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2014.07.12

「おとこたち」を見る

ハイバイ「おとこたち」
作・演出 岩井秀人
出演 安藤聖/岩井秀人/岡部たかし/菅原永二
    永井若葉/平原テツ/用松亮
観劇日 2014年7月11日(金曜日)午後7時30分開演
劇場 東京芸術劇場シアターイースト  H列6番
上演時間 2時間10分
料金 3500円

 ロビーでは、過去公演のDVDや台本などが販売されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 ハイバイの公式Webサイトはこちら。

 ハイバイのお芝居は、昨年春に「て」を見て以来の2本目である。
 なので、「ハイバイの定番」はまだよく判らない。
 開演前に、「て」のときは母親を演じた岩井秀人が、今回は、山田を演じた菅原永二が、「飲み物は構いません」「携帯電話はマナーモードではなく機内モードで」「周り20人くらいがいつ終わるんだろうと気にします」「飴の包み紙もそろそろと破るのではなく、パッと開けてハッと口の中に入れちゃってください」という趣旨のメッセージを発していたから、これは定番なのかも知れない。

 「おとこたち」というタイトルなので、男しか出てこないのかなぁと勝手に想像していたのだけれど、考えてみたら、チケットを購入した段階で出演者は知っていたのだった。我ながらマヌケである。
 舞台は、高さが違う3つの舞台が曲がった階段のように並んでおり、一番下にカラオケボックス風にソファセットが並んでいる。一番下は、客席と同じ高さである。
 一番上の舞台上の一部に壁があり、右上に彼ら4人の年齢が時々映し出され、その他の部分にも時に映像が出る。テレビの大きさにぼんやりした映像が出てセットの一部となることもある。
 後で自分で読んで判るとも思えないのだけれど、舞台はそんな感じだ。

 ソファセットに岡部たかしと用松亮がスタンバイしたところで、菅原永二が「山田」になって語り始める。
 老人ホームにボランティアで来たところなのだそうだ。
 壁面の数字は「82」だ。だから、最初はこの数字は「西暦年の下2桁」なのかと思った。それが、話しているうちに、山田はボランティアに来たのではなく、老人ホームの入所者であり、82歳だということが明らかになって、それで、「表示される数字イコール彼らの年齢」ということが判る仕組みになっている。
 なるほど、と思う。

 そして、平原テツ演じる鈴木、用松亮演じる津川、岡部たかし演じる森田、菅原永二演じる山田の24歳4人がカラオケボックス(だと思う)に集まって、ファッションヘルスに行ったそれぞれの体験を語りつつ、カラオケのマイクを握って歌いつつ自己紹介したり、歌っている男の他己紹介を野次ったり、何故だか客席に向けて語りかけたりしながら、4人の「現在」と「ちょこっと未来」が語られて行く。
 鈴木は製薬会社のプロパー、津川は戦隊ものの黄レンジャーポジションで人気が出た俳優で、岡部はやるき茶屋(ではなかったかも。白木屋だったか。)で深夜バイトで生計を立て、山田は2年遅れで大学を卒業していわゆるブラック企業に入ってしまったらしくドロップアウト、紹介予定派遣(こういうところが何故かリアルである)でスピーカーの販売会社に入っていつの間にか苦情対応専門になってしまっている。

 勝ち負けではないけれど、しかし、社内でも出世し早くに結婚して子どもも産まれた鈴木に対して、森田が「つまらない!」と近況を語らせないようにする気持ちはよく判る。
 しかし、その森田だって、結婚しているのに、バイト先の若い女の子と不倫しているのだ。その女の子との会話を見ていると「勝手極まりない!」感じで、かなり腹が立つ。どうしてこういう男に騙されるのだと文句を言いたい。
 この森田のエピソードは、永井若葉演じる森田の妻と、安藤聖演じる不倫相手の純子ちゃんの不可解さにスポットが当たっているように思える。「おとこたち」ではあるけれど、森田は完全に脇役兼道化役である。
 秘密のつもりが、女同士で全部筒抜け、最後には女同士で保険金殺人の話まで出て、妻からは慰謝料要求と共に離婚を告げられるのだからすっとする。山田だったか鈴木だったかのナレーションにもあったけれど、一番不可解なのは、しかし森田夫妻が離婚しなかった、ということが一番不可解だ。

 「おとこたち」だから、「おとこたち」4人とも最後まで生きていると思っていたら、津川が割と早い段階で死んでしまって驚いた。
 津川は、酒に負けてテレビからも舞台からもオファーが来なくなり、自宅の火事で九死に一生を得てから宗教に走り、俳優時代の知名度を活かして宗教団体の中でえらくなって行く、という、特に宗教に傾倒していく辺りから後が辛い。
 そう考えると、この4人、辛かったり切なかったりしてばかりじゃないかと思う。
 津川は、その宗教で重要とされている玉をトイレに落としてしまい、そのショックでなのか、亡くなってしまう。

 しかし、死んじゃうの? と思う間もなく、舞台上で作務衣を脱ぎ捨て、鈴木夫妻の長男1歳として現れたときには、思わず笑ってしまった。
 そう来たか、と思う。
 1歳の長男はやたらと可愛いけれど、この長男が5歳くらいになった頃から、「ずっと要領よく生きてきた」鈴木と、あまり器用そうには見えない長男、その長男の方に心を寄せる妻との間にすきま風が吹くようになる。
 順調だし、思い描いたように仕事人生を送っている鈴木だけれど、そういえば家庭については何の計画も描いていなかったなぁと思うのだ。

 特に長男との関係が上手く行っていないように見える鈴木、苦情処理係の長として新入社員の教育に頭を悩ます山田、ついでにこの山田が通っていたファッションヘルスで指名していたのは森田の元彼女の純子ちゃんだったりしているし、その森田は何だかこれといったエピソードも語られないまま結婚生活を続けているようだ。
 多数決ではないけれど、4人のうち、独身のままなのが2人、結婚したけど子どもがいない人が1人、妻子を持つ人が1人というバランスは、普通に考えるとよくありそうなのだけれど、舞台上で見るとちょっと違和感があるのが我ながら謎である。
 多分、私の側に「結婚しているのが普通」という固定観念がまだあるということなんだろう。

 家に居場所がなくてゲーセンに入り浸り、若者と喧嘩して死んでしまった鈴木の葬儀で、山田と森田は、実は鈴木が家庭内暴力状態であったことを知る。鈴木をゲーセンに誘ったのが自分だからか、山田の方が息子に対するわだかまりが大きいようで、ここでは森田が宥め役だ。
 森田の妻が癌になり、小康状態を得たときに鈴木の妻と再会して2人は仲良くなったようだ。
 そういえば、私は実は舞台が終わってカーテンコールになるまで、純子ちゃんと鈴木の妻の両方を安藤聖が演じていることに気がつかなかった。繰り返すけれど、我ながらマヌケである。

 妻が少し元気になって時間のできた森田は、しばらく山田の妄想状態に付き合っていたけれど、ついには付き合いきれなくなって、山田を老人ホームに入れる。
 さらっと語られたけれど、それってかなり大変なことなんじゃないかという気がする。
 そして、最初の老人ホームのシーンに戻る。
 最初と違うのは、一番高くなっている舞台に呆けたように座り続ける鈴木がいる、ということだ。

 最初のシーンが繰り返されて終わるのかなと思ったら、ここでは、最初に演じられたシーンの続きがあった。
 カラオケのシーンにも突入し、しかし、多分、語られている内容はかなり変えられていたような気がする。全く覚えていなかったのだけれど、しかし、何だか違う、という感じだけはする。
 山田が、多分、人生のいくつかの場面を思い出して、しかし意味を取りにくいことを叫び、スタッフに宥められ、「もう寝ましょう」と言われて舞台からはけていく。
 誰も居なくなった舞台の照明が落ちて、終演である。

 何というか、決して後味は良くない。
 比較しても仕方がないと思いつつ、「4人のうちで誰が一番幸せだったろう」と考えてはみたけれど、答えは出そうもない。
 じゃあ、自分は彼らに比べてどうなのか、ということはとりあえず考えたくない命題である。
 何というか、やられた! という感じがとにかくしているのだった。

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