「をんな善哉」 を見る
劇団青年座第216回公演「をんな善哉」
作 鈴木聡
演出 宮田慶子
出演 高畑淳子/増子倭文江/津田真澄/小暮智美
名取幸政/佐藤祐四/平尾仁
手塚秀彰/綱島郷太郎/豊田茂
観劇日 2015年1月9日(金曜日)午後7時開演
劇場 シアター1010 2列19番
上演時間 2時間35分(15分の休憩あり)
料金 5500円
ロビーではパンフレット(500円)やTシャツ等が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
舞台は、老舗の和菓子屋の奥にある座敷である。
その和菓子や笹もとの女将である高畑淳子演じる諒子が、朝の恒例なのか、お仏壇にお線香をあげ、廊下を拭き掃除しながら亡くなった両親に色々と話しかけている。
話題は一つ。「自分はまだ女をおわりにしたくない」ということである。ちょっと核心にかかると、「お父さんは耳を塞いで置いて」と話しかける。仲のいい家族だったんだなぁと思う。
たった一人で幕開けに出てきて、仏壇に話しかけるというのはとどのつまりは独り言である。
ちょっと疲れた感じの髪型や服装で独り言を言いながら、動き、笑い、客席を一気に鷲づかみにしてしまう。高畑淳子面目躍如というか、舞台が狭く感じるくらいだし、そしてこちらは戯曲の妙で、彼女くらい(後になって52歳と判る)の年齢の女性がお仏壇に話しかけるという体裁を作ることで、自分のことを一人語りしても「ヘンなの!」とか、「説明っぽい」という印象は確かに生まれない。
何だか、幕開けのこのシーンにテクニックの限りが詰め込まれている気がする。
そして、そこへたたき上げの職人である名取幸至演じる繁さんが現れ、諒子の会社員時代の同期である増子倭文江演じる澄江が「久しぶりに顔を見ようと思って」と言って登場することで、諒子の現在と過去が一気に説明される。
広告代理店に勤めていた諒子はかなり「デキル」社員だったのだけれど、10年ほど前に両親が亡くなったことをきっかけに会社を辞め、和菓子屋を継いで女将になった。ずっといてくれている和菓子職人の繁さんの職を失わせたくないという気持ちもあったようだ。
しかし、結構じり貧で経営にも困っているし、ずっと独身で来ていて「恋をしたい」とも思っている。
同期の澄江は、やっぱり独身だけれどパートナーが最近現れて、そして会社では女性初の役員に上り詰めている。
ここまでが、最初のシーンで語られる。
いや、最初のシーンには、同じ商店街で酒屋を営んでいる石原夫婦が現れ、娘のボーイフレンドについて相談もしたのだったか。何だか記憶が曖昧である。
はっきり言って、私の記憶なんてこんなものである。
物語の場面はずっと笹もとの奥の座敷で、暗転し、例えば庭木にさす陽の光や、座布団カバーやのれん、蝉の声が聞こえたり雀の声が聞こえたり、もちろん役者さんたちの服などで季節の移り変わりが表される。その場面転換を見せる方法も最近はよくあると思うけれど、ここでは、暗転し、幕を下ろすことで「時間がたった」ことをより強調しているようにも思う。
酒屋のご主人は法被に前掛けねじり鉢巻き(いや、これはなかったかも)のいかにも典型的なガンコオヤジだし、酒屋の女将さんはその亭主を旨く操縦する気のいい女性だし、娘は店を手伝い跡を継ごうという現代っ子風味のいい子だし、その彼氏はfacebookだかで知り合ったという「幸せは脳内にある」なんて言ってしまう気弱そうな草食男子だし、近所にあるバ−・ドルフィンのマスターはサーファーだとかで日焼けしいかにもチャラそうな外見と動きをしている。澄江の彼氏はパーティーで知り合ったというソーラーシステム会社の社長で、もちろん繁さんは頑固な職人さんだ。
諒子が「ムラムラしている」相手がこの15歳くらい年下のマスターな訳だけれど、この辺りはどうしても「類型的」という印象を持ってしまったのと、テンポがゆるい感じがして、「もうちょっと、ちゃきちゃきと進行してよ!」と思ってしまった。
それが、休憩後の二幕は何故だか色々と変わってくる。まさに畳みかけるようなという感じだ。
マスターにふられ(というよりも相手にされず)一気に老け込んだように見えていた諒子だけれど、会社員時代に付き合っていた田村に再会してから一気にキレイになり、その諒子を見て今度はマスターの方が「キレイになりましたよねー」と何だか諒子にまとわりつく気配だ。
商店街には地上げとショッピングモール建設の話が持ち込まれ、諒子には澄江の彼氏から営業担当の責任者に近い立場での入社を依頼される。そうこうしているうちに職人の繁さんが倒れてしまい、1週間の入院の後しばらくは療養が必要ということで、店も閉めざるを得なくなる。
前半でゆったりと張った伏線を一挙大放出という感じだ。
そうして、伏線が張り巡らされたところで、実はこの商店街を地上げした結果建設されそうなショッピングモールの屋上に澄江の彼氏の会社がソーラーシステムを設置することになっていることが告げられ、一気に諒子は混乱する。
それでいいのか、近所の人を追い出して作られるショッピングモールの一部となるソーラーシステムの会社の一員になっていいのか、自分はそうするべきなのか、諒子の混乱はよく判る。
その様子を見て、「何を混乱する必要があるのか」と言い放つ澄江もまた、「あんたは和菓子屋を継いだけれど、もっと大きなことができる、もっと広い世界が自分にはあるとずっと思っていた筈だ」と諒子の痛いところを突いてくる。
酒屋夫婦も加わって、笹もとの座敷は大混乱だ。
そこへ、繁さんが2階から降りて来て、自分の仕事を奪わないでくれと言い、こういう生き方しかできない人間がいると判ってくれと澄江らに向けて頭を下げる。
一気に場が沈静化する。
そのまま厨房に向かった繁さんは、諒子が止めるのも聞かずに、善哉をこしらえ、5人分出して来る。
「いただきましょう」という諒子の一言でみなちゃぶ台を囲み、「美味しい」と思わずもらす。
高畑淳子一人勝ちの舞台だよと思っていたのだけれど、このシーンは繁さん一人勝ちだったし、このシーンだけで繁さんがこの舞台をさらっていったようにも思う。
「その後」は実はこの舞台で見せられることはほとんどない。まるで後日談のように語られるだけである。
酒屋夫婦と娘たちとの間を取り持っていた諒子は、商店街全体の「地上げに応じるか否か」「ショッピングモールを受け入れるか否か」という対立に際しても、本人曰く「音頭を取っただけ」だけれど、「もうちょっとがんばってみるか」という方向に商店街の意志をまとめ上げる。
それは、会社員時代に培った営業力の為せる業でもあるし、10年以上この場所に根ざして培われた商店街への愛情や何やらの為せる業でもある。
多分、諒子が自分の居場所を見つけ、退路を断ったことの表れだ。
澄江も久しぶりに現れて、なし崩しに和解する。「何でもっと早く来なかったのよ」と拗ねる諒子には、お互いの人生を否定し合ったわだかまりはもうない。
この澄江という人が、あまりにも「モーレツ社員」っぽく作られて全くブレるところがないのが何だか惜しい気がして、この舞台の違和感は彼女が生んでいるようにも思うのだけれど、2時間半に納めるためには必要な単純化なのかなぁとも思う。澄江の物語は澄江が主人公の舞台として語られるべきなんだろう。
その澄江が、諒子が「不倫未満の恋人」としてここのところ付き合っていた田村の「正体」を告げる。会社で彼はずっと日の当たらない道を歩いてきていたらしい。
金沢への転勤に際して挨拶に来た田村に、しかし諒子は「何も知らない」振りをして挨拶を返す。澄江曰く「優しいわね」ということなのだけれど、実は私にはここも判らなくて、それが「優しい」ということなのか、どうして田村を見送った諒子が澄江にすがりついて泣くことになるのか、ピンと来なかったのだった。
酒屋の娘のボーイフレンドは、酒屋の配達を手伝うようになり、またネットショップも開店し、酒屋のオヤジと彼とのそれぞれの「いいところ」が融合し娘曰く「両方とも成長した」ということになったようだ。
「いい変化」なんだろう。
笹もとにも、何故かドルフィンのマスターが繁さんの弟子未満として出入りするようになっていて、繁さんも少しだけ頼りにしているようだし、その繁さんも頭から否定していた「カフェオレ大福」を研究してみようという気持ちになっているようだ。
「昔のいいところを残しつつ新しいものを取り入れる」ことの上手い例を示し、しかし、最後は繁さんお得意のじょうよ饅頭を諒子とマスターがはふはふといただいているところでこの舞台の幕は降りる。
そのはふはふしている高畑淳子の顔に最後までスポットを当てているところがミソだよなぁと思う。
もちろん最後は、高畑淳子の満面の笑みと全員揃っての最敬礼で幕だ。
新年にふさわしい芝居を見たなぁといい気分で劇場を後にした。
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