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2014.09.14

「ハムレット」を見る

子供のためのシェイクスピア「ハムレット」
作 W.シェイクスピア
翻訳 小田島雄志
脚本・演出 山崎清介
出演 伊沢磨紀/福井貴一/山口雅義/戸谷昌弘
    佐藤あかり/若松力/宮下今日子/長谷川祐之
    斉藤悠/山崎清介
観劇日 2014年9月11日(金曜日)午後7時開演
劇場 あうるすぽっと  E列3番
上演時間 2時間10分
料金 5000円

 シェイクスピア生誕450年とともに、子供のためのシェイクスピアシリーズも20年目を迎えているのだそうだ。
 あうるすぽっとでもシェイクスピアが次々と上演されている。

 ロビーでは、お城のようなオブジェが置かれ、「衣装を着てみましょう」というコーナーが設けられていた。

 パンフレット(1000円)やTシャツ等が販売されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 子供のためのシェイクスピア「ハムレット」の公式Webサイトはこちら。

 珍しく(初めてかも知れない)休憩なしの2時間公演だった。
 今までは、「子供のための」と銘打っていることもあって、このシリーズの公演にはほぼ休憩があったように記憶しているのだけれど、実際のところはどうだったろう。
 休憩はなくとも、開演前のイエローヘルメッツによる1曲は健在である。

 2列縦隊で椅子が並べられているだけの舞台に、黒い帽子に黒いコートの出演者たちが現れる。
 舞台はクラッピングで始まる。
 伊沢磨紀演じる誰かが「話を聞こう」と言うところから、舞台は始まる。この舞台は「聞いた話」の舞台なのだ。

 それいしても最初の衝撃は、前に子供のためのシェイクスピアで見た「ハムレット」のときにオフィーリアだった佐藤あかりが、いきなり迫力あるガートルートになっていたことだ。
 変わりすぎである。
 今回もオフィーリアを演じるのだとばかり思っていた私にとっては、かなり衝撃だった。

 つい最近、ハムレットが廷臣たちと城壁状の見回りに立ち、そこに毎夜現れているという父王の亡霊に会おうとするというシーンは「これはコメディですから!」と断言する話を聞いたところだったので、単純な私は「ハムレットは喜劇だと思って見よう!」と刷り込みが完了していた。
 シェイクスピアの四大悲劇と言われていることは知っているし、人はバタバタと死んで行くし、なかなかコメディとか笑えるとか思うのは難しいのだけれど、「子供のためのシェイクスピア」シリーズなので、随所に子供を飽きさせない工夫があり、しかも、それは往々にしてクスリと笑えるようなネタであることが多い。
 それも、元々、「ハムレット」という芝居にコメディ要素が織り込まれているからこそなのかも知れないと思ったりした。

 もっとも、父王の死後、2ヶ月もたたないうちに父王の弟である叔父と結婚した母に幻滅し(どこまでマザコンでファザコンなんだと思わなくもない)鬱々としていた王子ハムレットが、親しい友に父王が現れ、口を開きかけたところで姿を消してしまったと聞き、そして亡霊でありニセモノかも知れない父王に会いに行くところを見て、なかなか「笑える」シーンだと思うのは難しい。
 ハムレットが悩める王子には見えないけれど、かといって行動派の王子にも見えない。
 ただ、鬱々としているマザコンに見えるというのはどうなんだろう。

 「ハムレット」は、ハムレットとオフィーリアの物語だと思っていたけれど、意外とオフィーリアの出番は少ない。
 恋愛ものじゃなかったっけ? と思う私はロミオとジュリエットと混同しているのかも知れない。
 若松力のハムレットと宮下今日子のオフィーリアは、ちょっとオフィーリアの印象が強すぎる感じがするけれど、なかなか初々しい感じである。それは、福井貴一演じるクローディアスや、山崎清介演じる父王の亡霊の重厚感あってこそだ。

 そして、今回ハムレットを見て一番強く印象に残ったのは、この「ハムレット」という芝居の主役は父王の仇を討ったものの父の仇を討たれて死んでしまうハムレットでも、狂気に陥って溺死してしまうオフィーリアでもなく、夫を殺したその弟と結婚し、息子に厭われ、夫の企みの犠牲となって死んでしまうガートルートなんじゃないかという気がした。
 結局、デンマークの王室は彼女を中心に回っているではないか。

 「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」という戯曲にもなったこの2人は、どちらかというと、今回は「ただハムレットのことを考えて友人だと思っているけれど、王の意向には逆らえない、ある意味不運かつ不幸な2人」として描かれていたと思う。
 悪意はない、ハムレットのことも学友として心配している、でも王の命令に逆らえずにハムレットが何を悩んでいるのか聞き出そうとしてハムレットの反感を買い、王の陰謀に知らず手を貸すことになって、ハムレットの反撃に遭う。
 いや、どう考えてもこの人たち、殺されなくちゃならないほど悪いことしてないだろう、と思ってしまう。
 ハムレット、酷すぎる。

 酷いといえば、ポローニアスを殺してしまった後のハムレットも酷いと思う。どうも、「恋人の父親を殺してしまった」という反省とか悔恨とか恐れとか、そういうものが全く感じられない。
 いっそ、どうして父王じゃなくておまえがそこにいたんだ、折角の復讐の機会だったのにとポローニアスに文句をつけそうな勢いである。
 父親を恋人に殺されたオフィーリアが狂気に陥ってもやはり反省はなく、情もかけることなく、父親を殺され妹を狂わされたレアティーズが怒りに我を忘れても、「どうしてそんなに怒っているんだ」とでも言いたげな風情である。
 ここまで酷い人物に主役は張って欲しくないと思ってしまう。しかも、シャイロックのような魅力もない。

 父王の仇を討つべく狂気のフリをしていたハムレットは、芝居の一座に父王殺害の様子を演じさせることで叔父の反応を見ることにし、取り乱した姿を見て「亡霊の言っていたことは正しかったのだ!」と叫ぶ。
 普通に考えると、もうちょっとまともな方法で確認しようよと言いたいところである。
 それでもまだぐずぐずしていたせいで、誤って恋人の父親で宰相でもあるポローニアスを殺してしまい、オフィーリアは狂気の世界に入ってしまう。
 ハムレットの真意に気がついたクローディアスによってイギリスに流されその地で殺されそうになるけれど、海賊船に襲われた隙に逃げ出して無事に帰国する。

 クローディアスとレアティーズは、レアティーズとハムレットとの決闘に毒刃を用意してハムレットを殺そうとするけれど、毒入りの杯をいただいてガートルートが死に、毒を塗った剣でレアティーズ自身も傷ついて死に、ハムレットはクローディアスを討って仇を取るが、自分もまた毒剣で死んでしまう。
 死ぬ直前、隣国ノルウエイの王子を後継指名し、後を追おうとした友人のホレイショーに自分の本当の姿を語り継いで欲しいとその死を留める。
 いわば、この「ハムレット」という芝居の中で、ハムレットが唯一前向きかつ善意の行動を取った瞬間だ。

 そして、冒頭のシーンに戻る。
 後継指名された隣国の王子フォーティンブラスに対し、ホレイショーが「嘘偽りなく全てを語りましょう」と言って終わる。
 主要登場人物のほとんどが死んでしまったから仕方がないのだけれど、どうして隣国の王子に国を譲らねばならないのか、よく判らない。父王同士の決闘により、ノルウエイの領土がデンマークのものになったという故事来歴があるにせよ、元々のデンマーク領にフォーティンブラスは恐らく何の関係もないのだ。
 シェイクスピアも「謎が謎を呼ぶ」展開が好きだったんだろうか。あるいは、ハムレット「前」とかハムレット「後」の物語が用意されていたんだろうか。

 公演のというよりも、見た私の側の理由で、これまでとはかなり違う印象の「ハムレット」になったのだった。

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コメント

 ぷらむ様、お久しぶりです&コメントありがとうございます。

 なるほど、ハムレットがイギリス行きの船に乗る前にフォーティンブラスとすれ違ったことが、後々まで効いてくる伏線になっているのですね。
 私みたいに「気付かない」客ばかりだと、シェイクスピアも泣けてきますね、きっと。
 教えていただいてありがとうございます。

 今年はシェイクスピア生誕450周年だそうですし、またハムレットを見る機会があったら、心してみようと思います。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2014.09.14 23:15

いつもブログ読ませていただいて、楽しませていただいています。
ちょっと、気になったので、私なりの解釈を・・・。

フォーティンプラスが後継者に指名される理由です。
ハムレットは、イギリスに送られる途中で、領地を横切り、ポーランドを目指すフォーティンプラスとその軍勢を見ています。そして、その統率の取れた動きを見、なぜ戦地に赴くのかの理由などを聞き(ざっくり言って国の「名誉」のためですが)、その凛とした貴公子ぶりに感銘を受けます。そして、新たに自分の「復習心」を奮い立たせるのです。
これが、ハムレットの心と記憶に刻みつけられていたわけですね。
名誉や意地のために、無意味な戦さを強いられる若き野心家(とその軍隊)に、ハムレットなりに応えてやりかった・・・・のだと思います。

投稿: ぷらむ | 2014.09.14 11:22

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