「夕空はれて 〜よくかきくうきゃく〜」を見る
青山円形劇場プロデュース「夕空はれて 〜よくかきくうきゃく〜」
脚本 別役実
潤色・演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演 仲村トオル/マギー/山崎一/奥菜恵/緒川たまき
池谷のぶえ/犬山イヌコ/後藤英樹/大村わたる
観劇日 2014年12月14日(日曜日)午後2時開演(千秋楽)
劇場 青山円形劇場 Dブロック39番
上演時間 1時間40分(15分の休憩あり)
料金 6900円
別役実氏の体調不良により、新作上演の予定が、旧作をケラリーノ・サンドロヴィッチ氏が潤色して上演ということになった。
しかし、青山円形劇場はほぼ満員だった。
パンフレットが販売されていたけれど、価格等はチェックしそびれてしまった。
ネタバレありの感想は以下に。
配られたフライヤーに、潤色・演出のケラリーノ・サンドロヴィッチのご挨拶があった。
別役実の新作の上演だから引き受けたことや、新作が難しいので旧作の上演を提案されたときは断ろうと思ったこと、しかし、「夕空はれて」という作品を見つけてこれならと思ったこと、青山円形劇場がなくなってしまうことへの思い等々が綴られている。
前にも思ったことなのだけれど、ケラリーノ・サンドロヴィッチという人は誠実な人なんだなと思う。
舞台は、青山円形劇場にしても珍しく完全に円形にしている。青山円形劇場であっても「ここが一応正面ね」と思える舞台であることの方が多かったと思うのだけれど、この芝居は完全に円形で使っている。
舞台の真上中央に中途半端な大きさの檻がぶら下がっており、間抜けなことに私が気がついたのは休憩後なのだけれど円形の舞台の四隅(というのも矛盾した言い方だけれど)に電信柱がぶら下がっている。言い訳をするけれど、思いっきり見上げないと目に入らないくらいの高さにぶら下がっているのだ。
そして、円形の舞台の中央には回り舞台が作られていて、そこに何脚かのばらばらなあまり立派ではない椅子が並べられている。椅子の一つには白を基調とした花束が置かれている。
そこにやってきたのは、スーツに帽子を被った仲村トオル演じる男である。
カバンを持っていて、キッチン用品を販売しているセールスマンなのだそうだ。
休憩なのか何なのか、その並んでいるうちの椅子の一つに座った彼だけれど、そこにやってきた犬山イヌコ演じる喪服の女と、山崎一演じる頭に包帯を巻いた男から、そこに座った人が今日ライオンに噛まれる可能性が高いのだ、という話を聞かされる。
慌てて、その椅子から立ち上がり、ついでにこの場所からも立ち去ろうとするけれど、何故か立ち去ることができない。
その街の住人らしいこの男女と、セールスマンの男の間では何故か会話が成立しない。
というか、男女の方は全く普通にしていて問題があるとは思ってもいない風情で、セールスマンにとってのみ、この状況は理不尽である。言葉は通じていて、相手の言うことも判るし、こちらの言うことも判っているらしいのに、何故か会話だけが成立せず、「自分はライオンに噛まれたくない。ましてやライオンに噛まれて死にたくなんかない」ということがどうしても伝えられない。
それが伝わらなくったって、この場所を離れてしまえばいいようなものだけれど、猛獣係がライオンを探してハモニカを吹いており、ハモニカが止まるのはライオンに噛まれたときだ、なんて言われて、この場からライオンのいる(らしい)場所に移動することができなくなってしまう。
相手にしなければいいのにねぇと思うけれど、それでもついつい自分の言うことを相手が理解しないと不安になったり、何とかして正確に伝えなくちゃと思い込まされている辺りで、もう、このセールスマンは場に取り込まれてしまっている感じだ。
どうでもいいことなのだけれど、セールスマンを演じている仲村トオルの髪が長めなのが何故かとても気になった。何だか知らないけれど「もっとサッパリすればいいのに」と思ってしまったのは、セールスマンだしと思ったからなのかも知れない。
2対1だったらまだ勝ち目もあったかも知れないのだけれど、そこへ緒川たまき演じる黒いドレスの女と、奥菜恵演じる花嫁衣装の女がが現れて、もう勝負あったという感じになる。
この2人の女は姉妹で、何だかやけに艶っぽくてゾンビっぽくて威圧的な姉と、まだらに白粉を塗ってぬいぐるみでも抱えていれば似合いそうな妹という、これまた訳の判らない組み合わせである。
そして、彼女らは、ここに昨日現れて妹の婚約者をかみ殺したのは「虎」だと主張する。
最初に登場した男女の言う「ライオン」と、姉妹の言う「虎」はどうやら同じ生き物のようだ。そこで納得しちゃえばいいものを、セールスマンは何故かそこを追及する。
4対1になってしまうと、もう本当は普通な筈のセールスマンの方が変で、4人の方が普通というか多数派で、多数派に従わなくちゃいけなくて、というか多数派に従っといた方が無難なのにとセールスマンを責めるような気持ちが起きてくるのが不思議である。
そして、セールスマンが焦れば焦るほど、焦れれば焦れるほど、つい笑ってしまうのだ。よく考えるとセールスマンには気の毒なことをしてしまった。
ハモニカの音が途切れると、そこにマギー演じる飼育係がやってくる。この飼育係が「自分が探しているのは熊だ」と言うものだから、またセールスマンが混乱する。場は全く混乱していない。
そして、彼が登場した辺りから、「この街の人々は、噛まれたくないと言いつつ本当は噛まれたいと思っていて、本当に噛まれたいと思っているから噛まれる可能性の高い飼育係志望者は列をなしている」ということが明確に語られ始める。
それまでも、いかにもといった感じで匂わしては、その匂いに反応したセールスマンに対して「そんなことは誰が言っているんですか」と返して混乱に拍車をかけていたのだけれど、そこをはっきり言うようになる。
飼育係と4人とセールスマンが侃々諤々やっている間、当然のことながら飼育係のハモニカは音がしなかった訳で、すると、「今の飼育係は噛まれちゃったんだな」と思った次の飼育係が自分の仕事を始めてしまったらしい。
ここでもまた一騒動起こる訳だけれど、どうも今ひとつどのタイミングで休憩に入ったかが判然としない。
1時間40分のお芝居で休憩が入るとは思わずに油断していたのだ。だから「休憩15分」のアナウンスが入ったときには驚いた。
休憩に入るまで池谷のぶえが登場しなかったなぁと思っていたら、「とうとう捕まえた」と言って飼育係ら3人が運んで来た布の袋の中に、最初の男女が言うところの熊で、姉妹が言うところのライオンで、飼育掛かりが言うところの虎(だと思ったけれど、組み合わせが間違っているかも知れない)が連れて来られる。
ここでどうして、それぞれが指す猛獣の種類が変わるのかよく判らない。よく判らないが、先にセールスマンが混乱をしているので、こちらは安心して見ていることができる。
袋の中から言葉が聞こえて来て、セールスマンは「人間じゃないですか!」と叫ぶけれど、地元民5人はまったく動じず「まだライオンだって気がついていないだけなのよ」「ぶったら虎だって気がつくかも」等々と相談している。
実際に、姉のステッキを取って妹が袋の上から殴り、飼育係が袋の上から激しく蹴る。
セールスマンが出してきたキッチンハサミで袋の口を縛っていたローブを切ると、そこからは、池谷のぶえ演じる老紳士が現れる。
そういえば、不思議なことにこの芝居のテンポは常に一定だったような気がする。
決して緩急がない訳ではなくて、緊迫のシーンと笑いのシーンとがあるし、「そこで意外な事実が!」みたいなこともあるし、回り舞台が回ったり止まったりしているし、ストップモーションがあったりするのに、何故か印象として一定のテンポだったなぁと思う。何故だろう。
ここから先も普通なら「怒濤の展開」というところだと思うのだけれど、それが何故かテンポはこれまでと同じように続いて行く。
池谷のぶえ演じる老紳士が高い声でしゃっくりでも出かかっているようなしゃべり方をするせいか、逆に少しテンポが落ちたような気がするくらいだ。
老紳士は、袋の上から自分を蹴った人物とキッチンばさみを提供した人物は同一人物だと思っていて、地元民たちはセールスマンの動揺を目にしつつその誤解を解こうとしない。どころか、老紳士の誤解を推進しようという勢いだ。
最初は「誰が蹴ったか等々を口にするのは止めよう」という約束をしていた6人だけれど、セールスマンが自衛のために言いかけたりしていると、妹が「知っているけれど言わない」と言い出し、姉が妹に「言いなさい」とステッキを突きつけて迫り、他の面子だって誰が何をしたのか知っているのにまるで他人ごとのように、「だってこの人(老紳士)は、この人(妹)から聞きたいって言っているんですから」と知らんぷりだ。
ステッキで姉に折檻されそうになって妹を見かね、その妹の必死の制止も聞かず、「蹴った人を知りたいだけなんですね。」と念を押してセールスマンが「本当のこと」を老紳士に告げる。
すると、老紳士は手にしていたキッチンばさみで妹を刺し、「私が何もしないと言ったのは蹴った人のことです」と嘯く。
結果として、姉が最初に企んだように、妹が途中でセールスマンに「私は本当に噛まれたくないのに、それを信じて貰えない」と助けを求めたように、妹がここで命を落とす。
何というか、それは何故だか予定調和のように見える。
セールスマンにとっては理不尽な予想外の展開でここまで来た訳だけれど、でも、セールスマン以外の人々にとっては、それは予定された結末であるかのように見える。
そして、彼らは三々五々散って行き、最後に女が「捜査官には、ライオンにかみ殺されましたって言うんですよ」と普通に語りかけ、その場にはセールスマンだけが残される。
普通の声で、このハサミには血が付いているから洗っておいた方がいいと忠告する喪服の女が恐い。
言葉は通じているのに会話は通じない、普通に話しているのに何故か普通に悪意に受け止められ、気がつくと周り中の全員から陥れられているかのように思えてくる。そういう理不尽さと、その理不尽に抗おうとする普通の人の焦り方が笑いを生み出す。それこそ普通に考えたら、笑ったら申し訳ないかもというシチュエーションである。
いわゆる不条理劇というのは苦手で、苦手意識がある分あまり見ることはないのだけれど、久々に見た不条理劇は何だか意外と楽しめてしまった。我ながら不思議である。
見て良かった。
千秋楽だったからか、いつものことなのか、カーテンコールにケラリーノ・サンドロヴィッチも登場していた。
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コメント
アンソニー様、コメントありがとうございます。
アンソニーさんは戯曲を読まれる方なんですね。
実は私は戯曲を読むのが大の苦手で、ほとんど読んだことがないのです。読む方が読めば、戯曲を読むと上演される舞台が立ち上がって来たりするのでしょうね・・・。
私も不条理劇って苦手なのですが(って、苦手なものばかりですが)、このお芝居は全然判らなかったですが、それでもいいよね、という感じがしました。
自分でもどうしてそんな風に思ったのかよく判らないのですが、
仲村トオルさんの髪型、実は最初に登場されたときに「フィギュアスケートの町田樹選手みたいな髪型だなぁ」と思ったのは内緒です(笑)。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2014.12.23 23:40
姫林檎様、こんにちは。
下北で社長吸血記を観て別役さんに興味を持ったので本を読み漁り、この舞台の新作を楽しみにしていただけに演目変更は残念だし、別役さんの体調も心配でしたが楽しんできました。
不条理劇、わけわかんないけど
この舞台には歪んだ社会の縮図をみた感じが
しました。
仲村トオルさん、私も違和感あったんですが姫林檎様の記事を読んで髪型だったのねと腑に落ちました。もっとさっぱりしないと、ただの通りがかりの人にしか見えなかった。
そういえば私が行ったときは客席にケラさんがいらっしゃいましたよ。
投稿: アンソニー | 2014.12.23 11:15