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「海辺のカフカ」
原作 村上春樹
脚本 フランク・ギャラティ
演出 蜷川幸雄
出演 宮沢りえ/藤木直人/古畑新之/鈴木杏
柿澤勇人/高橋努/鳥山昌克/木場勝己/ほか
観劇日 2014年6月21日(土曜日)午後5時30分開演(初日)
劇場 赤坂ACTシアター 1階 U列12番
上演時間 3時間25分(20分の休憩あり)
料金 11000円
初演は見ていて、しかし、どんな感じの舞台だったかあまり覚えていない。
しかし、ガラスというかアクリルの箱にトラックや林の中のベンチやサービスエリアのプラスチックの椅子やらのセットを廃して、そのアクリルの箱を動かすことで場面転換していたことは覚えていたし、その演出は今回も健在だった。
何だか懐かしい、そして嬉しい感じがする。
私が見たのは、赤坂ACTシアターの初日で、そのせいなのか、このアクリルの箱が移動の途中で何回かぶつかっていたように見えた。彩の国さいたま芸術劇場とは、舞台の広さや取り回しが多分かなり違っているのだろう。
ところで、一番意外だったのはカフカ少年の佇まいだ。
ポスター等では、カフカ役の古畑新之は長い髪を束ねてお団子のようにしていて、ちょっと尖った風の少年をイメージさせていたけれど、舞台上のカフカは、若干頼りなさそうな普通の少年だったのだ。びっくりする。
他の主要キャストのうち、甲村記念図書館の責任者である佐伯さんが田中裕子から宮沢りえになり、甲村記念図書館の司書の大島さんが長谷川博巳から藤木直人になり、カフカが高松への高速バスで出会うさくらという女性が佐藤江梨子から鈴木杏に変わっている。
カフカと佐伯さんの2人が変わったことの影響はやはり大きい。
2人の力関係というかパワーバランスとして、ほぼイコールか、カフカの方が強かったくらいの初演と比べると、佐伯さんの比重が極端に大きくなっているような気がする。それはそれでもちろんありだし、そのパワーバランスの変化に合わせて若干、演出も変わっているようにも思う。
とにかく、出演者が変わるとバランスも変わるんだなぁということは、見ている間に何度も思ったことだった。
それは、大島さんとカフカのやりとり、さくらとカフカのやりとりにも現れていたと思う。
「世界でもっともタフな15歳」になりつつあるように見えた初演のカフカよりも、「世界でもっともタフな15歳」になりたいと思っている再演のカフカは、やはり「頼る」という感じに見えるし、頼りなく見える。
大島さんを演じた藤木直人を見て思ったけれど、大島さんを演じるときのポイントは、どうも「細い足を揃えて座る」ところにあるような気がする。そこに、何となく「違う」感じが漂うし、実際、前面が抜けた机に座っているシーンが多いので、その細い足はとても目立つのだ。
それはともかく、カフカ少年の頼りない感じは、柿沢勇人演じるカラスと並んだとき、そしてやりとりの中で一番顕著になる。多分、2人に身長差があることもその理由だと思う。そう感じる私もステレオタイプだと思うけれど、瀬が高いカラスがカフカ少年を守っているように見えてくるのだ。
でも、15歳ってそんなものよね、という気もする。あまりしっかりし過ぎている15歳も困りものだ。
だから、初演から変わっていない、特に木場勝己演じるナカタさんと高橋努演じるホシノさんのコンビには安心する。「また会えましたね」という感じがするし、淡々としている感じがこちらの心持ちを安定させてくれるような気がする。
そして、ただ歩いているだけでナカタさんになってしまう木場勝己って凄いと改めて思う。本当に帽子をぎゅっと被り、肩掛けカバンを斜めにし、歩いているだけで、そこにナカタさんがいるという感じがするのだ。
舞台は原作小説に忠実に、でももちろん全部を舞台にすることはできないから、幾分すっきりさせつつ進んで行く。
そのあまりにもすっきりとまとまっている感じが、何となく惜しい気がする。
もやもやというか、判りにくい感じが小説「海辺のカフカ」の持ち味だと思うのだけれど、そこを舞台で再現するのはやはり相当に厳しいことなんだろう。
小説では、私の印象だと、カフカと佐伯さんが母子なんじゃないか、カフカとさくらが姉弟なんじゃないかというところにポイントの一つがあったと思うのだけれど、舞台では、あからさまにそのことが台詞で告げられる割に、その占める意味はそれほど大きくないように思えた。
何故だろう。
再演の「海辺のカフカ」は、カフカ少年とナカタさんの物語から、カフカ少年と佐伯さんの一対とナカタさんの物語に雰囲気を大きく変えているように見える。
その分、佐伯さんは、初演の優雅さを手放して、現実っぽいというかリアルというのとは違う、人間くさい生々しい感じに造形されているように思う。それは勿体ないような気もするし、このキャストのバランスならそれがあり得べき姿だという気もする。
変形というかバージョンの一つ、という感じだ。
カーテンコールでスタンディングオベーションになった。
原作小説をもう一度読み返してみようと思いながら家路についた。
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