« 750000アクセス達成! | トップページ | 「夜想曲集」の抽選予約に申し込む »

2015.02.08

「地球投五郎宇宙荒事」を見る

六本木歌舞伎「地球投五郎宇宙荒事」
脚本 宮藤官九郎
演出 三池崇史
出演 市川海老蔵/中村獅童/坂東亀三郎/尾上右近
    大谷廣松/市川福太郎/加藤清史郎/市村竹松
    市川九團次/片岡市蔵/市村萬次郎 ほか
観劇日 2015年2月7日(土曜日)午後4時30分開演
劇場 EX THEATER ROPPONNGI 1階Q列21番
料金 14000円
上演時間 2時間25分(20分の休憩あり)

 ロビーでは、パンフレット(2000円)が販売されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 「地球投五郎宇宙荒事」の公式Webサイトはこちら。

 EX THEATER ROPPONNGIには初めて行った。普段はコンサートやライブが開催されている場所のようだ。
 そこで歌舞伎を上演しようというのだから、なかなか大変である。
 客席に入ったときに、花道が作られていたのだけれど、向かって左前方から伸びる花道が、通路で直角に曲がり、そこからスロープで客席に降りられるようになっているのを見て「なるほど」と思った。そうしないと、花道に出た役者がはける通路を確保できなかったのだろう。

 舞台全体を覆うように和風の「枠」を作り、定式幕を下げ、「これから上演するのは歌舞伎です」という雰囲気を作りつつ、しかし客席もロビーも黒が基調という違和感は拭えない。
 それもあって、幕開け前に加藤清史郎クンに登場させ、「六本木歌舞伎を上演することになったその瞬間をお目にかけたいと存じます」と、昨年のいつ頃かの楽屋風景から始めることにしたのかなと思う。
 海老蔵も獅童も、「私服?」みたいな服装での登場である。
 ファンは大喜びだ。お隣の方も「サングラスしてる」とか「格好いい」とか、一々感想を隣の人に伝えていて、ちょっと耳障りだったくらいだ。

 加藤清史郎演じる「市川鯛蔵」少年は、海老蔵の弟子で心酔し、獅童を嫌っている、という説明から始まり、海老蔵が汗を拭いた紙が緑に染まっている! もしかして宇宙人なんじゃないか! という前振りから、海老蔵と獅童の二人で「来年2月に宇宙ものの荒事をやらない?」と相談がまとまり、そして、その「荒事」の世界に入って行く。
 このおしゃべりをする間に、二人は私服から衣裳に着替え、化粧も完了しているという趣向だ。
 多分、これらはみな「判りやすくする」「入りやすくする」ための工夫なのだと思う。
 そういえば、海老蔵はスマホを取り出して写真を撮り、ブログを更新する「振り」もしていたし、アドリブなのか新婚の獅童をからかうようなセリフもしゃべっていた。

 そうして、設定をまず「普段の海老蔵と獅童」が相談する様子を見せて説明してしまったり、とにかく判りやすくしよう、伝わらないということがないようにしようということに主眼が置かれているように感じられる。
 そうすれば、当然のことながら、冗長になってしまう訳で、早く本題に入ろうよ、と思ったことも本当だ。
 浅草寺に獅童演じるダースベーダーではない「駄足米太夫」が提灯みたいな格好をした宇宙船で現れ、たまたまそこを歩いていた尾上右近演じる花魁高窓大夫を拐かし、片岡市蔵演じる法漢和尚の機転で、市川海老蔵演じる役者の市川段九郎が呼ばれ、芝居だと思い込んだ市川段九郎が駄足米太夫に戦いを挑むと何故か互角の勝負で、しかし花魁は駄足米太夫に連れ去られてしまう、ここまでに一幕50分が使われてしまう。
 何とも、展開がゆっくりなのだ。

 高窓大夫の正体にしても、和尚がわざとらしく「その方は実はやんごとなき・・・。」と言いかけて口を押さえる仕草をするという判りやすさで「何かありますよ〜」と教えてくれる。
 この座組だったら、客層も若そうだし、もうちょっと判りにくくてもいいんじゃないかと思ってしまう。逆に私のように普段歌舞伎に縁のない人間が多いことを想定した故の判りやすさなんだろうか。
 カタカナ言葉を義太夫に乗せ、三味線の音とともに聞いたら、それは違和感が可笑しみを生むし、実際に笑ってしまったのだけれど、そこが冴えれば冴えるほど、別の違和感も生まれていたように思う。
 でも、逆に、海老蔵と獅童という「素顔(これは文字通り顔と言うこと)」を知っている歌舞伎役者二人なので、その二人が「化ける」過程にはそういえば違和感を覚えなかったし、化粧をして衣裳を着ければそれは「役」とすんなり入れたように思う。不思議だ。

 休憩後、再び舞台が江戸時代から楽屋に戻っているときにはちょっと驚いた。判りやすくするための導入だったら、最初だけでいいのでは? と思ったからだ。
 そこでも、「地球を投げたらどうだろう、荒事なんだから」「駄足米太夫にも悪に落ちた悲しい設定があって、その原因が段九郎にあったってことにしたらどうだろう」と、海老蔵と獅童が相談するシーンを見せて、これからの「落ち」を全部説明してしまう。
 そこで言わないでくれー、と思ってしまう。
 もう、これは、徹頭徹尾「誤解なく伝える」ことを最優先にしたんだなと思うしかない。
 そして、そうやって誤解なく筋を伝えることで、観客には「海老蔵」「獅童」ら、役者の演技の特に「ハレ」の部分に集中して欲しかったんだろうと思う。

 実際、歌舞伎だったということを思い出せば荒唐無稽過ぎるあらすじで、加藤清史郎演じる与駄(ヨーダ)まで出てくる有様で、段九郎は地球人だと思って生きて来たけど実は宇宙人で、駄足米太夫は地球外生命だと思って来たけれど実は地球人、というか、徳川綱吉の実の息子であったと知って地球滅亡を企てた、なんていうことになっている。ついでに書くと、高窓大夫も徳川綱吉の娘という設定だから、ルークとレイア姫をもじってみせたということなんだろうか。
 この辺りのサブカルの活かし方というか取り入れ方はクドカンっぽいと言えるのかも知れない。

 ヨーダから、「実はエイリアンである」という事実を告げられた段九郎は、巨大化して段十一郎となり、トランスフォーム(って意味が判らなかった)と叫んで巨大化したのか巨大なロボットの操縦席に収まったのかした駄足米太夫と、宇宙空間で争い、駄足米太夫が投げた隕石が地球に当たらないように地球を投げ飛ばし、(多分)人類を救う。
 地球が軌道を外れるようなことになれば、そこで暮らしている生物だって無事ではいられないよ、この場合、地球を滅ぼしたのは駄足米太夫ではなく段九郎だよ、というツッコミは多分してはいけないのだ。

 こうして地球滅亡の危機は救われ、多分、駄足米太夫は地球征服を諦め、高窓大夫は無事に徳川将軍家に戻り、高窓大夫とともに宇宙に連れ去られた小僧さんも恐らくは無事に浅草寺に戻ったのだと思う。
 ここだけは、何故か判りやすく描かれずに、段九郎が地球を投げ飛ばしたところで、カッコ良く幕である。
 比べるのもどうかと思うけれど、「いやおうなしに」と同じように、あちらは嫌な話のオンパレード、こちらは荒唐無稽のヒーロー物という違いはあれど、とにかく楽しんだ者勝ちという舞台だったし、実際、敷居低く歌舞伎を楽しめる工夫があちこちに凝らされ、しかし、舞台上の演技特にハレの部分には絶対の自信を持つという舞台だったと思う。

|

« 750000アクセス達成! | トップページ | 「夜想曲集」の抽選予約に申し込む »

*感想」カテゴリの記事

*伝統芸能」カテゴリの記事

コメント

 アンソニー様、コメントありがとうございます。

 アンソニーさんは、歌舞伎を良くご覧になる方だったのですね。
 私は人生を通して両手の指で足りるくらいなので、せっかく歌舞伎を見に行くならもっと「歌舞伎感」みたいなものを味わいたかったなぁと思ってしまいました。
 花道は曲がっちゃだめでしょ! とかですね(笑)。

 今回、三味線も独特だったのですね。
 その辺りも全く判らないので、結果、印象にも残っていないという体たらくです。
 やはり、型破りを楽しむには方を知らねば、と思いました。私は、アンソニーさんの1/10も楽しんでいないような気がします。
 色々とお教えくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2015.02.22 18:16

姫林檎様
こんばんは。

沢山の方に歌舞伎というものを知って触れて興味を持って欲しい!という観点でつくられた感じでしたねぇ。よく歌舞伎は観に行くのですが、こうした試みも面白いなと思いました。

昔香川で暫を観た時、母がせっかく海老蔵さんを見に来たのに顔がわからない。と言ってたのを思い出しました。こうして過程を見せるとなるほどとなりますし、顔も見れるから嬉しかったでしょうね。

津軽の見せ場がもう少し欲しかったけど、太棹の音使いは変わっててよかったです。


花道が狭すぎてすぐ横のおばさんの頭を裾ではじいていて危なかったです(^_^;)

投稿: アンソニー | 2015.02.22 00:18

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「地球投五郎宇宙荒事」を見る:

« 750000アクセス達成! | トップページ | 「夜想曲集」の抽選予約に申し込む »