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「キレイー神様と待ち合わせした女ー 」
作・演出 松尾スズキ
出演 多部未華子/阿部サダヲ/小池徹平/尾美としのり
田畑智子/皆川猿時/村杉蝉之介/荒川良々
伊勢志摩/猫背椿/宮崎吐夢/顔田顔彦
少路勇介/町田水城/伊藤ヨタロウ/家納ジュンコ
オクイシュージ/松尾スズキ/田辺誠一/松雪泰子 ほか
観劇日 2014年12月23日(火曜日)午後1時30分開演
劇場 シアターコクーン G列3番
上演時間 3時間40分(15分の休憩あり)
料金11000円
ロビーではパンフレット(1800円)やTシャツ等が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
初演も再演も見逃していて、再再演にして初めて「キレイ」を見ることができた。
まずはそれだけで嬉しい。
立ち見も結構出ていたようで、3時間40分を立ちっぱなしで見るのは辛いなぁと思った。それほど長い芝居ではなかったけれど立ち見で見たことがあるのでよく判る。
そこは日本だけれど、3つの民族が争い戦争が続いている「日本」で、そこでは、大豆から作られた兵隊がおり、戦死した彼らを回収する業者がいて、回収された兵士を食品に加工する工場がある。そういう世界だ。
ガラクタっぽいといえばいいのか、ブリキっぽい感じのセットで、縦方向にも組まれていてかなり高い場所にキャットウォークがあったり、舞台全体を立体的に使っている。
ブラウン管(ではないと思うのだけれど、イメージとしてブラウン管ぽかったのだ)があちこちにはめ込まれ、映像が映し出される。
荒んでいるけれど、無機的ではない、という印象だ。
多部未華子演じるケガレという少女は、子どもの頃から地下室に監禁されて育っており、さて彼女が田辺誠一演じるマジシャンや猫背椿演じるマタドールに誘拐されたのかどうか、その辺りがすでに定かではない。マジシャンは「本部」の命によってこの少女を誘拐し、少女の父親である敵国の政府高官と取引をしようとしていると主張するのだけれど、どうもその辺りからして胡散臭い。
大体、どうして誘拐犯がマジシャンとカウボーイとマタドールでなければならないのか、全く意味不明だ。
多部未華子の声はときに可愛らしく、ときに凄みをきかせて、変幻自在という感じ。私は「役者は声だ」と信じているので、ケガレという記憶を消され、自ら忘れようとして忘れたという少女に何て似合う佇まいなんだろうと思う。
ケガレは外の世界に出て行き、そこで皆川猿時演じるカネコキネコという肝っ玉母さん率いる「死んだ大豆兵士回収業者」の一員に加わる。地下室から自由になった筈が、地下室で一緒に暮らしていた「カミ」の視線を常に感じ、その存在に追われている、らしい。
「カミ」は全身真っ白でボブカットの年老いた男性の風情で、そのカミと雰囲気を揃えた少女たちが同じようにケガレを無言で見つめている。
少女のケガレを、松雪泰子演じる大人になったケガレが割と常に見守っている。水色のドレス姿で出て来て歌っているときは「誰?」と思ったのだけれど、大人になったケガレの時間になってウエディングドレス姿で現れたときにやっと松雪泰子だと気がついた。
小池徹平演じるハリコナは「自分より馬鹿かも」とケガレを気に入るのだけれど、どうもケガレは「モノを知らない」だけで「知恵がない」訳ではなさそうだ。
松尾スズキ演じるカネコ一家の父親は、時々現れては耳より情報を伝えて去って行くという役回りで、生殖能力を持った大豆兵士を見つければ500万円の懸賞金が出るなんていう話を持ち込んでは去って行く。
田畑智子演じるカスミは、大豆兵士の死体から食料を造る工場会社の令嬢で、しかし、反対運動に資金援助もしているという屈折したお嬢さんだ。それが何故かケガレを最初に見たときから気に入って、何かとちょっかいを出して来る。
ケガレとカネコキネコの息子二人、ジュッテンとハリコナの3人と、カスミとその婚約者、ついでに阿部サダヲ演じるダイズ丸との軌跡があちこちで交差しつつ、時間も行ったり来たりしつつ物語が進んで行く。
初演で、少年のハリコナを阿部サダヲが、ダイズ丸を古田新太が演じていたのは知っていて、見てもいないのにその姿が頭に浮かんでしまうのが困ってしまう。どちらもハマリ役だったんだろうなぁということは、この再再演を見ていても容易に想像がつく。
物語を書き起こしたいところなのだけれど、私にはキッパリと物語を掴めなかった。
少女時代のケガレが解離性人格障害で、それでミソギやカミを生み出したんだとこじつければ、それで説明はつきやすいのだけれど、多分それは違っているし、たとえ正しかったとしてもそういう解釈は必要ないという気がする。
「キレイ」は、そういう物語ではないんだろうなと思うのだけれど、ついそういう解釈を探してしまうのが私の駄目なところで、だから余計に判らなくなってしまうのだと思う。
そして、判らないということが先に立ってしまって、何かが語られていることは判るのに、ストレートに入って来ないのだ。
さらに、最後まで、「ダイズ丸の生まれた意味は何か」とか、「マジシャンは結局のところどういう人物だったのか」とか「ケガレが監禁されていた理由は何なのか」とか、「ハリコナを小池徹平と尾美としのりの二人に演じさせたのはどうしてだろう」とか、そういう疑問の答えを出して欲しくてそこだけに注目して見てしまい、やっぱり何かを見逃したり聞き逃したりしているような気がする。
マジシャンとマタドールの狂気や、外に出たケガレの空っぽな感じとお金に対する執着、ハリコナの笑顔と全身全霊をかけて花を咲かせようとする風情、カミを名乗る男たちのおどろおどろしさ、カネコの母さんのたくましさに、カスミさんの別の意味でのたくましさ、大人になってミソギという名前になったケガレの何でも受け入れてしまう悲しさと、元いた場所に戻って捨てた記憶と向き合おうという凛々しさ、それが、「キレイ」というミュージカルなんじゃないかという感じがした。
そして、ダイズ丸の「自分をこの世に残せた」という喜びと、最後の最後にミソギに花を咲かせて見せるその心持ちが、このミュージカルの多分肝だ。
松尾スズキのブラックさは、このミュージカルの歌詞や登場人物の設定やセリフにかなり色濃く散りばめられていると思うけれど、見ているときには何故かあざとい感じがしない。
ミュージカルを見に行くと帰りにどうしても口ずさんでしまう一曲があることが多いのだけれど、今回はそういう一曲がなかったのは、多分私がゴチャゴチャと余計なことを考えてしまったせいだろう。
このミュージカルの良さをちゃんと掴んでいないという気持ちが強くあって、もう一回見たいなぁ、もう一回見たらまた全然印象や感想が変わる気がするなぁと思う。何だか絶対に勿体ないことをしているという気分が強い。
いつにも増して感想もちゃんと書けてないなぁと自分でも思うのだけれど、少なくとも今の時点でどう書いていいのかよく判らないので、とりあえずアップしておくことにする。
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コメント
ういんた様、はじめまして & コメントありがとうございます。
「キレイ」をご覧になったのですね。
大阪公演の方が上演回数も重ねていますし、もちろん観客も違いますし、きっと東京公演とは変化があったのではないでしょうか。
田辺さんのことは、ご質問があって思い出そうとしたのですが、今ひとつ思い出せません・・・。
爆笑を生んでいたという感じではなかったと思いますが、どうだったかなぁ・・・。でも「気の毒」な感じはなかったように思います。
もしかすると、初演や再演を見たことがある人が客席にどれくらいいるかによっても、劇場の雰囲気が変わるかも知れませんね。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2015.01.18 10:31
初めまして!いつも、ブログ楽しみに拝見しています。
演劇は好きなんですが、なかなか足を運べる都合がつかなくて、姫林檎さまの感想を楽しみにしています。
今回、「キレイ」はタイミングが合って観ることができました。大阪で観たので、姫林檎さまの感想を観てからの観劇でした。
田畑さんの声が良かったですね!サダヲさんは期待が大き過ぎたのか、ふつうでした・・・。でも、最後はなんか勝手に涙が出てきました。ハリコナが最後にケガレに花を見せてくれたところで、なんだか自然と。多部さんは役にぴったりでしたね。最後の歌の「けがれてけがれて、わたしはキレイになる(うろ覚え)」のところで、何故か、ナウシカだ!と思ったんですよね。清と濁、破壊と慈悲の混沌。今、あんみんさまのコメントを見て、同じようなことを感じた方がいたのだなぁと思って・・・。
しかし、どうしても田辺さんが浮いてしまっていたように感じて、あと、小池君と尾美さんが同一人物というのにしっくりしなくて。大阪では田辺さんのところではちっともくすりともしなくて、なんだか痛々しい雰囲気でしたが、東京ではちがったのでしょうか?
結果的には、楽しめた舞台でした!見て良かったです!
投稿: ういんた | 2015.01.18 00:29
あんみん様、コメントありがとうございます。
2014年締めくくりのお片付けは佳境でしょうか。
「キレイ」が2014年観劇の締めくくりというのも何だか合っていていいですね(笑)。
ぜひ大阪でも楽しんでいらしてください。
私も1回ではなく2回見るべきだったなぁと思っているので、ぜひ2回見た感想もお聞かせくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2014.12.31 17:42
こんにちは、今年は例年になく片付けにやる気が出て
はかっどっています(やる気大事!)が、ちょっとブログ訪問。
今年の観劇納めに先々週キレイ観ました。
再演をwowowで観ただけで(うろ覚え)楽しみにしていました。
まず思ったのがスズキ色が割と薄まっているかな、
阿部サダヲの20代のダンサーに交じっても遜色ない動き、
多部さんの圧倒的な存在感&透明感。
彼女は『ふくすけ』以来なんですが、本当に堂々として気持ちいい。
カスミ役の田畑さんもはまっていました、好きです。
あの可愛らしいエンディングの事を、『まるでジブリの実演』と感想を見つけてなるほど!と納得。
ちょっと嫌だったのが終盤に阿部ハリコナが必死の思いで
背中から花を咲かせるところで、観客から笑いが起きてたのが。。。
おっしゃる通りにあの場面が大事なところだと思うのに。
来月大阪で再び観るのも楽しみです。
投稿: あんみん | 2014.12.31 14:15
アンソニー様、コメントありがとうございます。
アンソニーさんも「もやもやした感じ」を抱えてお帰りになったのですね。仲間がいて嬉しいです(笑)。
やっぱり、もう1回見たら違うのかなぁと思っています。立ち見は辛いので、四演目があったらぜひ行きたいなぁと今から考えているところです。
「役者は声!」説の方がいらして、こちらも嬉しいです。
眉毛の薄さもですかぁ。そこは気がついていませんでした。
私が「役者は声、その次は?」と質問されたら何と答えるかなぁと考えてみたのですが、「ケレン」という言葉が浮かびました。
いかがでしょう。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2014.12.27 23:37
こんばんは、姫林檎様。
私も先日観てきましたが同じような感想でストレートに話が入ってこず、掴めそうで掴めないモヤモヤした気分で帰ってきましたw
なのであまりこのお芝居については話せませんが私も役者は声!だと信じてたら姫林檎様も同じだったのでそれが嬉しくてついコメントしてしまいました(≧∇≦)多部未華子さんはほんとによかったですね〜
余談ですが。
密かに役は眉毛の薄さとも思ってます(笑)
すいません、しょーもないこと書いて。
投稿: アンソニー | 2014.12.27 22:05