「ビルのゲーツ」 を見る
ヨーロッパ企画第33回公演「ビルのゲーツ」
作・演出 上田誠
出演 石田剛太/酒井善史/角田貴志/諏訪雅
土佐和成/中川晴樹/永野宗典/西村直子
本多力/岡嶋秀昭/加藤啓/金丸慎太郎/吉川莉早
観劇日 2014年9月4日(金曜日)午後7時開演
劇場 本多劇場 G列3番
上演時間 2時間20分
料金 4500円
ロビーでは、Tシャツや、「ヨロッパ通信」という「ビルのゲーツアンオフィシャルパンフレット」と銘打たれたパンフレット等が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
私にとっては初ヨーロッパ企画である。
ついしげしげと客席を見回してしまったのだけれど、随分と男性の観客が多いなぁという印象を受けた。私にとっては結構珍しいことで、へーと思う。
そして、金曜夜公演の割にいかにも会社帰りといった風情の人が少ないなぁというのも印象だった。
そんな感じできょろきょろしているうちに開演となった。元々幕は降りておらず、近未来な感じ(というのも随分と古い感じのする言葉だけれど)のゲートが大きくどんと構えている。
男性5人が舞台に登場し、おぉとかそういう感嘆詞を口々に言うだけで客席から笑いが起きる。
何故? と私は大混乱である。
多分、役者さんたちのキャラが確立されていて、「出てきただけで可笑しい」という域に達しているんだろう、この役者さんがこの役! か、この役者さんがまたこの役! みたいな感じの笑いなんだろうと思うのだけれど、置いてけぼり感というかアウエー感を覚えてしまった。
固定ファンを掴んでいる劇団なんだなと思う。
5人はこのビルから招かれてこの場にいるらしい。
このビルに招かれるというのは緊張感を伴うことらしい。
しかし、招かれた理由は5人ともよく判っていないらしい。
そんな情報が小出しにされ、さていよいよとカードリーダーにカードをかざしてゲートを開けると、そこには広がるオフィスはなく、ただ階段があるだけだ。
階段を上れ、ということらしい。
5人が階段を上る間にゲートが閉まり、暗転し、明るくなると壁の上の方にある階数表示が1から2に変わる。
舞台の向かって左側からさっきと同じように恐る恐る5人が入ってくる。
階段を上って2階に来たのだ。当然のことながら、1階と全く同じしつらえである。
ということが、何回か繰り返される。
何なんだ一体、という雰囲気が流れるところだろうけれど、どうやら彼らはIT系ベンチャービジネスの社員で、ここは「ビル・ゲーツ」みたいなCEOがいる巨大会社で、CEO自らからメールが入って呼び出されるというのは彼らにとって名誉なことらしい。
学生バイトらしい若者だけは「これはおかしいでしょう!」「異常でしょう!}とごく真っ当な反応をしているけれど、他の4人はすでに半分おかしくなっていて、舞い上がって真っ当な判断力を失っているらしい。
・・・ということが、延々と繰り返される。
本気で延々と繰り返される。
配られたちらしに「企画性コメディです。」と書いてあったけれど、なるほどこういうことか、と思う。
階数表示はどんどん数を増やす。
途中から知能テストのような課題が提出され、正解しないと正しくゲートを開けることができなくなってしまう。そういうものを出されるとつい使命感に燃えて取り組んでしまう気持ちはよく判る。
時々「どうしてこんなことをやっているんだ?」という疑問が特に学生バイトくんの口から語られるのだけれど、周りの社員からその発言は完全にスルーされるか、完膚無きまでに否定される。
「問題をエレガントに解く」ことに燃えていたのはしばらくの間で、そのうち、先行した「いかにも電気工事会社です」という上着を着た二人組が戻って来たところに遭遇し、「これはテストに違いない」という会話を聞かれ、右往左往の末に「協力して進みましょう」ということになる。
後ろから来た「いかにもベンチャーの時代を過ぎた時代の寵児です」という感じの二人組に追い越され、課題をこなせなかった場合にはカードゲートから電撃が放たれることが判ったり、それをきっかけに「エレガントな回答」から「強行突破」に方針が変わったりする。
その強行突破を「システムの穴を突く」みたいに言い換えているところがもう完全にどこかおかしい。
新たな登場人物に出会い、加わる中で、最初のアウエー感が消えたことにふと気がついた。結構、周りと一緒に笑っていたのだ。
途中で、サービスフロアと彼らは呼んでいたけれど、ゲートが最初から開いているフロアがあったり、水とホットドックが用意されているフロアがあったり、食べながら上の階に着いたら「ホットドッグは何グラム?」なんていう問題が出されたりする。
そういえば、この出題が常に英語なのもよく判らない。
人数が増えたり、そういえば「Yes Noしか答えない、ずっと本当のことしか言わないか、ずっとウソしか言わない女の子」が登場したりする。問題以外のことも話しかけてみるとそれにも答えてくれて、実は彼女はバイトなんだそうだ。
初めて出会った「ビル側」の人間がバイトってどうなんだという風にも思う。
流石にこれを200回繰り返す訳には行かないので、ときどきフロアが20とか30とか飛ばされる。フロアを飛ばすときにはスクリーンが降り、その間に起きたことのダイジェストがスライドで出される。別にセットの転換がある訳ではないので、単純に時間経過を示す暗転と画像だったようだ。
115階くらいでまた大きな動きがあって、上の階から逃げ帰ってきた女性と、追ってきた男性とに出会う。
彼女曰く、この先はどんどん酷い状況になっていって、ドーベルマンの首輪にカードリーダーが付いていたり、熊の額にカードリーダーが付いていたり、ほとんど命がけ状態らしい。
ごくごく真っ当だった学生バイトくんが「こうなったら絶対にCEOに会ってやりたい、引き返すなんてあり得ない」と言い出し、さらに「Give upボタン」を強引に押させようというフロアがいくつも続く中でどんどん脱落して行き、どうやら学生バイトくんが「最後の一人」になったようだ。
ここで、「どうして彼が残ったんだろう」ではなく「どうして彼を残したんだろう」と思ってしまう自分がちょっと嫌なのだけれど、その答えは未だに出ていない。そこで「客演の俳優さんが演じているからかしら」と思う自分は更にイヤである。
それはともかく、結構ボロボロになって一人残った彼は、熊に片目をやられたという老人(に見えたけど、白髪にぼうぼうの髭だったから、実は疲れ果てているだけで老人ではなかったのかも知れない)が一人倒れているフロアに着く。
そこにあった立体視を必要とする課題は、この先駆者には解くことはできない。
「両目?」という問いかけに答えられずしばし硬直していた学生バイトくんだったけれど、しかしそこを通過して行く。
うーん、ここまで辿り着いた人はこれまでいましたかとか、そういう質問はなしですか? と思ったのは私だけなのか。
工事中表示のゲートを超え、200階に達したとき、そこには「200」ではなく「R」という表示があり、課題はなく、ゲートがあり普通にカードリーダーがある。
カードリーダーにカードをかざして開けると、そこには夕焼けの空が広がっている。
しばし座り込んでその夕景を見ていた学生バイトくんは、おもむろに立ち上がり、無言で去って行く。
多分、階段を降り始めたんだろう。
そこで、幕である。
暗転した瞬間、心の中で「オチは!」と叫んでしまった。
すっきりしない。中盤以降は場の雰囲気に呑まれることなく結構面白く見ていたけれど、それも「最後はどうするんだろう」という興味がある故である。
クライマックスというか、オチというか、「そうだったのか!」みたいな何かが用意されていると思っていたので、何だか肩すかしを食ったような気分になってしまった。
ここまで至る間に、「この会社も実は潰れていたりな」とかそういった台詞は散りばめられていたのだけれど、判りやすいのが好きな私は、判りやすい回答が欲しかったのである。
そういう意味で、何ともすっきりしないもやもやした感じを抱えて帰ることになった。
ただ、多分、それが持ち味なんだろうなという気はした。
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