「新しい祝日」 を見る
イキウメ 「新しい祝日」
作・演出 前川知大
出演 浜田信也/安井順平/伊勢佳世/盛隆二
岩本幸子/森下創/大窪人衛/澄人/橋本ゆりか
観劇日 2014年12月12日(金曜日)午後7時開演
劇場 東京芸術劇場 シアターイースト D列19番
上演時間 1時間40分
料金 4200円
ロビーでは、イキウメの公演のDVDなどが販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
イキウメのお芝居は、設定がSFっぽかったり、謎が謎を呼ぶ展開だったり、人間じゃない登場人物が登場したり、一筋縄で行かないというか、現実の世界ではあり得ない設定であることが多いのだけれど、割とストーリーとしては「こういうお話でした」と説明しやすいことが多いような気がする。
説明しやすいということは、判りやすいというか、落ち着きやすいということでもあるのだけれど、今回はそういう意味ではストーリーを説明しにくい、落ち着かない感じの舞台だった、ような気がする。
舞台には、多分、空っぽだろう段ボール箱があって、それぞれにオフィスっぽい机や椅子の絵が描いてある。
浜田信也演じるサラリーマンが、一人会社に残って残業をしている風情だ。まぁ、見るからに有能そうな風情である。
そうして「明日の会議のための資料」をせっせと作っていると、ピエロっぽい格好をして、黒いマスクをつけた安井順平演じる不思議な人物が、彼のデスクの下から現れる。
というか、多分、彼のデスクの下から段ボールを蹴散らして現れたのだと思うのだけれど、私の席は前から2番目のかなり端っこの席だったので、手前にある段ボールに隠れて、安井順平の登場シーンは全く見えなかった。
結構重要なシーンだと思うし、そのシーンを全く見られないように舞台セット(というか段ボール)を配置しておくってどうなんだろうと思う。
その後のシーンで使うという訳でもなく、安井順平演じるピエロによって、すぐ段ボールの机や椅子は蹴っ飛ばされてしまったから、余計にそう思った。
会社のデスクから見覚えのない(相手は自分を知っているらしいが)ピエロ姿の男が出てきたら、それはパニクるに決まっている。ピエロ姿の男「道化」から、「汎一」と勝手に名づけられた男は、何故かパンツ一丁にされ、フロアの真ん中に置かれた椅子に座らされ、道化に一方的に何やら責められるのだけれど、全く状況が理解出来ない。
それはそうだろうと思う。
そのうち、盛隆二と伊勢佳世演じる夫婦の子供として、1歳くらいの幼児としての扱いを受けたり(しかし、汎一の意識は「明日の会議のための資料」を作っていたときのままである)、小学生として友達とポートボール(だと思うけど、違うのかも知れない)で遊んだり、高校生なのか大学生なのか部活に参加したりする。
多分、汎一は自分の人生を追体験しているのだ。
ここで判らないのが「道化」で、最初は汎一を導いているように見えたのだけれど、段々、汎一と同等になり、汎一に置いて行かれるような風情を見せる。
「汎一」からして、道化が勝手に(芝居的な意味はともかくとして)付けられた名前で、「道化」だって、多分、舞台上その名前で呼ばれたことはなかったと思う。配られたフライヤーに役名として書かれていたのだ。
もちろん、その他の登場人物たちにもそれっぽい名前が付いていて、例えば盛隆二は「権威」だし、伊勢佳世は「慈愛」である。岩本幸子は「公正」だし、澄人に至っては「真実」だ。
そう言われてみれば、ポートボールのシーンの大窪人衛は、汎一に対する「敵意」を見せていたし、部活のシーンの澄人は、全く悪意なく「それはおかしいんじゃないですか」ということを「本当に判らないんです」と言いながら疑問に持ち、口に出す。
後追いでなら「なるほどね」と思えるのだけれど、見ているときに「この役者さんが演じている役はすべてにおいて”愛憎”を表しているのね」などと頭に浮かぶことはない。
「道化」「慈愛」「権威」「敵意」「公正」「打算」「愛憎」「真実」に囲まれ、さて汎一はどんな人物なのか、ということになる。この人々、イメージの中で、汎一はどういうイメージで描かれるのか。
ポートボールでは、周りを気遣い飛び抜けて上手いにも関わらず手を抜き相手に花を持たせようとしたけれど、「道化」に繰り返し「楽しいか?」と聞かれてついには、勝ちに行ってしまう。友達は帰り、楽しいポートボールの時間は終わる。
「周りに合わせる」のが汎一なのか。
部活でも、何故かランニングとアップしかしない、3ヶ月後の大会が果たして何の大会なのか判らないまま練習を続ける状態に最初は疑問を持っていたものの、「次期部長に」などと言われてそのうち迎合してしまう。
やはり、「迎合」というのが汎一なのか。言い換えれば、「一般人」の最大公約数は「迎合」なのか。
そして、それを体現したかのような汎一に、「迎合ばっかりでいいのか」「そこにお前自身はあるのか」と言いたいがために、あるいは汎一自身が知らず知らずのうちの自分にそう疑問を持ったときに、現れるのが道化なのか。
そういう気がしてくる。
ところが、就職した後の汎一は少し違う。
そこでの彼の中心を形作っているのは、出世欲や「自分は有能である」という驕りのように見える。
いいアイデアを出して出世し始めるところまではともかくとして、周りに配慮しない、安全性よりも効率を優先する、直属上司を出し抜いてさらにその上に提案を投げて採用される、産休に入った上司の代役を務めていた筈が産休からの復帰後もそのポジションを奪い取ったままにある。
出世競争バリバリの状況が「一般人」というイメージなのか。
実はここで汎一のキャラクターが180度反転しているような気がする。同時に、反転しているようだけれど、実際の根っこはやっぱり変わっていない、ような気もする。
汎一はそういえばずーっと最初から伊勢佳世演じる「慈愛」にアプローチしては断られてきたのだけれど、結局、最後まで彼女と恋人同士になることはない。
そうして、何故かどこかで勝手に決められた相手である橋本ゆりか演じる「愛憎」と結婚する。
「こんな筈じゃない」と叫びたいのだけれど、職場での体面に負けて受け入れてしまう。
問題は「体面」とか「見栄」とか「外面」なのか。
デスクなどの什器が段ボールだったり、会社での仕事が「折り紙の船を作る」ことで表されていたりするのも、多分、仕事というものの虚構性のようなものを表しているんじゃないかという気がする。
それは、多分、他のエピソードも含めて仕事に行き詰まっているオトナにはどこかしら痛い指摘なのだと思う。
汎一の2歳になる子供を連れて妻が職場に立ち寄ったところ、熊のぬいぐるみだった2歳児役が、道化と入れ替わり、道化は、周りの人間からは2歳児に見えたまま、汎一の目には道化に映っており、その挑発に負けて子供に殴りかかってしまう。
今の汎一を怒らせたものは何だったのか、汎一自身にも判っていなかったんじゃないかと思う。
そうして、最後、恐らくは会社で我が子に殴りかかり我を忘れたことがきっかけで、汎一は会社を退職することになったんじゃないかと思う。
バラバラになった自分の机を作り直し、それが多分、身辺整理を表していて、そして、会社から去って行く。
しかし、道化との間に、何か「相互理解」が進んでいて、汎一に深刻だったり負けたといった風情はない。いっそ、この人生の追体験を通じて何かを掴み、サッパリしているように見える。
何というか、寓意があちこちに散らばり過ぎていて、見ているときは???という感じで頭の中にクエスチョンマークが浮かび、「判らないぞ」「判らないぞ」と心の中で呟きながら見ているような感じだったのだけれど、見終わって少し時間がたつと、あぁ、あれもこれも、という感じで少しずつ(ストンとではないけれど)落ちて来つつあるような気がする。
私は、見終わってスッキリという芝居が好きなので、見終わってもやもやが続く芝居は苦手なのだけれど、でも、割と近いうちに視界がクリアになるような気がする、そういう芝居だった。
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コメント
みずえ様、コメントありがとうございます。
確かに今回の「新しい祝日」は、SFっぽくはあったけれどホラーっぽくなかったし、最後の最後に伏線がすべて回収されるという感じでもなかったですよね。
そういう意味では、いつもと違っていたのかも。
次回公演がどんな作品なのか、楽しみに待ちたいと思います。
安井順平さんと八嶋智人さんですか。
なるほど〜。
眼鏡をかけているところと、声と、ルックスと声のギャップがあるところが似ているかも(笑)。
今、テレビで八島さんを見るとすると、「マッサン」でしょうか。
安井さんが、最初は黒いマスクをして出てきて、その黒いマスクを外した途端に眼鏡をかけていたのが何だか可笑しかったです。眼鏡なしで人前に出るなんて! という感じなのかと思っちゃいました。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2014.12.15 23:00
あんみん様、コメントありがとうございます。
おっしゃるとおり、今回のイキウメはいつもとは違う印象でしたよね。
私は今のところ、これはこれでありかなぁと思っています。見ているときは、かなりもやもやしていましたが(笑)。
ポートボールのシーンは、自分が運動神経がないもので、「もし球技が苦手な役者さんが、ポートボールが上手い設定の役をやることになったら大変だったろうなぁ」という間抜けなことを考えながらじーっと見てしまったような気がします。
道化の登場シーン、教えていただいてありがとうございます。周りの反応から想像してはいたのですが、でも、本当に全く見えなかったんですよ! あんな風に全く見えないシーンがあると、見る側のことを考えてないのかなと思ってしまいます。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2014.12.15 22:51
私は本来ホラーは苦手な人間なのですが、イキウメに関しては観れてしまうし、ラストに「そういうことなのか!」とポンと手を打つような展開があったりして、そこが大好きです。
でも、今回はホラーっぽさもなかった分、すっきりした終わり方でもなかったような気がしました。
新しい試みなんでしょうか?
時間も短かったし、やや物足りなさを感じました。
それにしても、安井さんは上手いですね。
毎回感心して観ています。
それにこの方、八嶋さんに似てませんか?
テレビで八嶋さんを観るたび、この役安井さんでも出来そう、と思っています。
投稿: みずえ | 2014.12.15 09:35
こんばんは、今日は寒いですね!
先月観てきました。
イキウメは毎回息を殺して展開を見つめる感じ(といっても7本目)なのに、今回の公演は『へ??』的でした。
最前列センターで観たため、道化が出てくるところは
デスクの下段中央の箱がするすると前に出てきて
後ろに白い衣装が見えたので『あ、誰か出てくる』と気付きました。
そこから一気に出てきた感じです。
部活とポートボール(特に)の部分がやけに長く感じて、単調さを感じました。
この【単調さ】は今までのイキウメには決して感じなかったのです。
伊勢さんの慈愛と絡むところは面白かったですが。
それと愛憎役の橋本さんがセリフをしゃべる時に
観客を意識するような視線の投げ方が、とっても気になりました。
次回公演に期待!ブラッシュアップ!
投稿: あんみん | 2014.12.14 19:26