「バルテュス展」に行く
先日、東京都美術館で2014年6月22日まで開催されているバルテュス展に行って来た。
会期終了間際ということで、夕方から行ったけれどもかなりの人出だった。17時までと勘違いしていて、15時過ぎに入ったのだけれど、もう30分〜1時間、遅く入った方がゆっくり見られたかも知れない。
混雑しているだろうと思いつつ行ったのは、母がいただいた招待券があったからだ。
中に入っても二重三重の人で、特に大きめの少女の絵の前は人だかりができ、イヤホンガイドの解説がある絵とともに人を集めていた。
事前にバルテュスを取り上げたテレビ番組を見ていたこともあって、イヤホンガイドは借りずに回ることにした。
「少女を描き続けた画家」というイメージが事前のテレビ番組で私に強烈に植え付けられていて、少女以外の絵が結構展示されていたことにまず驚いた。
予習をするというのもなかなか考えものである。
しかし、ある程度、画家の人生の流れを押さえていたので、やはり見やすかったようにも思う。
チケットやちらしにも使われている「夢見るテレーズ」がやはり、バルテュス展を象徴する絵であると言っていいだろう。
「少女は神聖な存在」とバルテュスが語る映像も流れていたけれど、いやでも、このポーズを取って画家の前にいる少女は、「神聖」よりもエロスの方に移り変わりつつあったんじゃないでしょうか、と思う。
やっぱり挑発的な印象が強い。
そして、若い頃の画家は実際「挑発的」ということを意識していたんだろうと思うし、そういう発言もあったようである。
片方の膝を立てた少女の足、猫、上げられた腕、鏡といったものが繰り返し描かれていて、印象に残る。
しかし、少女を描いた絵の中で、私にとって一番印象的だったのは、「白い部屋着の少女」という絵だ。モデルは、バルテュスの義理の姪であるフレデリック・ディゾンという女性だ。
描かれた場所は、バルテュスが1953年に移り住んだシャシーで、シャシーにいる間、バルテュスはかなりたくさんの絵を描いたのらしい。
この絵は上半身のみが描かれている。
胸は露わになっているけれど、手は前で重ねられ、何というか動きのない絵だ。どこか遠くを見ているような目をした表情で、「静謐」という言葉が似合う。
自画像を格好良く描きすぎなんじゃないかとか(写真を見たら、実際に格好いい、いかにもモテそうな人だったけれど)思いつつ、少女の絵以外で印象的だったのは、「地中海の猫」という絵だ。パリのシーフードレストランに飾るために描かれたのだそうだ。
虹がそのまま魚に変わり、虹から生まれた魚がそのままテーブルで待つ猫のお皿に上にお料理としてやってくる、という感じの絵だ。
陽光溢れる地中海の海だろうに、小さくボートとボートに乗った上半身が露わな少女が描かれているところが、ポイントだ。
しかし、この絵は迫力がありすぎて、この絵に見られながら食事をするのは落ち着かないんじゃないかなぁと思う。
そして、一番印象に残った絵はどれかと聞かれると、「窓 クール・ド・ロアン」という絵ということになる。
正直に言って、何の変哲もない絵である。
人もいない、少女はだからもちろんいない、猫もいない、ただ、窓枠があって、そこから見える、反対側のアパートメントらしき建物が描かれている。
でも、バルテュスの他の絵の中にその絵があると、何だかそこだけほっとする空間のような感じがした。とりあえず、ぼーっとしていて良くて、何だか全然判らないけれどそれってマズイんじゃぁみたいに考えることもなく、安心して通り過ぎても許される感じがした。
その他に楽しかったのは、バルティスの晩年のアトリエの一部を再現したお部屋だ。椅子やショールや絵の具などの一部は本物を持ってきたという。
これまで、バルテュスが亡くなったときのままにしてあったというから、節子夫人にとっては、その「亡くなったときのまま」を壊すことはかなりの勇気と決断だったんだろうなぁと思う。
そして、意外と明るいことに驚く。
もっと暗い、古びた感じを想像していたのだけれど、意外と居心地がよさそうだった。
バルテュス展の最後は、篠山紀信が撮影したバルテュス夫妻の写真パネルと、縁の品々の写真、そして実物が展示されていた。
羽織袴で写っているバルテュスが何だか不思議である。
ダークかつ挑発的な絵を描いた張本人らしくない、好々爺な雰囲気すらある。
写真といえば、ミュージアムショップに、バルテュスが晩年、毎日同じ時刻に前述のアトリエでモデルとしていた少女に同じポーズをさせて撮っていたポラロイド写真の写真集が販売されていた。
元々、沢山のスケッチや習作を元に描いていた人らしいのだけれど、晩年は手の動きが不自由になったため、大量のポラロイド写真を撮ることで習作に代えていたのだそうだ。
不思議にぼやけた写真で、こちらも展示してくれればいいのにと思ったのだった。
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