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2014.11.26

「8分間」を見る

燐光群「8分間」
作・演出 坂手洋二
出演 円城寺あや/岡本舞/大島葉子/川中健次郎
    猪熊恒和/大西孝洋/さとうこうじ/杉山英之
    東谷英人/荻野貴継/武山尚史/松岡洋子
    樋尾麻衣子/田中結佳/長谷川千紗/秋定史枝
    根兵さやか/桐畑理佳/川崎理沙
    鴨川てんし・中山マリ(ダブルキャスト)
観劇日 2014年11月24日(月曜日)午後2時開演
劇場 座・高円寺1 I列11番
上演時間 2時間10分
料金 4000円

 ロビーで物販があったかどうかも含め、チェックしそびれてしまった。

 ネタバレありの感想は以下に。

 燐光群の公式Webサイトはこちら。

 舞台一杯(そして、前方の何列かを潰して)駅のプラットフォームが作られている。
 フライヤーに記された坂手洋二の文章によると、どうやら杉並区内、京王井の頭線沿線のどこかの駅らしい(と推測したけれど、さすがに沿線名までは明かされていなかった)。
 発車ベルの音がそのまま開演の合図で、電車が入ってくる。

 そもそも、駅の近くに踏切があるという場所自体、最近は少ないのではなかろうか。
 何というか、地域密着型の駅という感じだ。
 向こう側に入って来た電車のドアに女性が挟まれてしまい、通りがかりの男性2人がドアを開けて救出するけれど、駅のホームと電車の間が離れていて、そこに足がはまり込んでしまっている。
 「思っているより危険です」というそれっぽい発音のアナウンスに、客席からも笑いが漏れる。

 さらに通りがかりの男性が声をかけて、その拍子に彼女の足はさらに深くはまり込んでしまう。
 引っ張り上げようとするけれど、どこかを引っかけてしまったらしく、なかなか救出することができない。
 通りがかりの女性が電車に乗っている人に声をかけ、電車から降りるように言う。「電車の重さで足が圧迫されているのだから」ということだ。なるほど。
 スーツを着た男性を追いかけて「この人は痴漢です!」と声をあげる若い女性がいて、男性の方は「誤解です」と必死だ。

 乗務員がやってきて、女性の救出を手伝おうとする。
 先ほどの女性が「急行がぶつかってこないでしょうね」と乗務員に確認し、「誰かが非常停止ボタンを押してます」と答えがあり、女子高生が「私が押しました!」と宣言し、ついでにこの状況を写真に撮っている。
 彼女とは別に(なのかは不明なのだけれど)、この状況を呟いている人もいるらしい。
 反対方向の電車が入ってくる。
 この駅は、8分間隔で電車がやってきて、しかも上りと下り、通過する急行電車も同じタイミングでやってきてこの駅で交差するらしい。

 ホームには、黒めがねの謎の女性がいたり、白いダウンジャケットの男性が無関心そうに歩いて来たり、コンビニの店長さんとその妻が偶然会ったり、中国人らしきカップルが喧嘩したりする。
 そして、ホームの端で飛び込み自殺をしようとする人を見かけ、男性がダッシュし、「電車から降りてください」と場を仕切っていた女性が「ダメ!」と叫んだところで、暗転する。

 芝居の始まりからここまでで8分だ。
 測ったわけでも時計を見たわけでもないけれど、ここまでこの「8分間」という時間に拘っているのだから、恐らくは、ここまでの上演時間も8分だったのではないだろうか。
 何というか、この芝居の発想はそもそも、実際に8分間隔で電車がやってくるその「駅」にあるに違いないのだ。

 そうして、飛び込み自殺をしようとした男性を止めようとした男性が、再びダッシュで駅のホームに現れる。
 そこでは、先ほどの女性が再び電車のドアに挟まれ、ホームと電車の間に足がはまってしまっている。
 「さっきと一緒だ!」と、自殺を止めようとした男性にとってだけは、それは本日2回目の出来事らしい。
 最初は周りの人々に怪しまれていたけれど、8分たてばリセットされてしまうのだし、たった8分間だから繰り返すにも手間はかからない。

 そうして少しずつ展開が変わりながら(何しろ一人だけはそれまでというかそれからというか、成り行きを知っている人がいるのだから、変わらない訳がない)、ひたすらその「8分間」が繰り返されて行く。
 タイムループだ。
 その同じシーンが繰り返される感じを最近どこかで見たぞと思い、すぐに「ビルのゲーツ」だと思い出した。あちらは、「階数」はどんどん上がっているけれどセットが同じで同じようなチャレンジを繰り返していたのだから、タイムループとはもちろん違うのだけれど、「同じセット、同じ登場人物、同じシチュエーションが繰り返される」という感じにもの凄く既視感があったのだ。

 そして、繰り返されているのだけれど少しずつ変わって行くところも似ていて、「こういう行き方があったか!」という感じがする。
 であれば、当然、どこかでこの繰り返しが破綻する筈だ。
 そう思っていたら、ダンスといえばいいのかちょっと集団行動っぽいといえばいいのか、そういうシーンが入ったり、突然と感じられたのだけれど、いわば「主張」が語られるシーンが挟まったりする。
 時間がループしている中で、そういうポッカリと浮いている、時間のループとは全く関係ないことが語られるシーンがあるのが不思議な感じである。

 このまま、時間のループとは離れたところに行くのかなと思っていると、「もう100回以上繰り返している」という件の男性が現れ、ちょっとずつ違う100回を繰り返す中で、この場に居合わせた人の様々な事情を知り、自分の行動を変えることで成り行きを変え、しかし、自殺しようという男性を予め止めることはどうもできないようで、最後に慌てて追いかけて止めようとする、ということは繰り返される。
 黒めがねの女性と、ホームの端を歩いてこの男性とすれ違う年配の女性がどうもキーパースンらしいということが判ってくる。前者は物語のキーパースン、後者はこのタイムループのキーパースンだ。

 実はSF作家だったらしい「この車両に乗っている人は全員降りてください」と叫んだ女性が、自殺を止めようと一緒に走り出したことで、どうやらこのタイムループは、一段、別の場所に進んだようだ。
 さらに、次のループの中でホーム上にいたほぼ全員が走り出したことで、そこにいた人々のほとんどが2回目の時間を体験することになる。
 そこまで時間軸が狂ったところで初めて、「どうしてそんなに必死になって止めようとするのか」「それは彼があなただからだ」という言葉が語られ、東日本大震災の日に自殺しようとして止めたのだということが語られる。

 追いかける男性と追いかけられる男性が逆転したことで、やっとこのタイムループは終わったようだ。
 そして、追いかけていた男性は、「忘れていた重要なこと」を思い出しに、最後には東日本大震災の日に戻ったようだ。
 という感じだったと思うのだけれど、でも、ラストシーンは電車に足を挟まれた女性の「ここにいたいの!」という満面の笑みだったという記憶もあって、何だかごちゃごちゃになっている。
 見ているときは全く混乱しているという自覚はなかったのだけれど、今、思い出そうとすると私の記憶はかなり混乱しているらしい。
 こう言っては何だけれど、お寺をいくつも巡っていくうちに、3つめくらいから前後の区別がつかなくなる、あの感じだ。

 これがお寺ではなくて教会になると、さらに「区別がつかなくなる」感が強まる。
 それは多分、私にとって教会よりはまだお寺の方が近しい存在で、一応は身近な場所だから、繰り返されてもこちらの混乱は少しだけ少ないのだ。
 だとすると、「駅のホーム」「次の電車が来るまでの*分間」というシチュエーションは私にとってかなり日常のことなので、それで見ているときの混乱がなかったのだし(ダンスのシーンが始まったときにはかなり驚いたけれども)、それが狙いというか、この日常のシチュエーションがあったからこそのタイムループものなんだろうという気がする。

 そして、もちろんこの芝居はタイムループを見せるためのものではない。
 タイムループしている訳だけれど、それが繰り返されるのだけれど、別にそれに「タイムループ」という名前が付いている必要はないし、解明される訳でもない。
 ただ、その8分間が特定の人にとって繰り返される8分間になってしまったことについて、「どうしてそんなに必死に自殺者を救おうとするのか」という疑問が言葉として提示されるのはかなり後になってからなのだけれど、しかし、多分そちらの方にこの芝居の眼目があるのだと思う。

 かなりはっきりと「主題」と言えそうなことがセリフで語られているのに、何だか私の中はもやもや曖昧模糊とした感じである。
 ワンアイデアのお芝居なのだけれど、そのアイデアを最後には捨ててしまうという潔さに、「繰り返される8分間」ではないものが埋め込まれ、浮き彫りにされている。
 浮き彫りにされている筈なのに、私にとってはかなり判りにくいという印象なのだけれど、しかし、判ろうとする必要はないのかも知れない、という風にも思えた。

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