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2014.07.26

「太陽2068」を見る

「太陽2068」
作 前川知大
演出 蜷川幸雄
出演 綾野剛/成宮寛貴/前田敦子/中嶋朋子
    大石継太/横田栄司/内田健司/山崎一
    六平直政/伊藤蘭 ほか
観劇日 2014年7月26日(土曜日)午後2時開演
劇場 シアターコクーン  XC列4番
上演時間 3時間(15分の休憩あり)
料金 10000円

 ロビーでは、パンフレット(2000円)等が販売されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 BUNKAMURAの公式Webサイト内、「太陽2068」のページはこちら。

 イキウメの「太陽」という芝居を前川知大自身がが書き直し、蜷川幸雄が演出して「太陽2068」と改題しての上演である。
 結構「変わっている」のかなぁと思っていたのだけれど、思っていたよりも変えていないなという印象だ。
 半数が70代だ(と言っていたような気がする)の村人たちが、イキウメの公演(そのときに書いた感想はこちら。(ストーリーもそちらに書いたので、ここでは割愛)では登場しなかったけれど、今回は村長さんを含めて全員が登場しているというところと、村の3人目の若者として内田健司演じる拓海という青年が加わったのが大きな違いだろうか。

 休憩中に「よく判らない」という声が聞こえてきたけれど、そういえば、「キュリオ」や「ノクス」といった言葉の説明等は芝居の中でほとんどされていなかったと思う。
  配役は配られたけれど、そこにも特に説明のようなものは書かれていなかったし、役者さんたちのしゃべる台詞をつなぎ合わせて察してください、という感じだ。
 だから、冒頭の10年前のシーンも、横田栄司演じる克哉が何をして、何が問題になって火まで付けられてしまったのか、この芝居を見ただけだとなかなか判りにくかったかも知れないと思う。
 そして、この克哉という男がまた、出番は少ないのに、強烈に「悪意」を印象づける。どうしてここまで悪意を印象づけなくちゃならないんだと思うくらいだ。

 イキウメの「太陽」は割とよく覚えていて、だから何となく心の中で比較しながら見るような感じになった。
 最初に思ったのは、年齢が違う! ということだ。当たり前だけれど。
 イキウメという劇団は個性的な役者さんが集まっているなぁと毎回思うのだけれど、年齢の幅は(恐らく)そんなに広くない。だから、親子の役を演じている役者さん同士が親子ほど年齢が離れているということは多分ない。
 それが、今回の舞台では、(それでも、まんまということはないのだけれど)役の年齢に近い役者さんが演じている。そのことによる印象というか雰囲気の違いというのは大きい。

 もう一つ思ったのは、拓海という若者を登場人物に加え、かつ、彼にこの芝居に新たに加えた「猥雑さ」をほぼ担わせてしまう大胆さだ。
 イキウメの「太陽」はスタイリッシュだったけれど、「太陽2068」は蜷川演出というこちらの先入観もあるし、昭和な感じの長屋のセットを使っていることもあるし、拓海が結を襲うシーンを加え、最後に伊藤蘭演じる曾我玲子と、前田敦子演じる実は彼女の実子である生田結とのキスシーンをかなりじっくり見せたこともあって、とにかく猥雑という感じが前面に押し出されているように思う。
 逆に言うと、イキウメの舞台からはそういった要素が注意深く外されていたのだなと改めて思ったりもするのだ。

 その分、ノクスの方に人間っぽくない無機的な感じをより強く出していて、衣装は全員黒だし、ノクスの世界は、昭和な世界の下に、アクリルとブルーのライトで形作られている。
 私は前方の席だったから、そのアクリルの地下世界(それは、太陽の光が届かないということも合わせて表現していたのかも知れない)での演技もほぼ全て見えたけれど、後方やサイドの席からはどう見えていたのだろう。ここが見えていたかどうかで、このお芝居から受ける印象は実はかなり違うんじゃなかろうか。
 舞台を飛び出してほとんど客席通路で演じられることも多かったし、舞台の床もアクリルで作ってあったのはその辺りの配慮だと思うけれど、しかし気になる。

 私が泣けてしまったのは、やはり、結がノクスになった後のシーンだ。
 ノクスになった結は、全く「魅力的ではない」女の子になって、六平直政演じる父親の元へ現れる。他のノクス同様、自信満々でしかし、中味のないことを他人の言葉で語るようになってしまった彼女と話して、望んでいたことであったにも関わらず、父親は男泣きに泣く。
 その様子を見ていた、大石継太演じる「昔の友人で今はノクス」の金田が、彼に謝る。
 金田は、ノクスの出生率が上がったなんていう報道も、太陽の光を浴びても火傷して死ぬようなことにならない薬も開発されつつあるという報道も、全てが嘘だと告げる。
 娘がノクスになってしまった直後の友人にそんなことを言うのはどうかと思うのだけれど、言う。
 その、金田と生田の男2人のシーンが本当に何故か泣けてしまった。

 もっとも、その直後、金田が「ノクスは病気だ」と、これまで玲子や山崎一演じるその夫が言い続けていた「キュリオは症状だ」という言葉と真逆のことを吐き出すように言ったのに対し、生田が「だから、前からそう言っている」と返し、そして中嶋朋子演じる純子とともに笑い続けるシーンの意味は、実はよく判らない。
 前回も判らなかったのだけれど、今回はさらに判らなかった。
 いや、笑っている場合じゃないだろう! と思うのだ。

 「太陽」はここで終わっていたと思うのだけれど、成宮寛貴演じるノクスである森繁と、綾野剛演じる純子の息子でキュリオである鉄彦との友情物語がまた一方でクローズアップされた今回の「太陽2068」では、続きがある。
 この2人はずっと、相手に向かって「そちらの方がいい」「そちらの方が素晴らしい」と言い合っている。
 「学校に行ったから、学校なんて意味がないって言えるんだ」という鉄彦の台詞は正しい。ノクスになりたいという鉄彦に対し、森繁は「キュリオの文化は守らなくてはならない」とは言うけれど「キュリオになりたい」とは決して言わないのだから、そこにエリート意識を見ている鉄彦の感覚は多分正しい。
 でも、観客席から見る限り、しかし、最終的には森繁の言うとおり、鉄彦はノクスにならない方が「正解」なのだ。
 何とも皮肉な話だ。

 生田から「ノクスになる権利」をもらった鉄彦は、森繁の「2人でペアを組んで日本中、世界中を旅しよう」と言う提案に乗り、「今すぐ行こう!」と叫び、その権利書が入った封筒を破り捨てる。
 そして、汚れた白い衣装の鉄彦と、黒く清潔な衣装の森繁は、 鉄彦と森繁がじゃれるシーンで灰皿が投げられたり、結が一人舞台の真ん中に立つシーンが何度も出てきたり、そういうファンサービスの多い舞台の最後に、舞台奥に開いた扉から外に飛び出して行って、幕である。
 正直、「またか!」と思ってしまったけれど、これはもう外せないファンサービスであるとか、定番であると考えるしかないような気もする。

 「太陽」とは違う、「太陽2068」を見た。

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コメント

 あんみん様、コメントありがとうございます。

 そういえば、私はパンフレットを購入しなかったのですが、もしかしたらキュリオやノクスの説明はパンフレットにあったのかも知れませんね。
 でも、購入しない人もいる訳だし、見終わってから購入する人もいるし、やっぱりちょっと不親切だったかもですね。

 「太陽2068」って嫌いじゃないです。
 ストーリーも結末も知っているのに、結構ドキドキして見ました。
 でも、どちらかと言われると「太陽」の方が好きかも。

 あと、久々に成宮寛貴を舞台で見て、こんなに好青年っぽい感じだったっけ? と驚きました(笑)。
 もっとも、よくよく思い返してみると、舞台では「お気に召すまま」とか「魔界転生」とか、普通の好青年じゃない役を演じているところしか拝見していなかったのかも・・・。テレビの「相棒」は見ていなかったし。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2014.07.29 22:45

こんにちは。
そう言えば配役表には何も説明が無く、ノクスのこととか
解りにくいですよね。
イキウメでは配布されたミニパンフに説明が有ったので
観る前に情報が有りましたよね。
ちょっと不親切かもしれない、蜷川verは。

あのセットは良かった、下の幕が取り払われた時に声が上がりましたね。
私もXC上手で良くセットが見えたけど、後半の席では見えなかったでしょうね。
私もイキウメ版を思い起こしながら観てました。
いつもの蜷川組と青年タクミが加わり、チケット代が高い分きちんとセットが組まれて、
俳優のギャラのランクが大幅に上がった、という感想です(笑)。

あの『イキウメ太陽』は結構衝撃で、お芝居とわかっていても手首のシーンも息が詰まりそうでした。
私は結の豹変ぶりもポイントだったので、こちらはちょっと物足りなかったかも。
もう搬入口はつぶしてほしいような。
割と素直で、前川さんに遠慮した演出だったのかもと思えます。
でも観られてよかったですよ。
伊藤蘭さん、山崎さん夫婦に引き付けられました。

投稿: あんみん | 2014.07.27 15:45

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