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2014.07.13

「抜目のない未亡人」を見る

シス・カンパニー公演 「抜目のない未亡人」
原作 カルロ・ゴルドーニ
上演台本・演出 三谷幸喜
出演 大竹しのぶ/段田安則/岡本健一/木村佳乃
    中川晃教/高橋克実/浅野和之/八嶋智人
    峯村リエ/遠山俊也/春海四方/小野武彦
観劇日 2014年7月12日(土曜日)午後6時30分開演
劇場 新国立劇場中劇場  13列21番
上演時間 2時間
料金 9500円

 シス・カンパニーの公式Webサイト内、「抜目のない未亡人」のページはこちら。

 ただでさえ広い新国立劇場中劇場の舞台をさらに広く使っている。
 舞台奥には奥に行くほど高くなっている布の衝立を舞台左右両端にTどくように数枚並べ、海を作り、背景には遠くの島にある豪華なホテルを覗かせている。
 舞台中程に空中回廊(としか言い様がない)がやはり舞台を横断し、その下にもやはり回廊、真ん中に鉄製の扉が置かれている。
 手前は半円状に広がったテラスで、デッキチェアやパラソル、ベンチが置かれている。

 ギターとアコーディオンの音楽が流れ、これはもう舞台は始まったと言っていい状態だろうにしゃべり続ける左隣と後ろの席の方々に辟易としていると、客席から八島智人がハイテンションで登場して驚いた。
 舞台がヴェネツィアだからなのか、彼に限らず登場人物達の名前が覚えにくいのが困る。彼は、アルレッキーノで、本人曰く「一流ではないけどそこそこ有名な映画監督たちが、ヴェネツィア映画祭の期間中、泊まり、集うホテル」で、副支配人代行という微妙な役職を拝命しているのだそうだ。
 「ここはヴェネツィアですからね」と強調して笑わせる、この辺りは、八嶋智人の真骨頂と言えるだろう。

 もっとも、タイトルは「抜目のない未亡人」なので、話の中心は、大竹しのぶ演じるロザーウラ・デ・ビゾニョージである。この名前がもううるさいくらい連呼されるのだけれど、あまりにも耳馴染みがしなくて、最後まで覚えられなかった。監督達が口にしているから多分彼女の名前なんだろう、と思っていた気がする。
 10年前に、当時出演した映画の監督と結婚し、「夫が監督する映画にしか出ない」と約束したら、夫は1本も映画を撮らないまま死んでしまったのだそうで、彼女は映画界へのカムバックと、ついでに映画監督との恋にもカムバックしようと意欲を燃やしている。
 峯村リエ演じるマリオネットはマネージャとして彼女についており、辛辣かつやり手、のように見える。

 そこへ、このホテルに泊まっている(約1名を除く)ことからも判るように、一流ではないけど名前はそこそこ知られている映画監督たちが現れる。
 岡本健一演じるフランス人監督のルブロー、中川晃教演じるイギリス人監督のルネビーフ、高橋克実演じるスペイン人監督のドン・アルバロ・デ・カスッチャ、段田安則演じるイタリア人監督のボスコ・ネーロの4人だ。
 これがまぁ、ルブローは芸術家気取りだし、ルネビーフは堅物、ボスコ・ネーロは「自分が一番彼女をよく知っている」と豪語し、ドン・アルバロ・デ・カスッチャは何故か足にフィンを履いている。
 4人が4人ともロザーウラ・デ・ビゾニョージに自分の映画に出てもらうのだと言い張り、自信ありげに振る舞い、そのくせ他の3人を牽制しようと躍起になっている。

 多分、割とありそうな設定に合わせて、この4人の性格も割とありそうに作られていて、フランス人はいかにも色男だし、イギリス人はいかにも堅物、スペイン人はいかにも破天荒、イタリア人のボスコ・ネーロが誠実そうに描かれているのは、もしかして作者がイタリア人なんじゃないかと思ったりする。
 撮ろうという映画も、ルブローはいかにも前衛、ルネビーフは何故かジャンヌ・ダルク、ドン・アルバロ・デ・カスッチャは女海賊もので、ボスコ・ネーロは息子達に裏切られる母親ものといかにもだ。
 浅野和之演じる、ロザーウラ・デ・ビゾニョージの死んだ夫の兄であるパンタローネが彼らをぶった切るのだけれど、そちらに大いに共感する。

 もっとも、この82歳のパンタローネもムチャクチャで、小野武彦演じるロザーウラ・デ・ビゾニョージの父親であるロンバルディを「スターウォーズ出演」で釣り、木村佳乃演じるロザーウラ・デ・ビゾニョージの妹のエレオノーラと結婚させてくれと言い張っている。
 騒動の材料は揃った! という感じである。

 これだけ役に合った芸達者を揃え、これだけ判りやすい騒動のタネが仕込まれ、お約束どおりにロザーウラ・デ・ビゾニョージは自分が若いと信じ込んで「母親役はやらない」「(19歳で死ぬ)ジャンヌ・ダルク役が相応しい」と大勘違いをしているし、その妹のエレオノーラは明るく性格のいい美人だけれどいわゆる「大根役者」らしく本人もそれを認めている。
 4人の監督は代わる代わる他の3人を出し抜こうとロザーウラ・デ・ビゾニョージに接近し、それぞれに甘言を弄し、出し抜かれてたまるものかと他の3人の動向を見張ったり見守ったりする。
 その全てを知りつつコントロールしたり煽ったりするアルレッキーノの動きも軽やかだ。

 しかし、なのである。
 予定調和すぎるのか、役者と役を重ねすぎてしまったからなのか、細かく笑いを取っているし、そもそも喜劇だと思うのに、何だか舞台が広く感じてしまうのだ。
 そもそもかなり舞台を広く使っているのだけれど、それでもみっしりした感じの舞台はたくさんある。
 そのみっしりという感じがしない。
 13列という席番だったけれど実際は前から4列目で、非常に舞台が近いのに、何故だか舞台が遠く感じる。
 結構笑いながら見ていたのだけれど、どこかに「うん?」という感じもある。

 マリオネットが「ロザーウラ・デ・ビゾニョージは、世の中は自分を中心に回っている訳ではないと知るべきだ!」と叫び、アルレッキーノを巻き込んで、仮面舞踏会の夜であることを利用して映画監督たちの本音を探りましょうとロザーウラ・デ・ビゾニョージに持ちかける。
 つまりは、マリオネットは、映画監督達が決してロザーウラ・デ・ビゾニョージの才能を買って映画出演交渉をしている訳ではないと知っていたってことなんだろうか。

 そうして、変装したロザーウラ・デ・ビゾニョージにコロっと騙され、ルブローもルネビーフもドン・アルバロ・デ・カスッチャもついつい本音を言ってしまう。
 ルブローは一般受けしない自分の映画に客を呼ぶために、ルネビーフはロザーウラ・デ・ビゾニョージが出演する映画に出資すると明言したことを信じて、ドン・アルバロ・デ・カスッチャは実はペネロペ・クルスにも出演交渉していてロザーウラ・デ・ビゾニョージは二番手の候補として、それぞえ出演交渉をしたことが判明し、マリオネットが目指した以上にショックを受けたロザーウラ・デ・ビゾニョージに対し、ボスコ・ネーロだけは、誠意ある回答を見せる。
 それが、下手なギターと歌というのは、現実的にはどうかと思うけど、ロザーウラ・デ・ビゾニョージの心は打ったようだからいいのだろう。

 そうして、ロザーウラ・デ・ビゾニョージはボスコ・ネーロの映画に出ることに決める。パンタローネが彼の映画を評して「悲しいことが起これば傑作だと思っている」と言ったことは、とりあえず置き去りにされているけれど、多分、もう映画なんてどうでもいいんだろう。
 ルブローは、エレオノーラに「ただそこにいるだけでいい」役をオファーして承諾を得たのでこちらも大団円、ルネビーフとドン・アルバロ・デ・カスッチャは残寝ながら空手で引き下がることになる。

 「カーテンコールは1回だけ」というアルレッキーノの宣言どおり、1回のカーテンコールで終了した。

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コメント

 あんみん様、再び(笑)、コメントありがとうございます。

 あんみんさんは、初日をご覧になったのですね。
 すでに記憶が曖昧というのが悲しいかつ情けないところですが、私が見たときには、段田さんは杖はついていらっしゃらなかったと思います。
 治ったんですね、きっと。
 しかし「驚いて転んじゃったよ」で続けてしまうって何だか凄すぎる・・・。私もそのシーン、見てみたかったです。

 そして、あんみんさんも、やっぱり「勿体ない」感が残りました?
 劇場に広さもあったと思いますが、ギュッっていう感じがなかったですよね。
 私も作り込んで作り込んで詰め込んで詰め込んだコメディが見たいです。

投稿: 姫林檎 | 2014.07.21 18:30

再び。先月初日を観てきました。
ちょっとギクシャクしていて、袖で声がしたり『ん?』と思いつつ観てました。
途中で段田さんが『驚いて転んじゃったよ』と途中から杖を突いていました。
あれ、本当?演出?とよくわからず。

先々週の三谷氏の夕刊コラムで、段田さんが劇中で足を捻挫して
急遽演出を変えざるを得なかったそうです。
あ~それで大竹さんが『はいはい、ここに座って』と、段田さんを椅子に連れて行ったときの違和感がわかりました(笑)。
役者もスタッフも大変です。

ただ、、こんなに豪華な役者を揃えて、なんだかもったいないが本音。
オリジナルでは無いから仕方ないとは思いますが
意表を突くセットや、八嶋さんの観客巻き込み型の活躍は良かったけど、
中途半端に歌を入れたり、浅野さんの『いつもの役回り』も飽きた気がします。
もうちょっと練りに練ったコメディが観たかったです。
今年最後のparcoの『紫式部ダイアリー』が発表されましたが
どうなるかな~。
1年で1本でいいから三谷さんらしさ満開のお芝居が観たいです。
(グッドナイト・スリイプタイトのような)

投稿: あんみん | 2014.07.21 14:39

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