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2015.02.15

「完熟リチャード三世」を見る

女体シェイクスピア007「完熟リチャード三世」
原作 W.シェイクスピア
脚色・演出 中屋敷法仁
出演 安藤聖/内田亜希子/岡田あがさ/七味まゆ味
    深谷由梨香/葉丸あすか/八坂沙織
観劇日 2015年2月14日(土曜日)午後2時開演
劇場 吉祥寺シアター H列11番
料金 5000円
上演時間 1時間30分(15分くらいのアフタートークあり)

 開演前の客席で、今回の公演には登場しない劇団の男優さんがパンフレット(1000円)を力一杯販売していた。ロビーでは、その他のグッズ等も販売していた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 柿喰う客の公式Webサイトはこちら。

 005暴走ジュリエットに続いて、柿喰う客の公演としても、女体シェイクスピアシリーズとしても、2回目の観劇である。
 赤いいかにも「幕」という感じに作った幕が落とされると、そこには黒いドレス姿の7人の女優が並んでいる。
 赤と白の市松で正方形に一段高く舞台が作られていて、その両脇に照明機材が並んでいる。舞台上にはそれだけだ。
 ジュリエットのときにも思ったけれど、潔すぎる舞台だ。

 アフタートークで「こんなに少人数でシェイクスピアを演じるのは初めて」「一人何役も演じるので」という話が出ていたけれど、そのため、役に衣裳を合わせるのではなく、全員が黒いドレス姿にしたのだそうだ。
 一人何役も演じるけど、衣裳はそのままである。
 そういえば気がつかなかったけれど、この芝居に出はけってあったんだろうか。7人全員が常に舞台上にいたような気もするし、女優一人が舞台に立ち尽くすシーンがあったような気もする。
 我ながら注意力散漫な観客だ。

 シェイクスピアのリチャード3世を1時間半弱の芝居にまとめている訳だし、セットも全くない。リチャード三世を演じた安藤聖以外の役者は、全員が複数の役を演じている。
 そうなると、もう説明台詞の嵐である。
 リチャード3世なんて、普通に会話している台詞よりも、客席に向かって心情を語っている台詞の方が断然多かったんじゃないかというくらいだ。
 他の登場人物たちも、みな、とんでもなく心情を吐露し、独り言を言いまくっている人々になっている。

 役が変われば衣裳が替わるということでもないから、役柄が変わった直後には、「新キャラです」と注釈が入ったり、自己紹介したり、誰かに名前を呼ばれたり、アン役の女優さんなどは「アンアン」と呟いたり、とにかく判りやすく紹介が入る。
 舞台上には何もない訳で、もちろん、場所の説明もその都度入る。
 ただ、説明の台詞は異常に多いのだけれど、それは「そういう風に芝居を創った」のであって、「ダメじゃん!」という感じではない。
 シェイクスピアをギュッと人数的にも時間的にもコンパクトに演じようと思ったら、エッセンスを取り出して説明しまくるのが一番いいと思いました、という堂々たる宣言に見える。

 膨大な台詞の間に、女優陣は黒いドレスに身を包み、格好良くモデルのように歩いたり、ダンスをしたり、不思議な動きをしてみたり、決めポーズを何度も決めたりする。
 照明を落とし気味にして黒いドレスの女優たちが動く。そこが妖艶というよりも、格好良く少し硬めに見えるのは、多分、演出というよりは女優たちの個性の為せる業なんだろうという気がする。

 とにかくコンパクトにギュッと詰め込んだ舞台だから、薔薇戦争の背景などはそれこそ赤と白の市松になった舞台の床でくらいしかイメージされていない、ような気がする。
 そうしておいて、リチャード3世も、その周りの登場人物たちも、とにかく心情を客席に向かって語りまくる。
 実は、衣裳も替えずメイクも変えず、一瞬で役を変わるということを何度も繰り返すなんて相当に高度なことをやっていて、しかも、それが混乱せずに成立しているというのは凄いことだと思う。「紹介」が入るから混乱しないんだわと誤解しそうになるけれど、そうではなくて、ほとんどが演技力で演じ分けがされている。あるいは、同じ役者が演じることに意味がある一人数役を上手く割り振っている。

 少し気になったのは、ラストシーン近くになってからもリチャード3世の独白で、恐らくは様々な思いや背景があるだろう「夢を見た」場面などで、かなり断定的に「今の僕の状態はこうです!」「これこれこういうことがあったから、僕は今こうして混乱しています」ということを本人が解説しているところだ。
 うーん、あなたは本当にそう思っているの? と思ってしまう。
 そういえば、この芝居では、「本当に思っていること」しか誰もしゃべらないし、嘘をしゃべったときにはすぐさま独白で「今のは嘘だよ〜」と客席に向かって言い放つ。ストレートといえばこれほどストレートな芝居もない。

 最後のところは、もう少し判りにくく、はっきりとではなく、リチャード3世という人を描いても良かったんじゃないかしらと思う。
 でも、こういう解釈もありだよね、とも思う。
 そして、そういう風に楽しむためには、もっとちゃんと戯曲を読んでいたり、「スタンダード」と言われる解釈での上演を見ている必要があるんだろうなと思う。

 アフタートークに中屋敷法仁が登場しなかったのがちょっと残念である。
 でも、アフタートークで秋に本公演があると言っていたので、そちらもぜひ見てみたいと思う。

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