「三人吉三」を見る
コクーン歌舞伎 第十四弾「三人吉三」
作 河竹黙阿弥
演出・美術 串田和美
出演 中村勘九郎/中村七之助/尾上松也 ほか
観劇日 2014年6月14日(土曜日)午後0時開演
劇場 シアターコクーン 平場席 D列20番
上演時間 3時間20分(15分、10分の休憩あり)
料金 13000円
コクーン歌舞伎のときは、通路より前の椅子が撤去されて座布団の席となり、客席内での飲食が可となる。
ロビーもお祭り風になって、なかなか楽しい。
パンフレット(1800円)ほか、グッズが販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
「三人吉三」はどう考えても見たことがある。「こいつぁ春から 縁起がいいわえ」という台詞は絶対に舞台でパロディでなく聞いたことがある。しかも、語っていたのは歌舞伎役者だったという確信がある。
しかし、見始めた当初、全く見覚えのない場面が延々続き、名前も知らない役が縦横無尽に活躍し、全く聞いたことのない台詞が並んで、大混乱に陥ってしまった。
私はもしかして初めて見ているのか? いや、でも記憶がある。しかし、こんな物語は記憶にない。
つらつら考えてみるに、どうやら、私が見たことがあるのは、「大川端庚申塚の場」の場面だけだったようだ。
笹野高史演じる伝吉が、盗んできたのらしい刀を河原に落としてしまい、犬に吠えたてられて近所の長屋に明かりが点き始め、ついにはその刀を拾うことなく逃げ出して行くという場面で幕開けである。
もっとも、伝吉が誰なのか、そもそも泥棒なのか、このシーンが後々どんな意味を持つのか、そういったことは一切語られない。名前だって明らかでない。
ただ、笹野高史が演じていることから「意味があるんだろう」と察するだけだ。
その幕開けの前に、大森博史演じる太郎右衛門(しかし、配役表を見ても、太郎右衛門を演じていたのが大森博史だったとはどうしても思えない私である。)と、片岡亀蔵演じる与九兵衛とが、客席を追いかけっこのようにぐるぐる回って延々と「すれ違い」をやったりして、徐々に客席を温めて行くその手腕が見事である。
コクーン歌舞伎は、歌舞伎をほとんど観ない私のような観客にとって敷居が低い。しかし、今回は、コクーン歌舞伎にしては歌舞伎寄りの演出だった(と思う)から、歌舞伎に慣れていない観客へのサービスがいつもより多めだったのだと思う。
新聞の劇評を見たら、音楽も今回の「コクーン歌舞伎」の特徴の一つだったらしい。そういえば確かに三味線はいなかったけれど、見ているときはそんなことに気づきもしなかった私である。
時間がどれだけたったのか、これも明確には示されないのだけれど、客席で掛け合いをやっていた男たち2人が現れて言うことには、海老名様とかいうお侍が、片岡亀蔵演じる研ぎ師の与九兵衛が見つけた刀を所望しているという。
その刀は、何とかというお武家で預かっていたものが奪われ、その武家は切腹お家断絶となったという曰くつきの代物で「庚申丸」という名前まである。
その庚申丸を買い受けた代金百両を、坂東新悟演じるお店の手代十三郎が持ち帰る途中、中村鶴松演じる夜鷹のおとせに誘われて恋に落ち、遊び、そして忘れてしまうところから、因縁の糸車が回り始める。
結構、ここまでに時間がかかっていて、「三人吉三は、三人の吉三と名乗る泥棒のお話」と思って見ている、そして名乗りのシーンだけを記憶している私からするかなりまどろっこしかった。
そして、同時に、こんなストーリーのあるお話だったのね、という感想も同時に浮かんだ。何しろ、ハイライトシーンしか知らないので、こんな込み入った筋立てや仕込みがあるとは思っていなかったのだ。
十三郎が忘れていった百両を渡そうと持ち歩いていたおとせに中村七之助演じるお嬢吉三が気がつき、その金を奪い、そしておとせを川に突き落としてしまう。
濡れ手に粟のお嬢吉三に、一部始終を見ていた尾上松也演じるお坊吉三が「その百両を寄越せ」と難癖をつけ、刀を振り回し、丁々発止の立ち回りになったところに、中村勘九郎演じる和尚吉三が登場して諍いを収めるという筋書きである。
そうだったのか! という感じだ。
この3人の出会いまでには、こんなにドラマがあったのか! と思う。
そしてまた、あんまり気にしている登場人物はいないのだけれど、お嬢吉三が振り回している刀は庚申丸であり、まだ明らかにされていないけれど、お坊吉三は刀を失くしたことで断絶したお武家の息子なのである。
因果のてんこ盛りだ。
しかし、この場の白眉は、やっぱりそんな因果のあれこれではなく、お嬢吉三が決め台詞を言い、三人の吉三がそれぞれに見得を切る、その華やかな場面である。
「大川端庚申塚の場」は群を抜いて上演されることの多い人気の場面だということだけれど、同時にこの「大川端庚申塚の場」があったからこの「三人吉三」という芝居の面白さに注目がされなかったんじゃないかという気がする。何だか勿体ないようにも思うのだ。
休憩が開けて明らかになったところでは、この和尚吉三が伝吉に育てられたという設定になっており、シェイクスピアも真っ青のご都合主義な筋立てである。
因果因縁もここまで入り組んで来ると、もう勝手にしてくださいという気分になる。もちろん、いい意味でだ。文句を言っても始まらない、楽しんだもん勝ちだという気持ちになるということである。
仲裁の結果得られた百両を伝吉に元に持って行った和尚吉三だけれど、伝吉に受け取りを拒否され、十三郎とおとせが実は双子の兄妹だったという伝吉の独白を聞いてしまう。
そして、和尚吉三が置いていった百両を、伝吉は、勘違いして研ぎ師に投げ渡してしまい、それを返してもらおうと追いかけ、研ぎ師から百両を奪い取ったお坊吉三に「金を返せ」と挑み、返り討ちにあってしまう。
因縁の輪の完成だ。
完成した輪は、壊れるしかないのである。
追い詰められ、捕縛の手が迫った三人吉三は、和尚が潜り込んだ寺に集まる。
そこに、おとせと十三郎が「兄」である和尚吉三を訪ねてきて、伝吉が亡くなったあれこれを語る。ここで、3人の吉三に因縁のすべてが明かされることになる。
和尚吉三は、妹たちを外で待たせて話をしに行き、お嬢吉三とお坊吉三は、自分たちの所業が和尚吉三の親を殺したことを知って、腹を切ってお詫びしようと心に決める。
義理堅い2人である。しかし、この2人が男同士ながら、できちゃったようにも見えるところがちょっとよく判らなかった。
しかし、和尚吉三の考えていたことは違っていて、畜生道に落ちた妹たちは殺すしかない、しかし、無駄死にさせないために、この2人の首をお嬢吉三とお坊吉三の首だと役人に差しだし、そうすることで3人ともを役人の追跡の手から逃れようと語り、画策する。
こういうときの勘九郎の鬼気迫る感じというのは、もはや定番という気がする。声を聞くと本当に勘三郎に似ているよなぁとしみじみと思うのだけれど、でも、立ち姿などはやはり違うし、醸し出す雰囲気も違う。格好よくなったよなぁと思うのだ。
休憩を挟んだ最後の大詰めは、もう、ひたすら外連である。ハレである。紙吹雪の雪が降りまくり、客席にまで降り、雪煙が上がるほど降り、その真っ白な世界の中を、和尚吉三の目論見を研ぎ師の「あれは、偽首だ」の一言でひっくり返された3人が、逃げまどい、戦うシーンが続く。
真っ白な中、赤と青と緑(から、ついにはふんどし一丁)の3人の吉三が、白い衣装を着て雪と同化した役人たちと大立ち回りを演じる。
「日頃から恨みを持っていた」と説明されていたけれど、いったい研ぎ師が和尚吉三に持っていたのか、そこだけよく判らなかったのだけれど、しかし、多分、そんなことはどうでもいいのだ。
張り巡らされた伏線を回収しまくり、大団円ではないけれど、派手な立ち回りでスカッと景気よく三人吉三が散って行く。
かなり楽しかった。
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コメント
あんみん様、コメントありがとうございます。
あんみんさんは歌舞伎を普通にご覧になる方なのですね。私は友人に誘ってもらうか、あるいはクドカンが書くか、そういう「ちょっと特別」な感じでしか見ないのです。歌舞伎座で歌舞伎を見た回数と、コクーンでコクーン歌舞伎を見た回数が同じくらいかも知れません。
というわけで、歌舞伎座での三人吉三とどこが違うのかは、実はほとんど判りませんでした(泣)。
でも、三人吉三は楽しかったです。
派手で外連味たっぷり。
やっぱり、歌舞伎はこうでなくっちゃ。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2014.06.21 23:40
ニアミスでした!
こんにちは、6/14夜の部で観てきました。
勢いが有って良かったですね~。
1階バルコニーで観ました。
私は通常の歌舞伎は3階席が基本で、近くで役者を見たことが無く
七之助が登場して真横を通った時、横顔の首が太くて
やっぱり男(当たり前)と思いました。でも綺麗だし声が好き。
3人で息が合ってましたね。
大詰めのお嬢が半鐘を鳴らしに必死に向かうシーンで
お坊が追っ手を払って行かせるところが良かったです。
2幕冒頭の夜鷹3人で、三人吉三の見得の真似が面白かった。
客席も湧いてましたね。
あと、おとせ役がわかっていても若い女性にしか見えず、
『もしかしてこの人だけが例外で女性なのでは』と思わせるほど。
殺陣も本格的なところが迫力があって好きです。
水面も効果的だったけど、効果音(生活音)は余りに多すぎてちょっと集中力がそがれてしまいました。
投稿: あんみん | 2014.06.21 15:47