音が音高く響き、真っ暗になって、明るくなったときには、真壁の姿は消えている。
 「消えてしまいたい」という望みが、ドミノ1個で叶った、のかも知れない。と思わせて終わる。

 再び全出演者が横一列に並び、最後に斜め後ろを向いていた横道が振り返って前を向いたところで幕である。
 この芝居を始め、終わらせる役目を担ったのは、横道だ。
 そういうちょっと離れた感じの始まりと終わりに変わったためか、こちらの状況のためか、真壁の病的さみたいなものが強調されていたためか、初演のときのような、ヒリヒリするような身につまされる感が遠くなって、その代わり、安心感があったような気がする。
 ストーリーも感想も全く忘れ果てていたのだけれど、でも何故か、安心して見ていて大丈夫という確信が何故か湧いてくる。不思議な舞台だった。

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コメント

 みずえ様、コメントありがとうございます。

 そうですね、おっしゃるとおり、初演とは配役も(というか、舞台上の登場人物や人間関係も)変わっていたと思います。私もあまりちゃんと覚えていた訳ではないのですが・・・(笑)。

 初演を見た後、家に帰って来てから「ドミノ幻想」を検索したのは私も同様です。やっぱり、調べてみたくなりますよね。すっかり騙されました。

 そして、イキウメの役者さんたちは、みなさん個性的でいいですよね。ばらばらな感じが凄く落ち着きます。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2014.06.09 22:50

姫林檎さま

私も観ました、私はこの舞台初見でした。
再演ということさえ、観るまでは知りませんでしたが、役などだいぶ替わっているようですね。

「ドミノ」に、本当にそんな意味があるのか、終わってから調べてしまったくらい、説得力がありました。
ここの舞台は、SFっぽかったり、ホラー色が濃かったりするのに、全く不自然さを感じずに、いつも引き込まれてしまいます。
脚本の力と、役者のうまさでしょうね。
特に安井さんはすごい。
常に役を自分のものにしている印象があります。
たまに他の舞台でも観てみたいです、客演とかないかしら。

浜田さんも素敵だけれど、彼はイケメンのイメージが強すぎて、演技力より顔に目が行ってしまいます。
これは私だけでしょうか…。

投稿: みずえ | 2014.06.09 12:13

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