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2014.09.21

「サバイブ!」を見る

自転車キンクリートSTORE「サバイブ!」
作・演出 早船聡(サスペンデッズ)
出演 歌川椎子/天光真弓(劇団青い鳥)/久松信美
    弘中麻紀(劇団ラッパ屋)/松坂早苗
    仲井真徹/大村沙亜子
観劇日 2014年9月20日(土曜日)午後2時開演
劇場 SPACE雑遊  自由席
上演時間 1時間50分
料金 3900円

 「きらめく星座」の公演が数日休演になってしまい、でもこの週末は観劇の気分が既に盛り上がっている! ということで、前から気になっていた自転車キンクリートSTOREの「サバイブ!」のチケットを急遽確保し、行ってきた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 自転車キンクリーツカンパニーの公式Webサイト内、「サバイブ!」のページはこちら。

 40代の娘と60代後半か70代前半といった感じの母子が二人暮らしをしている家に、娘が「友達以上恋人未満」という一昔前のフレーズが似合う男性を連れてこっそり帰って来るシーンからスタートである。
 久々の自転車キンクリートは、歌川椎子久松信美という懐かしくも嬉しい二人からスタートでそれだけでもう嬉しい。どうしてここのところご無沙汰してしまったんだろうとまず思う。

 舞台となっているのは、その母子が暮らす家の居間で、ソファが置かれ、ローテーブルが置かれ、スツールが置かれている。
 ちょっと昭和な香り漂うおうちだ。
 左手前に玄関につながる廊下があり、左手奥に階段が、右手奥にキッチンがあるようだ。
 そうして、どちらが何を期待したのか帰って来た二人だけど、歌川椎子演じる尚子の妹である、弘中麻紀演じる美奈子と、大村沙亜子演じるその娘の沙希が泊まりに来ていたことから、お決まりのドタバタの末、久松信美演じる梶山はそのまま帰って行く。

 波瀾万丈といえば波瀾万丈、日常といえば日常の幕開けである。
 天光真弓演じる尚子と美奈子の母芳枝と、姉妹のおしゃべりを聞いていると、この母が「支配する」型の母親で、尚子の方はその支配にどっぷりと浸かり、美奈子の方は反抗しつつ(大体、40歳近い設定なのだから「反抗」という言葉を連想させる辺りでかなり失敗感が漂う)も、ステージママとして10代も後半の娘に対して「支配する」母親になってしまっている。
 尚子と母、母と美奈子、美奈子と尚子、美奈子と沙希という三世代4人の女の関係は、歴史と葛藤とそして恐らくは利害もあって、なかなか複雑怪奇だ。

 正直にいえば、我が家もかなりこの木崎家に近いところがなくもない(もっとも、長女の私が尚子のように「いい子」ではないので、そっくりそのままな訳ではない)ので、かなり身につまされる。
 尚子の煮えきらなさだったり、つい「いい子」の返事をしてしまうところだったり、母親の意見に逆らいきれないところだったり、そして、やっとそのことに気がついてもがこうとしていたり、応援したい気分と、鏡を見ている気分でイラっとなったり、何だかもうその世界に入り込んで忙しかった。

 母親思いで、でも母親のペースや支配にストレスを重ねている沙希は、見るからに優等生のいい子で、でもオーディションが近づくとせき止めを飲み続けてしまうような状態だ。
 その沙希が、仲井真徹演じる梶山の息子耕介から「せき止めは中毒性がある」と指摘され、自分の夢に向かってオーストラリアに留学しようという話を聞き、その耕介から「夢に向かっているという点では同じだ」と言われたことをきっかけに、せき止めのクスリを一気飲みして倒れてしまう。
 それは多分、母親の美奈子が耕介に必要以上に迫ったからとか、両親の離婚が本決まりになりそうだからという理由ではないんじゃないかという気がする。

 沙希は病院に連れて行かれて事なきを得たけれど、尚子は美奈子に向かって「沙希ちゃんは女優の仕事は好きだって言ってた。でも、お母さんが好きだとも言ってた。そうしたら、美奈子が喜ぶから沙希ちゃんは女優の仕事をやりたいって言っているんじゃないの?」と言う。
 美奈子も、何かそれで感じるところがあったようだ。

 一方、尚子は梶山に「別れましょう」と言う。
 さて、「付き合っている」の定義は? というやりとりがありつつも、尚子の心配は、梶山がうっかり母と馴染んでしまい、大学院生の息子もやってきてお行儀良く過ごしていて、母親が自分の結婚までもコントロールし、母親が梶山やその息子までも「私の家来」のように支配しようというところにあるようだ。
 心配というよりも、イライラというか、「もう止めて!」というココロの叫びかも知れない。尚子自身にとってもイヤだし、梶山にも申し訳ないし、という彼女の気分はよく判る。

 結局のところ、支配している方は支配しようとしていることに気付かず、支配されている方は支配されていると判っているのに脱することができない。
 しかも「母子」という関係が、依存も生むし、離れようとするときに罪悪感も漏れなく付いてくる。
 本当は、ずっと昔に尚子が恋人を連れて来たときにやらなくちゃいけなかったのだろう「母親との対決」をずっと避け続けてきたものだから、その依存度合いも、罪悪感の大きさも半端なくなっている。

 それは判らなくもないのだけれど、でも、離婚届に判を押した梶山を息子との登山中に殺さなくったっていいじゃないかと思ってしまった。
 そこまで大きなインパクトがないと、尚子の「独立宣言」はなかったんですね、とかなり淋しいというか絶望的な気分になってしまった。
 母と娘というのは、ある場合にはそこまで壮絶なんだと示したかったんだろう、と思う。

 そうして家を出て行った尚子は、連絡も寄越さなければ引っ越し先も告げなかったようなのだけれど、姪の沙希ちゃんを偵察に送り、実は実家のすぐ近所にアパートを借りているらしい。
 全く音信不通にもなれず、沙希と二人で「この罪悪感を背負って行こうよ」と言い合う。
 全く、この沙希といい、耕介といい、下の世代の「いい子」な感じが危ぶまれる。「いい子」ってのは、つまるところ「オトナではない」ということだし、それは尚子と美奈子の姉妹にも、もしかしたら二人の母親にも共通する資質だ。

 その母親は、尚子が出て行った後、松坂早苗演じる社交ダンス教室の友人との付き合いを続けていたようだ。
 ほとんど飛び道具のように出てきた「田辺さん」だけれど、母親にとっても「田辺さん」は切り札というか、自分ではなく自分の言いなりになる尚子でもない「他人」と付き合うことの意味というか処方箋を(それと気付かずに)与えてくれる存在のようだ。
 上手いなぁと思う。

 母親の留守に実家に侵入した尚子を、忘れた財布を取りに戻った母が目にし、その状況を利用させるべく退散する沙希のいい子加減がやっぱり気になるのだけれど、しかし、娘が母に社交ダンスを週1回習うことで、関係修復が始まったようだ。
 尚子が警戒していたように「元の木阿弥」になるのか、それともいい関係が築けるのか、よく判らない終わり方になっているのだけれど、でも、家族とか母娘とかってそういうものよね、と思う。

 色々とツッコミたいところがたくさんあるのだけれど、でも、この身につまされ感は久しぶりな感じがして、やっぱり自転車キンクリートはいいなぁ、見て良かったなぁと思ったのだった。

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