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2014.08.09

「ラストフラワーズ」 を見る

大人の新感線「ラストフラワーズ」
作 松尾スズキ
演出 いのうえひでのり
出演 古田新太/阿部サダヲ/小池栄子/橋本じゅん
    宮藤官九郎/高田聖子/皆川猿時/粟根まこと
    杉村蝉之介/河野まさと/荒川良々/山本カナコ
    平岩紙/保坂エマ/星野源/村木仁/松尾スズキ
観劇日 2014年8月8日(金曜日)午後6時開演
劇場 赤坂ACTシアター  D列33番
上演時間 3時間40分(25分の休憩あり)
料金 11000円

 どう「大人」なのか、とても気になるところである。ぜひ見てみたい。
 抽選予約に申し込んだ。

 大人の新感線の公式Webサイトはこちら。

 仕事がどうしても終わらず、滅多に走ることのない私がかなりちょっと走って駆けつけたのだけれど、最初の15分くらいを見逃してしまった。もの凄く残念である。
 途中入場になって、周りの席の方々にご迷惑をおかけしてしまったのも申し訳なかった。
 席がど真ん中、とかじゃなかったのが不幸中の幸いだ。

 そんな訳で、恐らくは私が見逃した最初の15分くらいのところで、芝居全体の謎というか枠が示されていただろうと推測されるのだけれど、そこは全く判らないまま見始めた。
 私が席に着いたときには、すでに舞台上ではヤクザの抗争(っぽい)シーンが展開されていたのだ。
 とりあえず、阿部サダヲと橋本じゅんとが、対立する組の「若頭」とかであるらしいことは判った。

 しかし、それにしても、これでもかといった感じで詰め込まれている。
 阿部サダヲ演じる軍二郎は、橋本じゅん演じる勝場組組長の息子で、身体が不自由な兄軍一郎と双子の兄弟であり、かつ何らかの手術が施されて頭脳が飛躍的に発達しているものの、その後遺症で定期的な治療が必要になっているらしい。
 軍一郎の方は人類を超える天才で、軍二郎は普通の天才なんだそうだ。
 そして、彼らが何を目指しているのかはよく判らない。

 その軍一郎が大好きだという「ビッグダディ」ならぬ「ファットダディ」に出演している、古田新太演じる佐伯三蔵は、大家族のお父さんは世を忍ぶ仮の姿(?)で、その実体は特命秘密捜査官(いや、もしかしたらもっとそれらしい名称がついていたような気がする)だという。
 私が見た最初のシーンにいた小池栄子演じるナナナはクラブの歌手で、かつ、特命秘密捜査官でもある、らしい。
 そこに、荒川良々演じる村西五郎が、爆弾魔事件の犯人としての刑期を終えて出所し、捜査官に加わった、ようだ。
 そして、村杉蝉之介演じるつげ分析官が彼らをまとめているのだけれど、ナナナにつけられたGPSによって、その秘密基地だったか本部だったかは攻撃をうけ、自爆せざるを得なくなる。

 爆弾魔である五郎を逮捕したときの捜査ミスで、三蔵たちは爆弾を爆発させ、民間人に負傷者を出し、自分たちの写真まで新聞紙上に出てしまっている。
 そのときに負傷したのが、宮藤官九郎演じる早川というフォークシンガーで、彼はそのために左手の指を3本失っている。
 その早川から借金を取り立てようとしているのが星野源演じる犬塚で、彼は元々は「普通になりたい」とウエイターをしていたのだけれど、そこがたまたま軍二郎の店だったようで、ついにはサラ金の取り立て担当にさせられてしまったのだ。

 この犬塚と、平岩紙演じる早川を追っかけているルポライターとは何故か仲良しになっているし、三蔵が恐らくは潜入捜査のつもりで軍二郎の組に入ろうとし、最初の仕事として犬塚に倣って取り立てをするよう言われ、早川に会う。
 犬塚は、早川からギターを習って授業料を払い、そこから利子を払ってもらっているという、三蔵曰く「温い」取り立てしかしていなかったようで、三蔵は何故か立場を忘れて怒っていたけれど、早川の負傷の理由を知って、態度が変わる。

 借金を返せない早川のところに「暗殺者になって借金を返すよう」メッセージが届き、早川はそれを受け入れる。その訓練に三蔵は協力し、かつ、早川が命じられた暗殺相手が、北朝鮮をモデルにしただろう国の皆川猿時演じるジョンオク将軍だと知ると、五郎とともに密航を図り、そこに早川を心配したルポライターとルポライターを心配した犬塚もこっそりくっついて行く。

 このジョンオク将軍は、突然現れた軍一郎を宇宙人と信じ(手術のために人類ではあり得ない脳の状態だったことがその決めてである)、彼に半ば操られる形で国を王政下に置こうとする。
 その様子を見た、高田聖子演じるジョンオク将軍の元妻でヤクザのほぼ女組長であるミンスと、その息子である橋本じゅん演じるシン・ジョンホンは、将軍の戴冠式のお祝いにかけつけたマジシャン一行に化けて戴冠式会場に潜り込む。

 あと、出ていないのは誰だ。
 軍二郎たちに手術を施したのは、粟根まこと演じるサルバドルで、サルバドルにその手術を命じたのは、松尾スズキ演じるセレスティーノというカジノ王らしい。
 目的は、セレスティーノ自身が殺してしまった(のかな?)母親の身体を再生し、その保管している脳みそを使ってもう一度母親をこの世に蘇らせることにあるようだ。
 その「身体の再生」をさせるには天才が必要だ、天才を作るためには手術が必要だ、ということになったらしい。

 こうして登場人物のほぼ全員がとある国に揃ったところで、事態はもちろん混乱を極める。
 軍一郎が天才だと思われていたけれど実は軍二郎が全てを取り仕切っていたこととか、戴冠式によって軍一郎のクローンが全世界にばらまかれて「人類ネアンデルタール化人計画」が発動されようとしたこととか、人類ネアンデルタール人化計画というのは軍二郎がネアンデルタール人は憎しみを知らない人々であったと知って原人類を憎しみを知らない存在に変えるために退化させようというのがその目的であったこととか、軍二郎が三蔵の長女を「理由もなく」殺していたこととか、ナナナのお腹にシンの子どもがいたこととか、シンはジョンオク将軍の息子で王位継承者ということになるのだけれど、大混乱の中で将軍もシンも死んでしまい、その子を宿していたナナナが「人類ネアンデルタール化人計画」を発動させてしまったこととか、ジョンオク将軍が大ファンでこの国でこの音楽しか流さないというくらいに溺愛していた「ラストフラワーズ」という歌は実は早川が昔書いた曲だったりとか、大混乱に陥った国をこのラストフラワーズの歌が救ったりとか、爆弾魔であった五郎が全世界に拡散しようとした軍一郎の乗った飛行艇を全て爆破して「人類ネアンデルタール化人計画」は未遂に終わったりとか、もうとにかくしっちゃかめっちゃかに張り巡らせられていた伏線を全て回収し、意外と死者は少なく、大団円に終わるという、私の好きなタイプのお芝居である。

 確かに、設定は松尾スズキだし、演出はいのうえひでのりだ。
 コラボだ。
 そして、それが異様に上手く行っているし、演じている方々も何だか普段よりも楽しそうだ。

 しかし、これだけたくさんの登場人物それぞれにストーリーがあり、そのストーリーが芝居全体のストーリーに関わっているので、こちらに渡される情報量が激しく多い。
 その多すぎる情報量を、短いシーンを次々に送り出すことで確実に伝える。あまりにも場面転換が多いので、小さな回り舞台(というよりは、忍者屋敷の回転ドアみたい)と、舞台前方で出し入れされる壁、背景を映像にすることで「完全に転換」な時間をなくしているのが上手い。
 上手いといえば、初登場の2人(早川とルポライターだったか)の会話が終わったところで、阿部サダヲ演じる軍二郎が「この短いやりとりで、彼らの人間関係や素性が全て伝えている。素晴らしい」みたいに言っていたのが可笑しくて笑ってしまったけれど、確かにその通りなのである。

 ルポライターは早川を描いた本を出し、歌の力で世界を鎮め、普通を求めていた犬塚は彼の国でスターとなって「普通」からは遠去かり、ナナナは彼の国の女王としての居場所を見つけ、秘密捜査官は解散し、実は全ては軍二郎の見た夢物語でした、と落とすのかと見せかけて、「ファットダディ」に戻った三蔵は少年に戻った軍二郎を育てることにしたという、しみじみほろっという後日談もぬかりなく用意されている。
 歌あり踊りあり殺陣ありドラマあり、盛りだくさんの情報を次々と発信して飽きさせず混乱させないという魔法のような3時間半だった。

 そして面白い。
 楽しすぎて笑ってしまった。

 帰り道、「ラストフラワー」のサビがずっと頭の中をぐるぐる回っていた。

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コメント

 あんみん様、コメントありがとうございます。

 小池栄子は、「いかにも昭和」とか「いかにもマジシャン」とか「いかにもクラブ歌手」といういくつものキャラを楽しそうにわざとらしく演じていたのが良かったですよね(笑)。

 古田新太は、テレビでしか知らない友人に「格好いいの!」と熱弁して引かれるのが困ります(笑)。だって、格好いいですよねぇ。

 やっぱり、第2弾をみたいですね。

投稿: 姫林檎 | 2014.08.11 23:25

そうですね、追記の所までで15分では終わらないですね。

和太鼓が登場した時に『え...?』てなりましたが
なんだか『これ(このお芝居)はお祭りだぜ!』な感じに取りました。
パリの暗殺者の下りは『ん?なんだかよくわからん』でしたし、
小池栄子の歌はちょっとご愛嬌でした。

しかし彼女は相変わらず度胸が良く、はっちゃけてますよね。
大人計画にも劇団☆新感線にも、相性がいいです。
古田氏の存在感は期待通り、ちょっと阿部サダヲの影が薄くて、そこは残念でしたが
とにかくお祭り芝居が観られて満足です!

投稿: あんみん | 2014.08.11 00:32

 あんみん様、冒頭シーン、こんなに詳しく教えていただいてありがとうございます!

 うーん、やっぱりだいぶ見逃していますね・・・。
 15分遅れくらいで駆けつけられたつもりでしたが、もっと遅かったのかも知れません。
 冒頭を見ていたら、全体の印象だったり感想だったりが、少し違っていたかも、と思います。

 本当にどうしてこういうときに限って、抜けられない仕事が長引くのか・・・。そんなことは滅多にないというのに・・・。

 返す返すも悔やまれますが、しかし、それでも楽しく「エンターテイメントだぜ!」という部分を満喫しました。
 第2弾も期待したいですね。

投稿: 姫林檎 | 2014.08.10 22:37

補足(結構抜けてました)。
SMごっこプロローグの後に、画面に唐突にパリの夜。
暗殺者が誰かを殺した直後に、自分も口封じに殺され、
またその暗殺者も殺され...(仏語のナレーションに字幕入り)
謎の暗殺集団で『ラストフラワーズ』がヒント(だったかな)

~転換~オープニングっぽく、小池栄子がクラブ歌手nananaとして登場、
生で華やかに歌いながら、バックの画面でキャストが紹介される。
で、そのまま勝場組傘下のバーの場面へ。
勝場組の店なのに、nananaが敵対する暴力団の会長シンの愛人なので、
客として来るので勝場組のサダヲ軍二郎と更にモメる。

ここ位から観はじめられたのでは?

投稿: あんみん | 2014.08.10 20:27

こんにちは、台風です!遠征日でなくて良かった!
8/2に早々と観てきましたよ。
遅刻はもったいなかったですね。でも大丈夫!
見逃した部分は...。

最初に5人の和太鼓の演奏が有り、最後に後ろ姿に反転すると、
各々法被の背中に『ぷ・ろ・ろ・ー・ぐ』と字が貼ってあり退場。
上手にSM嬢のエマさんと縛られた組長のじゅんさんの登場。
(後で出ましたよね)
『プロローグ!』エマさんに『さあ、お前の口からプロローグを話せ!』と
鞭で叩かれながら勝場組長が話し出します。

(回想としてで実際の妻等は出ず、映像の前で勝場が話す)
若い時に妊娠した妻と一旗あげようと外国に向かい、テロリストに拘束される。
粟根サルバドルに実験材料として妻を差し出せば許してやると。
(ひどい話ですが)それを受け入れて妻を失い、双子の息子が実検されて生まれた。~暗転~
終わるとエマさんがニコッと『お疲れ様でした~、延長されますか?』とSMプレイの接客に戻る。


こんな感じですが、ちょっと唐突な導入ですね(笑)。
この後、現在へ飛びヤクザの抗争へとなったはずです。

>>あと、出ていないのは誰だ。
これ大笑いです、確かに!
上手も下手も映像も観なくてはならなく、目があちこち泳ぎました。
2度とない豪華なキャスティング!(マジシャン・カナコさんがほんのちょっとで残念)
ちょっとふくすけの焼き直しの感じも有ったし、蓮舫の下りは古いかな。
大人計画の毒気が、新感線のお得意エンターティメントで薄まった感も。大衆寄りになった?
でもここまで某国をケチョンケチョンにして大丈夫なのか!?

結局、松尾さんなりのマイルドな平和願望なのかなと。
最後の歌が私もしみじみ良かったです。
パンフにいのうえ氏と松尾氏の対談が載ってましたが
『以前だったら他のプロデューサーの売るための企画になっただろう』と。
今回は純粋にお互いがやりたくて実った公演なんだなと思い、いち演劇ファンとしては嬉しい限りです。
第2弾が有るといいな。


投稿: あんみん | 2014.08.10 16:44

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