「つんざき行路、されるがまま」を見る
月影番外地 その4「つんざき行路、されるがまま」
作 福原充則
演出 木野花
出演 高田聖子/粟根まこと/竹井亮介/植田裕一/田村健太郎
観劇日 2014年11月14日(金曜日)午後7時開演
劇場 下北沢ザ・スズナリ E列1番
上演時間 2時間20分
料金 4900円
帰りにロビーで劇中歌の歌詞カードを配布していた。その他に物販があったかどうかはチェックしそびれてしまった。
ネタバレありの感想は以下に。
席にあったフライヤーに「人間と人間以外のものの結婚生活」みたいな文言があって、「人間以外のものって何? ものってことは、生き物ではないってこと?」と思って見始めた。
しかし、最初のシーンは、男3人、不動産屋と恐らくは大学入学のために上京してきた息子と、その母親で、粟根まこと演じる不動産屋の木枯が部屋について説明している。
その説明が切ない。
とりあえず、人間ではないものと結婚している人間はこの不動産屋に違いないと思う。
誠実だけど今ひとつ成績は悪そうなこの木枯は不動産屋で働き、そして、家に帰る。
家には高田聖子演じる妻の吹子がいる。
それで、この吹子が異様なくらい可愛らしい。可愛らしく、とてもじゃないけれど40代後半には見えない。少女のように笑っているのだ。そういう可愛らしい役の設定だということもあるのだろうけれど、いや、本当に凄かった。あの笑顔に魂を飛ばした人はいたと思う。
ところが、その「吹子」さんが舞台上に居たのは本当に最初の数分だけで、あっという間に行方不明になり、近所の人は誰も吹子さんを見たことがない、婚姻届も出ていない、と吹子さんの実在を疑わせるようなことが次々と発覚する。
同時に、吹子さんはちょっと妖精風の衣裳で仲間と共に登場し、彼女たちは「口笛族」だということが明らかにされる。
「人間じゃないもの」が「口笛」だったとは! 意外すぎである。
そして、ここから後の展開は、実は私は全く付いて行けていなかった、と思う。付いて行けてるかどうかも自分で判らないというのはどうかと思うのだけれど、実際のところ、そういう感じだったのだから仕方がない。
木枯さんの「このまま軟着陸するように幸せに2人で生きて行きたい」というセリフと思いが口笛族の吹子さんにとってはアウトだったらしいのだけれど、それのどこがいけないのか、私には最後まで判らなかった。
数ヶ月前まで吹子さんと一緒に暮らしていたという若者が登場し、吹子さんを探しに木枯さんとともに旅に出るのだけれど、荻窪を一歩出るとそこはTSUTAYAとゲオとがレンタルビデオ(いや、ビデオじゃなく実際に貸しているのはDVDなのだけれど)戦争の激戦地で、DVDが弾丸となって飛び交う戦場になっている。
立川まで行くと、国境があって日本円はもう使えない。
そうした銃弾の雨降る中、2人の吹子さん探しは続く。
その吹子さんは、「楽しい口笛と暮らしたい」と仲間と袂を分かち、木枯さんの同僚だった大仁田さんに出会って何故か連れ立って旅している。昔、ブラジャーと暮らしていたという大仁田さんは、今は体中に水虫菌等のウィルスを飼って暮らしており、ウィルスと共生できる彼の口笛はほとんど超音波の武器と化しているらしい。
それはそれとして、どことなく偏執的な雰囲気を漂わせている、木枯さんが住むアパートの大家さんは、その銃弾が雨あられと降る中を木枯さんを追って来て、木枯さんに「賃貸契約という社会常識」を守るように鬼気迫る表情で言い募る。
木枯さんと吹子さんという決して勝ち組ではなさそうだけれど穏やかで幸せそうな夫婦の噺家と思ったらとんでもない、木枯さんはほとんど山科さんという若者と吹子さんを探して旅をしているし、吹子さんは口笛族の何やらよく判らない基準に合った人族を探して旅している。
実は山科さんはもう吹子さんを求めて口笛を吹くことはできず、ただ「吹子さんを探して旅をしている」状況から逃れられないだけだと判り、そして流れ弾に当たって亡くなり、木枯さんも倒れてしまう。
倒れた木枯さんが目を覚ますとそこは病院で、目の前にはナース姿の吹子さんがいた。
いたと思ったら、それは、公園で焼きそばパンを売っていた女性で、彼女は吹子さんにそっくりなのだ。
あった筈の多摩湾はなく、八王子からは海ではなく山しか見えず、「吹子さんを探す旅」自体がまるで夢物語であったかのようだ。
そうして、多分、元々、吹子さん自身が焼きそばパン売りの容姿を元に木枯さんが妄想した女性だったということなのか、2人は付き合い始め、一緒に暮らし始めたようだ。
木枯さんは不動産屋に戻り、大仁田さんは戻らず、家賃滞納の督促に出かけた先で、木枯さんの口笛をバンドにスカウトしようとしたすき家勤務の若者達に出会う。
そこで、木枯さんは、私には判らない「口笛の神髄」に気付き、吹子さんを力一杯の口笛で成層圏まで吹き飛ばす。
吹き飛ばされた吹子さんは、木枯さんと一緒にいられないことに少し寂しそうではあるけれど、しかし、意地を晴れるだけの元気はあって、地球4周目の軌道に乗って飛んで行く。
どうやって終わるんだろうと思っていたら、そこで幕だった。
吹子さんが出て行った理由も、一瞬だけ帰ってきた理由も、山科さんが口笛を吹けなくなった理由も、どうして中央線沿いが激しい戦場になっていたのかも、大仁田さんがたとえ一時でも吹子さんの心を捉えた理由も、口笛族の人々が何を探していたのかも、3人の若者バンド仲間の運命も、木枯さんが口笛を吹けなくなった理由も、木枯さんが口笛を吹けるようになった理由も、そして復活した木枯さんの口笛が力強く吹子さんを飛ばしかつ幸せにできた理由も、吹子さんと焼きそばパン売りの女性の容姿がそっくりだった理由も、すべてよく判らなかったのだけれど、高田聖子の笑顔一発ですべてオッケーな気もしてくる。
そして、たとえ「判らない」としか思えなかったとしても、それはそれでいいじゃない、と思ったりもしているのだった。
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コメント
みずえ様、コメントありがとうございます。
みずえさんがご覧になったときは臨時席まで出ていたんですか! びっくり。私が行ったときは、平日夜公演だったためか、そこまでではなかったです。
粟根さん、普通の人が普通に似合っていましたよね(いや、木枯さんは普通の人ではなかったですか?)。粟根さんと高田さんってばお似合い、と思って見てました(笑)。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2014.11.17 22:11
姫林檎さま
私も観ました。
狭いスズナリは人でぎっしり、臨時席まで出てました。
聖子さんは本当にキュートでしたね!
そして粟根さんは素晴らしかった。
ただ、私も同じく、ストーリーには今一つついていけてませんでした、ちょっと奇想天外でしたよね。
私は吹子とパン屋の女性は同一人物なのかな、と少し思ったりもしたんですが、そういうわけでもなさそうで。
でも、どちらも謎めいてましたね。
今夜は、「紫式部ダイアリー」を観ます。
投稿: みずえ | 2014.11.17 10:51