「ぶた草の庭」を見る
MONO第42回公演「ぶた草の庭」
作・演出 土田英生
出演 水沼健/奥村泰彦/尾方宣久/金替康博
土田英生/山本麻貴/もたい陽子
高阪勝之/高橋明日香/松原由希子
観劇日 2015年2月27日(金曜日)午後7時30分開演
劇場 ザ・スズナリ B列6番
料金 4200円
上演時間 2時間10分
ぎりぎりに到着したので、物販はチェックしそびれてしまった。最後に、パンフレット(500円)とDVDのご案内があった。
ネタバレありの感想は以下に。
舞台は、台所(決してキッチンではない)があり、手前にテーブルがあって、小上がりみたいな畳スペースがあって、一見、一般家庭のようだけれど、ホワイトボードがあって予定が書き出されていたりして、シェアハウスっぽい感じもする。
木造で、昭和な感じの建物である。
その中で一際異彩を放っているのが、ラジオのDJブースを電話ボックスに収めたような不思議な箱で、そこだけ白っぽく、人工物っぽく、ちょっと未来っぽい。
水沼健演じる山岸はいわばこの場所のリーダー格のようだ。
先ほどのボックスに入り、マスクをするなど完全防備体制、室内とはマイクで喋っている高阪勝之演じる籾井は、国の役人らしい。
そして、今日はこれからここに、新しい参加者がやってくる。女性が3人だ。ただし、そのうちの若い女性一人は精神的に不安定になっているらしい。
そういう断片的な情報が知らされる。
そうして、この家にみんなが暮らしているというよりは、ここは「集会所」のような場所であり、ここでは数人の男女が暮らしており、今日新たに加わるメンバー3人の歓迎会をしようとしているけれど、ここにやってくることは実は「歓迎」すべからざることであり・・・、ということが、彼らの会話から判って来る。
ここに集まっているのは、原因不明のヨコガワ病に感染している人々で、そしてこの島に隔離されている。
この島から外に出る手段はないし、病気が治るアテもない。
末期になると記憶障害を発し、体にできた斑点の色が赤から紫に変わり、そして死に至る。そういう病気だ。
この病気の原因は、日本に「ガンジ山」といういわば「よそ者」が集まった地域があり、そこに政府が建てた研究施設ではないかと言われているけれど、政府は認めていない。
この島に集まっている人々のうち、山岸と尾方宣久演じる坂木は、元々は政府の役人で、籾山が務めている役割を果たしているうちに感染してしまったようだ。
だから、最初はかなりこの島に住んでいる人々もギクシャクしていたようだけれど、当初からいた高齢者が亡くなったこともあって、今は比較的穏やかな人間関係であるようだ。
新しく来た女性3人はなかなかの「強者」たちで、松原由希子演じる若い女性は新婚直後に感染が判明して情緒不安定だし、高橋明日香演じる高台美帆は、奥村泰彦演じる前からいた高台浩宇の姪で、この2人の名字が同じなのは当然のような気もするけれど、土田英生演じる高台暁明は親戚ではないけどやっぱり高台で、ガンジ山の人々の名字はみな「高台」なのだそうだ。彼らはいわゆる「差別されている」存在である。
もたい陽子演じる南江里奈は、先に隔離されていた金替康博演じる美波ノリトの妻なのだけれど、「好きな人ができたからあなたとは暮らせない」とやってくる早々に宣言する。
落ち着きかけていた島の暮らしに、波乱発生、というところだ。
さらに、籾山が感染して隔離されてきたのに後任者が決まらず、ついには毎週1回やってきていた担当者が来なくなり、連絡の船も来なくなり、毎月1回ヘリからの物資投げ落としのみが「社会」との接点になると一方的に言われる。
そのことをきっかけに、上司であった山岸のせいで感染したという思いをくすぶらせていた坂木が反旗を翻したのだけれど、山岸はそれに反対しようとも対抗しようともしない。その様子と、「一体、私は何なの!」という思いとから、それまで結構山岸といい感じだった山本麻貴演じる祐香ちゃんも離れて行ってしまう。
それでも「対立」や「村八分」にならないのは、あくまでも山岸が淡々としているからだし、美帆と暁明が「山岸さんに付く」と彼と一緒にいるからだし、他のメンバーも山岸のことをある意味で認めているからだ。
「隔離されている」場所だから、新たにやってきた人々が内側に入り込むのも早い。
この芝居の視点はあくまでも山岸の側にあって、坂木は「反旗を翻した」という感じに見えるし、美帆は新しく来た3人の女性のうちの一人だけれど山岸に付くことで視点側に見える。その、内外の入れ替わりの早さが、この芝居のポイントのような気がする。
さて、どうするんだと思っていると、「どうかする」前に「どうにかなってしまう」ことになる。
解決するという意味ではなく、新たな問題が発生して、「ヘリコプターによる配給のみ」問題はどこかへ行ってしまったかのようになる。
暁明が、どうしてもこの島に来たばかりの頃のことを思い出せず、焦ったまま「斑点の色を見に行く」と自宅に帰り、そして、誰にも看取られないままそこで亡くなってしまうのだ。
そして、恐らくは久々に全員が集まって、お葬式ではなく「おしまいの儀式」をやろうとしているところへ、南妻と祐香との二人が「記憶障害がある」「斑点の色が変わっている」と告白する。
それは、彼女たちの病状が一段進んだということでもあるし、終わりに近づいたということでもあるし、同時にヨコガワ病という病気が一段進んだということの証し、なのかも知れない。
多分、祐香の死が近づいたことを知ったことで、「判らないんだ」と言い続けていた山岸が、暁明の遺品を床に叩きつけるほど怒り、そして飛び出して行く。
海に入って、抗議の意志を示そうと坂木たちが作った旗を振っているらしい。
山岸を止めようと飛び出して行く彼らに一人遅れた坂木は何となく体を動かし、「まだまだ動ける」と背中を見せたまま呟いて、山岸を追って走り去る。
そこで幕である。
大団円にはならない。
多分、何も解決していない。
「亡くなっているのは高齢者だけだ」というある種の前提が崩れ、自分たちの死も近いと身に迫り、実際に死の予兆が出ているメンバーがいる。
そこで、幕なのだ。
続きが見たいような、しかし、この先はただ死が続くことになってしまうような、複雑な終わり方だった。
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