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2014.11.02

「ポリグラフ −嘘発見器− 」を見る

「ポリグラフ −嘘発見器− 」
構想・脚本 マリー・ブラッサール/ロベール・ルパージュ
翻訳 松岡和子
演出・出演 吹越満
出演 森山開次/太田緑ロランス
観劇日 2014年11月1日(土曜日)午後3時開演
劇場 東京芸術劇場シアターウエスト B列19番
上演時間 1時間40分
料金 4000円

 パンフレット等を売っていたかも知れないのだけれど、チェックしそびれてしまった。

 ネタバレありの感想は以下に。

 東京芸術劇場の公式Webサイト内、「ポリグラフ −嘘発見器− 」のページはこちら。

 「これだから、判りやすい舞台が好まれる」と言われてしまうのかも知れないのだけれど(誰にだ)、よく判らない・・・と思い続けた90分だった。
 始まりは、何故か吹越満の前説が入る。
 「心からの言葉で亡ければ届かない、だからフランス語ではなく日本語で演じます」とか、「太田緑ロランスさんはフランス人と日本人とのハーフですが、日本で生まれ育った日本人です」とか、「森山開次くんは普段はほとんどしゃべりませんが、これからしゃべってもらいます。演劇ですから。」とか、「モントリオールとケベックシティとは車で3時間くらい離れているそうです」とか。

 そうして、太田緑ロランスに腕時計(があるべき位置)をトントンと叩かれて促され、芝居が始まる。
 真ん中に細く高い本棚があり、その両脇は白い壁というかスクリーンというか。家具はその都度舞台袖から滑らされて登場する。
 舞台のあちこちにカメラがセットされていて、舞台上の役者を撮り、それを舞台上の白いスクリーンにアップで映し出して見せてくる。
 その映像と、ライトを浴びることで生まれる影と、役者たちとを、「どうしてこんなことができるんだ?」という感じで融合させて見せる。
 おぉ! という感じだ。

 私は全く知らなかったのだけれど、森山開次はダンサーなのだそうで、そのためか、3人とも動きが何だかダンスのようだ。
 洗練されているといえばいいのか、すべらかでなめらか。リズムというよりはメロディが感じられるような動きなのだ。何だか不思議な感じである。
 映像と影と音楽と舞踊がこの舞台の不可欠な要素になっている。

 いわゆる「筋書き」は多分ほとんど把握できていない。
 吹越満演じるドイツ人の犯罪学者は東ドイツ出身で、彼の妻なのか恋人なのか、とにかく愛する女性を東ベルリンに置き去りにしてベルリンの壁を越え、西ベルリンに脱出したようだ。
 そして、その後カナダにやってきて、今はモントリオールの犯罪研究所(実際はもっと長い名前で語られていたと思う)に勤務している。

 そのディヴィッドは、モントリオールの地下鉄で起きた飛び込み事故の見聞中、太田緑ロランス演じる現場を見てしまった女優であるルーシーをケベックシティまで送ることになる。
 それがこの2人の付き合いの始まりだ。
 森山開次演じるフランソワは、ルーシーの隣人で、もうディヴィッドとフランソワは最初から嫉妬心なのか敵愾心なのかがむき出しである。
 そう考えると、判りやすい三角関係を形成している3人の男女の物語の筈なのに、どうも「判りやすい」という感じが全くしない。

 森山開次のダンスもそうだし、途中でブルーライトの中に一糸まとわぬ3人が現れて、それまでのシーンをダイジェストのように演じる数分があったり、キスシーンも綺麗というよりは粘着質な感じで、かなりエロティックなシーンが続くのだけれど、でも全体としては乾いたイメージのお芝居だ。
 それは、役者さんの3人が3人とも、何と言うか人間離れした感じを醸し出しているからなのかも知れない。

 フランソワが、数年前に起きた殺人事件の容疑者として嘘発見器にかけられたことがあり、彼を担当したのがディヴィッドだったことが後半で明らかにされる。
 というか、後半だと思うのだけれど、かなり濃い90分だったので、実は時間感覚は全く狂っていた。凝ったお芝居なのは間違いなく、その凝り方に当てられてしまっていたのだと思う。

 それはともかくとして、フラッシュバックのようにところどころに差し挟まれていたそのシーンが実は「過去に実際にあったこと」であり、未解決事件であるにも関わらずルーシーが出演している映画はその事件を取り上げたものであり、しかもルーシーは被害者役なのだという。
 それが判ったときに「つながった!」と思ったのだけれど、繋がったから判ると言うような単純な構造にはなっていないのだ。

 そして、未解決事件であるために、フランソワが犯人ではないと嘘発見器により明らかになっているにも関わらず、そのことはフランソワ自身には告げられていない、と言う。
 過去の事件と現在と、3人は二重の意味で繋がっていた、ということになる。
 ただ、この芝居においては、「だから?」という感じだ。こういう「裏の繋がり」みたいなものが判明すると、「謎はすべて解けた!」みたいになりそうなものなのだけれど、この「ポリグラフ −嘘発見器− 」というお芝居は、そんな判りやすいところには着地してくれないのだ。

 ルーシーは、フランソワは事実を語ったのにディヴィッドがフランソワに「容疑が晴れた」という事実を伝えないのかと詰り、ディヴィッドに口止めされ、フランソワに会わないように言われたけれど(というか言われたからこそ)会い、関係を持ち、そのことを知ったディヴィッドはフランソワに殴りかかる。
 フランソワがモントリオールに転居し、しかしそれはモントリオールの地下鉄に飛び込むためであったかのようだ。前半で、モントリオールの地下鉄は飛び込んで死ぬためにあるんだ、というようなセリフがあったと思うのだけれど、最後の最後にそのセリフ通りになってしまうのが皮肉な感じだ。

 セリフといえば、ハムレットのセリフが頻繁に繰り返される。
 ルーシーは、ハムレットのプロンプターをやっていたからという理由で、突然降板したハムレット俳優の代役を演じて、その楽屋にディヴィッドが尋ねるシーンもあったし、最後にしゃれこうべを手にして語るセリフもハムレットに出てくるセリフだったような気がする。
 生きるべきか死ぬべきか、というあのセリフは、ルーシーも語っているのだけれど、登場する3人のうちの誰の心情であったのかといえば、フランソワのものだったと思うべきなんだろう。
 彼は常に「不安定」だった。

 不安定というのは、一面的な解釈を拒んでいるということでもあるような気がする。
 だから、余計に判らない。
 判らないのだけれど、凝った濃い芝居を見たということだけは判った。

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コメント

 みずえ様、コメントありがとうございます。
 そして、お返事が遅れまして失礼いたしました。

 確かに全裸のシーンはびっくりでしたね。
 私も「嘘でしょ?」と思って目を凝らしたクチです(笑)。

 ストーリーはよく判りませんでしたが、でも、それでいいような気もします。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2014.11.07 23:08

姫林檎さま

私も観ました。
ミステリアスでエロチックな舞台でしたね。
途中の全裸のシーンは、目を疑って、まさかと凝視してしまいました、我ながらスケベおやじみたいでした。
映像の使い方も効果的で、いろんな意味で目が離せませんでしたが、正直なところ、ストーリーはちょっとわかりにくかったです。

誰一人、まともな人はいなかったのだけど、まともという定義も結局何なのかわからないという気がしました。
私も混乱していたのかもしれません、統一後のドイツのように。

投稿: みずえ | 2014.11.04 15:08

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