「おもてなし」を見る
玉造小劇店 配給芝居vol.15 「おもてなし」
作・演出・出演 わかぎゑふ
出演 コング桑田/野田晋市/うえだひろし/谷川未佳
有馬自由(扉座)/みやなおこ/浅野彰一(あさの@しょーいち堂)
鈴木健介/森崎正弘/江戸川萬時
山本香織(ISM)/内山絢貴(劇団五期会) ほか
観劇日 2014年11月22日(土曜日)午後2時開演
劇場 ザ・スズナリ B列44番
上演時間 2時間15分
料金 4500円
土曜の昼公演ということもあって、補助席が出る盛況ぶりだった。
お芝居の最後に着物をずらっと並べて虫干しするシーンがあるのだけれど、その舞台の様子を「どうぞ写真に撮ってSNSで広めてください」ということだった。後方から撮るのがお勧めだそうだ。
ロビーではパンフレット(1000円)等が販売されていたようだ。最後の物販の案内で知ったけど、私自身はチェックしそびれてしまった。
ネタバレありの感想は以下に。
2日続けて「女は怖い」というお芝居を観た訳だけれど(そういうまとめでいのか、若干の疑問は残るけれど)、やっぱり女の怖さを知っているのも堪能させてくれるのも女だわ、と乱暴なことを考えた。
それくらい、ぞぞーっとした。
今年、一番女が怖いと思った芝居ランキングがあったら、私としては絶対にこの「おもてなし」が一番である。ぶっちぎりのトップである。
舞台は関東大震災直後の大阪船場である。
もうここで生粋の関東人の私はコケてしまう。カーテンコールでわかぎゑふが「色々判らない言葉があったと思います」と言っていたけれど、言葉以前に、恐らくは関西の人であれば「船場」と言われてパッと浮かぶのだろうイメージが全く浮かばない。
これはもうハンデである。
お芝居を見終わっても、船場というのは大阪の老舗が集まっている地域で(東京でいうと日本橋とかそういう感じだろうか)、京都に負けず劣らず外に対して閉じていて、様々なしきたりがあり、よそ者が入り込むことは難しい場所らしい、ということが判っただけである。
もう一つ判ったのは、その船場では「お妾さん」という存在が割と普通に語られて、割と普通に存在しているということだ。
このお芝居の主役を張っているかねさんも、何とかという大店の跡取り息子(というか、今は若主人)の乳母であり、その先代との間に息子を授かって認知もしてもらっている、という状況らしい。
そして、別宅を建ててもらい、そこで何でも屋といえばいいのか、船場で暮らして行くための指南といえばいいのか、芝居の中では「始末」と言われていたけれど、どうもこの「始末」という言葉もシチュエーションによって色々な意味に使われているような気がするのだ。
その「始末」ということが、船場ではかなり尊ばれている価値観のようで、その始末に長けているかねさんは、結構な立場をそこで築いているらしい。
大店の若主人も彼女に懐いている。
その弟に当たる息子も、東京の大学を卒業して、結構な好青年に育っているらしい。
それでも、彼女に辛く当たる人間もそれなりにいる。
でも、このかねさんという人の物腰の柔らかなこと、知恵の回ること、肝の据わっていること、とんでもなくて、鮮やかに艶やかに「始末」を見せて行く。
それは、大店のお妾さんになる芸妓さんに「お妾さんの極意」を授けることだったり、東京の出版社の人に「始末」について語ることだったり、大店の末のお嬢さんの婚礼の宴を豪華に安く挙げることだったり、田舎の父親に「面倒を見ている女の一人や二人」と嘘を言ってしまった新規参入の店主に頼まれて妾宅に見せかけてみたり、そこで貰った大金の大半を「お妾役」をやらせた通いの女中に渡して借金を帳消しにさせたり、大店の末のお嬢さんが店の丁稚と駆け落ちしようとしたところを機転と迫力で追い返したり、息子たちを忠臣蔵の舞台に行かせておいて件の出版社社長とそんなことになりそうになったりと、それはもう八面六臂の活躍である。
乳母を務めた大店の若主人は、数年前から視力がだんだんと失われて行く原因不明の病に罹っていて、ここへ来て突然にそれまではぼんやりと見えていたものがほとんど何も見えなくなってしまったという。
彼が「ねーちゃん」と読んで慕う様子や嫉妬する様子は「えっと、そっちに行っちゃいますか?」という感じに見えるのだけれど、普通に考えればこの二人は親子ほど歳が離れているのだった。
そこで、どうこうするほど、かねさんという女性はヤワではないのだ。(というか、そもそも私の穿ちすぎかも知れない。)
配役表がなかったので、実は、リリパのメンバー以外の配役がよく判らなかった。
とにかく、かねさんを演じたみやなおこの艶っぽさが格好いい。ちょっと怖いくらいだ。
出版社社長をやった有馬自由の声と東京弁も何だか浮いた感じが合っている。扉座の芝居に出ていなかったのはこっちに出るからだったのね、と変なところで納得する。
ところで、この芝居のどこが怖いのかといえば、それはもうラストシーンに決まっている。
「たった二人の兄弟だから」と、大店の若主人が、かねさんの息子に「この世にたった一人の血を分けた兄弟じゃないか」と自分の代わりに店を継ぐよう頼み、かねさんの息子も「この世にたった一人の血を分けた兄さんを見捨てる訳に行かない」とそれに応える。
そして、商工会(この字かどうかも判らないのだけれど、多分、船場の店の主人たちの集まりだ)に勝手に届け出てしまう。
その届けをしった、大店の関係者が「おまえが仕組んだんだろう」とかねさん宅に乗り込んできたところ、若主人が「自分が届けを出した」と言い、おまえはかねさんに嫉妬しているんだと冷たく突きつけ、そこに居合わせた船場の老舗の主人にかねさんの息子の後見になってもらうよう頼む。
そうして、視力を失った若主人の主導ですべてのことは収まった、ように見える。
息子が大店の跡取りとして店に入った日、かねさんは「東京に戻る」と言う件の出版社の男に「随分と嬉しそうですね」と言われる。
そうして答えて曰く、好きで堪らなかった人の子供を囲われた旦那さんの息子として育てて辛抱してきた知り合いがいて、その息子がその旦那さんの店を継ぐことに決まったのだと歌うように答える。
ここで「そういう話にも慣れてきた」と言いつつ、「お友達は良かったですね」と返す出版社社長にツッコミを入れたい気持ちで一杯だ。「友人が」っていう話は自分自身のことだと相場が決まっているだろう! と思う。
これ、怖すぎるでしょう。
かねさんの若主人への思い入れは果たしてどこまで本当だったのか、そう思うとゾっとする。一番怖いのは、何十年も息子自身も含めた周り中を一人残らず騙してきたことではないような気がする。それが深謀遠慮であったとしたら、それはそれで怖いけれど、しかし、私がゾッとしたのはそこではない。
女は怖い。
敵に回すもんじゃない。
かねさんの「敵」が何かはよく判らないけれど、しかししみじみとそう思ったのだった。
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コメント
アンソニーさま、お久しぶりです、ですよね?
コメントありがとうございます。
さすがにラックシステムのお芝居で、地元の方にも心地よい船場の言葉が使われていたのですね。
私は生粋の関東の人間なので、その辺りがよく判らないのです。
多分、お芝居で使われていた大阪の言葉も判っていなくて、「はばかりさま」とか、雰囲気は判るのですが、じゃあ自分が普段使っている言葉に置き換えると何になるのか、未だにピンと来ていなかったりします。
アンソニーさんはラスト、すっとされたんですね(笑)。
私は、「コワっ。」と呟いてしまいました(笑)。
こちらこそ、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
投稿: 姫林檎 | 2014.11.27 22:55
こんにちは、姫林檎様。こちらで姫林檎様のチケット予約の記事を読んで私も観たくなっていってきました。
関西に長い間住んでいたので言葉は問題なくむしろ船場言葉って京言葉のように耳さわりがよくその美しさに始終うっとりして聴き入ってしまいました。
最後はコワイというより、すっとしました(笑)途中丁稚と駆け落ちしようとしてるお嬢さんにも案外コワイこと言ってた気もしたのですが。。。そうだ、そうだ。と普通に共感してしまった。
今後の観劇の参考にもなってほんとうにいつも
楽しく拝見してますのでこれからも宜しくお願いします!
投稿: アンソニー | 2014.11.26 17:33
いっしー様、初めまして & コメントありがとうございます。
そして、そうですよね!
絶対ゾーッとしましたよね!
うわっ、この女コワイ、そして罪悪感のカケラもない! と思いましたよね。
そういえば、今さらですが、どうしてこのお芝居のタイトルは「おもてなし」なんでしょう・・・。
考えない方がいいような気もしてきましたです。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2014.11.23 23:34
初めてコメントします。いつも記事を拝見して、観劇の参考だったりさせていただいてます。
「おもてなし」は大阪公演が先で、そこで観たのですが、まさに最後のシーンでゾッとさせられました。墓場まで持っていっても…な秘密をやんわりと語ってしまう相手が、東京もんでバレないだろうこともわかっているところも、船場の女なんかな?と、考えるほど怖さが増すようでした。
このタイトルが「おもてなし」なところもコワイです。
投稿: いっしー | 2014.11.23 17:38