「パスファインダー」を見る
演劇集団キャラメルボックス 30th vol.1 クロノス・ジョウンターの伝説「パスファインダー」
原案 梶尾真治
脚本・演出 成井豊
出演 岡田達也/岡内美喜子/陣内将/西川浩幸
三浦剛/石原善暢/渡邊安理/木村玲衣
観劇日 2015年3月7日(土曜日)午後6時開演(東京初日)
劇場 サンシャイン劇場 12列12番
料金 7000円
上演時間 2時間
直前に予約したにもかかわらず、かなりいい席が用意されていて驚いたし嬉しかった。
キャラメルボックスなので、もちろんロビーではたくさんのグッズが販売されていた。
前説はないのかなぁと思っていたらやっぱりあって、しかも加藤製作総指揮が登場していて驚いた。最近はまた加藤氏が担当するようになっているんだろうか。
さらに、最後に芝居の中の一シーンを繰り返し、その間は写真撮影し放題! のサービスがあって驚いた。「ブログ等々に載せていただければ願ったり叶ったりです」と案内があり、かつ、平日公演はかなりチケットが残っていそうだった。
キャラメルボックスでこれだけ集客に苦労しているということは、やはり、演劇全体として客足が落ちているのだろうなと考えてしまった。
ネタバレありの感想は以下に。
客席に入ると、懐かしい感じの音楽が開演前からかかっていて、キャラメルボックス感が溢れていた。
幕は降りておらず、アコーディオンカーテンみたいな衝立の向こうに見覚えのある「クロノス・ジョウンター」が鎮座している。クロノス・ジョウンターはずっとそこにあり、その前で舞台が動くという舞台セットの大枠は変わらないようだ。
話は、岡田達也演じる笠岡光春が、そのクロノス・ジョウンターに乗って過去にタイムトラベルし、兄に会いに行こうというところから始まる。
キャラメルボックスらしさというのはあちこちにあって、開演前や上演中に流れる音楽もそうだし、時系列どおりには話が進まず(タイムトラベルものだからということもあるとは思うけれど)、前後に動きながら話が進むところや、照明の感じなどなど、久しぶりに見ている私には「そうそう」と思わずストーリーとは関係ないところで頷きたくなるところではある。
その説明なく時間を飛びまくっているのに何故か設定やストーリーが素直に入ってくる感じも、やっぱり流石なのである。戯曲の力だし、役者の力だし、劇団としてずっとこのタイムトラベルものをやってきているという蓄積の力でもあると思う。
クロノス・ジョウンターを開発した野方をずっと西川浩幸が演じていることも強い。
笠岡は、自分が研究者として何も成し遂げていないことに絶望し、仕事に没頭し、それが原因で妻にも去られてしまう。
そうしたときに、課長から、クロノス・ジョウンターの実験に協力して欲しいと頼まれ、最初は5年前に戻ると言われていたところを、23年前に戻って、亡くなる直前の兄に会いたいと言い出す。
それでも迷っていた笠岡だけれど、岡内美喜子演じる倉敷にきっぱり振られたことで決心し、23年前に遡る。
23年前、兄が住んでいたアパートの前にタイムトラベルした笠岡は、到着したと同時に木村玲衣演じる小学生の女の子と衝突し、彼女に怪我をさせてしまう。
陣内将演じる兄のアパートにとりあえず行って、なかなか弟だとは信じて貰えないまま、とりあえず小学生の女の子(リンという名前だと判る)の手当をする。
笠岡は「自分は23年後からタイムトラベルしてきた弟だ」と主張するし、リンは「自分は記憶喪失だ」と主張するし、兄は「父親に命じられて俺を探りに来たオマエは誰だ」と言い出す。
混乱の極みだけれど、意外と混乱しているように見えないのが謎だ。
物理学科に入学して大学院に行った筈の兄は、渡邊安理演じる絵子という年上の女性と同棲し、大学院に行ったというのは嘘で実は劇団に入って芝居をやっているらしい。
リンは、大きな屋敷が「自分の家だ」と言うけれど、そこにやってきた三浦剛演じるリンの叔父と誤解とすったもんだの末話したところでは、彼女の父親が経営していた不動産会社が倒産して莫大な借金を抱え、両親はこの叔父にリンを預けたまま1ヶ月も戻って来ていないと言う。
その後、「記憶喪失」は嘘だと判る訳だけれど、そもそも、どうしてそんな嘘をついたのか、が判らないといえば判らない。光春は「あの子は大人を信用していない」という一言で済ませていたけれど、それだけで「記憶喪失」なんていう気宇壮大な嘘を吐くものかなぁというのが何となく最後まで違和感として続く。
叔父の方は「両親が甘やかして、何でも欲しいものを与えて、リンは自分をお姫様だと思って暮らしていたんじゃないか」と言っていたけれど、結構、この物語を進める推進力である筈のリンという少女の言動にもう少し「理由」とか「説明」が欲しいなぁという気はする。
リンが「絶対両親はここにいる!」と言った下田の別荘に両親はおらず、光春に説得されて、リンは両親を信じて迎えに来てくれるのを待つことに決めたようだ。
それでも当然のことながら落ち込んでいて、両親は死んでしまうのではないか、死んじゃっているのではないかと思っているリンを、光春は、兄の劇団の芝居に連れて行く。
ここで「兄の劇団」が上演しているのが、「また会おうと龍馬は言った」というキャラメルボックスのかなり有名な作品だというところがツボで、客席に多くいただろうキャラメルボックスのコアなファンは大喜びである。
リンという少女の周りは辛いことばかりだし、光春の兄だって実は1ヶ月後に死んでしまう。
大学院で物理学を専攻していた兄に、自分も研究者になったことを伝えたいと言っていた光春だけれど、そういえばその「タイムトラベル」のそもそもの動機は、兄の大学院進学が嘘で芝居をやっているということが判った時点で崩壊している。39歳のまま、39歳として生きていた時代の25年後に飛ばされてしまうというリスクを負った動機自体が消えているって、結構ショックな筈である。
その部分が何故か言及されていないことも気になると言えば気になる。
タイムトラベルものって、様々にクリアしなければいけない「お約束」があって、その整合性を取るだけで一大事業だと思う。
「パスファインダー」というこの作品は、多分その整合性を取るべきところで、ストーリーのために整合性を犠牲にしているような気がする。
それでも、兄が「命がけでやっている」という芝居の力でリンを笑わせることができたこと、それは凄いことだと思うと光春が兄に言い、わだかまりが溶けるという、「演劇の力」をあまりにもストレートに台詞で伝えてしまうという力業で、許せそうな気持ちになる。
だからこそ、本当は、劇団の過去作品をパロディにして笑いを取る以外の方法はなかったかなと思う。私は「また会おうと龍馬は言った」を見ているし、このシーンであははと笑ったけれど、「また会おうと龍馬は言った」を見ていない観客は間違いなくここで笑えずに疎外感だけを感じた筈だ。それは勿体ないことなんじゃないかと思うのだ。
そして、この「パスファインダー」のもう一つの大きな仕掛けは、リンと倉敷は同一人物だったということだ。
リンの本名が臨(のぞみ)だったということを本人から聞いて、光春がふと気付く、というなりゆきだったと思う。つまり、この小学生は、この後20年以上もこの秘密を守り続け、光春に会うために物理学を勉強し、同じ会社に入り、しかし、中途入社で入って来た笠岡はすでに結婚していた、という衝撃の事実を乗り越えて行くことになる。
それを知って(ここもややこしい設定があるのだけれど、そこは省略するとして)笠岡は「倉敷さんに幸せになって欲しい」と手紙を書き、その手紙を読んだ倉敷が、笠岡を追って23年前にタイムトラベルしてきて、二人は会う。
いや、だから、23年前にタイムトラベルした笠岡の行動は、笠岡が手紙を託したところまでしか判らない筈で、その笠岡の前に現れることができるように倉敷がタイムトラベルするって綱渡りすぎるだろうとか、倉敷が23年前で過ごした時間と笠岡が23年前で過ごした時間は異なっているのだから、この二人が同じだけ未来にはじき飛ばされるとは限らないだろうとか、色々とツッコみたいところはあるのだけれど、しかし、そこは、ベタにそしてあざとく涙を誘う方向でラブストーリーを完結させる。
この二人が幸せになれそうだから、ツッコみどころはたくさんあるような気がするけれど、でもいいや、と思わせてしまう。
やっぱり凄いと思うのだ。
カーテンコールで、客演の陣内将が場を攫うために何でもやっているのが可笑しかった。
それに秒速で突っ込む岡田達也も可笑しい。
写真撮影タイムを設けることで、舞台の宣伝に繋げるのと同時に、それ以外の写真撮影を防止するというのは、戦略的だと思う。
久々のキャラメルボックスは、とてもキャラメルボックスらしいあれこれを見せてくれて、楽しかった。
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コメント
みずえ様、コメントありがとうございます。
クロノスは、確かにハッピーエンドの物語ではないですよね。でも、その「叶わない」「けど、必死で一生懸命」な感じが菅野さんと合っていて、とても印象に残っています。
西川さんは、私が見た回でも、若干、噛んでしまうようなところがありました。
でも、東京初日だったせいか、他の役者さんたちも結構噛み噛みで・・・。どちらかというと、そちらの方が気になったかも知れません。
それはそれとして、「趣味の部屋」ですが、私は「ラストを変えたか!」と思ったのですが、アンソニーさんのご指摘によるとそうではなかったらしく・・・。
(コメント欄をご覧ください。)
私の記憶力も相当にダメだなー、と凹んでおります。
だとすると、初演とどこが変わっていたのか、実は未だによく判っていません・・・。
こんな私ですが、またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2015.03.17 22:37
姫林檎さま
昨日観ましたよ!
これはクロノスシリーズでは唯一、梶尾さんの作品ではないそうですが、梶尾さんのだと言われても信じてしまいそうなくらい、他と違和感はありませんでしたね。
私はクロノスシリーズでは、これと、先週の「クロノスジョウンターの伝説」数年前の「きみがいた時間 ぼくのいる時間」しか観てないんですが、どれもSFとしてはちょっと矛盾がある気がします。
それより純愛というか、愛情を中心にストーリー展開してるんでしょうか。
私としては、「クロノスジョウンターの伝説」より、「パスファインダー」の方が好みです。
クロノスは切な過ぎました。
姫林檎さんは、クロノスは初演を観られたんでしたね。
私は今回しか観ていませんが、畑中さんは頑張っていましたよ。
そしてどちらにも同じ役で出演する西川さんはさすがでした。
西川さんは、数年前のあの病気以来、滑舌に影響が出ているのは否めないと思いますが、でもあの役は彼しかできないんじゃないかと思わせますね。
やはり看板役者だと思います。
そして、ここに書くのもどうかと思いますが、「趣味の部屋」初演も再演もご覧になったんですね。
私は初演を観て、すごく面白いと思ったんだけど、同じキャストで二回も観ても…と今回は見送ったんです。
ラストが変わっていたとは!
古沢さんて、本当にすごい脚本家ですね。
今後の観劇レポも、楽しみにしております。
投稿: みずえ | 2015.03.17 12:24
みずえ様、コメントありがとうございます。
はい、東京初日に「パスファインダー」を見てきました。
久々のキャラメルボックスは、相変わらず(いい意味で)キャラメルボックスでした。
「クロノス」は初演を見ていて、そのときの役者さんの印象がけっこう強く残っているので、そのまま私の中に残しておこうと思いまして、今回はチケットを取っていません。
どんな感じだったか教えてくださいね。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2015.03.09 22:53
姫林檎さま
パスファインダー、もうご覧になったのですね。
私は来週行きます(なので、ネタバレの方はまだ読んでいません)。
明後日、先に「クロノス」の方を観るのですが、姫林檎さんは、こちらは観ないのでしょうか?
来週観終わったら、ネタバレもゆっくり読んで、改めてコメントを入れさせていただきますね。
投稿: みずえ | 2015.03.09 09:00