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2014.07.05

「鎌塚氏、振り下ろす」 を見る

M&Oplays プロデュース「鎌塚氏、振り下ろす」
作・演出 倉持裕
出演 三宅弘城/ともさかりえ/片桐仁/広岡由里子
    玉置孝匡/ベンガル/北村有起哉
観劇日 2014年7月4日(金曜日)午後7時開演(初日)
劇場 本多劇場  C列13番
上演時間 2時間
料金 6800円

 ロビーでは、パンフレット(1000円だったような気がする)等が販売されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 M&Oplaysの公式Webサイト内、「鎌塚氏、振り下ろす」のページはこちら。

 「完璧なる執事」である鎌塚アカシが活躍(?)するシリーズの3作目である。
 そもそも、「完璧」なのか? という疑問はシリーズ当初からあったのだけれど、それはもう鎌塚氏シリーズの中では大前提のお約束であるので、考えても仕方がない。
 今回は、北村有起哉演じる中之院公爵が、父親を亡くして以来引きこもり状態になっているのを何とかしようと、ともさかりえ演じるアイドル女中の上見ケシキから指名を受け、アカシがやってくるところから物語が始まる。

 そして、アカシのいるところ妨害者ありということで、片桐仁と広岡由里子演じる堂田男爵夫妻と、玉置孝匡演じるその従者スミキチが公爵家にやってくる。
 「国家を揺るがす一大事」というのは、堂田男爵が国会に提案した「貴族を優遇しまくる法律」に、中之院派を率いる中之院公爵が賛同するや否や、ということらしい。中之院公爵自身はどうやら反対のようだけれど、父親が堂田男爵に20億の借金をしており、むげに断ったらどうなるか、というのがポイントである。
 大ごとだけれど、「国家を揺るがす」と言われると若干の違和感がある。

 やってきたアカシは、中之院公爵には居もしない従僕たちの姿が見え、会話もしていると知って危機感を抱き、ついでに自分の父親がこの屋敷で何十年も前に働いていたことを思い出し、中之院公爵に願い出て、ベンガル演じる「伝説の執事」である父親を引っ張り出す。
 アカシとしては「これで舞台は整った」というところだ。
 どうやら、鎌塚父と上見とも、別の誰かのお屋敷で一緒に働いていたことがあるらしい。

 堂田男爵に狙われている中之院公爵を、果たしてアカシとケシキは守れるのか。中之院公爵の若干病的な現在の症状を悟られることなく、堂田男爵の借金をテコにした脅迫にも屈させることなく、中之院公爵に「正しい」判断をしてもらい、かつできることなら父親を亡くしたショックから立ち直らせる、というのが今回のアカシとケシキのミッションである。
 堂田男爵夫妻という判りやすい悪役というのが素晴らしい。今回、かなり前方の中央の席だったので、2人の激しくも濃いメークを目の当たりにして思わず引いてしまった。

 ついでに、ケシキとしては、アイドル女中を続けるのも限界があるし、そろそろ身を固めたい、できることならアカシと結婚したいという裏ミッションもある。
 アカシの父親がやってくるというのなら、それは大チャンスである。

 しかしながら、どうも鎌塚父は「伝説の執事」らしくない。発言もらしからぬことばかりだし、動きも怪しい。病気をして療養していたということだけれど、そのせいなのか悟ったのか、「伝説の執事」どころか「普通の執事」にも見えない。失敗だらけの「駄目な執事」という感じである。
 あまりの駄目ぶりに「もしかして、これは、中之院公爵を回復させるという目的のために、駄目さを装っているのではないか」と考えてしまったくらいだ。
 アカシとしては、信頼して呼び寄せた父親の失態続きに、当初は怒り、そして、段々と諦めの境地に達したらしい。

 一方、いつもは堂田男爵の手足となり、勘違いの多い耳目となって働いているスミキチだけれど、今回ばかりは「庶民を虐める」法案を通そうという堂田男爵に反発し、その反対派の動向を握る中之院公爵と、その中之院公爵に使えるアカシとケシキに期待するところがあったらしい。
 味方にしても安心できない味方だよなぁという感じで、しかしアカシ寄りの対応を見せる。
 もっとも、堂田男爵は「中之院公爵は目が見えないんじゃないか」ととんでもない誤解をし、その誤解の証拠を掴むべくアカシに接近したスミキチは輪をかけて頓珍漢、そして「中之院公爵には他の人の目に見えていないものが見えている」のを隠そうとしているアカシは、逆に「とうとう堂田男爵に中之院公爵の秘密を知られてしまった」と勘違いする。

 いつもながらの、「騒動が大きくなる」展開に、さらに鎌塚父が「だったら、堂田男爵も同じ症状にさせてしまえばいいんだ」という提案に、さらに騒動が大きくなる。
 さらに、鎌塚父は「そもそも、中之院を治すなんて不可能だ。本人に治ってもらわないと」というスタンスで、そういった言動を見ていると、いわゆる優秀かつ完璧な執事ではないけれど、これはこれで「伝説の執事」ではあるのじゃないかという気になってくる。
 鎌塚父の思うところが最後まで確信持てなかったのは、台詞を噛んだり言い直したりすることが散見されたからで、これが「演技」なのか、実は格好良く決めるべきところを決め損ねたのか、よく判らなかったからだ。

 鎌塚父が議員たちが集まるパーティの準備中に倒れ、しかしアカシは自分の任務第一で救急車を呼ぶことを許さない。
 しかし、そこは何故か正義の味方要素が入ってきたスミキチがケシキに客間の鍵を貸し、客間の電話で医者を呼ぶように言う。たまにはいいところあるじゃん! という場面である。
 鎌塚父が倒れたシーンで、何故か、ともさかりえが歌うのだけれど、これはお約束だったろうか。知っている曲だったのだけれど、誰の何という曲だったのか、未だに思い出せない。

 中之院公爵が一部「自分には他人に見えていない従僕が見えている」ということを知っており、子どもの頃から父親に期待されなかったというトラウマを克服しようと決め、アカシに子どもの頃に話し相手だったぬいぐるみ達を片付けるように命じる。
 その片付けの最中に、アカシと父親の思い出について語り合ったことが契機になったのか、中之院公爵は、いつの間にか、借金は借金として堂田男爵の国家を揺るがす悪法を通してなるものかという決意を固めるに至ったようだ。
 そして、アカシはアカシで、中之院公爵の子ども部屋でマイクとスピーカーを発見する。

 法案賛成の文書にサインさせられそうになった中之院公爵最大のピンチに、子どもの頃に話しかけてくれていた声が再び流れ出す。
 それは、決して自問自答だった訳ではなく、部屋に仕込まれたマイクとスピーカーを使い、鎌塚父を始め使用人たち総動員、そして中之院公爵の父親も配役された、「実際の声のやりとり」だったことが明かされる。
 友達であったぬいぐるみ達の声が使用人たちの声であり、その友達の一人が父親だったことを知った中之院公爵の病は、これで癒えたようだ。
 最後は、アカシとケシキの機転で堂田男爵は「幻の従僕に背中をナイフで刺された」と思い込んで戦闘能力を失い、大団円がやってくる。

 中之院公爵にはまだ何人か「いない筈の」従僕が見えているようだったり、そういえば堂田男爵からの借金は多分返せていなかったり、助っ人だった筈のアカシはこのまま中之院公爵家に使えるのかよく判らなかったり、様々に疑問は残しつつも、中之院公爵引いては日本の危機は回避され、堂田男爵は帰って行き、中之院公爵家に平穏が戻って来る。
 鎌塚父がお暇を、と言い出したから、その平穏は完璧である。 

 何だかんだ言っても、パターンは強い、と思う。

 そういえば、アカシとケシキの仲はあんまり進んだ気がしない。
 風邪気味のケシキが女中志望者の面接をしなくてはならず、中之院公爵が執事長たるアカシに同席するよう命じたけれど、アカシは「柄にヒビが入ったスコップを直す」とどこかに行こうとする。ケシキがここぞとばかり、わざとらしい咳を連発したところで、アカシはそのスコップを地面に叩きつけ、「修理は諦めました」と言う。
 これが恋愛シーンに見えるところが可笑しい。
 そして、そういえば今回のタイトルは「振り下ろす」だったなぁと思い出したのだった。

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コメント

 みずえ様、コメントありがとうございます。

 ついにご覧になりましたか。
 しかも、雷雨の中! お疲れ様でした。
 お帰りは大丈夫でしたでしょうか。

 鎌塚氏のシリーズ3作品とも出演しているのは、アカシの三宅弘毅と、あと広岡由里子、玉置孝匡のお二人だけ、かと思います。
 ともさかりえと片桐仁は最初の「放り投げる」と今回とに登場しています。
 で、いつもこんな感じだったと思います。
 アカシは決して「完璧なる執事」ではありません(笑)。

 伝説の執事のベンガルは、役柄ではなく噛んでいたってことなんでしょうか・・・。やっぱり気になりますね。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2014.07.25 22:46

姫林檎さま

昨夜やっと観ました!
雷が鳴り響く音が劇場内まで聞こえていて、しかも落雷で開演は少し遅れたんですよ。

皆さん触れているベンガルさんですが、昨夜も噛み噛みでした。
もうお年なのかな、とちょっと物悲しく思ってました。

私はこのシリーズ、初なのだけど、いつもこんな感じですか?
主演の三宅さん以外は皆ゲスト?
三宅さんは、大人計画の、ドラムがうまい方ですよね。
芸達者ですね。

執事親子はどちらも伝説には見えず、ともさかりえは三宅さんのどこが好きなのか最後までわかりませんでしたが、みんな個性的でどこか憎めない面があって、二時間楽しく観てました。
「吉本」は最高でしたね。

それにしても、私はあの子供部屋の仕掛けは、盗聴器だと思ったんです……あんな素敵なオチだったとは。

投稿: みずえ | 2014.07.25 09:14

 あんみん様、コメントありがとうございます。

 「ジュリアス・シーザー」のチケットの確保、おめでとうございます!
 よかった!

 下北沢駅、迷いますよねー。
 改修されてから私も何回か行っていますが、未だに迷います。毎回「多分、こっち」みたいな感じで歩いています。

 遠征、お疲れ様でした。
 最後の新幹線の遅れも含め、かなりハードだったみたいですね。
 「鎌塚氏」はそのハードな旅程の中のオアシスだったのでは?(笑)
 あんみんさんがご覧になったときも噛み噛みだったとすると、いっそ演出だったと思う方がいいんでしょうか・・・?
 ちょっと謎です。

 薬師丸ひろ子の「お局女中」はいいですね!
 ぜひ、鎌塚氏と対決してもらいたいですわ。

投稿: 姫林檎 | 2014.07.21 18:13

こんにちは、7/19・20と遠征して一緒に
『太陽2068』『七月大歌舞伎』も観てきて昨日帰宅しました。
東京駅で発車を待つ新幹線に乗車中に、急に大粒の雨。
その後は大雨で発車見合わせだったらしく、この頃の天気は予想不能ですね。

私はこのシリーズ、前回は観て初回は見逃しました。
最前列だったため、私も片桐さんのラテンメークに釘付けに!
ベンガルさんも三宅さんも噛み噛みでしたよ。
でもベンガルさんの飄々とした演技をメインに感じるほど、らしさが出てました。
『Woman』は名曲ですよね、物悲しくて。。
薬師丸さんがお局女中で、すました顔で陰険な演技で加わると面白そう。
セットが素敵で楽しいですよね。
このシリーズは続いてほしいです。
しかし久々に下北沢へ行くと駅構内に迷います(笑)。

あ、ジュリアスシーザー。なんとかA席取れました!楽しみ!
太陽のレポもお待ちしています。(蜷川風はアレンジというほどでもないかも?再演的に感じました)

投稿: あんみん | 2014.07.21 14:15

 ぱんまま様、コメントありがとうございます。

 はい、おっしゃるとおり、言われてみればあの曲は「Woman~Wの悲劇より~」でした。懐かしい〜。
 そして、どうして突然にあのシーンで歌だったのかは謎ですね。
 前作では、満島ひかりがやたらと上手く中森明菜を熱唱していましたし(笑)。

 鎌塚氏父が噛み噛みだったのは演出? と思ったりしたのですが、違ったようですね(笑)。「ちょっと疲れてきた伝説の執事」というのもありだと思って見ていたのですが、演出ではなかったのだとすると、噛み噛みでないお芝居で見たかったです・・・。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2014.07.13 12:30

姫林檎さま
ご無沙汰してしまいました。
「鎌塚氏」私も好きなんです。12日ソワレで観ました。
ともさかりえさんが歌った曲!薬師丸ひろ子さんの「Woman~Wの悲劇より~」です。突然の歌...なぜでしょう?まぁ、ちょっと息抜き?的な感じなのでしょうか?ともさかさん、好きなのでOKです。
鎌塚氏父=ベンガルさんはセリフ噛み噛みではなかったです。やっぱり初日はまだ上手く動いていなかったのでしょうか...。

投稿: ぱんまま | 2014.07.13 00:33

 みずえ様、コメントありがとうございます。

 そうなんです、珍しく初日に見て参りました。
 でも、初日ならではなのか、台詞を噛んだりというところがちょっと気になったので、ゆっくりめにご覧になるのが正解だと思います。
 どうぞ楽しんでいらしてくださいませ。

 宅間孝行氏は、確か、高畑淳子さんがブランチを演じた「欲望という名の電車」で拝見したことがあります。
 作・演出もされますよね? でも、そちらは多分、未見だと思います。
 機会があったら、チャレンジしてみます!

投稿: 姫林檎 | 2014.07.07 22:56

姫林檎さま

もうご覧になったんですね、早い!
私は24日に観ます。
観てから、ネタバレありの欄を読んで(今読むのを我慢している)、改めてコメント入れさせていただきますね。

私は来週、宅間孝行氏の「夕」を観ますが、姫林檎さんは、宅間さんには興味ないでしょうか?

投稿: みずえ | 2014.07.07 12:18

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